第15話 放課後の体育館
この日。
俺は何度か奥川に接触を試みたが
すべて無視された。
そんな俺を見て、
大吾は機嫌が良さそうだった。
大吾の機嫌が良ければ
嫌がらせを受けずに済んだが、
それは本末転倒だった。
帰りの会が終わって
子供達がランドセルを片手に
一斉に教室から出ていった。
その中には奥川の姿もあった。
俺は彼女を追いかけた。
階段の手前で俺は奥川の手を強引に掴んだ。
「何っ!」
奥川の声に周りの子供達が
何事かと俺達の方へ視線を向けた。
「話があるんだ」
俺はそれだけを伝えて先に階段を下りた。
奥川がついてくるかどうかは賭けだった。
1階まで下りて靴箱へは向かわずに
校舎の西へと進んだ。
「ねぇ、どこに行くの?」
背後から声が聞こえたが、
俺はそれには答えず歩き続けた。
校舎から伸びる渡り廊下を進んで
体育館の前で俺は足を止めた。
「何?こんなところまで来て」
ゆっくりと振り向くと、
腕を組んで俺を睨んでいる奥川と目が合った。
「私、用事があるんだけど?」
奥川はそう言って髪をかきあげると
視線をそらした。
「・・この間はごめん」
色々と考えたが、
結局俺は素直に頭を下げた。
「何のこと?」
奥川はそう言って惚けた。
ゆっくりと顔をあげると奥川と目が合った。
「・・キスしたこと」
「謝るなら初めからしないで!」
そう言って奥川は「キッ」と鋭い目で
俺を睨んだ。
視線に形があれば
この視線は確実に俺の眼球を貫いているだろう。
それでも俺は
奥川が本気で怒っているわけではないことが
わかった。
「ごめん。
俺が悪かったよ。
だからもう一度俺にチャンスをくれないか?
これまで通り奥川とは友達でいたいんだ」
俺はあえて友達という言葉を強調した。
奥川は黙って俺を見ていた。
無言の時間が流れていた。
自分の心臓の音がやけに大きく聞こえて、
それが奥川に届いているのではないかと
恥ずかしくなって俺は視線を落とした。
足元で数匹の蟻が列をなして行進していた。
「・・友達でいいんだ?」
その言葉に俺は顔をあげた。
奥川の表情は先ほどと比べると
随分と和らいでいた。
「どうなの?」
「え、あ、そ、それは・・」
俺は言葉に詰まった。
この問いに俺はどう答えるべきなのか。
俺は大きく息を吸った。
「・・今はまだ友達でいいよ。
でもいつかきっと・・」
その先の言葉が出なかった。
「ふふっ」
奥川が笑った。
「・・駄目かな?」
俺は気恥ずかしさを誤魔化すように
後ろ頭を掻いた。
「いいよ。
でも次は突然あんなことはしないでね」
「ああ。
奥川の嫌がることは絶対にしない。
約束する」
「じゃあ話は終わり。
今日は早く帰らないといけないから
また今度ね」
髪をなびかせて走り去っていく
奥川の後姿を見送りながら
俺は大きく息を吐いた。