王都の爪痕、そして新たな旅立ち
王都バンデルセンに夜明けが訪れた時、アウトローによる同時多発襲撃の狂騒はようやく収まっていた。しかし、その爪痕は深く、街のあちこちで破壊された建物が煙を上げ、非常を知らせる鐘の音はまだ止まらない。
王都自警団『ステラアイ』や純白の騎士団『ホワイトナイツ』、そして駆けつけた冒険者たちが、負傷者の手当てや瓦礫の撤去、残党の捜索に追われている。街には安堵と共に、深い疲労と悲しみが満ちていた。
『始まりの戦線』は、中心広場での激戦を生き抜いた。身体は傷つき、魔力も気力も消耗しきっていたが、何よりも、バウンス奪還というアウトローの真の目的を許してしまったことへの悔しさが、彼らの心を重く圧し潰していた。ロンはソウル流 三ノ型『魂震』という新たな力を得た。
仲間の連携が、その覚醒の鍵となった。それは確かに希望の光だった。しかし、目的を達成されたという事実の前では、その輝きも霞むようだった。
宿に戻り、簡単な手当てと休息を取る。静けさが戻った部屋で、彼らは重い沈黙を破り、今回の事件について語り合った。
「バウンスを…逃がしちまった。」
とロンはこぼし。
「俺たちがここでどんだけ頑張っても…奴らの狙いは別だったなんて。」
ラインズ が拳を握りしめて言う。
「完全に…出し抜かれたわね。」
ソフィアが悔しそうに俯く。
「あの襲撃の規模、連携…全てが陽動だったなんて。」
「でも、ロンの新しい力…『魂震』。凄かったわ。」
クローディアがロンを見る。
「あれがなければ、中心広場はもっと酷いことになっていた。」
「みんなのおかげだ。」
ロンが言う。
「みんなが必死に連携してくれたから…父さんの言ってたことが、分かったんだ。」
とロンが言う。カノンは無言で、銃の手入れをしている。彼女の表情からも、安堵と共に、敵の巧妙さと、目的を阻めなかった悔しさが読み取れた。
アウトローはバウンスを奪還し、確実に次の手を打ってくるだろう。王都で時間を浪費するわけにはいかない。彼らの本来の目的…ブラッククラウンに繋がる『氷河の滝』へ向かう必要があった。
話し合いの末、彼らは今日中、あるいは明日には王都を発つことを決意した。その前に、今回の事件で共闘し、あるいは情報をくれた組織に、一度挨拶をすることにした。
感謝を伝え、王都の状況を把握し、今後の旅に繋がる情報が得られるかもしれない。
まずは、中心広場の復旧作業を手伝っていた王都自警団の元へ向かった。広場はまだ瓦礫だらけで、自警団員たちが疲労困憊の表情で立ち尽くしている。
ロンたちが近づくと、一人の自警団の地区隊長らしき人物が、彼らに気づき駆け寄ってきた。顔には泥と煤がついているが、その目に宿る感謝の光は明らかだった。
「おお! 君達か! 冒険者さんたち! 無事だったか!」
隊長の声には、心からの安堵が滲んでいた。
「酷い一夜だった…中心広場は一時はどうなることかと…」
隊長はロンたちの手を取り、何度も頭を下げる。
「ありがとう! 本当にありがとう! 君たちが来てくれなかったら、この広場は壊滅していた! モンスターの数が尋常じゃなかったんだ! 君たちと騎士団の連携、そして…君たちの戦いぶりのおかげで、どれだけの命が助かったか…!」
隊長の周りにいた自警団員たちも、ロンたちに深々と頭を下げる。
「本当に助かりました!」「あなた方がいなければ…」
市民の中からも、感謝の言葉や視線が寄せられる。
自警団からの心温まる感謝を受けた後、ロンたちは純白の騎士団本部へと向かった。本部は襲撃の被害を受け、一部は崩壊していたが、騎士たちは規律を保ち、負傷者の手当てや警備にあたっている。
ガリウス隊長は、本部の仮設指揮所で対応に追われていた。ロンたちが面会を求めると、彼はすぐに彼らを中へ通した。彼の顔には疲労の色が濃いが、その瞳には事件を乗り越えた者特有の、鋭い光が宿っている。
「来たか、『始まりの戦線』。無事だったようだな。」
ガリウス隊長は静かに言う。彼の背後では、騎士たちが慌ただしく行き交っている。
