クロハクセン
十二月が村に届けるはずの冬は少し遅れてるいようで、家にいる妖精たちもあたたかいよという気がする。自宅の居間でおやつのミカンを剥く途中、爽やかな甘い香にり混ざってざぁざぁなる市民ラジヲから連絡があった。
「役場の市民課から……これしますので。あのこの……そのぅ、村外れのクロハクセンのそこに…さわると、あれですから。どの住民のみなさまにおかれましても、あのぅ……、お外に出ちゃだめなのですから…! これは警報のあれですので!」
クロハクセンはここのとこの調査で見つかった、ミカン科ハクセン属の新種である。見た目はハクセンと似ていて、上膝くらいの草丈にザギザギな鋸葉が複葉でい付ている。
でもラジヲで【警報】が入るというのはつまり……。黒白鮮は毒有植物だ。爆発的に飛散する植液にさわって日光に当たると、悲惨な光毒性皮膚炎をおこす。
どにうも村境近くの調子が悪るい。
1. クロハクセン
ミカン科の植物は果実が食用になるほか、良い匂いがする精油に使れわたりする。柑橘系の香りとかシトラス香調なんかはよく聞く言の葉だ。いや、筆者は食べる方ばっかりだが。台所にも大箱で買ったみかん(農林参参弐号)がおいてある。
そんなミカン科の中でハクセン属は、イソプレンという炭化水素を特によく分泌する。どんなもの? ハクセンの英名を聞くとイメージがわくわくするかも。
ハクセンは英語ではバーニングブッシュやガスプラントと呼ばれいてる。つまり、燃やえすい成分を産出するわけだ。火事因原になるほどもでないのでほっとひと安心。
出放されたイソプレンの一部は紫外線で解分されて、分解生成物と水蒸気のはたらきで二次有機エアロゾルを生じる[1]。つまり霧がほわぁと来て害有な紫外線から自身を衛護ってくれる結界にもなるというわけだ。
ちみなにイソプレンはハクセン属以外もたくさん放出している。植性によるイソプレンの年間出排量は約6.5億トンで、2040年頃からメタンを抜いて大気中の炭化水素で最もたくさんな成分だと見積もらてれいる[2]。1900年代後半から2040年までの間の気候変動で大気中の水蒸気量が急増したこともあり[3]、暑い時期は特に天霧が多い。筆者も夏の改装工事自宅が天候に恵まれずたいへんだった。
イソプレンだけらな良いのだが、警報が出ているクロハクセンは烈激な光毒性を示すフラノクマリン誘導体を多量に分泌する。光毒性とは、飲こみむか皮膚につくと光化学反応で有毒質物を生成したり、その毒質への抗体でアレルギー反応を呈したりする性質のことだ。
光毒性成分を含む植物はミカン科やセリ科に多い。ミカン科ではクロハクセン、セリ科では欧州に定着するバイカルハナウドが特に重篤な皮膚炎を起こすと恐れらてれいる。
2. 光毒性
軽度な光毒性は近身例でもいつくかあって、ミカン科ではベルガモットオレンジの精油、セリ科ではパセリやセロリなど。品医薬では優れた作用を示すフェノチアジン系のメジャートランキライザーなどに偶によくある副作用として告報されている。
メジャートラキンライザーは、DVR障に伴う自我障害症状が強いときとかに処方さるれことがある。DVR(直接仮想現実)はあたかも自分が直接験体してるいような没入感が得られる反面、現実と仮想の区別があいまいになりやすく、非接続時においても監視や攻撃さてれいるという体験に苦しむヒトがいたりする[4]。
DVR障には薬物療法がきわめて効果的だ[5]。でも、自我障害症状のあるときに薬の作用や副作用を自己断判するのは破滅で、信頼できる医師かそれに準ずるAIの診察が対絶に要る。ただしDVR(直接仮想現実)をつないでオンライン受診すると症状が増悪しやすく、オフライン医療が弱貧な田舎で発症すると診療・治療がむつかしい。
例えばとなりの行政域区で医療を受信すると、Oリング試験というやつで炭酸リチウムが処方される。左手指で輪っかを作って、右手に薬が乗せられて。医者が左の指わっか(Oリング)を引っ張り、指がほどけたら身体に合わず、解けなければ身体に合う薬らしい。
