第134話 異端
池田圭。
この男はいつも突然現れる。
「は、話があるんだけど・・」
その声は誰もいないこの教室でも
耳を澄ませていなければ
聞き取れないほど小さかった。
「皆、外で待ってるぞ。
話なら後にしてくれ」
俺は池田を相手にせずに
そのまま教室を出ようとした。
「い、一体。
き、君は
な、何者なの・・?」
池田の言葉に俺は足を止めた。
そしてゆっくりと振り返って池田と向き合った。
池田は俺と目が合うとすぐに視線をそらせた。
「1年間、
共に過ごしたクラスメイトに
その質問はおかしいだろ?」
「だ、だからこそ・・。
き、君は
ぼ、僕の知ってる『あっくん』じゃない・・」
池田の言葉が小さな棘となって
俺の胸に刺さった。
その棘は一瞬だけ心臓の鼓動を止めた。
「お前とはそれほど親しかったわけじゃない。
そんなお前が俺の何を知ってるんだ?」
池田は小さく首を振った。
「き、君だけが異端なんだ・・」
異端。
その言葉を俺は以前にもこの男の口から
聞いたことがある。
あの時の違和感の正体が今わかった。
小学生は「異端」なんていう言葉は使わない。
「こ、この1年・・
な、何かが少しずつ変わっていった。
は、初めの違和感は奥川さん・・」
俺の思考を無視して池田の話は続いていた。
「か、彼女と君は・・
ほ、本来なら交わることは
な、なかったはずなのに・・」
交わるという言葉に
俺は大人の世界の下品な匂いを嗅ぎとった。
しかし池田がそういう意味で
言ったつもりではないことはわかった。
「男と女なんてちょっとしたことで
くっついたり離れたりするだろ?」
「ほ、他にも。
き、君が熊谷君のグループに入ったこと。
そ、そのすぐ後で熊谷君が死んだこと」
「大吾の死が俺のせいだと言いたいのか?」
池田はそれには答えなかった。
「そ、そして猿田先生も死んだ・・」
「他殺説を唱えていたお前の出した結論は
俺が犯人ということか?」
池田はそれにも答えなかった。
「に、2学期の終業式の日に聞かされた
は、畑中先生の突然の離職も。
そ、そして時を同じくして
て、勅使河原校長が失踪した・・」
俺は動揺を悟られないように
小さく息を吐き出した。
「き、極めつけは相馬さん。
か、彼女は本来なら卒業式の3日前に
し、失踪するはずだった・・」
その言葉に、
俺は頭をハンマーで殴られたかのような
衝撃を受けた。