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ダンジョン.21


手合わせ?それってつまり、僕と戦いたいってこと?


「ア、アイカ!なにを失礼な事を!!」

「すみません、家の娘がっ!!」


爆速で僕の元へ来てアイカの頭を下げさせるヴェルゼネの夫婦。しかし、驚くことにアイカはその状態で、頭を下げさせられながも僕に訴えかけてくる。


「い、如何でしょうシオン様?あ、あたし、肉弾戦には自信がありましてよ!」

「馬鹿者がっ!何が肉弾戦だ!!お前は女なのだぞ!!」

「アイカ!もうお黙りなさいっ!何度も言わせないで!!」


頭をぐいぐいと押し込められるアイカ。しかし僅かに見えている眼差しはギラギラとしていて、その想いの強さが窺えた。


すると後ろで隠れるようにしていたキノが僕にだけ聞こえるくらいの小さな声でこう言った。


「あの、シオン様......アイカちゃんと戦うのは止めたほうが」

「なんで?」

「手加減を知らないんだ。前にも同じように手合わせした人が失神させられて......しかも大人の人だったんだけど。だから危ないです」

「へえ」


視線をアイカに戻すと、彼女はご両親に両手を後ろに組まされ拘束されていた。しかし、依然変わらずに彼女の攻撃的な魔力が僕を挑発し続けている。


女の子と戦うのはちょっと......けど、キノの話しが本当なら。同じ子供である彼女がどれだけ戦えるのか見てみたいな。


(あの魔力を見る限り、練度は中々のモノだし......少しくらいなら大丈夫かな)


「ジヴェル、やっても良い?」

「ああ。ただ、お前は病み上がりだからな、無茶はするなよ」

「うん、ありがとう。それじゃあ、アイカさん庭でやろっか」


ジヴェルに了承してもらい再びアイカへ目を向けると、彼女とご両親が目を丸くしてこちらを見ていた。いや、ご両親はわかるけどアイカ、お前はおかしいだろ。今の今までやらせろって言ってたのに何驚いてるんだ。


「い、いいの?ホントに?」

「なんで嘘いうのさ。ジヴェルも良いって言ってるし。聞いてたでしょ」


庭への窓を開け、外へでようとする僕に彼女のご両親が駆け寄ってくる。


「シオン様、おやめになられた方が。アイカは粗暴である故、手加減を知りませぬ。万が一にもお怪我をされては私達も顔向けできませぬ」


「ジヴェルの許可を得ましたのでご心配無く。僕が怪我をしたとしても、それは自己責任ですから」


二人は「そうですか」と肩を落としながら向こうへ戻って言った。去り際に「ああ、また各所方面へ謝罪せねば.....あのバカ娘め。せめて医療館送りはやめてくれ......」とボヤいていたのが聞こえた。


「シオンくん、ほ、ほんとにやるの?大変な事になるよ......」

「やるやる。大丈夫大丈夫」


キノが本気で心配してるようで、僕は彼のことを優しいやつなんだなと思った。


(......さて、と)


表へ出るとき、アイカがこう言った。


「ふふん。もう逃げられないわよシオン。あたしの力、嫌というほど魅せつけてあげるわ」

「!」


口調が変わった。いや、多分これが素なんだろう。


「猫被ってる君より、そっちのが良いな」

「!、......ふん。その軽口すぐに聞けなくしてあげるんだから!」


リビングに隣接している中庭は、結構な広さで大きな池と大木に吊るされているブランコがある。


僕とアイカは中央あたりまで行き、向き合った。


「これ、勝負どうやってつけるの?」

「ふん、そんなの決まってるじゃない」


アイカの体から紅い魔力が滲みでる。


「どちらかが負けるまでよ!」

「!」


ゴッ!と地面が捲れる程の脚力。あっという間に僕の目の前まで詰めてきた。っていうか、負けるまでって説明になってないよね!?


振りかぶる右拳。しかし、魔力の流れでこれはフェイントだとわかった。魔力量が少なすぎる。本命は――


「っと!」

「!」


――左からの回し蹴り。それを僕はかわし、彼女の振り抜かれた脚を掴む。


「気安く、触らないでッ!」

「とと!」


すると彼女は両手を地面につき、もう片方の脚で蹴りを放ってきた。僕は思わず掴んでいた脚を放す。

アイカは解放された流れで身を屈め、再び飛びかかる。


左拳を振りかぶり、またもや魔力量が少ない。


(これはフェイク)


本命はあの右足。魔力が集中している。なら、体を密着させて蹴りの出を潰す。と、僕が彼女に身を寄せようとしたとき――


ドンッと、彼女に体当たりをされた。


(!?、読まれた!?)


ニヤリと笑うアイカ。体制を崩す僕、そして彼女が蹴りを放てる間合いが生み出された。


(蹴りがくる――)


これはもう回避は無理。ならば、こちらも魔力を纏いガードする......いや、まてよ。魔力の偏りでフェイントをかけるような奴だぞ。


このまま素直に蹴りがくるはずない。


――ゴッ!!


僕のその予想は当たった。彼女は魔力を溜めた脚を蹴りには使わず、地面を蹴りつけ進む推進力にしたのだ。


そして、本命は予めこちらへと向け伸ばしていた右手。


手刀に形作る彼女の手が、僕を射抜く為の神速の突きとなる。しかも狙いは喉。


(――でも残念)


僕はそのスピードを見切る。なぜなら、いつも行っている戦闘訓練ではそれを遥かに凌ぐスピードを目にしているからだ。


(ジヴェルより遥かに遅い)


僅かに頭を動かし、紙一重で首への攻撃を避ける。


「なっ、避けッ!!?」


攻撃を避けた為、勢いとまらず僕へ抱きつく形になったアイカ。僕はそのまま膝を付き、抱き寄せた彼女の喉元へ手刀を突きつけた。


「どう?」

「......!」


かあーっと顔が赤くなるアイカ。


「離せっ!!」


僕の手を払い除け、彼女は再び間合いをとった。


(......高い魔力操作技術と、それに応じた格闘センス。この子――)




アイカは思う。想定では今の一連の攻防で、シオンを確実に倒せていた。けれど、全てを見事に見切られ返されたという現実。

予想より遥かに高いシオンのバトルセンスに悔しさや焦り、怒りなどが心中に渦巻いていたが、それらの負の感情を凌駕する強い想いがひとつだけあった。


(――底知れない見切りのセンスと、弛まぬ努力でしか培われない魔力操作技術......シオンは――)




((――かなり強い))




互いに抱いた思いに、二人はいつしか笑みを浮かべていた。





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