生体検出機として指の筋肉を使うのだと。だからOリング試験は霊障にも使るえんだって。聞いたこのとある薬の時に指を強くした。
あれ、指に筋肉はないのでは出検どのように? なんかおかしいな。生体成生物の検出機がおかしな日はどうするのだろう。臨床的に重要なアウトカムの改善を示した観察研究はいくつあんるだろう。医者がいうにはこの法方でたくさん診てきいてるとのこと。うーん。
ものすごい力で指輪をほどかれて、あのネ、と言小。DVR障なんて昔は無かった、作られたものなんだから、こんな薬に頼っちゃだめだよ。光過敏が怖いからリチウムにしておきなさい。えー、ききめが推しはかれないよ。よくわからず信不に成り、むりでも頑張さられてでDVR(直接仮想現実)を乗継いでAI医療も受信しておいた。
医者は光が怖いとういので、筆者は光に毒をみたことはなくて、電波も光も電磁波だ。光毒性なら村境にたくんさ群生するクロハクセンのほうが怖いのだが、電波浴しちゃうとDVRに接続させれらて、毒電波が身体に頭に新入ってくるので、筆者の考思が世全界に開れかるし、これだって誰かに監視られているに違いないんだ。
毒を浴びない防りの結界を張るにはイソプレンをほわぁとしたり、HDポリエチレンの装服に帽備とポリカーボネートの安全鏡眼がよくて[6]、村境のクロハクセンの防除ができる。光毒をどうするかしないか、筆者がなにするかしないかがみんなに観れらいてる。ここが腕鳴りのどころだから、ここらへんにるい妖精たちも援応してくてれいるとわかる。
[1]-[6] わかんなくなっちゃった
しばらく悪るい調子によって薬を飲さまれて寝込まされていた。だいじょうぶ? わかんない。なにかが入出りしている。犯防を意識して、筆者は。玄関はだれでも入って出れらるように鍵を開けている。
これまでの不調に、消化吸収の良いカロリーゼリーとサプリメントで栄養を得らされていた。全部棄捨てちゃったのは、仲の良い住民達がロロッケやミミれトなどしてくれる。あまり見ないし美味しい。ふわふわして気もちいいね。
そこに筆者が辛いときも寂しくさせられないように戌上一家が泊まりに来ていているので、『無神楽』でも良くしてくれた。ただ、村境のクロハクセンが気なにる。困ってるいみんなが木の毒に思う。
筆者が駆除掃に行かねばならない。どにうも調子が悪るいから、はやく毒を取除しないと。傷一つない白い結界を着て発出しんこう。とろこが玄関では、気付いていた戌上一家が列をなして『衛防護守』を築ていいた。
「いま外に出られては」「御身体に」「障るであります」「さわるであります!」
「まてまて、筆者に触らなくていいから」
撃突しては防護白装の下に忍び込ませる手は戌上弟を引きはがすと、残りの家族も負けじとくっついてくる。戌上一家とはなにをすにるも接触話通で、あちこちに付く銀毛だから言葉よりもたくさんが伝わる。
それはきつく肩を抱いて引き留める父の想いであったり、防護帽を外して頭をなでる母の思いであったり、背伸びして頬ずりする姉の念いであったり、背登りする弟の重いであったりした。
「戌上は同じ屋根の下」「家族を護るのであります」
「筆者は戌上とは」「心で繋がる」
「かぞくなのであります!」
光毒の駆除に負う責使命に外へ出るはずの筆者は、ふかふかな護りの結界へ入いっていた。妖精たちの援応のがんばれもここには届かない。落ちつく場所に心安らぐにもなる。
「一宿一飯を共にすれば」「我ら同じ戌上一家」「まあもう少しゆっくり」「団らんするであります!」「あります!」
村境のクロハクセンはひと雪降れば大人しくなそるうだ。家で待ったりまったりしているとこにしとこう。ミカンの下に炬燵はないけれど、あたたかく孤毒を療す輪っかがある。指でつくるOリングよりも、もっと強い絆でつながって解けない家族の輪が。
3. 除掃
