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ロングソードから始まる物語  作者: Nexus
王都『バンデルセン』
24/35

王都騒乱、魂の共鳴(後編)

王都中心広場は、アウトロー幹部クロウが放ったモンスター軍団と、『始まりの戦線』そしてガリウス隊長率いる純白の騎士団部隊との激しい戦場と化していた。クロウは瓦礫の上に立ち、王都の混乱とロンたちの奮闘を冷たい目で見下ろしている。ロンたちはモンスターの波に飲まれそうになっていた。


「全員、気を引き締めろ! 奴が…モンスターテイマーのクロウだ! 目の前の敵を叩く! 騎士団の方々と連携するぞ!」


ロンが叫ぶ。


「市民を守るんだ!」


ロンの号令と共に、激戦が始まる。純白の騎士団はガリウス隊長の指揮の下、統率された陣形でモンスターの波を食い止めようとする。王都自警団も、騎士団と連携し、市民の保護と避難路の確保に奔走していた。


ロンはソウル流 一ノ型『魂閃』を使い、閃光のように敵陣を駆け抜け、的確な一撃でモンスターを仕留める。


ラインズ は彼の得意技である一撃を放つ。


『クイックスラッシュ!』


『魂閃』とは違い、特殊歩法と高速一振りで間合いを詰める技。高速で踏み込みだけではなく、相手の意識が反応出来ないように特殊な歩法することで、反応がしづらく目で追えば良いと言う訳では無い。


何度も繰り出し、怪力任せではない素早く正確な剣技で複数のモンスターを一瞬のうちに斬り裂く。その破壊力と速度は圧倒的だ。


ソフィアは後方から広範囲のモンスターに向けて炎や氷の魔法を放つ。クローディアは最前線で戦う仲間たちや騎士団員に強化・回復魔法をかけ、彼らの消耗を少しでも抑えようとする。カノンは冷静に銃を構え、近づく飛行型モンスターや、クロウの護衛モンスターを正確に狙撃する。


しかし、クロウの指揮は完璧だった。倒したモンスターの隙間を縫うように新たな波が押し寄せ、ロンたちの『魂閃』も、 ラインズ の『クイックスラッシュ』による一時的な突破も、この物量と巧みな連携の前には、焼け石に水のように感じられた。


ソフィアの範囲魔法は確かに多くの敵を巻き込むが、特攻型の数は無限に思えるほどだ。クローディアの支援も、負傷者が増える速度に追いつかない。カノンが撃ち落とした飛行型の影から、さらに多くのモンスターが滑空してくる。


クロウ自身もモンスターの影に隠れながら、正確な魔法弾や体術でロンたちを牽制し、戦場全体を見渡して的確な指示を飛ばしている。


時折、モンスターたちの動きが異常なほど滑らかになったり、騎士団の防御が僅かに揺らいだりするのは、背後にいる女王の遠隔指揮やバフ魔法によるものだろう。


見えない糸に操られているかのような、モンスターたちの完璧な連携が、ロンたちの動きを制限し、少しずつ防衛線を押し崩していく。


「くそっ…! なんだこの数は…! キリがねえ!」


ラインズ が叫び、特攻型の群れに押し戻される。

彼の『クイックスラッシュ』も数の暴力には抗いきれない瞬間がある。


ガリウス隊長も汗を流しながら剣を振るう。騎士団の陣形はまだ保たれているが、疲労の色は隠せない。


「隊長! 東区画からの増援はまだか!?」


騎士の一人が叫ぶが、返事はない。王都の他の地点でも同様の襲撃が発生しており、戦力が分散しているのだ。

ロンは、剣を握る手に力がこもらないのを感じる。


一ノ型『魂閃』や、標準的な剣技、そして二ノ型『返刃』を使える状況も限られる。この波を止める決定打にならない。王都が…王都全体が危険だ。クロウの冷たい瞳が、全てを嘲笑っているように見える。


(何かが違う…! このままじゃ…! どうすれば…!)


追い詰められ、絶望感がロンの心を覆い始める。パーティーも、騎士団も、限界が近い。その時、彼の視界から、物理的な戦場の光景が薄れていくのを感じた。周囲の喧騒が遠ざかり、まるで世界の時間が止まったかのような、奇妙な静寂に包まれる感覚に陥る。


(未体験世界だ、これは一体何だ?)


