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ロングソードから始まる物語  作者: Nexus
自由都市 「オーランド」

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13/39

森と猿とガンナーとの出会い

森のイメージです。

AIに描いてもらいました

挿絵(By みてみん)

自由都市オーランドの東門をくぐり、整備された街道を東へと進み始めた。石畳の道に響く自分たちの足音だけが、街の喧騒から離れていく孤独を物語っている。


街並みが徐々に遠ざかり、見慣れた塔や尖塔が地平線に溶けていく。これまでの依頼で何度も通った道だが、今回は未知の世界への旅路だ。Dランク冒険者となった彼らの顔には、新たな冒険への期待と、胸の奥を締め付ける一抹の緊張、そして困難に立ち向かう確かな決意が浮かんでいた。


数時間の行軍の後、街道は次第に木々が鬱蒼と茂る森へと吸い込まれていくように続いていた。ギルド長から示唆された、アウトローが撤退した可能性のある地域の入り口だ。


森の空気は、街のそれとは全く違う。湿った土と朽葉の匂い、鳥の声に混じる得体の知れない動物の鳴き声、そして皮膚が粟立つような、どこか張り詰めた獣の気配。非常に危険、というほどではないが、木々の間から鋭い視線を感じるような、油断すれば命取りになるであろう「脅威のある」森だ。


彼らは街道を離れ、踏み固められていない獣道のような森の中へと足を踏み入れた。頭上を覆う分厚い木の葉の層が、差し込む陽光を遮り、森の中は常に薄暗い黄昏のようだ。


ロンは剣の柄に手をかけ、ラインズは森の音に耳を澄ませ、頻繁に左右を確認する。ソフィアは足元の枝や根に注意しつつ、いつでも魔法が使えるように杖を握り締め直す。クローディアは、エルフならではの鋭敏な感覚で、森の気配、生命の波動、そしてこの場所に似つかわしくない異質な存在の痕跡を探るように、ゆっくりと歩を進める。


数日間の森の旅が始まった。日の光が届かない場所での野営は骨が折れる。湿った地面にシートを敷き、焚き火を起こして暖を取り、携帯食糧や、クローディアが見つけてきた食べられる森の恵みを分け合う。


夜は交代で火を見張り、襲い来るかもしれない魔物や、潜む危険に耳を澄ます。オーランドでの生活とは違う、研ぎ澄まされた感覚が要求される、本当の旅の日常だ。

そして、森の脅威との遭遇。


旅の三日目。鬱蒼とした森を抜け、突如開けた谷間を通りかかった時、地を揺るがすような巨大な咆哮が響き渡った。谷間の奥から現れたのは、体長3メートルを超える毛むくじゃらの巨人、フォレストオーガだ。棍棒を肩に担ぎ、苛立った様子で木々をなぎ倒しながら、彼らに気づき襲いかかってくる。その巨体からは、獣とは違う、知性を持った凶暴性が感じられた。


「オーガか! Dランク昇格の、最初の実戦試験ってところか!」


ラインズが剣を構え、ロンと共に躊躇なく突進する。その動きには、Fランクの頃にはなかった、迷いのない速さがある。

以前戦ったシルバーファングとは違う、純粋なパワータイプの魔物だ。オーガの攻撃は重く、風圧だけで息を詰まらせ、直撃すればひとたまりもない。


しかし、彼らはもうFランクではない。ロンはオーガの棍棒攻撃を紙一重で回避し、その巨体を駆け上がりながら、弱点である太い脚の付け根を狙って剣を走らせる。ラインズはオーガがロンに気を取られた隙に、素早く側面に回り込み、鎧のない脇腹を突き上げる。ソフィアはオーガの足元に氷の魔法を展開し、動きを鈍らせる。クローディアは、冷静にオーガの筋肉の動きや重心を見極め


「右腕を上げる!」


「二歩下がる!」


と的確な連携の指示を出し、魔力の矢で動きを牽制したり、ソフィアの魔法効果を高めたりする。

彼らの連携は、以前より格段に洗練され、淀みがない。ロンとラインズが危険な近距離でオーガを翻弄し、ソフィアが魔法で支援、クローディアが戦場全体を把握し指揮する。四人の息の合った攻撃と防御の前に、フォレストオーガは強力だったが、やがて巨体を揺るがせて倒れた。地面が揺れ、森の鳥が一斉に飛び立つ。


