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ロングソードから始まる物語  作者: Nexus
自由都市 「オーランド」
10/35

刻限の疾走

旧市街での配達クエストを終え、ギルドに戻ったロンたちは、報告を済ませた直後、呼び出しを受けた。通されたのは、ギルドの奥にある、応接室のような静かな部屋だった。そこにいたのは、見慣れない、だがどこか歴戦の雰囲気を漂わせた壮年の男性職員だ。

「君たちが、『始まりの戦線ファーストライン』だな? シルバーファングを討伐したパーティーと聞いている。」


壮年の職員は、ロンたちの顔を一人ずつ見て、厳かに言った。ロンは緊張しつつ頷く。


「貴方はただの職員ではないですよね?」


「そうだな、俺はギルド長のブラインズンズだ。」


「ギルド長!?」 


とロンたちが驚愕している間にギルド長は話を始める。


「単刀直入に言おう。我々ギルドは、君たちが探っているであろう組織の動きを掴んだ。信頼できる筋からの情報だ。」


何故探っていることが?


「何故それを知っているんですか?」


「冒険者ギルドを馬鹿にしないで貰おうか。そういう動きをするだけでもすぐにわかる。特に隠密や諜報活動が得意職員や冒険者がいるのでね、これくらいは余裕だ。」

 

組織…クローディアさんを狙った、あの闇の組織のことだ。ロンたちの顔色が変わる。クローディアは息を飲む。


「だが、情報は断片的だ。組織は存在する。そして、近々、このオーランドの街のどこかで、大規模な犯行を計画しているらしい。」


ラインズが前のめりになる。

「場所は! いつやるんです!?」


「それが分からない。情報がそこで途切れている。」


ギルド長は無念そうに首を振る。


「本来、君たちのような新人パーティーに話すことではない。だが、正規の情報収集班では間に合わない可能性があるほど、奴らの動きは急だ。君たちは組織にも気づかれていない新しい顔だ。…シルバーファングを倒した実力も見せてもらった。」


ギルド長はロンたちを見つめる。


「得られた唯一の具体的な情報は、奴らの下っ端が、今夜、東地区の倉庫街にある、壊れた時計塔の近くで、定期的な情報伝達か、物品の受け渡しを行うらしい、ということだ。」 


今夜…! ロンたちは顔を見合わせる。時間は迫っている。


「君たちに頼みたいのは、その情報伝達場所を突き止め、やり取りを終えて帰る組織の構成員を捕らえ、計画の全容を聞き出すことだ。報酬は、得られた情報の価値と、君たちの貢献度によって弾もう。」


組織の構成員を捕まえる…危険な任務だ。しかし、クローディアを狙った組織だ。そして、街で新たな犯行を企んでいる。ここで尻込みするわけにはいかない。

「…やらせてください。」


ロンが、固い声で言った。


「ロン!」

ソフィアが心配そうに声を上げる。ラインズも真剣な顔でロンを見る。


「クローディアさんを狙った組織だ。そして、街で悪さをしようとしてる。それに、これを逃したら、いつ組織の手がかりが掴めるか分からない。」


ロンは仲間たちに視線を向ける。


「危険だけど…俺たちはやるべきだと思う。」


ラインズがロンの肩を叩く。


「ったりめぇだ! やろうぜ、ロン! ソフィアは? クローディアさんは?」


ソフィアは頷き、決意の表情を見せる。


「うん…怖いけど…ロン君たちがやるなら、私も。」


クローディアは、ロンたち三人のやり取りを静かに見つめていたが、迷いなく頷いた。


「私も、一緒に行きます。私自身の問題でもありますから。それに…あなたたちの力になれるかもしれません。」


「よし、決まりだな。」


ギルド長は満足そうに頷く。


「情報は以上だ。健闘を祈る。情報は最優先でギルドに持ち帰れ。無理はするな。奴らは魔物より厄介だ。」


重い情報を胸に、彼らはギルドを出た。


僕達は宿屋で作戦会議をしている。


「どうする、今晩に色々あるけど。」


「そうだな!取り敢えず、準備してから行こうぜ!」


「そうですね、クローディアは何かアイデアや装備について何かありますか?」


クローディアがこの中では冒険者の中では経験者なのは間違いない。


「まず…ロン達は冒険者としては経験が浅い。それ対人戦となると負ける可能性が十二分に考えられる。そのために装備や不意打ちで補わないといけないのです。私が魔法であなた達の認識を阻害する魔法で不意打ちしやすくします。更には相手は人殺しもプロの相手です。今の装備ではたやすく貫かれてしまいます。全身は無理でも致命的になりやすい急所を守る装備を購入すると良いと思います。」


「わかった、装備はすぐに整えるとして何か他に必要なことやものって何かな?」


「一応、Cランク冒険者としてのアドバイスになるけれど、強い相手と戦う時は戦わないことがベスト。ただ、ベストで出来ることなんて実際は出来ないことが多いのです。それであれば戦う相手をよく観察し、自分の手札をしっかりと確認することです。剣士だから剣を振る。魔法使いだから魔法を使う。それだけでは冒険者として大成しません。剣士だとしても、他の武器を使うことは良いですし、魔法使いは風魔法使う時に毒を混ぜる。一つの手にこだわる必要はありません。特に今回は闇ギルドの犯罪者。手を選んでいてはこちらが容赦なく殺されます。そのため、不意打ち、数による有利、罠、作戦などを駆使します。」


