プロローグ :「せめて、夢の中ででも──二人を救えたなら」
※この作品は、乙女ゲームの裏ルートで処刑される悪役令嬢が、ダンジョンを攻略して世界を救う逆転ストーリーです。
私には、大好きなゲームがある。
タイトルは──『聖と魔のグラン・リュミエール』。
貴族の子女が魔法学園に通い、王子や騎士、魔導師との恋を楽しむ、王道の乙女ゲーム。
……のはずなんだけど。
このゲーム、どんなルートを選んでも、
私の推し――悪役令嬢クラリ・エルベールと、
セレヴィア王国の王子レオナール・セレヴィスは、
卒業と同時に冤罪で追放され、“処刑ダンジョン”に送られてしまう。
あまりにも理不尽すぎて、私は何十回もプレイした。
全ルートの選択肢を試し、セーブデータを何度も巻き戻し、
隠し要素があるんじゃないかと隅々まで調べて、運命を変えようとした。
でも結果は、いつも同じ。
このゲームには、クラリとレオナールのハッピーエンドが存在しない。
私は、それがどうしても悔しかった。
こんなに努力家で、誇り高くて、誰より優しい二人が、どうして……。
──そんなある日、全ルートをクリアした後に、
ほんの一瞬だけ“裏イベント”が発生した。
画面に映ったのは、
ヒロインと王子の結婚式のあと、王都を覆い尽くす、黒い魔力の奔流。
「この世界は、まだ終わっていない」とでも言うような、恐ろしいビジョンだった。
……このゲーム、本当にハッピーエンドで終わるの?
あれは、もしかして──“この先にある未来”?
私は混乱しながらも、確信した。
クラリたちの悲劇も、そこに繋がっている気がする、と。
せめて、夢の中でだけでもいい。
もし叶うなら、この物語の結末を変えられたなら。
そう思いながら、私は眠りについた。
──そして目が覚めたとき、
私はクラリ・エルベールになっていた。
物語が始まる“ずっと前”。
魔法学園に入学する、まだ処刑を言い渡されるよりも前のクラリに。
私はこの運命を知っている。
この世界がどんな筋書きを辿るのかも、よくわかってる。
なら、やるべきことは一つ。
レオナールと共に、生き抜いてみせる。
あの処刑ダンジョンさえも、攻略してみせる。
だって私は知っているから。
──このゲームは、ここで終わらない。