「やった…!」


ソフィアが安堵と達成感の息を漏らす。


「ふっ、Dランクになっただけあるな! 俺たちも強くなったもんだ!」


ラインズが額の汗を拭う。


「Dランクそれ関係ある?まだなってから数日だよ。」


ロンがラインズの言葉に軽くツッコミを入れる。


「関係あるさ! Dランクになったっていう自覚が、俺たちを強くしてるんだよ!」


ラインズが自信満々に胸を張る。

ロンは、倒れたオーガを見ながら真剣な顔に戻る。


「でも、気を抜くな。この森には、これ以上の脅威が潜んでいる可能性もある。」


クローディアも同意するように頷き、鋭い目で周囲を警戒している。

彼らはオーガを迅速に解体し、素材を回収して旅を続けた。森の脅威を乗り越えることで、Dランクとしての自信を少しずつ、しかし確かに深めていく。


旅の五日目。森の奥深くを進んでいた時、彼らは獣道の傍らに、小さくうずくまる影を見つけた。それは一匹の猫だった。毛並みは汚れ、痩せ細っており、片方の前足から血が滲んでいる。魔物に襲われたか、罠にかかったのだろうか。その小さな体は、微かな生命の波動と、強い苦痛の気配だけが伝わってくる。


「あ…猫だ…! 怪我してる…!」


ソフィアが思わず駆け寄ろうとする。その声には、迷いなく助けたいという感情が溢れている。


「待て、罠かもしれない。無闇に近づくな。」 


ラインズが警戒するが、猫は苦しそうに小さく鳴くだけで、ロンたちから逃げようともせず、その場に倒れ伏している。


「罠ではない…ただ、傷つき、弱っているだけだ。」


クローディアが静かに確認し、猫にゆっくりと近づく。エルフであるクローディアの穏やかな気配を感じ取ったのか、猫の警戒心が少し和らぐ。


ロンは剣を収め、猫に優しく話しかけながら、そっと手を差し出す。猫は初めはビクつくが、ロンの手に頬を擦りつけてきた。ロンは、その小さな体に触れ、痛々しい傷を見る。深い傷ではないが、放置すれば化膿し、この森で生き延びることは難しいだろう。


「助けてあげよう。」


ロンが言った。その声には迷いがない。


「でも…旅の途中だし…手間がかかるんじゃ…」


ラインズが現実的な懸念を口にする。


「生き物を見捨てるわけにはいかないだろう。」


ロンはラインズの目をまっすぐ見る。


「それに、ソフィアの魔法があれば、治せるかもしれない。」


ソフィアは、ロンの言葉に力強く頷き、祈るように杖を掲げた。短い詠唱の後、暖かい光が猫の傷口を包む。ソフィアの覚えたばかりの初級治癒魔法「ライトヒール」。傷口の出血が止まり、肉が盛り上がって傷が塞がっていく。


クローディアは森の中で薬効のあるハーブを見つけ、傷口を清めたり、猫に飲ませたりする手伝いをする。ロンとラインズは、持っていた清潔な布で患部を丁寧に巻く。


手当てが終わると、猫は苦痛から解放されたようで、小さく「にゃあ」と鳴いた。そして、元気になった前足でロンの手にすり寄ったり、クローディアの足元でゴロゴロと喉を鳴らしたりする。ソフィアは、魔法が効いたことに喜び、優しく猫を撫でる。


「少しは楽になったみたいだな。」


ロンが優しく猫の頭を撫でる。猫の温かい体温が手に伝わってくる。

猫はしばらく彼らの周りを離れようとしなかったが、やがて何かを察したのか、くるりと振り返り、健康になった足取りで森の奥へと走り去っていった。木々の間に消えていく小さな体を見送る。


「元気になってよかった。」


ソフィアが嬉しそうに呟く。

ラインズが少し照れくさそうに言う。


「ったく、世話が焼ける。」


「いいさ。これも旅の一部だ。」


ロンは、猫が走り去った方向を見つめながら、静かに笑う。

森の脅威だけでなく、このような小さな命との触れ合いもある。彼らは、冒険者としての「強さ」だけでなく、「優しさ」も共に旅に持っていくことを改めて知った。


森の中を進むこと、およそ一週間。ようやく木々の密度が薄くなり始め、空が広く見える場所が増えてきた。光が差し込む開けた場所が増え、森を抜ける場所が近いことを示している。