クローディアから語られる対人戦との心構え。

僕はまだただ戦えば良いと考えていた。

けれど、この話を聞いて考えを改め、強敵がいることを考え装備を整えていく。

現在の持ち合わせだけでは戦いにならないとクローディアの持ち合わせも確認して、全員が各自の使えるアイテムや装備を揃えていく。


夜の帳が下り始めた街へ。

東地区の倉庫街は、中心街の賑わいとは違い、ひっそりとしていた。立ち並ぶ古い倉庫が、街灯の少ない道を薄暗くしている。ロンたちは、地図を頼りに壊れた時計塔を探す。ひび割れた文字盤が月明かりに照らされた時計塔を見つけ、その近くの、物陰になる場所を選んで身を潜めた。

張り込みだ。ギルド長は「今夜」と言っていた。いつ、誰が来るかは分からない。ロンは観察力、ラインズは聴覚、ソフィアは周囲の気配、クローディアはエルフならではの特殊な感覚を研ぎ澄ませる。

時間はゆっくりと過ぎていく。時折、ネズミが走り回る音や、遠くの通りを馬車が通る音がするだけだ。緊張感が続く。

深夜に差し掛かる頃、動く影があった。二人組だ。黒っぽい質素な服を着て、フードで顔を隠している。周囲を警戒しながら、時計塔の根元で短いやり取りをしている様子だ。物の受け渡しもあったかもしれない。間違いなく、組織の下っ端構成員だろう。


「…来たな。」


ラインズが小さく呟く。

彼らは、下っ端構成員がやり取りを終え、時計塔から離れていくのを待った。人通りの少ない、寂れた路地へ入っていくのを確認し、後を追う。組織のアジトへ向かうのだろう。しかし、アジトへ乗り込むのは無謀だ。狙うは、情報を得ること。

狭い路地に入り込んだ二人の構成員を、ロンたちは背後から急襲した。

「そこかっ!」


ラインズが叫び、一体に飛びかかる。ロンもロングソードを抜き、もう一体に剣を向ける。


「何だてめぇら!」


二人の構成員が焦った声を出す。彼らは武器を抜いて抵抗するが、不意を突かれた上に、「始まりの戦線」の4人相手では分が悪い。

ソフィアが足元を狙って光の弾を放ち、ロンが剣の腹で相手を弾く。クローディアは、魔法は使わず、周囲の警戒と、構成員の動きから何か読み取ろうとしている。

短い戦闘だった。彼らは構成員を殺さず、戦闘不能にして地面に押さえつける。しかし、その隙に、もう一体の構成員が悲鳴を上げて逃げ出した。


「しまっ…逃がした!」ラインズが悔しがる。


「追うのは危険だ! 情報が先!」ロンが叫び、残った一体の構成員に駆け寄る。


「逃さないよ。」


クローディアは投げナイフで逃げ出した下っ端構成員の頭へ直撃させ、瞬殺する。


意識はある。口を布で塞がれ、手足を縛られている。恐怖と怒りの表情を浮かべている。


「お前たちの組織について聞きたいことがある。」

ロンは相手の目をまっすぐ見て言う。


「クレー商会をいつ、どこで襲う計画だ!」


構成員は口ごもり、ロンを睨みつけるだけだ。ラインズが剣を突きつける。


「言え! 言わなきゃどうなるか分かってんだろうな!」


「ラインズ、落ち着け。」ロンが制する。


クローディアが静かに構成員に近づく。そして、彼の目をじっと見つめ、エルフ語のような独特の旋律で何かを囁く。構成員の目が僅かに揺らぐ。ソフィアも、傍らで何かを観察するように見ている。

構成員は、諦めたように大きく息を吐き、呻くように言った。


「…今夜…」


「今夜のいつだ!?」ラインズが詰め寄る。


「…日付が変わる頃…真夜中だ…場所は…クレー商会の…本部…」


真夜中! 日付が変わる頃!

ロン、ラインズ、ソフィア、クローディアの顔色が変わる。今、時刻は深夜…もう時間がほとんどない!


「間違いないか?!」ロンが尋問する。


構成員は、もう何も話したくない、というように目を逸らす。しかし、ロンたちはその目に嘘がないことを感じ取った。クローディアも、微かに頷く。


「急ぐぞ!」


「ギルドには私の魔法で伝えます。」


ラインズが叫ぶ。


得られた情報は、シルバーファング討伐で得た魔石や巨額の報酬よりも、遙かに重く、価値のあるものだった。

ギルドにはクローディアの通信魔法によって連絡してもらっている。

ロンは、ラインズ、ソフィア、クローディアに視線を送る。皆、同じ決意の顔だ。


「今、ギルドには通信魔法で伝えました!」


「行くぞ! クレー商会本部へ!」


夜の闇の中、四人はオーランドの街を疾走した。街灯が切れ切れに照らす道を駆け抜ける。遠くで馬車の走る音や、酔っ払いの歌声が聞こえるが、彼らの耳には入らない。彼らの鼓動と、迫り来る時間の音だけが響いている。

クレー商会本部は、街の中心部に近い、大きくて立派な建物だ。目指す場所が近づくにつれて、街の喧騒が大きくなる…はずだった。

しかし、なぜか、妙に静かだ。

不気味なほどに。

クレー商会本部の建物が見えてきた。

そして、辺りに人影が見える。

襲撃直前に間に合ったようだ!

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