1.ミッドウェー
登場人物
矢賀 丑作
16歳の駆逐艦秋麗乗組員。
坂崎 源太郎
丑作と同い年の幼馴染。丑作と共に海軍に入り、駆逐艦秋麗に所属する。
伊丹 勇蔵
駆逐艦秋麗の艦長。年齢は25歳と若いが、威厳のある声をもつ。
1942年6月7日。
太平洋の波に揺れる一隻の駆逐艦があった。
駆逐艦”秋麗“。この大日本帝国海軍に所属する小さな船はアメリカ海軍との間で勃発したミッドウェー海戦の応援として駆けつけていた。
「おい、燃えているぞ」
甲板で一人の男が叫んだ。
この男は「矢賀 丑作」
肌は皓く、気品のある整った顔立ちをし、首の付け根まで伸びた茶色い髪を結んだこの15歳の青年は神奈川県横須賀市の軍港の近くで生まれ育った。
父は陸軍に所属していたが、丑作がまだ生まれたばかりの頃に火薬庫の爆発事故で命を落としていた。
母の愛情をたっぷり受けて育った丑作は、1日1回は戦艦を観ていたため、海軍への入隊を夢見ていた。
まだ15歳で、入隊条件を満たしていなかったが、海軍に入りたいという感情を抑えきれず、嘘をついてまで入隊した。
入隊前、母は泣きながら引き止めようとしたが、それを振り切って入隊した。
今回が初陣となった彼が目に捉えたものは、炎上する空母赤城であつた。
「丑作、どうした」
丑作に話しかけたもう一人の男は「坂崎 源太郎」
丑作の家の向かいに住んでいた幼馴染であった。
眉は太く濃く、スラリとした長身で、とても澄んだ目をしている。
「自軍の空母が燃えてんだよ。あれはなんだ!?」
「赤城、かな?」
「赤城か、でも赤城だけじゃねぇぞ」
「あれ、全部日本の空母だ」
「おい、やべぇぞ」
その時、秀麗が急旋回をした。
「うおっ」
よろけた丑作は壁に体を打ち付けた。
「丑作、大丈夫⁉」
その時、ブザーが大きな音を出した。それと同時に
伝声管から「総員、戦闘態勢」と、大声が響いた。
「伊丹 勇蔵」この船の艦長の声である。
「始まったか」
そういった丑作の目線の先には敵雷撃機が群を成してこちらに向かっていた。