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ランプモドキ

 ランプモドキは、夜になると発光する珍しい樹木である。 原産地こそ北欧だが、我が国にも園芸品種が輸入されており、関東以北を中心に自然街灯として親しまれている。


 最近、近所のエルフの長話をきっかけに、それらの園芸品種の中にランプモドキとは全く異なる種が含まれていることを知った。


挿絵(By みてみん)




1. ランプモドキ


 ランプモドキ科に分類される樹高1 m程度の低木針葉樹である。マツ科のように枝を同じ高さから四方八方に伸ばす輪生で、葉は枝の左右に羽状に対生し葉先は丸い。


 しかしなんといってもやはり、夜になると枝がぼんやり光るのが特徴的だ。


 生物分野において、発光メカニズムを持つ種は自然界にいくつか見られ、陸生生物であればホタル、菌類ではヤコウタケやツキヨタケなどが知られる。



 そして植物界では、遺伝子組み換え等で人工的に作られた種を除けば、ランプモドキのみが発光機構を有する。



 この光る機構について、手持ちの図鑑には原理の記載まではないものの、例えばインターネット上の百科辞典であるωikipebiaにはランプテロフルリドンという物質による蛍光との記載がある。


 これはある種の菌類が産出する化合物であるため、ランプモドキは、自身に生えたキノコの遺伝子配列を取り込む形で進化したのではないかと考えられていたようだ。ただ、発光キノコの多くは東南アジアに分布していることから、北欧原産のランプモドキとの遺伝子的関連はなさそうに思える。


 そこで原産地の北欧言語版ωikipebiaを参照すると、古代のウイルスによるものとする研究例が紹介されていた[1]。まあ起源をめぐる学説の主流はどうあれ、要するに蛍光を呈する化合物により発色するのであろう。


[1] T. Sukkinen et al., Fake Acta Bot. Chem. 2016;42:41-47.






2. 利用


○園芸

 夜間に発光する特徴を活かしたナチュラル・イルミネーションとして、ランプモドキの名前は広く知られているように思う。ざっと調べるだけでも、例えば園芸品種として以下の名称が見つかった。



メリーランプ

ランプツリー

ランプツリー・エンドレスナイト

アイスランドランプ

ガーデンランプ

ランプの木

ナイトガーデン

ランププラント



 筆者はこれら数多の品種について、原種のランプモドキと交配するなどして改良されたものと安直に思い込んでいた。


 ところが先日、近所のエルフから、まったくの別種がランプモドキのように売られていて悲しくなったとのぼやきが聞かれた。


 エルフに特有な酷く長ったらしい話の内容を元に、インターネット上の商品写真を眺めてみた。手持ちの『本邦植物図説総覧』にランプモドキは掲載されておらず真贋は分からないものの、確かに科の異なるであろう植物がランプの名を冠して販売されている例が目につく。


 以上の経緯から、遺伝子組み換えによる発光植物が、さもランプモドキ科の如く売られているのではないかと思い至った。この仮説の検証については後で述べる。




*****


 余談だが、エルフ宅の庭には必ずと言っていいほどテーブルとチェアが設置してあり、これは家主が長話を聞かせるための用具である。ご近所付き合い次第では庭先を通りがかった際に捕まることがあるため、特に休日は注意した方がよい。


*****




○工芸

 低木であり、建材として利用されることはあまりないようだ。一方で、北欧ではランプモドキから作られた工芸品が古くから交易されていたとの情報を入手。


 本邦にも樺太からアイヌを通じて渡っていたとの記載をみつけ、道民の知人に博物館に展示された置物などないか聞いてみたところ、全く興味がなくわからないとの回答が得られた。



○食用

 松の実など種子が食べられる針葉樹はあるが、ランプモドキの食用事例は見つけられなかった。ただし調査の過程で、北欧ではトウヒやモミの新芽を食すこと知った。いわゆるクリスマスツリーが食べられる。これは筆者とって意外な発見であった。






3. 品種検証

 例えば夜光(蓄光)塗料は、光を当てるとしばらくの間ぼんやりと光り続ける。この原理は燐光(りんこう)と呼ばれる。光を当てると、塗料中の分子が三重項(トリプレット)状態に励起され、その後一重項(シングレット)基底状態に落ちる。この落ちる遷移過程はスピン反転を伴うため遅く、光のエネルギーをじわじわと放出するという。……思考に暗いもや(・・)がかかるので深入りはやめよう。。



