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ロングソードから始まる物語  作者: Nexus
自由都市 「オーランド」
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クローディアの過去

酒場での祝いを終え、四人は新しく取った少し良い宿の一室にいた。初めて手にした多額の報酬に、ロンもラインズもソフィアもまだ興奮冷めやらぬといった様子だ。マジックバッグから取り出した魔石やコインを眺めたり、使い道を話し合ったりしている。

クローディアは、そんな三人を見守るように静かに座っていた。まだ傷は完治していないが、ソフィアの応急手当てとギルドの治療院のおかげで、歩けるようにはなっていた。改めて、自分を助けてくれた彼らの存在を、クローディアは温かい気持ちで見つめる。

一段落した頃、ラインズがふとクローディアに目を向けた。

「そういや、クローディアさん、もう体は大丈夫なんですか? 無茶してませんか?」


「ええ、ソフィアさんの手当てと、ギルドの治療院のおかげで随分良くなりました。本当に、ありがとうございます。それに…シルバーファングを倒していただいたおかげで、心の重荷も軽くなりました。」

クローディアが優しく微笑む。ソフィアは照れたように顔を赤らめる。

ロンは、祝いの賑やかさから一転して落ち着いた場で、改めてクローディアに尋ねた。


「あの…クローディアさんは、どうして森であんな所に…その、シルバーファングに襲われるなんて…一体、何があったんですか?」


クローディアは、少し遠い目をして話し始めた。彼女の美しい顔に、僅かに陰が差す。


「私は…故郷のエルフの里を出て、外の世界で己の魔法を磨くための…修行の旅をしていました。」


彼女の口から語られる「エルフの里」という言葉に、ロンたちの目が少し見開かれる。滅多に外界と関わらないとされるエルフの里。そこから出てきた人物が目の前にいるのだ。


「外の世界は広大で、危険も多いですが…魔法使いとして、実力を高めるためには必要なことでした。」

彼女はそこで一呼吸置く。


「私は、里でもそれなりに魔法の実力はある方だと言われていました。エルフは魔法の扱いが上手く、魔力操作により人間より高い威力が出せます。そして、私には…他のエルフよりも少しだけ、豊富な魔力がある…と。」


クローディアの静かな口調から、ただならぬ「実力」と「特別さ」が伝わってくる。ソフィアが、尊敬の眼差しでクローディアを見つめる。

「シルバーファング…あれは、偶然私を襲ったのではありません。」


場の空気が一気に張り詰める。祝いの余韻は完全に消え失せた。

「あれは…とある組織が、私を誘拐するために、森に放った魔物です。」


「誘拐…?!」

ラインズが驚きの声を上げる。ソフィアも青ざめる。ロンの顔からも色が消える。ただの魔物ではなかったのだ。


「私には…その組織にとって、利用価値のある力があるようです。おそらく、私の持つ魔力と、エルフの魔法の特性を狙われたのでしょう。」


クローディアは、苦い表情で続ける。


「彼らは私が森を通るルートを掴んでいた。シルバーファングは、私を無力化して連れ去るための追手だったのです。」


ロンたちは、自分たちが討伐したシルバーファングの裏に、そんな恐ろしい意図があったことに衝撃を受ける。助けたエルフが、そんな危険な組織に狙われている存在だったとは。


「そん…な…」

「じゃあ、あの時、俺たちが助けなかったら…」

「…考えるだけで恐ろしいな…」


ラインズとソフィアが、青ざめた顔で呟く。

ロンは、クローディアの強い意志を感じさせる瞳を見つめ返す。単なる魔物討伐で終わるはずだった自分たちの冒険が、一気に現実の、そして危険な陰謀に触れたのだという実感が湧いてくる。


「その組織は…どこにいるんですか? どんな組織なんですか?」


ロンの問いに、クローディアは静かに、しかし覚悟を決めたように答える。


「…分かりません。名も、目的も、どこに拠点があるのかも…ただ、シルバーファングが放たれた場所、そして彼らが私のルートを掴んでいたことから考えて…このオーランド周辺、あるいはこの街の中にいる可能性が高い。」


街の中に…遭遇した、街に潜む危険を思い出す。あの時の不気味な男たち。あれは、ただのスリではなかったのかもしれない。クローディアの過去は、単に「助けた相手の事情」ではなく、「始まりの戦線」の今後の冒険のまだぼんやりとした謎にも深く関わってくる予感を孕んでいた。

多額の報酬を得て、これから冒険者として成功していくのだという喜びと高揚感は、新たな敵対組織の存在という重い事実に取って代わられた。しかし、後悔はない。彼らはクローディアを助け、そして彼女を仲間として迎えたのだ。

ロン、ラインズ、ソフィア、クローディア。4人になった「始まりの戦線」の、本当の冒険が、ここから始まろうとしていた。彼らの視線は、オーランドの街の、光だけではない、影の部分へと向けられる。


「そう考えると、調べれば闇のギルドのような組織があるのかもしれない。クローディアさんの話は正直な話、聞いただけでは僕も信じられなかった。けど、オーランドでは明らかに別の闇を孕んでるのを入ってきたのを感じた。」


「わかる、俺もだ。誘拐ほどではなくても俺達も似たような経験がある。」


「私もです。」


どうやら僕だけではなく、ラインズ、ソフィアもこの街の闇の部分があると感じているらしい。


「とは言っても、情報が何も分からない上に闇雲に突っ込んでも良いことはない。だからこそ、情報収集した方がいいんじゃないかな?」


と提案するのであった。


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