封印の番人
地下深く、休息ポイントを後にしたロンたちを待ち受けていたのは、より一層冷たく、湿った空気だった。通路の壁面には、古代の魔術的な紋様が頻繁に刻まれ始めており、そこから微かに魔力が漏れ出しているのが感じられた。
「この紋様…老翁の地図には載っていなかったわ。」
クローディアが指先で壁に触れる。
「古代の封印術式だわ。かなり強力よ。」
その言葉通り、進むにつれて紋様は地面にも広がり、歩くたびに足元から淡い光が浮かび上がる。まるで地下坑道そのものが巨大な魔法陣であるかのようだった。ロンたちの五感は、常に張り詰めていた。
「この先の空間…地図には『封印の間』と記されている。」
ロンが声を潜める。
「老翁が言っていた、異形の魔物がいる場所だろう。」
彼らが通路を抜けると、そこは円形の広間になっていた。広間の中央には、巨大な岩が鎮座しており、その岩には無数の鎖が巻きつけられ、壁面まで伸びている。鎖には壁の紋様と同じ封印の術式が刻まれていた。
「あれが…封印の核か?」
ラインズが息を呑む。
その時、岩が微かに震え、巻きつけられた鎖がガラガラと音を立てた。そして、岩の表面に、青く鈍い光を放つ鉱石の結晶が浮かび上がり、それらが意志を持つかのように集まり始めた。
「来るぞ!」
ロンが剣を構える。
岩は砕け散り、光る鉱石の結晶が、巨大な人型へと姿を変えた。それは、全身を青い輝石で覆われた、二メートルを超える巨体。顔には瞳のような二つの光が灯り、両手は巨大な拳へと変化している。老翁が語っていた、封印の存在の影響を最も強く受けた『輝石のゴーレム』だ。
ゴーレムは、ゆっくりとロンたちに視線を向け、鈍重な足取りで一歩を踏み出した。その一歩ごとに、地面が揺れ、微細な鉱石の破片が飛び散る。
「物理攻撃は効きそうにないわ!」
ソフィアが叫ぶ。
「どうするの!?」
「弱点は必ずあるはずだ!ソフィア、クローディア、魔法で動きを止めろ!カノンは目を狙え!」
ロンが的確な指示を出す。
ラインズがゴーレムの攻撃を盾で受け止め、ゴーレムをひきつける。クローディアの攻撃魔法がゴーレムの体に炸裂するが、その輝石の装甲はビクともしない。ソフィアの魔法も同様に弾かれてしまう。カノンの銃弾も、ゴーレムの硬い体に弾かれてしまう。
「ダメだ!硬すぎる!」
ラインズが歯を食いしばる。
ロンは、ゴーレムの動きと体表を注意深く観察していた。通常の魔物とは違う、魂の輝きを持たない存在。その輝石の体には、魔力の流れが見える。そして、彼の五感は、ゴーレムの胸部に、他の部位よりも強い魔力反応があることを感じ取った。そこだけ、輝石の結晶が不規則に並び、微かな亀裂が入っている。
「ラインズ、胸の結晶の集まりを狙え!」
ロンが叫ぶ。
「そこが弱点だ!」
ラインズはロンの言葉を信じ、ゴーレムの猛攻をかわし、渾身の一撃をゴーレムの胸に叩き込む。ギィン!と金属音のような鈍い音が響き、ゴーレムは一瞬怯んだ。
その隙を逃さず、ソフィアが弱点に向けて圧縮した魔力弾を放つ。さらに、クローディアも連続で攻撃魔法を打ち込む。ゴーレムの胸の亀裂は広がり、そこから淡い魔力の光が漏れ始めた。
「一気に仕留めるぞ!」
ロンが剣を握りしめる。
魔力で強化された『魂閃』を放ち、ゴーレムの胸の亀裂に剣を突き立てる。彼の剣がゴーレムの核を貫いた瞬間、ゴーレムの体は激しい光を放ち、無数の輝石の破片となって崩れ去った。
激しい戦いを終え、全員が深いため息をつく。ゴーレムがいた場所には、大量の青く輝く鉱石が残されていた。その中心には、古い石板が一つ、ぽつんと置かれていた。
ロンが石板を手に取る。そこには、この坑道に封印された存在が、ただの魔物ではなく、『混沌』と呼ばれる、世界に災厄をもたらす原初の存在であること。そして、封印の力を維持するために、封印の番人たちが『輝石』を生み出し、坑道内に配置されたことが記されていた。
老翁の言葉は真実だった。そして、この地下坑道は、彼らが想像していた以上に、世界全体に関わる重大な場所だったのだ。
石板の背後には、古代の封印が施された、さらに重厚な石の扉が隠されていた。扉の先には、氷河の滝へ続く道が続いている。
手にした石板と目の前の扉を交互に見つめた。彼らの旅は今、新たな真実とより大きな使命へと繋がり始めていた。




