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ダンジョン.36



――シュアッッ


クロウは頭目掛け飛んできた矢を避けた。


(そんで次に音無しの矢がくる)


パシッと脚に飛んできた矢を掴み取る。


(......音が無いのであれば魔力を押し広げ感知すれば良い)


球体の様に広げた魔力にはその内部にある物体を感知する事が出来る。それにより、高速で飛んでくる矢であろうとクロウは容易に掴み取る事ができた。


(弧を描いたり真上からだったり、撃ち方を変えて居場所を読ませないようにしているが.......甘いな。ここまで放った矢のスピードやそのテンポからお前の位置はバレバレだ)


ギュルっと死黒山羊(ヴァールズラティ)が体を捻り、尾の大鎌を鞭のように振り抜いた。


ドウッッ!!!


前方にあった木々が全て斬り倒され、その威力に突風がおこる。


その吹き飛ばされた木々の中にキノの姿があった。まさか一帯を巻き込む攻撃をされるなどと思わなかった彼はどうする事もできず宙を舞う。


そして落下位置。そこにはクロウと死黒山羊(ヴァールズラティ)が待ち構えている。


(――!!)


見上げるクロウと魔獣。為す術もない。死神がそこに待ち構えていた。


しかし、キノは空中で反転し――


「ああっ!!?」


――弓を構えた。


(――あの侵入者を殺せば、僕らの勝ち)


クロウは虚を突かれた。しかしそれと同時に興奮する。この状況下で攻撃に転じるキノのイカれ具合と空中ですら矢を射ろうとする天才的な弓術。


(けど、残念だよ!お前の矢が俺に当たることはねえ!!死ぬのはガキ!!お前――)


――ドスッ


「――!!?」


肩に矢が刺さった。


(はあああッ!?な、もう射ったのか......!?いや、奴は構えたまま!!)


キノは、死黒山羊(ヴァールズラティ)の尾の攻撃で吹き飛ばされた瞬間、密かに真上に向けて矢を射っていた。空中で身を翻す瞬間、落ちてくる矢を確認。


体を捻り、その矢を避けた。そして真下にいるクロウの肩へ突き刺さる。

明らかな隙が垣間見えたクロウ。キノは勝利への道が見えた。


(よし――終わりだ......!!)


混乱するクロウにトドメの一射――を放とうとした時。


――パン


「――がっ!?」


キノの頭が弾き飛ばされた。


「......お返しだ」


クロウは魔力を拳に溜め、それを振り抜いた。飛ばされた魔力がキノの顔面にヒット。失神するキノ。

死黒山羊(ヴァールズラティ)が大鎌を一振りし構えた。狙うはキノの首。


「ま、楽しめたかな。ガキの割に」


クロウが肩の矢を抜き、折り捨てる。その時、ふとあるものが視界に入る。それは先程自分を襲った小さな氷の兎。


「!」


先程と同じく飛び跳ね突っ込んでくると思い、クロウは身構える。が、氷の兎は一羽しかおらず、こちらに飛び込んでくる素振りを見せない。


その時、何処からか「【氷結華(ブリザードフラワー)】!!」と声が聞こえた。


「!!」


足元のがみるみる白くなり、氷の花が咲き誇る。


「氷魔法!あの女のガキか!!」


――瞬時に辺りを見渡すが、その姿は無い。


(つーか、弓のガキは!?)


上を見ればキノの姿は消えていた。


「......」


(......また隠れんぼか。はーあ......いつまでも付き合ってらんねえよなぁ)



◆◇



「う......ん」

「良かった、気がついた」「キノくん良かった......」「......」


目を覚ますキノの周りにシオン、メイ、アイカがいた。


「!、シオン......と、皆!!」


――メイの【氷結華(ブリザードフラワー)】がクロウの気を引く事に成功したその時、空中の気絶したキノをシオンがキャッチ。

そのまま近場の草原に紛れ込み、アイカの隠れている大岩の陰に身を潜めた。


「キノ、ありがとう」

「ううん。シオン、大丈夫?」


「うん、もう大丈夫。皆が居るから」

「そっか」


笑う僕に微笑み返すキノ。少し大人びて見える彼の表情には、いつもの弱気な少年の面影が消えていた。


「けど皆、逃げて......あいつには勝てない。僕が囮になるから」

「キノ、さっきあんた死にかけてたのよ?あんたも一緒に逃げるの!」


「無理だよ。あれからは逃げられない」

「でも、だけど......このままだとキノくん今度こそ」


「それでも構わない」


「「え」」



弓の弦と矢の本数を確認しながらキノはあっけらかんと言う。メイとアイカが目を見開き驚く。それもそのはず、死の恐怖を越え自分の命を軽視する今の彼は、臆病で優しいキノとかけ離れていた。


「僕の命で三人が助かるなら、それでいい」


シオンはその言葉が胸に刺さる。


なぜなら、それはさっきまでの自分と同じ考えで、以前キノに言った事だったからだ。


だからこそ、シオンは言う。


「でも、キノが死んだら......僕、寂しいよ」


交差するシオンとキノの視線。どこか寂しそうにキノが口を開いた。


「......シオン、僕に前言ったよね。『大切な人を失う痛みは、自分が死ぬよりも辛く苦しい』って......なのに、そんなことを言うんだ?」


そうだ、確かに言った。そしてその思いは今でも変わらない。でも、だからこそ。


「うん。ごめん、僕は......自分の事しか考えて無かったんだ。自分が犠牲になった後の世界にどんな悲しみが生まれるかなんて、想像もしてなかった......」


メイだけじゃない。ジヴェルもアスタさんもアイカも悲しむ。......そして、だからこそ......あの時その言葉を聞いたキノ......キノが一番辛い思いをしたんじゃないか。


まるで命を軽視している僕を見て。


(......そうだ。これは僕がキノにかけた呪い。だから、言わなきゃ)


「確かに......大切な人を失う痛みは、自分が死ぬよりも辛く苦しい。けど、自分が死んで大切な人を悲しませるのは、もっと辛い......辛くて、悲しい事なんだ」


――君を、失いたくない。


「だから、死んじゃだめだよ、キノ。......皆で、戦おう」








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