第13話 小さな唇
5月になり、
いよいよ明日からゴールデンウィーク
という日の放課後、
俺と奥川はいつものように教室に残って
勉強をしていた。
この時、
俺達以外にもう1人、
窓際の一番後ろの席のあの男も残っていた。
相馬と初めて話した時もそうだったが、
その存在はまるで空気のようだった。
しばらくすると
池田は俺達に軽く頭を下げて教室を出ていった。
そして2人だけになった。
窓の外の空が赤く染まっていた。
奥川の頬までもがほんのり紅く色付いていて、
それが放課後の教室というシチュエーションと
相まって官能的に見えた。
どくん。
心臓が大きく跳ねた。
俺は教科書を置いて、奥川に正対した。
奥川はノートから顔を上げると
不思議そうに俺を見た。
「何?どうしたの、あっくん」
俺は黙って奥川の目を見つめ返した。
奥川が恥ずかしそうに目を伏せた。
その時。
俺は奥川の長い睫毛が彼女を大人ぽく
より美しく魅せていることに気付いた。
俺は距離を詰めて奥川の顎に手をかけた。
そして彼女の小さな唇に自分の唇を重ねた。
1秒、2秒、3秒・・
永遠とも感じられる時間が過ぎて、
奥川が体を離した。
「ちょ、ちょっと。あっくん!」
奥川が目で抗議していた。
「馬鹿っ!」
奥川は荷物を鞄に詰め込むと
走って教室から出ていった。
そして1人だけになった。