そして、視界が開けたその先に、村が見えた。土壁の家屋が並び、藁葺き屋根から煙が上がる、小さな村だ。しかし、村の様子はどこかおかしい。


村の入り口は固く閉ざされ、見張りのような男たちが不安そうに立っている。通りには人影が少なく、家々の戸は固く閉ざされているようだ。遠目にも分かるほど、村全体から張り詰めた、不安な空気が漂っている。森を抜けた安堵感は、村が抱える問題への懸念に取って代わられた。


森の近くの村『センジュ』


「…何かあったみたいだ。」


ロンが剣に手をかけ、警戒を強める。

村の入り口に近づくと、閉じられた門の傍らで、数人の村人が不安そうに立ち話しているのが見えた。彼らが近づくと、村人は警戒の視線を向け、冒険者だと知ると、少しだけ安堵の色を見せる。


「冒険者さんか? こんな時に…助かります…」


村長らしき老人が、彼らを見て力なく呟いた。

村の抱える問題。それは、近くの丘陵地帯に住むモンスター、ロックエイプの被害だった。


最近になって、ロックエイプが村を頻繁に襲撃し、家畜を奪い、畑を荒らし、時には村人にまで襲いかかるのだという。村の男たちが何度か撃退を試みたが、その怪力と、岩を投げつけてくる遠距離攻撃の前に、常に跳ね返されてしまった。


他の冒険者にも助けを求めたが、来ていない。最近、ロックエイプの動きが特に活発になり、被害が深刻になっているという。村全体が怯えきっている様子が、村長の言葉や村人たちの表情から伝わってくる。


村長と村人たちの間に、一人の女性の姿があった。紺青色の長い髪が、肩甲骨の下まで伸び、静かに揺れている。黒い瞳は感情の揺れをあまり見せず、どこか遠くを見ているようだ。


年は十七くらいだろうか。その白い肌と整った眉目秀麗な顔立ちは、泥に汚れ、疲弊した村の風景の中で、異質なほどに目を引く。そしてその手には、このファンタジー世界、特にこのような辺境の村では全く見慣れない、黒光りする金属製の長物…銃が握られている。ガンナーだ。


「…この方は?」


ロンは、村の問題を聞きつつも、その異様な存在感を放つ女性に目を向け、尋ねる。


村長が答える。


「ああ。最近、この村に立ち寄った旅の者でな。名は…」


「…カノン。」


女性が静かに、自ら名を告げた。声は小さく、感情が読み取れない平坦な響きだが、確固たる意志を感じさせる。

村長が続ける。


「カノンさんじゃ。銃の腕は確かなようだが…ロックエイプは強すぎる。この子一人では…どうにもならなくてな。」


カノンは、村長の言葉にも、ロンたちの視線にも、特に反応せず、ただ静かに銃を構えている。その黒い瞳は、村の向こう、ロックエイプが住む丘陵地帯の方向を見つめているようだ。村を守るように、警戒を怠らない姿勢だ。

ロンたちは自分たちの自己紹介を交えた。


「僕はロン。そして彼らは…」


と、ラインズ、ソフィア、クローディアを紹介する。カノンは小さく、無言で頷いただけで、それ以上の応答はない。


「あのロックエイプか…困っているようだし、助けよう!」


ラインズが、村の惨状と村長の話に心を動かされ、言った。

ソフィアが不安そうにロックエイプのいる丘陵地帯の方角を見る。


「ロックエイプ…図鑑で見たことあるけど、すごく力が強いって…岩投げもするんでしょ…」


クローディアが静かに言う。


「モンスターが、特定の村をこれほど執拗に襲うのは、通常ではありません。単に食料を求める以上の理由があるのかもしれません。あるいは…最近、ロックエイプの巣がある丘陵地帯の奥で、その原因となる何らかの出来事があった可能性が…」


クローディアの言葉には、事件の裏に潜む何かを探ろうとする冒険者らしい推測が込められている。

ロンは考えた。今回の村の試練。ロックエイプ。そして、そこで出会った銃使いの少女、カノン。村のモンスター問題は、クローディアが言うように、自分たちが追っているアウトローや、奪われた古代遺物に関する情報に繋がるかもしれない。それに、目の前で困っている村人たちを見捨てるわけにはいかない。Dランク冒険者となった今、このような問題から目を背けることはできない。


