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ダンジョン.37



キノが言う。


「でも、どうするの?四人で戦って勝てるとも思えないけど」

「屋敷にいるアスタさんに任せたら駄目なの?このまま隠れて逃げてを続ければ侵入者はそっちに向かうんじゃない?」


メイが言う。確かにその通り。僕ら四人よりもアスタさんの方が強い。


「でも、多分......アスタさんでも彼には勝てない」


「「!」」「......」


メイとキノが驚く。アイカは小さく頷き、視線を落としこう言った。


「そうね。それくらい強いわね、あいつ。......でも、だからこそあたし達ではどうにも出来ないわ。様子見をしているのか、タイミングを見計らってるのかは知らないけれど......あいつ、全然本気を出してない。あいつがもし手段を選ばず本気を出していれば、あたし達はとうに殺されてるもの」


そう、その通り。あの召喚術で生み出した魔獣であれば僕らを殺すなんて簡単にできるはずだ。なのに攻めあぐねている。


理由は僕らが子供だから油断しているのか、遊んでいるのか.......それは分からない。けれど。


「......なにか策があるの?シオン」


メイがそう言った後、アイカは視線を落とし口を開いた。


「うん。力の差は歴然だ.......でも、だからこそ勝てる」


「「「え?」」」


メイ、キノ、アイカが全く同じ表情でこちらをみた。なんか面白いな。


「......油断しているから、そこをつくってこと?」


メイが小首を傾げた。次にキノがこういった。


「でも、それでなんとかなるようなレベルの相手じゃないと思うけど......」


「待ってメイ、キノ......シオンの話を聞きましょう。何をどうするのよ、シオン」


「うん。僕の考えた作戦は――」



◆◇◆◇◆◇



――ガキどもに動きが無い。だから位置もわからない......持久戦に持ち込む気か?


(もうこっちの【魔女の魂】は放っておいてジヴェルを殺しに行くか?......ガキどもは逃げや潜む事に関しては異様に上手いが、火力は皆無。奇襲されたとしてもたいした問題はない。......と、いうよりもジヴェルを殺りに行けば向こうから姿を現すんじゃないか?)


「チッ、バカか俺は......無駄に時間を潰しちまったな。行くぞ死黒山羊(ヴァールズラティ)


その時。


「.......シオン」


ふと目の前に現れたシオン。


「あー......悪いな。もう時間だ」


と、クロウの一言。その瞬間、魔獣の大鎌が周囲を薙ぎ払う形でシオンを襲った。先程までとは違い、その攻撃速度は神速ともいえるスピードで、辺りの岩山や木々を粉々に吹き飛ばす。


「......一人死亡、と」


(逃げられると考えて姿を現したんだろーが、残念だったな。今のは確実に直撃していた......んで、上だろ?)


クロウは真上から落ちるように射られた矢に気がついていた。


(バレバレだっつーの)


それと同時に、足元に氷の花が咲く。


(こいつは無視。多少の拘束力はあるが、大した問題はない)


魔獣が落ちてきた矢を払おうとした。その時――


「あ!?」


ドオオオンッ!!と、矢が紅い稲妻を放ち爆発した。


(な、どういう事だ!?)


アイカの符術魔法が施された矢。それがクロウへ到達する前に宙で発動し弾けた。


(――暴発!?いや、違う......落ちてきた矢に、別の矢が当たり爆発した!?なぜ!?)


キノは曲線を描きクロウの真上に落ちるようアイカの符術魔法が施された矢を撃った。二度の同じ真上からの攻撃。クロウに同じ技があたることはないと理解していた彼は、その曲射による矢それ自体を囮にする事にした。


その矢を音のない矢で撃ち爆発させる。


あまりに意図の読めない攻撃が、クロウの思考を鈍らせる。


(が、どんな理由があれ、これはあからさまに囮だ!もう一射くる!!今の符術魔法の威力なら俺にダメージを与えられるし、確実に当ててくる!!)


シオンはアイカの符術魔法の破壊力無しにクロウを倒すことは出来ないと理解していた。


だからこそあえてその破壊力をクロウにみせ、注意を引いた。彼がそちらに気を取られ――


(――!!いつの間にか俺の周りに無数の氷の兎が!?)