その止まった世界で、ロンの目に飛び込んできたのは、これまでの人生で見てきた無数の「感情」だった。


王都で見た人々の笑顔、オーランドでの絶望と希望、旅の途中で触れた様々な喜びや悲しみ…そして、今、目の前で自分と共に戦っている仲間たち、騎士団員、自警団員たちの、恐怖、怒り、悲痛、そして決して諦めない強い「意志」の光。


それらは、色とりどりの光の粒、あるいは脈打つ波動、絡み合う糸のような、具体的で、魂の形そのものとしてロンの目に焼き付く。


その中で、ロンの目に最も強く焼き付いたのは、極限状況でも互いを信じ、能力を最大限に発揮し、『始まりの戦線』として連携する、仲間達の姿だった。


ラインズ が『クイックスラッシュ!』で迫るモンスターを食い止め、その隙にソフィアが『白銀吹雪』で広範囲のモンスターを凍らせる。


凍結が解ける前に、カノンが『ストームパレット』で狙撃し、クローディアが『リジェネレイトエレメント』で皆の傷を癒やし、力を高める。彼らは、言葉以上の理解で互いをカバーし、力を増幅させている。


それは、個々の魂が、信頼という見えない糸で繋がり合い、一つの強固な「形」を織りなしている光景だった。


(これが…感情…! これが…魂の発露(たましい はつろ))…! そして…この、繋がり合った魂の…形…!)


様々なモンスターや人の感情を、これまで何度も見てきた。共感し、寄り添い、時には反発してきた。その一つ一つが、今、ロンの視覚を借りて『魂の形』として結実したかのようだ。


感情、すなわち魂。魂、すなわち形。そして、目の前で輝く「仲間たちの連携」という繋がり合った魂の形。その理解が、ロンの内で閃光のように奔る。


(そうだ…父さんが言っていた…! 魂の形を理解すれば…! そして…仲間たちの魂が、俺に…力を…!)


父から教わった、しかし一度も成功したことのない、ソウル流の第三の型。魂の形を理解すること…それが発動条件だと、今、ロンは確信した。仲間たちの魂の輝きが、ロン自身の魂と共鳴し、内なる力を解放するトリガーとなったのだ。


クロウの冷たい笑み、モンスターの咆哮、仲間たちの声…止まっていた時が、再び動き出す。しかし、ロンの視界は、もはや以前と同じではない。


敵のモンスターやクロウの周囲に、苦痛に歪む魂の形、冷たく閉じた魂の形が見える。そして、ロン自身や仲間たちの魂の形は、温かく、強く、共鳴しているように見える。


「…できる…! 今なら…放てる!」


ロンは、意識を研ぎ澄ませ、自身の魂を深く、強く震わせた。周りの光景が、ロンの魂の震えに合わせて微かに揺らぐように見える。その力は、握る剣に集中していく。


意を決し、クロウに向かって、抜刀の構えを取る。左手で鞘を握り、刀身に魂の力を伝える。納刀時に蓄積された力、そして今、仲間たちの連携によって解放された魂の輝きが、この一瞬に集中される。


「何…?」


「ソウル流 三ノ型『魂震』」


己の魂が震え、体へと伝播していく。


クロウがロンの異様な構えに気づき、眉をひそめる。彼の本能が、ロンから放たれる未知の力に危険信号を発している。


辺りの空間が歪み、世界が悲鳴を上げた。


そして、ロンは駆け出した。クロウ目掛けて、一直線に。抜刀!

キンッ!! ズァァァアアア…!


鋼と魂が擦れ合う、しかし世界に響き渡るような共鳴音が鳴る。ロンが剣を抜き放ったその切っ先から、不可視の、しかし確かな力を持った魂の波紋が、同心円状に、凄まじい速度で広がった。それは単なる衝撃波ではなく、魂そのものに干渉する波動だ。


