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ダンジョン.8 ジヴェル視点



――ズズズ......


魔界の最南端。ここには【禁足域】と呼ばれる大陸が広がる。


「......これは」


未だかつて感じた事のないほど、大きな【魔女の魂】の揺らぎ。それを感じ取り駆けつけた場所には、ここいらを縄張りとし生息していた王狼の骸が横たわっていた。


頭が無く、外傷から判断するに、おそらくは【魔女の魂】を喰らおうとし反撃を受けたのだろう。しかし数百年もの間ここの王として君臨していた王狼の頭を一撃で吹き飛ばすとは.......やはり、魔女の力というのは恐ろしいな。


しかしそれよりも。更に恐ろしい事実があった。この王狼が死んだ原因であり、元凶。【魔女の魂】の魔力をこいつから微かに感じる。


小さな体。まだ目も開かぬそれは、赤子だった。


(......産んだ女は、これが【魔女の魂】を持つものだとわかって捨て置いたということか?)


だが、誰が?


ここは禁足地......侵入すれば王狼やそれクラスの魔獣にあっという間に喰い殺される。しかもこの場所は禁足地の入口から数百キロは離れている。人が生きて辿り着ける事の出来ない場所にあるのだ。


それに、おかしな点はまだある。


それはこの赤子が王狼に反撃し殺したという事実。王狼が死に至ったであろう攻撃。それにより破壊された頭部からは濃い魔女の魔力を感じる。


【魔女の魂】は世界に7つあり、そのどれもが違う性質を宿している。つまり何が言いたいかというと、王狼から感じる魔力はこの赤子のものだということで、こいつが王狼を殺したのは間違いないということだ。


さらに言えば、普通はいくら【魔女の魂】持ちの赤子であってもその力を発動させることは出来ない。器である体が未熟故に、自壊せぬよう魔力がプロテクトされている。どういう原理かはわからんが、そうなっている。


(なのに、こいつは魔女の魔力を使い王狼を殺した......)


しかも、【魔女の魂】を使いながらも生きている。


歴代の【魔女の魂】を持つもの達は、その殆どが発動させれば強大な力の前に肉体が滅び命を失うことになった。いかに魔力耐性のある高位の魔族【七魔神】であろうともその例外は無く、【魔女の魂】を使いこなす事はできなかったのだ。


なのに......この赤子は。


体のどこにも怪我は無く、穏やかな寝顔を浮かべ指をしゃぶっている。


(一先ず、屋敷へ連れ帰るか)


まあ手間が省けて良かったといえば良かった。もしこれが手練の魔族であれば抵抗され戦闘になっていたはずだ。殺せば【魔女の魂】は生者を求め霧散する。


【魔女の魂】を手に入れろと命令を受けている私だが、手加減は不得意であり、殺してしまう可能性の方が高い。


だから赤子であるほうが都合がいい。やりようによっては自主的に私の側にいるよう作れるだろうし......そうだな。こいつを育ててみるか。


......冷血の戦姫。そう呼ばれ恐れられた私が、母か。


それは少し面白いな。能面のように動かぬ表情と母に言われ、不気味がられた私でも口元の緩む錯覚を覚えるくらいに。


私は羽織っていた外套を脱ぎ、赤子を包み込むようにくるんだ。


「......育てるのなら、名が必要か」


抱きかかえる赤子の頬を指で撫でる。


「まあ、適当でいいか......どうせいずれは手放さなければならないからな」


ある程度育て、命令を聞くようにしてから献上する。となれば十数年くらいの付き合いになる。数千年を生きる私にとって、その時間は瞬きに等しい。


「そうだな......おまえの名は、シオン。どうだ?」


意味は特にない。強いて言うならば語感が良かったから。その程度の意味合いだ。


つけたばかりの名で赤子を呼ぶ。どうだ?と言ったが、赤子のこいつに理解できるわけも無い。そのはずだが、シオンは――


「......笑った」


その名が気に入ったのか、キャッキャと笑っていた。


「嬉しいのか」


シオンの笑みに私は今までに感じた事のないない気分になる。出会ったばかりの子だというのに、妙に愛着が湧く。


柔らかな頬をぷにぷにとつついた。この触感はクセになるな。しかし不思議なものだ......こいつはおそらく人族。その証拠に耳の形状がまるく、瞳も黒い。


数千年前、この魔界の地から消え去ったとされる人族だが、まさか禁足地でこうして発見されるとは。


いや、それ以上に驚くべき事は他にあるか。人族は魔力耐性が殆ど無い......それなのに魔力瘴気の濃い禁足地にいるという事だ。


こいつをここに捨て置いた親は、余程鍛えられた人族だったのだろう。


(......いや、親など存在しないか。この場所に侵入した時点で王狼に喰い殺されているはず。逃げたなら魔力痕跡があるはずだし、魔力無しで逃げられる魔獣ではない)


......結局のところ考えても無駄だな。


とりあえず、屋敷へ帰ろうか。


――私はシオンの首筋を咥え、歯を立てる。


流れ出す血を舐め取り、口を離す。


(......人族の血だからか。甘いな)


これもまたクセになりそうな美味さだった。しかし、これでこの赤子は人族ではなく魔族へと肉体が変化する。いまから連れて帰る場所は人族の体では、とてもじゃないが生きて暮らせはしないからな。


それにこの方が後々都合が良い。眷属にしておけば操る事も出来るし、管理がするのも楽だ。


(......そういえば、眷属をつくったの初めてだな)


シオンの瞳が紅く染まったのを確認し、私は屋敷へと飛んだ。












――十年後









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