北への道、王都の影
ロン達「始まりの戦線」は古代都市「星詠みの箱舟」の中央研究施設で、目覚めた古代人から衝撃の真実、ブラッククラウン収集という使命、そして最初のヒントを得た。彼らは、あまりに巨大な真実と、突然託された使命の重さを胸に、来た道を戻るように洞窟の入り口へと向かった。古代都市を出る際、目覚めた古代人はただ静かにロンたちを見送り、多くは語らなかった。彼らの役割は、真実と使命を伝えることだったのかもしれない。
再び外の世界、丘陵地帯の光を浴びた時、ロンたちは現実とのギャップに僅かな眩暈を覚えた。
「…改めて外に出ると、なんか、変な感じだな。」
ラインズが空を見上げて言う。
「俺たち、とんでもないものを知っちまったんだ。」
ソフィアが深く頷く。
「まるで、長い夢を見ていたみたい…でも、手帳に書き留めた場所は、現実にあるんだよね…」
クローディアは、古代都市の入り口、アウトローの紋様が刻まれた岩肌を振り返る。その瞳には、故郷の村長から聞いた古代の話と、この都市で見た真実が重なっている。
「この先、私たちの知っている常識は、どんどん通用しなくなるのかもしれません。」
カノンは相変わらず無言だが、その視線には、新しい使命に対する静かな覚悟が宿っている。
彼らは丘陵地帯を抜け、再び街道へと出た。目指すは北。古代人のヒントが示す氷牙の滝がある、北の凍てつく山脈だ。そこに至るには、いくつもの町や村を通り過ぎ、そしてこの国の中央に位置する王都を通過するのが最も現実的なルートだった。補給や情報収集のためにも、王都への立ち寄りは必須だった。
長距離の旅が始まった。森や丘陵とは違う、人の手が多く加えられた街道沿いの景色。時折、他の冒険者パーティーやすれ違う商隊と遭遇する。彼らにとっては日常の風景も、ロンたちにとっては、つい数日前に知った世界の裏側と、これから始まる壮大なクエストを思うと、全く違って見えた。
王都へ向かう街道沿いの、小さな村で休息を取っていた時のことだ。ロンは宿屋の一室で、愛用のロングソードの手入れをしていた。 ラインズ とソフィアは明日の準備をし、カノンは窓辺で外を見ている。クローディアは、持っていた古文書に目を落としていたが、ふと顔を上げ、ロンのロングソードに視線を止めた。
「ロン…あなたの剣…」
クローディアの言葉に、ロンは手入れの手を止める。
「どうした?なんか変か?」
クローディアは首を横に振る。
「いえ、変な気配があるわけではありません。見た目も、一般的なロングソードに見えます…でも…」
彼女はロンの許可を得て、剣にそっと触れる。その滑らかな刀身、柄の感触を確かめる。鍛冶師のような専門的な知識はない。しかし、エルフとしての長い年月の中で培われた観察力、そして故郷の村長から教わった特別な知識が、何かに反応した。
「この製法…表面の微細な加工、素材の組み方…」
クローディアは呟く。
「一般的なロングソードとは、明らかに違います。」
彼女はロンの剣と、自分の記憶にある一般的なロングソードの製法、そして故郷の村長が、特別に見せてくれた、遥か古代の武器の製法に関する記憶を比べていた。
「…故郷で、村長が見せてくれた…古代のロングソードの製法に…似ています…」
クローディアの言葉に、ロンの目が僅かに見開かれる。
「古代の…?この剣が?」
ラインズ が興味を持って寄ってくる。
「マジかよ、ロンの剣が古代の武器?とんでもねぇ掘り出し物だったってことか?」
クローディアは困ったように眉を寄せる。
「いえ…詳しいことは分かりません。鍛冶師ではないので…ただ、最近の製法ではない、遥か昔の技術で作られている…そんな気がするんです。」
それ以上のことは分からなかった。ロンのロングソードは、見た目は普通のままだ。妙な能力を発動したわけでもない。しかし、クローディアの言葉は、ロンの、そして仲間の心に「この剣は、ただのロングソードではないのかもしれない」という、小さな、しかし確かな疑問の種を植え付けた。なぜ、ただの村の武器屋に、そんな古代の剣があったのか。その謎は、今はまだ解けない。
王都『バンデルセン』
旅を続け、五人はついに『王都 バンデルセン』へと到着した。この国で最も大きく、栄えた都市だ。高くそびえる城壁と、その向こうに広がる無数の建物。喧騒と活気。中央には荘厳な王城が聳え立っている。
彼らは、北の凍てつく山脈に関する情報、特に氷牙の滝に関する記録や、もしかするとブラッククラウンに関する噂がないか、王都の冒険者ギルド本部や、一般公開されている大きな図書館、情報屋などが集まる地区を訪ね歩いた。
王都の冒険者ギルド本部は、オーランド支部の比ではなかった。多くの冒険者たちが依頼を受けたり、情報を交換したりしている。彼らはギルドの記録庫で、氷牙の滝や北の山脈に関する報告書、地形図などを調べ始めた。
しかし、そこで彼らは奇妙なことに気づいた。氷牙の滝に関する公式な記録や報告書が、極端に少ないのだ。地図には確かに記載されている場所なのに、近年、その周辺を探索した冒険者の記録がほとんど見当たらない。まるで、意図的に情報が隠されているかのようだ。
「おかしいな…こんな大きな滝なら、もっと多くの冒険者が報告書を出しているはずなのに…」
ソフィアが首を傾げる。
クローディアの表情が引き締まる。
「…何らかの力が、この場所に関する情報を抑えつけている…アウトロー…でしょうか。」
その時、彼らが熱心に氷牙の滝に関する情報を調べていることに気づいた人物がいた。冒険者ギルド本部の、少し奥まった場所にある一室から、一人の男が彼らをじっと見つめている。彼はギルド職員のようでもあり、そうではないようにも見える。鋭い目つきで、ロンたちの様子を観察していた。
男は、ロンたちが氷牙の滝に関する情報をあきらめ、次の場所へ行こうとした時、彼らに声をかけてきた。
「…君たち、氷牙の滝について調べていたね。」
ロンたちが警戒して男を見る。
「私は…『夜明けの目』のラウルという者だ。」
男は低い声で言った。
「氷牙の滝、そして…ブラッククラウンについて、君たちが知りたい情報を、私は持っているかもしれない。」
夜明けの目? 聞き慣れない組織名だ。しかし、その言葉に、ロンたちの緊張はさらに高まる。この男は、アウトローとは別の、しかしブラッククラウンに関わる組織の人間なのか?
「なぜ、あなたがそれを…」
ロンが問う。
「君たちの後ろには、古の気配が漂っている…そして…アウトローも、最近その場所を嗅ぎ回っている。」
ラウルと名乗る男は、ロンたちを値踏みするように見た後、続けた。
「興味があるなら、この後、少し時間を取れないか?」
ロンたちは、警戒しつつも、この男が持つかもしれない情報に賭けるしかないと感じた。王都での立ち寄りは、単なる情報収集や補給だけでなく、ブラッククラウンを巡る新たな組織との接触という、予期せぬイベントへと繋がったのだ。
夜明けの目 アジト
ロン達はラウルに連れられて、とある建物へと入っていく。
中には数人おり、数人はこちらの方へ目を向けてくる。
「ようこそ、夜明けの目のアジトへ。我らは古代人様に仕える一族『エンシェント』です。」
新たな始まりの予感がした。