波紋は、瞬時に広場を埋め尽くすモンスターの群れを飲み込み、そしてクロウ自身、彼の護衛モンスター、陽動チームのアウトロー構成員にも到達する。


波紋が命中した瞬間、範囲内の敵対者だけが、苦悶の表情を浮かべ、その動きを止めた。ロン達や、騎士団、自警団員たちには、波紋は何の影響も与えない。


「グアアアアアァ!! ァアアアアア!!」


モンスターたちが、おぞましい、しかしこれまでの咆哮とは異なる、魂の悲鳴のような叫びを上げる。彼らの身体から力が抜け、その結合が崩壊していく。


クロウが操っていたはずのモンスターたちが、指揮を失い、苦痛に悶絶するただの獣に戻っていく。


クロウ自身も、波紋を受けた瞬間、全身に電撃が走り、脳髄を直接揺さぶられるような激痛に襲われた。魂が直接灼かれるような、経験したことのない苦痛だ。


彼は顔を歪め、瓦礫の山から体勢を崩しそうになる。彼の魂とモンスターとの繋がりが、強制的に断ち切られたかのようだ。


「な…なんだ…この力は…! 魂に…直接…!? ロン…貴様…!」


『魂震』の発動。ロンの渾身の一撃は、クロウの指揮系統を断ち切り、モンスター軍団の足を止め、戦況を一変させたのだ。騎士団や自警団員たちも突如としてモンスターの勢いが衰え、クロウが動揺していることに気づき、驚きと共に反撃を開始する。


「今だ! 攻めろ! モンスターの動きが鈍ったぞ!」


ガリウス隊長が叫ぶ。彼の目にも、ロンから放たれた力の異様さは映っていたが、今は好機を逃すまいと部隊を鼓舞する。


戦いの潮目が、確かに変わった。ロンたちがクロウと、動揺した残党を追い詰める番だ。ロンは『魂震』の反動か、僅かに息切れしているが、その瞳には、新たな力を得た確かな光が宿っている。


その時、広場の隅で通信魔法陣を展開していた騎士の一人が、血相を変えてガリウス隊長に駆け寄ってきた。彼の声は絶望に染まっている。


「隊長! 本部からです! 地下牢が襲撃され…! 収容していた囚人が…!! 装甲鉄騎バウンスが…奪還されました!!」


その言葉に、ロンたちの顔から血の気が引いた。ガリウス隊長も、目を見開く。


「バウンスが…奪還だと…!?」


彼らにとっての最悪の報を聞いたクロウは、顔の苦痛を消し去り、冷たい、勝利を確信した嘲笑を浮かべた。全てが計画通りだと言わんばかりだ。


「…我々の目的は達成された。装甲鉄騎バウンスは、今、自由の身だ。」


クロウは、ロンたちに嘲るような視線を向けた。勝利者のみが持つ冷たい優越感。


「貴様らは、この場を必死に守った。見事な『舞踏』だった。だが、真の舞台はここではない。お前たちがどれだけ踊り狂おうと、我々の計画は着実に進む。」


ロン、 ラインズ 、ソフィア、クローディア、カノン、そしてガリウス隊長以下、広場の全ての人間が、その言葉に凍り付いた。陽動…! そうだ、この凄まじい襲撃は、全てが「バウンス救出」のための陽動だったのだ! 自分たちは、まんまとその手の上で踊らされていたのだ。


「くそぉぉぉっ!」


ラインズ が叫び、地面を拳で叩く。ソフィアは唇を噛みしめ、クローディアは悔しそうに目を伏せる。カノンは無言で銃を強く握りしめる。


「逃がすか! クロウ!」


ロンは剣を構え直す。新たな力、『魂震』がある。まだやれる!

しかし、クロウは既に撤退態勢に入っていた。


陽動チームの残党、そして『魂震』の効果範囲外にいたか、効果から回復し始めたモンスターたちが、クロウを守るように周囲を取り囲む。クロウ自身も、身を翻し、瓦礫の上を素早く移動を開始する。


