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ダンジョン.27


アイカ、キノペアは結果からいうと【鬼喰植物(マンイーター)】を狩ることは出来なかった。キノが何処かへ逃走してアイカが一人で突っ込んでいこうとしたところで、僕とメイが止める事態になった。


とりあえず【鬼喰植物(マンイーター)】を放置しといて皆でキノを捜索することに。この裏山地帯に広がる森は暗くなれば禁足域から魔獣が侵入したりすることがある。


だから本格的にキノが行方不明になる前に見つけなければならない。


「シオン」

「ん、なにアイカ?」

「手分けして捜索したほうがいいんじゃない?」


「手分けか......確かにその方が効率的ではあるけど」


メイが頷きアイカに同調する。


「私はアイカちゃんの言う通りバラけて捜索した方がいいと思う。私達三人は魔力感知精度も高い......道に迷っても誰かの魔力を辿れるし、遭難のリスクは低いと思うの」

「それもそうか。なるほど」


「話は決まりね?それじゃ、あたしは向こう捜すわ」


アイカが今来た道を差す。メイが前方、僕は右手へ。


「じゃ、見つけたら此処で落ち合おう」


側にあった樹木に僕は魔力で跡をつけた。


「この魔力痕が目印。三十分後くらいに、ここに一度戻ってこようか」


「あんたそんな事も出来るのね......」

「?、なんで?」


ひくひくと口元が引き攣っているアイカ。僕の「なんで?」にメイが答える。


「それは符術士の基礎なんだよ。けど、魔力を留めておくのはかなりの高等技術で難易度が高い。だから符術士を志す者はそこでふるいにかけられ、会得できるのは全体の3%くらいなの」

「そうだったんだ......知らなかった」


「ええっ、まじ?」

「ジヴェルにこれ習ったの5歳とかだった気がするし」

「......あ、有り得ないんだけど。覚えの早いあたしでも8歳で会得したのに」


「って、その話は後!キノくんを捜さないと!でしょ?」

「そーだ!」

「!」


一斉にばらける三人。魔力を周囲へ押し広げ辺を探りながら進んでいく。こうすることで魔力に触れた物体の全てを感じ取る事ができ、足跡一つ見逃すことが無くなる。


(けど、その形跡すらないな。上から探ろうにもここは森......木々の葉が邪魔で見えないだろうし)



――バチィ



遠くから聞こえた強烈な雷撃音。


(今のって......まさか)


「......ひっく」

「!」


前方の木陰。草むらに埋もれるように座りすすり泣くキノを発見した。


「......すげえ逃げ足だ。あの短時間でここまで来たんだね」

「シ、シオン」


僕はポン、とキノの頭に触れ隣に座る。


(多分アイカの方はメイが行ってるだろ。僕はこっちに集中だな)


「そんなに怖い?戦うの......って、そりゃ怖いか」

「う、うん」

「でもキノは強くなりたいんでしょ?」

「......うん」


ぐいっと流れる涙を袖で拭くキノ。目が真っ赤に充血してる。


「なら、頑張んないと」


「でも、出来ないよ......ずっと、そう言われてたし」

「ずっと?誰に?」

「家族とか、一族の皆に」


キノの手が震えている。


「練習なら大丈夫なんだ......けど、試験とか訓練とかになると途端に震えがきて......ダメなんだ、どうしても。怖い......失敗するのが。皆に失望されるのが、期待に応えられないのが......怖い」


キノの魔力の動き。視線の泳ぎ方と、仕草。おそらくはかなり根深い、トラウマのような体験をしたんだろう。だったら、無理に強行するのは良いことじゃない。


悪化すれば今回のように挑戦しようとする意思すら生まれなくなってしまう可能性がある。


「そっか。うん、わかった......焦る必要は無いよ。ゆっくりやろう」

「シオン.......」


不思議そうな顔をするキノ。......僕、なんかおかしいこと言ったかな?そう不安がっているとキノが僕に質問をしてきた。


「どうしてシオンは、そんなに強いの......?」


僕は答える。


「前にも言ったでしょ?強くないと、大切な人を護れないからって......」

「それは、自分の命よりも大切なの?それでもし自分が死んでも......後悔しない?」


ぎゅっと、服の裾を握るキノ。


「しない」


すんなりと出た言葉。おそらくは心の底から出たそれに僕も驚く。


「......大切な人を失う痛みは、自分が死ぬよりも辛く苦しい」


またしても勝手に出た言葉に驚く。まるで僕が以前、大切な人を失った事があるかのような、そんな物言いに。


「そうなんだ......失う痛み、か」


しょんぼりするキノ。僕はふと日に陰りが出ていることに気がついた。空に雲が流れ出てきている。雨が振りそうだな、これは。


「キノ、戻ろう。空が暗くなったら遭難しかねない」

「......うん、わかった」


そうして僕のつけた魔力痕まで戻ってきた僕とキノだったが、そこには誰も居なかった。もう三十分はとうに過ぎてるぞ......戻るのが遅かったから、もう屋敷に帰っているのか?


いや、それなら書き置きの一つがあっても良いはず。メイがいつも手帳を持ち歩いてるし。......そういえば、さっきの雷撃って。


「キノ、鬼喰植物(マンイーター)のいた場所まで戻ろう」

「......え?」

「多分、アイカは一人で戦ってるはずだ」


「......」


目を見開き固まるキノ。自分が欠ければ訓練はできないと踏んでいたのか、おそらくアイカを一人で戦わせてしまっているということにキノが激しく動揺している。


「いくよ」

「う、うん......うん」



キノの精神的な弱さは、戦闘において死に直結するレベルだ。はっきりいって戦いに向いていない。



(アイカはアイカで難しい問題を抱えているけど、キノはそれ以上だ。このままだといざ戦いに出ても無駄に命を散らすだけ.......どうする)






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