ロンは、寡黙なカノンと村長に向き直った。


「村長さん、そのロックエイプ討伐、俺たちに任せてもらえませんか? 俺たち、Dランク冒険者です。必ず村に平和を取り戻します。」


その言葉には、新しいランクに相応しい、リーダーとしての覚悟が滲む。そして…


「…カノンさん。」


ロンはカノンに目を向け、真剣な視線を送る。


「もしよろしければ、あなたも手を貸してもらえませんか? あなたの腕前が必要なんです。」


カノンは、ロンの言葉を聞いて、黒い瞳がロンをじっと見つめた。その視線は、ロンという人間、そして彼の言葉の真意を見定めるかのような、鋭いものだった。短い、沈黙の時間の後、彼女は小さく、しかし確かな頷きを返した。言葉は少ないが、協力の意思が明確に示された。


「おお…! 冒険者さん…! そして、カノンさんまで…! これは…これは本当に助かりますじゃ…!」


村長が希望の光を見たような、震える声で喜んだ。村人たちも、不安そうだった顔に僅かな希望の色を浮かべる。


「ありがとうございます。すぐに討伐に向かいましょう。ロックエイプの巣は、ここから西の丘陵地帯にありますね?」


ロンたち「始まりの戦線」の四人と、寡黙なガンナー、カノンの計五人は、ロックエイプ討伐のため、村の西にある丘陵地帯へ向かった。村長から聞いた巣の場所を目指す。


村を出ると、村人たちが不安と期待の入り混じった顔で見送っているのが見えた。

丘陵地帯は森とは違い、岩肌が露出し、灌木がまばらに生えている。険しい岩場を進む道中、カノンは口数は驚くほど少ないが、その足取りは確実で、周囲への警戒も怠らない。


無駄のない動きには、並々ならぬ熟練が感じられた。時折、手に持つ銃を素早く手入れするその仕草は、美しさすら伴っている。ロンたちは、彼女の静かな実力に、信頼を感じ始めていた。


やがて、彼らはロックエイプの巣である洞窟に到着した。丘陵の斜面にぽっかりと開いた洞窟の入り口には、巨大な爪痕や、投げられた岩の跡が生々しく残っている。洞窟の中から、地を這うような不気味な唸り声が響いてくる。ロックエイプの匂いだろうか、獣の臭いと埃っぽい空気が漂っている。


「ここに、奴がいるのか…」


ラインズが剣を構える。緊張感が走る。


「気をつけましょう。ロックエイプは怪力に加え、岩投げという遠距離攻撃も得意です。」


ソフィアが杖を握り直し、警戒魔法の準備をする。

カノンは、洞窟の入り口から少し距離を取り、風上を選んで静かに銃を構えた。その紺青色のロングヘアが、丘陵の風に揺れる。黒い瞳は、一点…洞窟の入り口を見据えている。


洞窟の奥から、地面を揺らしながら、主が現れた。巨大な岩のような体躯を持つ、ロックエイプだ。筋肉隆々とした腕、鋭い爪、そして岩のような皮膚。唸り声を上げ、地面を叩き、威嚇する。その知性のない獣の瞳に、凶暴な光が宿っている。


「来るぞ!」


ロンが叫び、戦闘が始まった。

ロックエイプは、予想通り強力だった。その巨大な拳から繰り出される攻撃は、バウンスのそれほどではないが、非常に重く、避けるのが精一杯だ。そして、地面から岩を剥がして凄まじい勢いで投げつけてくる遠距離攻撃は、脅威だ。


ロンとラインズがロックエイプの懐に飛び込み、攻撃を誘う。彼らの目的は、倒すことだけでなく、カノンの狙撃を支援するための隙を作ることだ。


ソフィアは足元を凍らせたり、動きを鈍らせる魔法で支援する。クローディアは後方から全体の状況を把握し、ロックエイプの僅かな隙や弱点を見抜き、ロンたちに指示を飛ばす。


そして、カノン。彼女は冷静に、正確な狙撃を放つ。パンッ!と短い、しかし腹に響くような乾いた銃声。放たれる弾丸は、ロックエイプの硬い岩のような皮膚を貫通し、クローディアが指示した弱点となりそうな箇所に正確に命中する。


ズンッ!と重い衝撃音と共に、ロックエイプの巨体が揺れる。その一発一発は強力で、ロックエイプの動きを僅かに、しかし確実に鈍らせていく。


「効いてる!凄い腕だ!」


ラインズが叫ぶ。彼の剣撃では容易に傷つかない相手に、カノンの弾丸は通用している。

ロンたちはカノンの狙撃に合わせて、連携攻撃を仕掛ける。ロックエイプの注意がロンたちに向いている間に、カノンが決定打を狙う。


カノンが岩投げを誘発し、その隙にロンたちが懐に潜り込む。これまでのDランク戦闘で培った連携に、ガンナーという新しい、強力な戦力が加わることで、戦闘の幅が格段に広がっていた。5人の連携が、ロックエイプを追い詰めていく。


