ファーストミッション・コンプリート
思いっきりジェミニに手伝ってもらってます
オーランドの東門を出て、彼らは森の入り口を目指した。街の喧騒はすぐに遠ざかり、代わりに鳥の声や木々のざわめきが耳に届く。三人での初めての移動は、少しぎこちないながらも、どこか遠足のようなワクワク感があった。ラインズが先行し、ソフィアがそのすぐ後ろ、ロンが殿を務めるという、なんとなく決まった隊列で進む。
「大丈夫そうか、ソフィア? 疲れてないか?」ラインズが時折振り返って声をかける。
「うん、まだ平気!でも、森って本当に生き物がいっぱいいるんだね…!」
ソフィアが周囲をきょろきょろと見回す。
「森の入り口って言っても、油断するなよ。」
ロンが少し緊張感を込めて付け加える。街で危ない目に遭ったばかりだし、ゴブリンが5匹もいるのだ。
しばらく歩くと、前方に開けた場所が見えてきた。木々がまばらになったその一角に、目的のゴブリンたちがいた。5匹。汚れた皮の防具をつけ、棍棒や簡単な刃物を持っている。彼らの中心に、ひときわ大柄な一体が奇声を発している。偵察していたラインズが身を低くし、後ろの二人に手信号を送る。
「5匹いる。リーダー格みたいなのもいるな…散開はしてない。どうする?」
ロンは背中のロングソードを、ソフィアは杖を、ラインズは腰の片手剣を抜き構える。緊張が張り詰める。
「よし、行くぞ! 俺とロンで前に出る。ソフィアは少し後ろから魔法で援護だ!」
ラインズが号令をかけ、素早く駆け出す。ロンもそれに続く。ゴブリンたちが彼らに気付き、耳障りな奇声を発しながら一斉に襲いかかってきた。一体がラインズに、二体がロンに向かってくる。残りの二体は、リーダー格の指示か、少し離れて様子を伺っている。
ロンは以前の経験を思い出し、正面から来るゴブリンの棍棒を受け流しつつ、もう一体の動きに注意を払う。ラインズは素早いステップで敵の攻撃を避け、相手の懐に入り込もうとする。
「ソフィア! リーダー格の方を!」
ラインズが叫ぶ。ソフィアが震える声で呪文を唱え、小さな光の弾がリーダー格ゴブリンに飛んでいく。効果は薄いが、確かに注意を引いた。
ロンは二体相手に苦戦していた。なんとか一体の攻撃を捌いたところに、もう一体が横から斬りかかってくる。紙一重で回避する。
「くっ…!」
「ロン! ちょっと引いて!」
ラインズが一体を牽制しつつ、ロンの方へ動く。ロンはその指示に従い、一度距離を取る。
「こいつら、連携してるぞ!」ラインズが叫ぶ。村で倒した一体とはまるで違う。数が多いだけでなく、お互いの動きを見ている。
「動きを…鈍らせます!」
ソフィアが再び呪文を唱える。今度は地面に小さな氷の魔法陣が現れ、ゴブリン数体の足元を凍らせる。動きが鈍った!
