表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロングソードから始まる物語  作者: Nexus
王都『バンデルセン』
23/35

王都騒乱(前編)

クレー商会 王都総本店 商会長室にて(深夜頃)


「あぁ嫌な予感がする…」


アンドリュー商会長は説明出来ないのない不安に駆られていた。

これからとんでもない事件が起きるのではないのかと。

それは、今までの経験から来る感覚だが、体がざわついているというべきか、虫の知らせというのか心が安定しない。

そう、前にも似たようなことが直近があった。

オーランド支部襲撃事件。

今回は王都バンデルセン襲撃事件という名の大規模の事件が起きるのではないかと予感がある。

この最悪な予感が外れてくれれば良いのだが。


ロン達 視点


王都の主要組織への根回しを終え、ブラッククラウンを巡る戦いが新たな段階に入ったことを実感していた。迫りくる危機に備え、短い眠りについていた。

王都バンデルセンの夜は深く、宿の外の喧騒も穏やかになりつつあった。しかし、その静寂は、一瞬にして、そして文字通り爆発的に破られた。


ドォォォン! ゴァァァァ!! キィィィン!! グシャアアアッ!!


複数の、性質の異なる破壊音が同時に王都のあちこちから響き渡った。建物の崩壊、おぞましい獣の咆哮、硬質な金属が軋む音、何かが叩き潰される音、そして人々の絶叫。それらが混じり合い、王都全体を飲み込む不協和音となって夜空を覆う。


「な、なんだっ!?」


「何ですかこの悪意の数は…」


とクローディアが反応し、 ラインズ が跳ね起きる。その叫びは、ロン、ソフィア、カノンは同じだった。ベッドから飛び降り、窓へと駆け寄る。


王都の異なる方角から、複数の炎が夜空を焦がしているのが見えた。遠くの鐘楼からは、非常を告げる警報がけたたましく鳴り響き始める。


街全体が、生き物のようにざわめき、恐怖の波動が空気を通して伝わってくる。そして、宿の窓からも、王都の主要街道を鎧の騎士たちが怒号を上げながら駆けつけ、特定の巨大な建物からは魔術師たちが展開する光の結界が視認できた。王都の防衛組織が、既に動き出している。


「まるで…合図があったみたいだ…!」


ロンが固唾を飲む。


「王都のあちこちで、同時に…!?」


「まずいですね…」


ソフィアが部屋の中心で魔力の流れを感じ取ろうとする。


「この魔力…一つじゃない! あっちからも、こっちからも…! 不規則だけど、強い悪意を感じる…! ただのモンスターパニックじゃない…!」


彼女の顔色は青ざめ、手が震えている。

クローディアが冷静な声で状況を分析する。


「これは…単なる偶発的な事件ではない。明らかに、計画された同時多発襲撃です。これほど広範囲で同時に混乱を引き起こすには、相当な組織力が必要です…アウトロー!」


彼女の瞳に、真実を見抜く光が宿る。

カノンは既に窓辺に立ち、銃を構えている。その黒い瞳は、王都の闇、そして迫りくる危機を見据えている。


「くそっ、狙いはどこだ!?」


ラインズ が唸る。


「王城か!? 騎士団本部か!? それとも…無差別テロか!?」


「迷ってる暇はない!」ロンが即断する。


「王都の戦力は散らされた! 俺たちも全部には対応できない! 一番混乱が酷い場所、アウトローの力が集中している場所に駆けつける! そこが奴らの狙い…重要な襲撃地点のはずだ!」


最も騒がしい方角…王都の中心広場だ。そこが、この同時多発襲撃の、最も大きな被害が出ている場所であることは明白だった。彼らは宿を飛び出し、混乱に染まり始めた王都の通りを駆け抜けた。


通りに出ると、事態の深刻さはさらに増した。逃げ惑う市民の群れと、彼らを助けようとする王都自警団の団員たち。そして、既に始まった激しい戦闘。


途中で、モンスターと純白の騎士団の部隊が激しく交戦している脇を駆け抜け、悲鳴を上げる市民を魔術師らしき人々が誘導している光景を目にした。王都の組織は機能しているが、襲撃の規模があまりにも大きく、全く手が回っていないのが見て取れる。彼らが向かう中心広場方面からは、さらに凄まじい破壊音が響いてくる。


広場へ続く通りを抜けた瞬間、彼らは凄惨な戦場に足を踏み入れた。広場は既にモンスターと、必死に抵抗する防衛側…王都自警団の団員たちと、駆けつけた純白の騎士団の一部部隊との血戦の場と化している。破壊された噴水は血に染まり、転がる瓦礫の下から呻き声が漏れる。


「純白の騎士団だ! ロン!」


ソフィアが叫ぶ。広場の中央付近で、純白の鎧を纏った騎士たちが、統率の取れた陣形を組み、モンスターの波に立ち向かっていた。その中には、面会したガリウス隊長もいた。彼は先頭に立ち、巨体を振るうモンスター相手に指揮を執っている。

 

「ガリウス隊長! 我々も加わります!」


ロンが叫び、駆け寄る。

ガリウス隊長は、ロンたちの姿に気づき、一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに厳しい顔に戻った。


「冒険者諸君か! 来たか! しかし、ここは…」


「説明は後です! 奴らの目的は分かりませんが、この混乱を止めないと王都が持ちません!」


ロンは躊躇なくモンスターの群れへと斬り込んだ。


「…ふむ。判断は早い。」


ガリウス隊長はロンの実力と覚悟を認め、即座に指示を出す。


「よし! 冒険者諸君は遊軍として、手薄になった箇所を突け! 我々騎士団は防衛線を維持する!」


互いの立場を理解した臨時の連携が成立した。ロンたち始まりの戦線と、純白の騎士団の一部部隊、そして王都自警団が、眼前のアウトローが操るモンスターの大群に立ち向かう。


異様に発達した脚を持つ素早い走行型モンスターが、騎士団の陣形を崩そうと側面から高速で駆け抜ける。 ラインズ が叫び、そのうちの一体を真正面から受け止め、アッパーカットで吹き飛ばす!