ロンは、今回の事件で騎士団も被害を受けたことへの見舞いと、中心広場での共闘への感謝を述べた。 ラインズ も、ソフィアも、クローディアも、カノンも、真摯な表情でガリウス隊長を見つめている。
ガリウス隊長は、ロンたちの言葉を聞き、一度大きく息を吐いた。
「…今回の襲撃は、我々騎士団にとって、想像以上に大きな被害と、そして痛恨の極みをもたらした。」
彼はそう言って、眉をひそめる。
「バウンスの奪還…奴らの真の狙いに、我々は気づくのが遅れた。陽動に完全に嵌められたのだ。」
悔しさを滲ませるガリウス隊長。しかし、彼の視線がロンたち、特にロンに注がれた時、その中に強い評価の色が宿る。
「だが…中心広場での君たちの働きは、特筆に値する。」
ガリウス隊長は真摯な声で言う。
「凄まじい物量に連携を相手に、君たちが、そして君たちと連携した我が部隊が持ちこたえた。君たちの能力、そして、連携力は…並の冒険者ではない。王都の精鋭部隊に匹敵する…いや、あの瞬間、君たちの力は…我々の予想を遥かに超えていた。」
ガリウス隊長は、以前にロン達を見定めると言っていたが、この事件で彼の評価は確固たるものになったようだ。彼はロンの瞳を見つめ、続ける。
「特にロン君…あの…最後の技…あれは一体…? 見たこともない力だった。」
ロンはソウル流について詳しく話すことは伏せたが、自身の血筋に関わる特殊な力であることを匂わせ、事件のさ中に覚醒したことを簡潔に伝えた。ガリウス隊長は興味深げに、そして幾分か警戒の色を帯びて、ロンの話を聞く。
「血筋の力…古代に関わるものか…?」
ガリウス隊長は、ロンたちの貢献を騎士団の上層部に報告し、正式に評価されるよう手配することを約束した。王都の公式な記録にも、彼らの功績が刻まれるだろう。
今回の共闘を経て、純白の騎士団は始まりの戦線を、アウトローという共通の敵に対抗しうる、信頼できる協力者として認識した。
騎士団本部を後にしたロンたちは、その後、魔術ギルド『宵の明星』とクレー商会も訪れた。
魔術ギルドでは、アルドノア賢者がロン君の『魂震』について、強い学術的興味を示した。
魂に直接干渉する能力、感情と魂の形、ソウル流と古代魔術の関連性など、質問攻めにあうロンとソフィア、クローディア。
アルドノア賢者は、氷河の滝に関するより詳細な古い文献情報を提供することを約束し、ロンたちの旅に役立つようにと、魂や古代魔術に関する自身の研究資料の一部を閲覧許可してくれた。
クレー商会では、アンドリュー総会長がロンたちを出迎えた。彼は事件の被害状況を正確に把握しており、その巧妙さからアウトローの恐ろしさを改めて語った。
ロンたちが氷河の滝へ向かうことを伝えると、アンドリュー氏は危険性を案じつつも、彼らの決定を尊重した。そして、約束通り、氷河の滝周辺を含む、広範囲にわたるクレー商会の情報ネットワークへの限定的なアクセス権と旅に必要な物資を提供することを申し出た。それは彼らの貢献への謝礼でもあり、将来への投資でもあった。
王都の主要組織への挨拶回りを終えたロンたちは、確かに感謝され、評価を高め、旅に必要な情報や物資を得ることができた。王都は、彼らの新たな後盾となった。
しかし、バウンスは奪還され、レイダーは彼らを標的とした。新たな力を得たロンたちだが、その道のりはさらに険しくなるだろう。
王都での短い休息と準備期間を終え、『始まりの戦線』は、新たな目標地、氷河の滝を目指し、王都の門を後にした。王都の喧騒と混乱はまだ残っているが、彼らの心は既に、未踏の荒野へと向かっていた。ブラッククラウンを巡る旅は、新たなステージへと進んだのだ。
古代人達の視点
「災厄の運命はまた動き始めた。『始まりの戦線』率いるロン達はここへ来るのは必然であった。今回暗躍しているアウトロー…どうも、昔の『洗礼の光』と組織の動き方が似ている。」
古代人達は危惧していた。
かつての災厄を呼び込んだのは『洗礼の光』という組織であった。
現在、その組織の活動又はメンバーの確認はされてないが、どこか違和感を覚えていた。
『洗礼の光』と闇のギルド『アウトロー』。
この2つの組織が無関係だとは思えなかったのであった。