彼のCランク相当の対人戦闘能力は、この撤退戦で遺憾なく発揮される。障害物を避け、逃走ルートを確保する動きは淀みない。


「追え! 奴を逃がすな! 他の部隊にも連絡しろ!」


ガリウス隊長が叫び、騎士たちに追撃を命じる。

だが、モンスターたちは撤退するクロウたちの後衛として、決死の抵抗を見せる。


特に特攻型モンスターの残党が、進路を塞ぐように立ちはだかる。ロンたちは、傷ついた身体に鞭打って追撃を試みるが、クロウの計算され尽くした撤退は早く、阻む壁は厚い。


ガリウス隊長も追撃したいが、広場の収拾と負傷者の対応も必要だ。王都全体の状況もまだ完全に把握できていない。


「…また会おう、『始まりの戦線』。そして、王都の犬共。」


クロウの声が、遠ざかっていく。彼は、少数の部下とモンスターと共に、王都の闇へと完全に姿を消した。

王都全体で響いていた破壊音や悲鳴が、徐々に収まっていくのが分かる。


他の襲撃地点でも、陽動チームが目的を達成したか、あるいはこれ以上の抵抗は無意味と判断して撤退したのだろう。夜明けが近いのか、空が微かに白み始めている。


中心広場には、破壊の爪痕と、倒れたモンスター、そして疲弊しきったロンたちと騎士団、自警団員が残された。多くの犠牲が出た。しかし、王都は、かろうじて壊滅は免れた。


だが、勝利の空気はない。アウトローの真の目的は達成されたのだ。最も重要な囚人であるバウンスは奪還され、アウトローの戦力は維持された。


ロンたちの奮闘と、騎士団との連携は、あくまで陽動を食い止めたに過ぎない。彼らは、王都を守ったが、アウトローの計画を阻止することはできなかった。


ロンは剣を鞘に納め、大きく息を吐く。身体の疲労と共に、心には大きな悔しさが残った。ソウル流 三ノ型『魂震』。新たな、強力な力を得た。クロウを追い詰めることもできた。しかし、結果として、アウトローの計画、バウンス奪還という真の目的を止められなかった。


ガリウス隊長がロンに近づいてくる。その顔には、疲労と共に、複雑な感情、そしてある種の驚きが浮かんでいる。冒険者と騎士団…混乱の中で確かに共闘した。


「…今回は、君たちに助けられた。君たちの力は、確かに…予想以上だった。特に…最後の技。」


ガリウス隊長は、ロンの実力、特に『魂震』の異様さを認めつつも、言葉を選ぶ。


「あれは…一体…」


ロンは『魂震』については多くを語らなかった。ただ、純白の騎士団と連携できたことへの感謝を述べた。


「…隊長達も、よく持ちこたえてくださいました。」


とロンは伝える。


「いや、だが…我々は、奴らの掌の上で踊らされていただけだった、ということだ。」


悔しさを滲ませるガリウス隊長。


「本部の地下牢が…まさか、そこが奴らの本当の狙いだったとは…!」


悔しさを共有するロンとガリウス隊長。今回の事件を経て、王都の組織と始まりの戦線の関係性は、確かに変化しただろう。信頼はまだ完全ではないかもしれないが、共通の敵と、互いの実力を知った。


バウンスは戻った。アウトローは次の手を打つだろう。ブラッククラウンを巡る戦いは、王都での激しい衝突を経て、ロンの新たな覚醒と、アウトローの目的達成という大きな動きと共に、新たな、そしてより危険な局面へと進んだのだ。


ロンたちは、この経験と悔しさを糧に、次なる行動を決めなければならなかった。氷牙の滝へ向かうのか、それとも王都でアウトローの次の動きを探るのか…。夜明けの光が、混乱の残る王都を静かに照らし始めていた。


闇のギルド 『アウトロー』会議室にて


そこにはレイダー、ローズ、ナージャが集結していた。


「どうやら、クロウ達はバウンスの奪還に成功したようだ。」


「流石はクィーンとクロウさん。あの2人は襲撃を任せたら天下一品ですわね。」


「そうだな、アタイもあの二人には頭が上がらねぇな。でも、レイダーだって今回の救出の方なら活躍出来たろ?」


「出来るが、救出率は高くない。俺自身の潜入は簡単に気付かれる気はしないが…仲間を背負って助けるとかなると無理だ。それにバウンスを運ぶならクロウの飛行型モンスターがいないと無理だろう。」


3人は構成員から更に追加報告を聞く。


「レイダー様!会議中に失礼します!」


「どうした?急用か?」


「はい、救出は成功しましたが、どうやら構成員やクロウ様のモンスターが8割ほどやられたようです。」


「なに?本来の損失はもっと低いはずだ。」


「どうやら…外部の強力な冒険者のせいで被害が拡大したようです!」


殺意の濃密さが増す。


「アヒュッ!」


構成員はレイダーの殺意によって間抜けな声をあげて気絶する。

空気が重くなり、ナージャとローズも苦々しい表情をする。


「クソが…バウンスが戻ってきたことで良しとしよう。ローズ、ナージャ、わかっているな?」


「構成員の補充でしょう?行ってくるわ。」


「アタイも補充とブラッククラウンの情報収集行ってくる。」


ナージャとローズはその場から立ち去る。


「俺も行くか…許さんぞ…冒険者ども。」


レイダーはその場を立ち去るのであった。


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