「今だ! 仕留める!」
ラインズとロンが同時に飛び込む。ラインズが一体のゴブリンの注意を引きつけ、ロンが隙ができたもう一体に渾身の袈裟斬りを叩き込む。
ゴブリンは悲鳴を上げて倒れる。体から、かすかに黒い魔石が光を放って弾け飛ぶ。
「やった! 一匹!」
「よし、この調子だ! ソフィア、援護頼む!」
三人の連携は、ぎこちないながらも機能し始めた。ソフィアが魔法で敵の動きを妨害し、ラインズとロンがそれぞれ目の前の敵を叩く。リーダー格のゴブリンは強く、ラインズとロン二人がかりでも手こずる。だが、数の有利は徐々に崩れていく。
二匹目、三匹目とゴブリンが倒れる度に、体から魔石が弾け飛ぶのが見える。それは、彼らの努力が具体的な「金」になっていることの証だ。
「これで4匹目!」ラインズが最後のゴブリンに斬りかかる。ロンも追撃する。リーダー格だった最後のゴブリンは、仲間の全滅を見て怯んだのか、逃げ出そうとするが、ラインズが回り込み、ソフィアが最後に残っていた魔法で地面に小さな土壁を出現させ、逃げ道を塞ぐ。ロンが渾身の突きを放つ。
ゴブリンは絶命し、ばたりと倒れる。体から、最後の一つとなる魔石が、眩いばかりの光を放って弾け飛んだ。
静寂が訪れる。三人は息切れし、汗だくだ。服には破れや汚れ、軽い傷もある。だが、彼らはやり遂げた。初めて三人で力を合わせ、クエスト対象のモンスターをすべて倒したのだ。
「ふう…終わった…!」ラインズが安堵のため息をつく。ソフィアも杖にもたれかかり、膝から崩れ落ちそうになっている。ロンは緊張が解けて、その場にへたり込んだ。
「大丈夫か、二人とも?」ロンが声をかける。
「うん…なんとか…」ソフィアが弱々しく答える。
「へへ…余裕っしょ! とか言ったけど、結構きつかったな…でも、勝ったぞ!」ラインズが笑う。
一息つくと、ロンは立ち上がる。まだやるべきことがある。
「魔石、集めないと…」
倒れたゴブリンたちの傍へ行く。彼らは手慣れない手つきで、ゴブリンの胸元などを切り開き、黒い魔石を見つける。一つ、二つ…五つ。倒したゴブリンの数だけ、黒い光を放つ魔石があった。
更にゴブリン達は弓と矢のセットでいくつか持っていた。
棍棒、ナイフも回収する。この辺は金にならなくてもあとで役に立つだろう。
「これだ。」
ロンがそう言って、腰につけていた小さな革袋を取り出した。これは、ギルドで登録した時にもらったマジックバッグだ。見た目はただの革袋なのに、中に物を入れてもほとんど重さを感じず、容量も見た目より遥かに大きい。ギルド職員は「冒険者の基本装備」と言っていた。
「1キロくらいまでの物なら、重さを感じない上に、いくらでも入るんだって。」
ロンが魔石を一つずつマジックバッグに入れていく。バッグは膨らむ様子もなく、重さも変わらない。不思議な感触だ。
五つの魔石すべてをバッグにしまい終えると、ラインズが目を輝かせる。
「よっしゃ! 魔石5つゲットだぜ! ロン、一つ200コインだったよな? ってことは…これだけで1000コイン!」
ソフィアも驚いた顔をする。
「え、そんなに? クエスト報酬が1500コインだから…合計で2500コインになるってこと?!」
ロンは頷く。討伐の疲労も忘れるほどの、嬉しい驚きだった。村でコツコツ貯めたお金も、この額には遠く及ばない。
「すっげぇ…冒険者って…本当に、倒せば倒すだけ金になるんだな…!」ラインズが興奮気味に言う。ソフィアも、稼げる額の大きさに目を丸くしている。
汚れた皮には換金価値がないことを思い出し、それらはそのままにしておく。必要なのは魔石だけだ。
傷の手当てが必要な箇所があれば、ソフィアが初歩的な回復魔法で癒す。大した傷ではないが、これも魔法の練習だ。周囲に他の危険がないか警戒しつつ、装備を整える。
「よし、被害もほとんどないな! 初任務、大成功だ!」ラインズが叫ぶ。
「あとは…ギルドに戻って報告、だね。」ソフィアが確認する。
「だな! 行こうぜ!」ラインズが帰路を指差す。ロンとソフィアも頷く。
マジックバッグに入った5つの魔石と、合計2500コインの潜在収入、そして初任務をやり遂げた達成感を胸にオーランドへの道を歩き始めた。