 さて、自然街灯に利用される発光植物は光が強いものが選別されているだろうから、光を当てたときの発光度合いの違いで原種と区別できるかもしれない。



 今回は通常の電灯ではなく、波長の短い(振動数の大きい)紫外線を使うことにした。紫外線は肌にダメージを与えることから分かるように、波長の長い(振動数の小さい)可視光線よりもエネルギーが大きい。植物もより多くのエネルギーを蓄えられるだろう。




 激安ショップで購入したブラックライト(メーカー不明 波長 315-400 nm (UV-A))を片手に、近隣の園芸店に調査に赴き、3種を確認した。




○メリーランプ

 ギザギザの鋸葉に赤い小さな実が多数ついており、見た目は完全にクリスマスホーリー、つまりはセイヨウヒイラギである。この時点でランプモドキ科ではない。 生育が簡単なので、自然なイルミネーションとして人気が高いようだ。紫外線照射による顕著な燐光は確認できなかった。



○ランプツリー・エンドレスナイト

 ランプモドキの改良品種のような名前をしている針葉樹を発見した。ところが良くみると、鱗状の葉の裏側には白いY字型の気孔帯が確認でき、恐らくヒノキである。これについても燐光は確認できなかった。



○ランプの木

 他と比較してやや値段の高い針葉樹で、この時点で何かを感じさせる。葉をよく見るとしかし、根本が吸盤のように少し膨れて枝に付いている。よって、モミの仲間だと思われる。これも駄目か! 念のため紫外線照射を行ったところ、変化は見られなかった。




 実は他にも候補があったものの、園芸店スタッフの雰囲気に厳しいものを感じたため、平謝りしつつ上記三点を購入して撤退してきた。振り替えってみれば当たり前の話で、売り物の植物に怪しげな光を照射するのは良くない。反省である。







*****







 家に帰ると、購入してきた3種がどれもぼんやりと光り始めたので驚いた。


挿絵(By みてみん)


 よくよく調べると、生物発光は夜光塗料とは原理が違った。具体的には概日リズムに起因する生体反応で、ルシフェリンと呼ばれる化合物が酸化還元する際に発光するという。紫外線照射で概日リズムは狂わないから意味がない。



 そして午後5時の夕暮れ時に目に見えて光っている時点で、全ては品種改良により光量を上げた製品であることが示唆される。




*****




 改めて、ランプモドキの生物発光、改良された園芸品種の発光について、それぞれの原理の学習を試みた。


○ランプモドキ

 概日リズムをトリガーとした生体反応で生成されるルシフェリンの酸化還元により光る。酸化還元に関しては化学の教科書にゆずり、ここでは概日リズムについて学習したことを記そう……と思っていたのだが、うまく整理できなかった。


 概日リズムを生む遺伝子は数十あるとされ、まだまだ新発見もされているという。しかも遺伝子が最終的に生じる概日リズムは根と茎などの各組織毎に異なり、それどころか細胞ごとに異なるという研究報告を見つけてしまった。どうにも頭が働かないので、今回は学習を諦める。




○品種改良品

 遺伝子組み換えにより発光器官を発現させていると思っていたのだが、少し意外な経緯があった。すなわち、花葉にマイクロキャパシタを埋め込む研究が発端となっている。なおキャパシタとは電気を充放電する装置で、電池みたいなものだが、化学反応ではなく静電気によるのでバチっとした瞬発力がある。


 そして植物そのものではなく、マイクロキャパシタ側の改良により、長時間の発光を実現した品種が2020年代に上市されたらしい。その後10年程の間に、キャパシタの機能物質を細胞内で植物自身に合成させる手法が確立され、自然街灯が広まるに至ったという。


 なお筆者が購入した園芸品についてメーカーに照会したところ、全て工場で生産された植物であることが確かめられた。自然派エルフの嘆きはともかく、個人的には新たな知識が得られて満足だ。






4. 終わりに


 せっかくなので自然街灯としての性能レビューを目的に、購入してきた3品種を用いた素人実験を考えた。


 単位面積、単位時間あたりの評価のため、5 cm四方を残してアルミホイル(大満足規格: 100 m) で覆う作業を庭先で行っていたところ、近隣のエルフに見つかってしまい共同実験の運びとなる。


 購入した品種を持ち寄ったエルフ宅の庭先、そこでの長話の過程で、深夜2時までに発光を止めることが経験的に確かめられた(最も長持ちしたのはメリーランプだった)。


 ところが極めて冗長な、不必要に長い、結論なき談話は止む気配がなく、幻想保護条例の悪用により途中退席まで封じられる始末。結局朝帰りすらできず終盤の記憶もあやふやだが、やたら高そうな酒をご馳走して貰ったことでよしとする。




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