ポポポッ!!と体当たりするメイの【氷結兎(リトルラットル)

クロウと魔獣に当たり氷だす......が、彼が言った通り拘束力は皆無ですぐに氷が割られ剥がされる。しかし、その氷兎に潜み近づいていたそれに、その意図をクロウが理解した。


「シオン!!生きていたのか......!!」


シオンは空気を【時間操作(クロノトリック)】で固め魔獣の大鎌による攻撃を阻止していた。かなりの魔力消費だったが、あの位置まで予め近づいて置かなければ【氷結兎(リトルラットル)】に潜みながらクロウと魔獣に接近する事は難しかった。


――そう、全てはシオンがクロウと魔獣の側まで行くための布石。


シオンがクロウと魔獣の体に触れ、魔法を発動。


「――【時間操作(クロノトリック)、停止】」


「......!!?」


体が動かなくなるクロウと魔獣。


(な、んだ......これは!!?)



――動かない的であれば、キノは寸分違わず......狙った場所に当てられる。


遥か遠くの針の穴に糸の矢を撃ち通すような、極めて繊細で難易度の高いそれを――


「――皆で、勝つ」


――キノの極限まで高まった集中力が可能にさせた。


......――タァーンッッ!!と、クロウに一番近い場所にあった魔獣の目に深々と射られ刺さる矢。


紅々とした魔力が秘められたそれは、クロウに(これは、ヤベえ!!!)と思わせる程の力があった。


「符術魔法、【爆雷龍(ドラグネス)】」と、アイカが呟いた瞬間、巨大な雷神の力がその場を吹き飛ばした。


ドゴオオオオッッンンン!!!


大地が揺れ、その爆風に近くの木々が吹き飛ぶ。


――ゴッゴゴゴゴ......ヂヂ、ヂヂッ。


深く、大きなクレーターができる程の雷の爆発。あまりの威力にアイカは、「......やばぁ」と呟き、キノとメイは目を見開いていた。


アイカは本気で符術魔法を使ったことがなく、今回のこれが初めてまともに施した魔法だった。自分でも引くほどの威力にひきつる頬。


そして、ほとんどの魔力を使い果たしたせいで、極度の疲労感が全身を襲う。その場に倒れ込むように、膝をついた。

それはアイカだけでなく、キノもメイも同じで一歩踏み出すこともままならない程に力を使い果たしていた。


「シオンは......」


至近距離であの爆発を受けたシオン。【時間操作(クロノトリック)】で周囲の空気を固め防御すると言っていたが。


煙が晴れ、残された魔獣の下半身が現れた。爆発元になった頭は勿論、上半身が全て吹き飛ばされており絶命。残る下半身も紅い電撃が走り黒焦げになっていた。


クロウもまた、遺体が無いことから、シオンの【時間操作(クロノトリック)】、時間停止により魔力ガードもままならず即死したものと思われた。


「シオン......どこ?」

「勝ったよ、シオン!どこにいるの!」


「......」


勝利の喜び。メイ、キノ、アイカはそれどころではなく姿の見えないシオンに不安を覚えた。






そして、そのシオンは。



「......ッ」


爆風により遥か向こうへ吹き飛ばされていた。木々に体が叩きつけられ、巨大な岩に打ち付けられようやく止まる。しかしそれにより、シオンは頭を強く打ち気絶した。


――ズキン、ズキンと激しくなる頭痛。



『何度も言わせんな。どっちか一人だけ生かしてやる。死にたくなきゃお前ら二人、殺し合え』



う......な、ん......これは。



『......でも、さ......逃げるの得意だから、不知火さんは.......逃げられる、よね......』




あ、ああ......はま、べ......?





『私達、これからはチームですからね。片方が欠けたら成り立たないです』




ぼ、僕.......は、





――流れ出す涙。胸の奥にあったそれは、とても大切で温かく、そしてなによりも冷たい......悲しい記憶。


あの日の美しい月と、漂う鉄の匂い。


熱を失う、大切なモノの感触。




「......僕.......いや、」






身が張り裂けそうな......憎しみと、殺意。






「俺は、彼女の......」











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