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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
一章 Reunion 4月
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第7話 賢者と愚者

20年ぶりの学校生活は

懐かしさもさることながら、

何もかもが新鮮だった。

俺はうまく小学生を演じられるか心配だったが、

転校してきて10日目の俺のことを

詳しく知る者はなく、

俺の性格や態度が多少大人びていたとしても、

不思議に思う者はいなかった。

宿禰市から転校してきた俺は、

都会の人間ということで

クラスメイトから羨望の眼差しで見られた。

加えて成績も良く

運動神経も優れていた俺は

自然と目立ったのだろう。

そんな俺を快く思わない人間がいた。


賢い人間を忌み嫌うのは愚者の常である。

賢者は未来を考える。

しかし愚者は今を見る。

賢者は皆の利益を優先する。

しかし愚者は己の利益を第一に考える。

それゆえに両者の利害が一致することはない。

そして困ったことに愚者は他人を妬む。

他人を蹴落とすだけでなく、

時には他人を争わせようと目論む。

いつの世も愚者は狡猾に立ち回ろうと

画策している。

優秀な者が世界を創っているのではなく、

賢者に嫉妬した愚者が奸計を巡らせ

その座を奪い世界を牛耳っている。

賢者は争いを避ける。

対して愚者は争いを好む。

だから世界は常に混沌と混乱で

溢れかえっている。

それは子供の世界でも変わらない。


俺に目を付けたのはクラスで最も愚かで、

しかし絶対的な暴力を持った男だった。

男の名は

熊谷大吾くまや だいご

単細胞でその頭脳に反比例して

体は誰よりも大きかった。

そのゴリラのような外見からは

想像もできないほど動きは素早く、

運動神経も優れていた。

将来は相撲取りだなと

教師達ははやし立てていた。


熊谷には3人の取り巻きがいた。


1人は、

佐藤翔太さとう しょうた

という男子生徒で、

小さな目に度の強そうな大きな丸眼鏡を

かけていた。

大人しくて真面目な少年だったが

成績はクラスでも最下位だった。

運動神経も悪かったので、

よく皆から揶揄われていた。

気弱な性格で、

普段から要領も悪く、

しばしば先生にも注意されていた。

「前世」では

大吾のいじめの標的にされていた生徒だ。


2人目は、

鈴木洋すずき ひろし

という男子生徒だ。

つり目のキツネ顔に

ツンと立った前髪が特徴的だった。

『鈴木商事』の1人息子で

裕福な家庭で甘やかされて育った

典型的なお坊ちゃまだった。

成績は大吾や翔太より若干良い程度だったが、

狡賢く要領が良かった。

その財力と立ち回りによって

大吾の右腕としてクラスでは幅を利かせていた。


3人目は女子生徒で名前を

塚本茜つかもと あかね

といった。

大きな目が特徴的で、

おさげの髪を左右で結んでいた。

成績も優秀で生活態度も真面目だった。

加えてお淑やかで礼儀正しかった。

彼女はピアノが得意だった。



この日。

昼休みが終わろうとしていた頃、

1階の廊下でちょっとした騒ぎがあった。

廊下を歩いていた大吾に

走ってきた下級生の男の子がぶつかったのだ。

大吾は尻餅をついた男の子の首を掴んで

無理矢理立たせると

「ちょっとこっちへこいよ」と凄んだ。

男の子は今にも泣きそうな声で

「ごめんなさい」と繰り返していた。

周りの子供達は何も言えず、

おろおろとその場に立ち竦んでいた。

しかし。

それは仕方のないことだった。

弱肉強食は動物の世界では当然のこと。

だが俺は

暴力や立場を利用して

弱者を威圧する人間が嫌いだった。


「謝ってるんだから許してやれよ」

俺の言葉に大吾の足が止まった。

それからゆっくりと振り向いて

敵意に満ちた目で睨みつけてきた。

大吾は少年から手を離すと

俺の方へ歩いてきた。

そして俺の前で立ち止まった。

俺は大吾を見上げた。

180cmに迫ろうかという身長に、

優に100kgを超えている体重。

150cm、45kgの俺と比べると

大人と子供ほどの体格差だった。

子供なら怖くて逃げ出すだろう。

しかし。

今の俺にそんな脅しは通用しない。

20歳になった頃から俺は格闘技に加えて、

多少荒っぽい実践向けの技術も身に付けていた。

体重差がモノをいうのは

ルールの中で戦う格闘技だけだ。

もし大吾が手を出してきたら

俺は迷わず急所を蹴り上げてその目を潰す。

「何か言ったか?」

大吾はドスの利いた声を出した。

「許してやれって言ったんだよ」

俺は大吾から目をそらして、

怯えている少年に

「もういいから教室に戻りな」

と手を振った。

少年は頭を下げて駆けていった。

「何してんだよ、お前」

大吾が一歩前に出て俺に凄んだ。

その時。

「お前達!

 昼休みは終わったぞ~。

 早く教室に戻れ!」

という声が聞こえた。

すぐに俺達を取り囲んでいた子供達が

一斉に散った。

俺もそれに紛れ込んだ。

「覚えてろよ」

という大吾の声が聞こえた。

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