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ダンジョン.29 ジヴェル視点



――光のエルフ、リョスアルヴ。闇のエルフ、デクアルヴ。


対する二つのエルフは【魔女の魂】を巡り大きな戦争になった。複数の国々を巻き込み勃発したこの世界大戦は多くの命を奪い、未だに火種が燻っている。


今でも敵同士で隣接している国では小さ争いが日常的に行われ、小さな子供が駆り出され命を失っている。この戦いを完全に納めることは難しく、血族会議にて扱われる議題の殆どがこの戦争関係である。


(しかし......)


この地を訪れ、長い時間をかけ調査をしていると、私は隠されたひとつの事実に気がついた。


おそらく、この戦争は裏で引き起こした者がいる。それは組織かもしれないし、また別の存在なのかもしれない。

けれど、確実にわかっていることはそいつの目的は【魔女の魂】では無いということ。


いや、正しくはそこまで重要視はしていない。では何が本当の目的なのか。それは、この領土にしかないエリア。


【禁足域】だ。


おそらくこの世界大戦を引き起こした者は、未開の地であり、多くの資源や謎の眠る禁足域を欲していた。


しかし、血族会議で可決し私がここに据え置かれ、戦争で勝利し禁足域を手に入れることが不可能になった......というのが今現在の世界であり、戦況だ。


そう、戦況。まだこの戦は終わってはいない。


なぜならその首謀者にはおおよその目処がついていて、その性格から欲した物は手に入れるまで諦める事はないと知っているからだ。


しかし、そやつとは殺し合えば共倒れになるだろう。単純な能力値でいえば私がまさるが、殺せば法で私も殺される。盤上にある駒を使い、追い詰めるしかないが......それはあとどのくらいの年月がかかるか。


気の遠くなる戦いだ。


しかし、それは奴も同じ。どちらかが消えるまで戦い続けよう。


『......あとは、頼む』


――それが、約束であり......遺言。奴の愛したこの町くらいは護らねばな。


愛情など、私には理解することは出来ないが......大切なものであることはわかる。だから、私は戦い続けよう。


この千年戦争を。




コンコン。と、ドアに響く音。


「ジヴェル様」


「アスタか。......入れ」


ガチャリとドアノブを回し入室するアスタ。一礼をし、口を開いた。


「この町の上空に飛び回っていた野鳥は、観察するに魔獣の一種でした。魔力を多量に宿し、誰かがコントロールしている可能性がある......つまりジヴェル様の予想が的中している可能性が高いです」


「やはりそうか」


「はい。それに動きが機械的で、町全体を一定の法則で周回しているようです。ただ、魔獣の種類は判明しました」

「種類......新種では無かったのか」


「そうですね。毛色や嘴の形状は少し違いますが、その他の骨格や翼の形状から、北アウラーダ大陸の【瞬舞鳥(アーヴルゼ)】に該当するかと」


「北アウラーダ大陸からここまで馬でも数ヶ月かかる距離だ。可能性は無きにしもあらずだが、そいつの生態的に遠出はまずしない......誰かが使役している可能性が高いな」

「その通りです。魔力量にしても、あの種の魔獣が持ち得る量ではない」


「魔獣を操り、魔力を与え使役する......【魔獣使い】か。であれば他にも仲間がいるな。【魔獣使い】は魔力を魔獣に供給しそちらに意識を割かなければならない。つまり周囲を敵に囲まれたこの地に乗り込んでの単独戦闘に不向きだ。戦闘要員が必ずいる」 


「ですね。過去のデータからも【魔獣使い】自体が戦闘に投入されることは稀です。せいぜいサポートくらいですね」

「だとすれば戦闘要員は......」


奇襲の可能性を考え、アスタと二人で対策を立てている時。ふと過ぎった記憶。


【魔獣使い】と似て非なるもの、【召喚士】


およそ三百年前、血族会議にて決まった殲滅作戦で私達は【召喚士】の一族を根絶やしにした。理由は「彼らのその魔法は世界の均衡を崩す危険性がある」という理由だった。


その頃の私は命令通りに仕事をし、言われるがまま姉妹と共に命を奪い尽くした。悪しき記憶と所業。


世界の均衡を保つためと、あの方は言われるが我々の力も同等にあり、それを言うならば同じく根絶やしにされるべきではと今では思う。


「ジヴェル様?」


ぼうっとしている私を心配し、アスタが呼びかける。


「......すまん、昔の記憶が」

「大丈夫ですか?.....ご心配はいりません。特定の戦闘型魔法使いの侵入を防ぐ結界を町に張りましょう。限定的とすることで確実に侵入を防ぐ事ができます。【魔獣使い】だけならば私が倒せます......なので大丈夫です」


魔法に縛りを加え付ける事により、その力の効果を跳ね上げる。彼女のいった通り、その手順で縛りを備え付けた結界を張れば、その魔法使いはもう侵入することはできなくなるだろう。


「ああ。それで頼む」

「わかりました。では、町全体を隈なく見回り、その後に結界を発動しましょう......シオン様にこの話は?」

「せずとも良い。奇襲はなにも今回だけではなかっただろう.......普通に侵入できずに終るさ。シオンを無駄に恐怖させる必要もない」


「そうですね。確かに」


恐怖、か。そういえば、私が初めて相対した敵に恐怖を覚えたのは......【召喚士】だったな。


やつらは強かった。【魔獣使い】とは違い戦闘力が高く、それこそ我々と戦える程の力があった。


(......だが、我が姉妹達で絶滅させた)


男も女も、子供、老人、赤ん坊......本当に、忌まわしい記憶だな。


しかし、それを忘れられる程には私も強くはない。





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