「終わりだ!ソウル流 一ノ型『魂閃』!」


ロングソードは青白い光を纏う。

ロックエイプに直撃すると、斬られたところが破裂する 

激しい戦闘の末、ロックエイプは巨体を震わせ、最後の咆哮を上げて、倒れた。地面が揺れ、咆哮が断末魔の呻きに変わる。討伐成功だ。


「ふぅ…強かった…」


ロンが息を弾ませながら剣を収める。体は疲れ切っているが、達成感がある。

カノンは、倒れたロックエイプを確認すると、静かに銃を下ろした。彼女の表情は乏しいままだったが、その黒い瞳には、任務を終えたことへの満足が微かに宿っているように見えた。

討伐証明のため、魔石とロックエイプの一部の部位を切り取ってその場を離れる。

村へ戻ると、村人たちは歓喜に沸いた。ロックエイプの脅威から解放されたのだ。村長や村人たちから心からの感謝を受ける。「始まりの戦線」と、寡黙なカノンの評判は、すぐに村中に広まるだろう。村長は約束通り、彼らに報酬を渡し、ロックエイプの素材も買い取ってくれた。

感謝と共に、村長は話をしてくれた。ロックエイプがこれほど凶暴になったのは、ここ最近のことだということ。他にも具体的なことは言えないが、色々な異変が起きていると。


クローディアが静かに頷く。


「私も、この辺りの気配が、森に入る前から、少し…歪んでいるように感じていました。ロックエイプが、何かによって追い立てられたのかもしれません。その原因は…噂の光や物音に関係があるのでしょう。」


カノンは、村人たちの話やロンたちの会話を静かに聞いていたが、村長から謝礼を受け取った後、ロンたちに向き直り、短い言葉を口にした。


「…あっち…の方角…」


彼女が指差したのは、ロックエイプの巣があった丘陵地帯の、さらに奥の方角だ。月明かりに照らされた丘陵の稜線が、その先に広がる未知を示唆している。


「…何か知っているのか?」


ロンが尋ねる。

カノンは、首を振る代わりに、頷いた。


「…危険…」


彼女は続けて、わずかに言葉を絞り出す。


「…でも…必要…」


危険だが、必要な場所。それは何のためかは分からない。アウトローが逃げ込んだ可能性のある場所。古代遺物に関わるかもしれない場所。彼女の少ない言葉が、村で得られた噂と繋がり、彼らの次の目的地を明確に指し示していた。

ロンはカノンを見た。彼女は、なぜその場所が危険で「必要」なのか、詳しくは語らない。だが、彼女も何か目的があって旅をしているのだろう。そして、今回のロックエイプ討伐を通して、ロンたちの実力や人柄に触れ、何か感じるところがあったのかもしれない。


「…ありがとう。助かった。」


ロンはカノンに感謝を伝える。

カノンは、それ以上何も言わず、ただ静かに頷き返した。

その日の夜、村に滞在する彼らの元に、カノンが改めてやってきた。彼女は何も言わず、ただロンたちの荷物の横に、自分の荷物を置いた。



「…カノンさん?」


ロンが問う。

カノンは、無言で、しかし確かな目でロンを見た後、短く頷いた。

彼女がこの後、どうやら彼女は一緒に来てくれるとのこと。村のモンスター問題だけでなく、ロンたちが追っているものにも、あるいは彼女自身の目的にも、その丘陵地帯の奥が関わっているのだろう。

彼女から得られた情報…そして、彼女自身の存在が、ロンたちの新たな旅に、確かな一歩と、強力な、そして謎めいた仲間を与えてくれた。

翌朝、村を後にした。ロックエイプの脅威から解放され、明るい表情で見送る村人たちに手を振り返し、彼らが目指すのは、カノンが指差した丘陵地帯の奥。ロックエイプを追い立てたかもしれない、奇妙な光や物音の元凶。

これから起きる異変にどう対応出来るか。

見たことのない丘陵の景色が、彼らの前に広がっていく。風が、彼らの髪を揺らす。ロンの栗色の髪、ラインズの金髪、ソフィアの茶髪、クローディアの銀灰色の髪、そしてカノンの紺青色の髪。五色の髪が、新しい冒険の風を受けてなびく。


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