「速いだけが取り柄かよ!」


全身が粘液質の、数は多いが単体では強くない特攻型モンスターが、波のように押し寄せる。彼らは騎士団の防衛ラインに張り付き、その数の多さで騎士たちの動きを封じようとする。


ロンは剣を振るい、次々と特攻型モンスターを斬り裂くが、斬っても斬っても後続が来る。ソフィアが詠唱し、広範囲魔法で特攻型モンスターの波を焼き払う。


「来ないで!これ以上!」


上空からは、黒い翼を持つ飛行型モンスターが、鋭い爪と嘴で騎士団の後方や、魔術師らしき自警団員を狙う。カノンが冷静に狙撃し、飛行型モンスターを撃墜していく。


彼女の正確な援護射撃がなければ、後衛は保たないだろう。クローディアは、皆に強化魔法をかけつつ、モンスターたちの動きの法則性を見抜こうとする。


「モンスターの動きに…規則性がある! 指揮官がいる!」


クローディアが叫ぶ。

騎士団員たちも、モンスターの連携ぶりに違和感を覚えている。 


「ただの暴走ではない…まるで熟練の部隊のようだ…!」


ガリウス隊長が顔を曇らせる。

その時、モンスターたちの動きが再び、不気味なほど正確に連携した。走行型が騎士団の側面を深く抉り込み、その隙に特攻型が中央突破を試みる。


飛行型は、地上部隊と連動して立体的な攻撃を仕掛けてきた。その動きは、単なるクロウの指揮だけでなく、背後にいる女王の遠隔指揮やバフ魔法による連携強化であると、場の誰もが感じ取るほどの巧みさだった。騎士団の陣形が、僅かに揺らぐ。


「ククク…見事な『舞踏』だ。踊れ、踊り狂え!!」


瓦礫の山の上、王都の騒乱を見下ろすように立つ人影から、声が響いた。静かで、しかし王都の喧騒をも従えるかのような冷たい響き。


ロンたちが視線を向けると、そこに立っていたのは、黒いローブを纏った細身の男だった。その周囲には、他のモンスターよりも一際強く、忠実に見えるモンスターたちが静かに控えている。彼こそ、色々な所から貰った情報にあった男。この大規模な陽動を指揮するアウトロー幹部…**モンスターテイマー「クロウ」**だった 。


「貴様が…クロウか!」


ロンが叫び、剣を構える。 ラインズ も怒りを込めて睨み、ガリウス隊長も警戒を顕わにする。

クロウは、混乱の中でロンたちの接近に気づいたようだった。彼は一切動じることなく、静かに、しかし全てを見透かすような冷たい瞳で、ロンたちに語りかける。


「…来たか、『始まりの戦線』。そして、騎士団の犬共も。」


彼は、自身の創造した混乱の光景を指差す。


「見ろ。これが、お前たちが守ろうとしている世界の真の姿だ。脆く、愚かで、容易に混乱に陥る。」


クロウの瞳が、ロンたちを射抜く。その冷たい光は、人間という存在そのものを値踏みし、見下しているかのようだ。


「そして、この光景こそ…感情に流される貴様らが、混乱という名の『糸』で踊らされる、世界の真の姿。」


その言葉は、彼の冷たい哲学、人間性への侮蔑、そして自身の能力への絶対的な自信を示している。王都の混乱は、彼にとっては完璧に計算された舞踏なのだと。


「ふざけるな! こんなものが…世界の姿なわけないだろ! 世界を、人間を、見下すような真似を…!」


ラインズ が怒りに燃えて叫ぶ。ガリウス隊長も、クロウの言葉に眉をひそめる。

クロウは、 ラインズ の言葉に僅かに口元を歪ませるが、嘲笑のようにも見える。


「そうか? なら、証明してみろ。お前たちの言う『理想』が、この現実を塗り替えられると。」


「僕は負ける気がしないけどね。」


クロウが、ロンたちに手を向けた。彼に従う強力な護衛モンスターたちが、一斉にロンたち目掛けて動き出す。


同時に、広場を埋め尽くす走行型と特攻型モンスターの群れも、クロウからの指示を受け、より組織的な猛攻を開始した。さらに、王都の別の場所からも、新たな破壊音が増しているのが聞こえる。


襲撃はまだ続いている。最も激しい攻撃がロンたちと、彼らと連携する騎士団の部隊に仕掛けられる。クロウ自身のCランク相当の対人戦闘能力も、モンスターの波の間から放たれる魔法弾や、正確な体術によって、ロンたちに牙を剥く。


「全員、気を引き締めろ! 奴が…モンスターテイマーのクロウだ! 目の前の敵を叩く! 騎士団の方々と連携するぞ!」


ロンが叫ぶ。


「市民を守るんだ!」


「さぁ、『舞踏』してみせろ。」


始まりの戦線、ガリウス隊長率いる純白の騎士団の部隊は、王都の混乱の中心で、アウトロー幹部クロウと、彼の操るモンスターたちの波に立ち向かう。陽動であることに気づかぬまま、彼らは目の前の脅威を止めるべく、死闘を開始した。王都の命運を巡る最大の危機が、今、幕を開ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