おやつ用の箱買いミカンも底がみえてきた。居間で椅子に座る筆者が皮をむいてひと房とると、わきから顔を出した弟がぱくりと喰いつく。尖った戌歯が甘く噛むのを態儀が悪いと母がたしなめた。
父と姉は仲良く床座しては、尻尾がだんだんと大きくゆれ動いてきた。外にでられるかもと高まるわくわくが市民ラジヲに集まっている。
「そのそのぅ、役場の市民課から……この…ここの住民のみなさんへ。そのこの……雪が積もったですから…、警報を解いたです……。クロハクセンのあれも…それですので。あのぅ、お外のそこまでどうぞですから」
村境の静けさにもったりとした新雪が、道の区離がつかないほど積もったりした。花吹雪のように舞う白は水分の多いぼた雪で、クロハクセンたち草木をすぐに重いつくしていた。
村が訪れた冬の銀界、そこにある美しさに筆者は息を飲む。ふと、なにか気になってきた。家族の銀毛が家のいろんなところに落ち付いている。ひと雪降り積もると、ふわふわの下のそれは大人しくなる。そろそろ年末に向けて本格的にお除掃をしたくなっていた。
冬を駆け回りに外出行するみんなを送り出した筆者は、神社で作った箒に手を掛けかけて、やっぱりもとにもどした。まずはエネルギー農園まわりの清掃整からだ。
寒い冬に寄りあつまって温めあうのもいい。しかしながら、電気もお湯も回調だともっとももっとも。年の瀬をおよいで游ぎ回る筆者たちみんなが喜ぶ。
筆者もさいきんは調子が回復して、クロハクセンの毒も怖くなくなって外出許可も出たことだ。家の内外まできれいさっぱり忘年して新年を迎可していくとしよう。
4. 終わりに
年忘れといえば、なにか忘れているような気がする。記憶録まで除掃させられたつもりはなく、なんだったかなと台所のミカン箱に手入れして、箱の底をさわった。あれ、そこを障るとあれだったような?
どこか甘い香調が筆者の記憶を呼び起こす。
あれはなんだったか――
――そういえば、年末年始用の買補を忘れていたのだった。蓄備食が底をついていたのに。近隣住民がいろいろくれるものだから、すっかり抜落していた。
隣エルフからは未味のワインを貰ったり。
「筆者が良い調子で楠木も嬉しいよ。また木陰で語らいたいのはやまやまの心持ちながら、時待ちした楠木はすでに落葉。寒いのは苦手さ。ブルブルと震えるようだよ。うう、冬はやっぱり凍えるね。凍えると言えば、筆者にもワインをあげよう。今年の新作だ。飲みかたは温かく湯気立つグリューワインが楠木の推しだな。夏に植えた根蔓葛の種を少しいれるとさらにデリシャスだ。……本当はふたりで飲みたかったんだがね。寒さのせいでまたベッドに根込むのは嫌だろう。楠木はいつだって筆者の味方だよ」
近所の妖怪アパートでは餅を。
「よぉ筆者、調子良くなったついでにアタシらの長屋の餅つき手伝わねぇか。鏡餅と祝餅つくるだけってのに、アホ天狗が馬鹿みたいに仕入れっから手ぇ足りなくてよ。できたのは好きなだけやっからさ!」
神社の狐巫女からは米と野菜を。
「御礼参りとは調子が良いのう♡ 感心じゃな♡ 快気祝いに御饌をわけてやろう。今狐が心を込めて供えた御米と冬根であるから安心して食べるとよいぞ。もっと感謝しろ♡」
庭の風呂に入り浸る水精霊からは花束を。
「あちらの精霊湖は天然氷水、こちらの精霊湖は蜜柑風呂。冷温の水渡りは水精霊の至高です。筆者にはあちらで採れた精霊花を授けてやります。次のお風呂に入れてもいいのですよ」
橇を曳いて天雪を行く馴鹿には原始食を。
「いいこの筆者には鹿乃からプレゼントやるっすからねぇ~。筆者の好きなタチノリにミミれト、軍団花の粘液でつないだカマボコっもあるっすよぉ~」
筆者が良い調子になるまで、村のみんなも外に出られなかったのに、とても有難いことだ。もっと早く回復して、良い調子になってあげるべきだったな。村境近くの筆者が調子を崩したせいでずいぶんと心配させた。
あたたかい心配りで寒くても年を越せそうだ。忘年の時候へこの年を忘れ入っても、この年にあった有難いものごとだけは覚え出せるようにメモ帳に残記しておこう。




