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ダンジョン.28



僕とキノが急いで戻ると、そこにはやはりアイカが居た。そして焼け焦げた【鬼喰植物(マンイーター)】と、メイも。


「メイ......アイカ」


振り向く二人。メイが泣きそうな顔をしている。それもそのはず、アイカを見ればその理由がわかった。


腕が黒く焼け焦げ、ボロボロになっている。


「どう?一人でやってやったわ」


痛々しい両腕とは対象的に涼し気な表情のアイカ。けれどどう考えても痛くないはずがない。皮膚がズタズタに裂かれ筋繊維が顔を覗かせている。


「......」


キノが絶句していた。アイカは僕ら二人が大怪我を負った腕に注目していることに気が付き、小さく「ふん」と吐き捨てる。


「あたしら符術士は攻撃魔法が使えないからね。直接的に的に電撃を放つとなればこうなるわ。でもまあ、あたしには【雷神】様がついているからすぐ治る。だから......」


言葉の途中でアイカは気がついた。


「......なんであんたが泣いてるのよ。キノ」

「だ、だって、僕が逃げたから......アイカがこんな、ごめん」

「別にあんたのせいじゃない。あたしは元々こういう人間なのよ......気にしないでいいわ」


メイが冷気で両腕を冷やす。すると痛みで顔を歪めるアイカ。やっぱり、かなりの激痛......これが治る?高レベルなヒーラーでも結構な期間かかるだろ。


僕は気になった。


「なんでアイカはそこまで......自分のために戦える?」


僕は、僕の命を捨てれば大切な人を護れると言われれば、簡単に捨てられる。けれどアイカは僕とは違う。


彼女は強くなり一族を見返したいと言っていた。つまりは、自分のためだ。


なんでそこまで自分のために、頑張れるんだ。それほどの痛みを抱えて、虚勢で覆い隠してまで。


「それは決まってるじゃない。いまやれることを全力でやらなければ死ぬとき後悔する......例え死んでも生きるために足掻き続けていたら、そっちのがまだマシだからよ。まあ、死ぬ気もないけれど」


キノが言う。


「そっか、アイカは......頑張らなきゃ殺されちゃうから、だから、必死に強くなったんだね」


「......まあ、それもそうだけど、報われないと思ってね」

「報われない?」


「......これまでに殺された兄弟姉妹、繋がりのある血縁......みんなで28人だったかしらね」

「え?」「殺された......?」


「まあ、殺されたか定かではないけどおそらくは殺されたであろう人間含みだけどね。みんな【雷神】を宿していたわ」


凄い話だな。ヴェルゼネ一族の闇の部分。ジヴェルも言っていたけど、それほどまでに死者を出しているのか。

いや、おそらく死者はもっと多い......今アイカが言っていたのは全て【雷神】を宿していた者。


その暗殺計画や謀略に巻き込まれ亡くなった人も多くいるに違いない。


アイカは哀しそうに、花が露を落とすよう目を伏せた。


「あたしはその皆の犠牲の上にいるの。それに、あたしが死ぬとまた【雷神】を宿した人間が殺されてしまう可能性もある......だから簡単には死ねないのよ、わたしは」


彼女の覚悟。それは僕とは違う想いから来るものかと思っていた。けれど、違った。


(......この先、未来にある命を護ろうとしているのか)


僕はアイカの両腕に触れた。


「【時間操作(クロノトリック)】......停止」


アイカが驚く。


「!?、痛みが消えた......!?」

「消えたわけじゃないよ。怪我してる腕の時間を止めただけ。......僕の魔法は時間を操るんだ」


「「「えええっ!!?」」」


三人が一斉に驚きの声を発した。すぐにメイが震える声で質問をしてきた。


「そ、それ、ホントに?だとしたら、国宝級の魔法使いだよ......?」

「国宝級!?ってか、メイは知ってるものだと思ってたけど。ほら、ボニタを元に戻したのもこの魔法だし」

「!」


「え、なんの話よ?ボニタってメイのとこの馬よね?」

「そう。実は、ね......」


メイがあの日起きた事件をキノとアイカに説明した。


「シオン一人で強盗まがいの魔法使いを二人も倒した......ね。なんかあんまり驚きもないわね。あんたならやりそうって感じ」

「た、確かに......シオンくん、動きからして普通じゃないもん」


「でも、そっか。あのときシオンはキヤキとマレドッチの動きをその時間停止で拘束したりしていたんだね」

「うん。まあ、これ魔力消費激しいからあんまり使いたくはないんだけどね......だから、早く屋敷に戻ろう。アイカの怪我はアスタさんにヒールしてもらわないと、取り返しがつかなくなるかもしれない」




◇◆◇◆◇◆




「......そろそろ、か」


「どうしたんですかジヴェル様?」


書斎にて古書を読み耽る、私、ジヴェルだったが、妙な胸騒ぎがして集中できずにいた。近日に迫りつつある血族会議。そこで何かが起こる予感がしてならない。


「......血族会議の日、屋敷は任せたぞ」

「それは勿論です。何か不安でも?」

「......胸騒ぎがする」


「胸騒ぎですか」

「最近、ここいらを飛び回っている新種の鳥。あれはこちらを監視、もしくは情報収集をしているのではないかと私は思っている」

「気になるなら一羽狩って来ましょうか?それを調べれば魔力痕を辿り使役している魔獣の使い手にたどり着けましょう」


「......いや、それはそれで危険だな。あれを狩らせる事、それ自体が狙いやもしれん。姉上様は狡猾だ......どんな手を使ってくるかわからぬ」

「なるほど。様子を見るしか無い、という事ですね」


「しかし......血族会議では私の肉体は唯一無防備になる。協定で互いに争うことを禁止され、それを破ったものは死罪になる......だから直接部下を送り込んでくる真似はしないだろうが。万一攻め入られたら、如何に私といえどひとたまりもないからな」


血族会議は、精神を別次元にある古城へ飛ばし、誰にも侵入されることのない聖域で行う世界管理者達の会議である。

世界管理者とはあらゆる角度から観測した情報を元に、世界の行く末を方向づける組織であり、世界最高峰の戦闘力を持つものが集う。


そこでは皆が精神体のため、争いが起これど戦闘になることもなく議論のみが行われる。ただし、現実世界の肉体は空となるため、それを守護する従者を置く必要がある。


その役目がこのアスタである。


「そうですよ。そのための私です。こちらのことは心配せず、会議に集中してくださいませ、ジヴェル様」


「......頼りにしているぞ」




この不安が杞憂に終わればいいが。






――会議は一度始まれば終わるまで抜出すことは出来ない。





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