ダンジョン.26
雑草取り、つまりは【喰鬼植物】狩りに来た僕ら三人。キノの絶叫にメイが一瞬ビクッとなり僕の袖を掴んだ。
「えっと、アスタ様からの伝言があって......私とシオン、アイカちゃんとキノくんのペアで狩りをするようにって。片方のペアは待機して緊急事態に備えておくこと」
「ぺ、ペアッ!?よ、四人でやろうよ!?」
「あんた絶対どさくさに紛れて戦わないでしょ」
「そんなことないよっ!?ちゃんと応援くらいはするよ!」
「そもそも戦うが気ない!?」
いや戦おうよ!?と、心の中でツッコミをいれる。そんなこんなで、どちらのペアが先に戦うかを決めることに。言うまでもないけど、これも訓練で僕らの初めての実戦訓練となる。
僕は魔獣とも人とも交戦経験はある。メイも野草や花を採取しに魔獣と出くわし対峙したことがあるし、比較的落ち着いている。
アイカとキノは実戦経験が無い。なので、この雑草取りは丁度いい感じの訓練になる。
(でも経験ある人と未経験者を組ませたほうが良くない?......あ、いやそれだとパワーバランス悪いのか)
「キノもアイカも魔獣と戦ったことないでしょ?僕とメイで先にやってみせるから、見ていて。良いよね、メイ?」
「うん!」
魔獣【鬼喰植物】
危険度.D+
この裏山は【禁足域】という未開の地に隣接している。そこはここよりも遥かに濃い魔力が滞留しており、魔族であろうと決して住める場所ではないらしい。
そんな魔力溜まりからこちらに魔力が流れ込み、動植物に影響し【鬼喰植物】のような個体がここでは良く生まれる。
(普段は定期的にジヴェルかアスタさんが狩りに来ているが、最近は僕がやっていたりする。しかしついに訓練用に利用され始めるとは......)
ちなみにいえば、伝説によればそこからまた向こうには別の世界が存在するのだとか。けど、それは知るすべもない。なぜなら禁足域はその名の通り、ここの管理者であるジヴェルか一部の権限を有するものしか立ち入ることができないのだ。
――ビュオッ
僕が魔獣へ接近すると無数の蔦が鞭のように飛んできた。それを躱しながらどんどんと本体との距離を縮める。
「シオン、は、はやっ」とキノの驚く声が微かに聞こえた。
辿り着いた【鬼喰植物】の正面。長く鋭い牙と大きな口は捕獲した獲物を丸呑みするための物で戦闘に使用することはない。
――辺に氷の粒がきらめいている。
これはメイが魔獣周囲に冷気を展開し、散布していた毒素を凍りつかせ落としたモノで、これにより僕が宙に舞う毒で命を失う危険が無くなっていた。
魔力同士は結びつきやすいエネルギーだ。だからそれを利用すれば魔力操作に長けている者ならばこうして魔力を孕む毒を凍りつかせる事が出来る。
そして――
「シオン!」
【鬼喰植物】の体表に無数の氷の花が咲いた。
「ありがとう!メイ!」
魔獣であろうと元は植物。冷気に弱く、それほど拘束力のないメイの魔法でも魔獣の動きを鈍らせる事が出来る。
そして、僕は素早く【鬼喰植物】の頭上へ駆け上がり跳んだ。
(狙うはここ!頭に咲いているこの大きな花!!)
――ズドンッッ!!
魔力を集中した拳をその大輪の花へ沈める。花の奥、存在する魔力核を潰された【鬼喰植物】はその傷から大量の魔力を噴出し、みるみる萎んでいく。
僕らの身長の二倍以上あったその体も、最後には僕の半身以下のサイズまで縮み、そのまま魔獣【鬼喰植物】は絶命した。
「メイ、サポートありがとう」
「ううん」
「とまあ、こんな感じ。わかった?」
と、僕がアイカとキノへ聞くと。
「ええわかったわ!!」「いや無理でしょ!!」
正反対の返答が同時に届いた。
「はあ?あんた今ので理解できなかったの?」
「いや理解はしたさ!僕らには無理だと言うことをちゃんと理解したよ!」
「!?、いやどこが無理なのよ?てか、しれっとあたしを加えるな」
「だって見たでしょシオンのあのスピード!あれくらい速くないと蔦で弾き殺されちゃうんだよ!?」
「失礼な奴ね!あたしもあんくらい速く動けるわよ!」
「動けても毒で死ぬよ!近づいたら毒があるんだよ!?毒はどーするのさ!!」
「それは何とかするわよ。あたし発電できるし、メイと同じ要領でやれば何とか」
「え、アイカが近接戦するの!?」
「いやそりゃそうでしょ。あんた弓持って近づいてくの?」
「......や、やめた方がいいよ」
「なんでよ!?攻撃はさけられるっていってるでしょ!!」
「ぼ、僕の矢がアイカに当たる可能性がある」
「あんたの攻撃の方!?」
「いや、ほら、僕は動いてる敵にはノーコンだから。流れ弾があたるかも.....」
「あの魔獣は動かないでしょーが!根張ってるし!」
「で、でも」
「あああもおおお!めんどくさいなあーっ!!良いから行くわよ!!」
「はわわわ」
首根っこを捕まれ引きずられるキノ。でもアイカの言ったとおり、【鬼喰植物】は地中や周囲の木々に半ば寄生していて、本体は動くことが出来ない。だからキノの弓もしっかり当たるはずだ。
(......なのになんであんなに嫌がっているんだろう。遠距離だから危険も少ないし、活躍できるチャンスなのに)
そんな疑問を抱えながら次の駆除対象を探していると、魔獣の強烈な臭いがしてきた。
「あそこ、いるわね」
アイカの指差す先にはもやもやとした毒の煙が立ち昇っていた。
「終わりだ......終わった。もう魔獣が居ない事にかけていたのに......ああ」
「あーあー、残念ね。なにをかけていたかしらないけど」
「命」
「重ッ!?」
「もう、殺されるんだ......あいつに喰われて溶かされるんだ......ひいぃい」
「いや不吉すぎるわ!!」
キノのビビりように不安を覚える三人。......どうなるんだろうこれ。