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グンダンバナ


 グンダンバナは、軍団の名を冠するに相応しい密集形態で咲く一年草である。


 先日、2-3日の外出から帰ってみると、砂利で覆われているはずの駐車場がその花どもに侵略されており、その軍団的な征服感にしばし放心状態となった。

挿絵(By みてみん)


1. グンダンバナ


 種子の発芽から開花までが非常に早いことで知られ、枯死するまで長く花を付ける。


 高さ10cmほどの茎に対して、傘状に広がる花弁は直径10-15cm、厚み5mmと比較的大きい。紫に白斑という独特の色合いを呈し、表面にはぬめりがある。種子は小さく、2cmほどの粘着質のサヤに多数が包まれているようだ。


 この軍団花、理想的な環境が整った場合、種子のそれぞれが著しい成長速度を見せ、数日で景色を一変させるといった事例もあると聞く。


 しかしそれがわが家の駐車場で見られるとはまったく思っていなかった。いざ目の当たりにすると、他の雑草を差し置いて砂利の隙間から群生する制圧力に、ある種の感心すら覚える。




 さて、軍団花が他の植生を差し置いて旺盛な軍団を組織できる機構は、自身の成長速度もさることながら、アレロパシーと呼ばれる作用も寄与するとされる。


 アレロパシーとは、広義には、植物がある種の化学物質を産出しそれが周囲に作用することを指す。国内ではセイタカアワダチソウやアスパラガスが典型的な例としてよく知られており、軍団花もこれらと同じ機構を有する。


 すなわち、軍団花の根と花から産出された物質(ある種のカルボン酸エステル)が他の植物の生育を阻害したり、食害する昆虫を寄せ付けないよう働く。軍団花の場合はさらに、この阻害物質を有利な成分に転化できる植物ホルモンをも有している。


 これらの結果として、支配領域を急速に拡大できるというわけだ。


 しかしながら、軍団が大きくなり、産出する阻害物質が過剰量になってくると、転化が追い付かなくなってしまうそうだ。やがては、自らの生み出す阻害物質と密集ストレスによる環境変化により、あえなく自滅するという。


 なんとも諸行無常を感じさせる花である。






2. 利用


○園芸

 見た目があまりにも美しくなく、これを園芸目的で栽培する発想はまず考えられない。先入観全開で調べてみると、しかしながら、販売する業者の存在が確認された。文字通りの意味で隣人トラブルの種になりそうだが…。




○食用

 軍団花はアオイ科ということで、オクラやモロヘイヤといったぬめりのある食用植物と同じ科に属する。


 軍団花について手持ちの『本邦植物図説総覧』で確認したところ、植物そのものは食用ではない。ただ九州の一部地域などでは、花から出るぬめりを抽出して、カマボコのつなぎなどに利用することがあったらしい。




○薬用

 インターネットで調べると、妖精が軍団花から作った媚薬が高値で取引された、との古い逸話をいくつか見かけた。近年では妖精を見ることはなくなったとはいえ、民家の駐車場に大量に生えるような花から媚薬が作れるとなっては大変なことである。


 気になる効果は話によって異なるが、軽くみた限りでは否定的なものが多い印象を受けた。妖精の悪戯という説や、宣伝文句に尾ひれがついた説、軍団花ではなく別の植物とする説など諸説あるようだ。


 科学的な知見としては、1990年の報告[1]を見つけた。ここでの化学分析の結果では、薬効成分は含まれておらず、誘導体まで考えても著効する成分はないとの結論が示されている。


 少なくとも簡単に変な薬が作られるわけではないようで安心である。


[1] D. Domen et al., Fake J. Med. Vil. 1990;50:56-69.




○素材

 花の色は紫と茶色が混ざるため染料には使えそうにないし、茎や葉を触った感じではあまり繊維感はなく紐や紙の原料にも不適当だろう。


 残るは花から抽出したぬめり成分である。これは和紙をすく時に添加剤として利用された例があるようだ。


 多糖質のぬめり成分は紙の繊維(セルロース)とも水とも親和性が高く、紙の繊維を水中に均一に分散させる、分散剤としての効果がある。また、増粘剤としての効果もあり、すく時に紙の厚みを均一に制御しやすくなるらしい。


 歴史的には、平安時代の大同年間(805~809年)には和紙の製紙施設が作られていることから、少なくともこれ以前から使用されていたと考えられている。


 和紙の添加剤には、ネリと呼ばれる、トロロアオイやノリウツギから抽出したぬめり成分を使うのが一般的である。一方、本邦西側の平野部など一部地域では軍団花を利用した事例があるようだ。


 まあ、基本的には代用品の位置付けであろう。他の畑などに侵出してしまうリスクを考えると、わざわざ栽培することは考えにくい。







3. 駆除


 ぬめる紫に茶色の斑という外見は気色が悪いし、群生する姿は鬱陶しい上に、あまりにも印象が汚く、我が家の敷地内での定着は全く受け入れられない。1項で述べた通り自然に枯死するらしいが、いつまで待てばいいのかは不明瞭だ。待つうちに近隣の家に広がると不味いので駆除を試みる。


 これだけの軍団を手でむしるのは膨大である。まずは電動草刈機を試した。


○雑草殲滅機 Ⅱ型 (全滅工業)

 極端な性能で知られる全滅工業が展開する電動草刈機。Ⅱ型は円形のカッターで刈り取るロータリー式で、オプションパーツに換装すれば火炎放射も可能。


○防護服 (ボーゴマン)

 刃物とバーナーを使うことから、芳香族骨格のポリアミド素材を選択。いわゆるアラミド繊維と呼ばれるもので、防刃耐熱に優れる。筆者はDIYでの溶接作業用に保有している。


 実作業に入ると、グンダンバナがなかなか手強い相手であることが分かってきた。


 先に触れたように花弁にぬめりがある。これが刃に付着して溜まってくると、刃が滑ってなかなか刈れないのだ。


 面倒なので、雑草殲滅機の出力を最大まで上げて対応する。甲高い音を鳴らす超速回転の刃により、ぬめりを吹き飛ばしながら強引に軍団花を殲滅した。


 殲滅後はバーナーモードに換装して種を焼き払う。ところが水分量が多い花弁が邪魔するせいか、燃えるまで時間がかかる。天日乾燥を待っている間に種が芽吹くと嫌なので、火災を恐れずに火力を上げて焼き尽くした。


 全滅工業の製品はスポーティーで爽快な使用感があってとても楽しいものの、軍団花の駆除に対してはやや効率が悪いようだ。



 駐車場の半分を電動草刈機で処理した一方、もう半分には市販の除草剤を使ってみた。



 ホームセンターには葉茎に直接かけるタイプと土壌に混ぜるタイプが陳列されており、購入してきたのは前者。


○さよなら害草 液体希釈タイプ (村産化学)

 液体タイプの除草剤。葉茎に直接かけて2-3日で根まで浸透して枯らすことができるとの触れ込み。本製品はボトルにシャワー口がついており、そのまま手軽に使用できる。徳用の濃縮タイプも展開されていて、こちらは自分で希釈して用いる。



 2-3日で効果が得られるという触れ込みに対して、なんと数時間ほどで薄茶色く枯れ始めた。


 まさかここまで顕著な効果が得られるとは。


 念のため村産化学のカスタマーセンターに照会したところ、丁寧な回答が得られ参考になった。結論としては、軍団花は基本的に薬剤耐性が低く除草剤が著効するらしい。


 ただし休眠した種子が生存する場合があるため、土壌に混ぜるタイプの製品を併用すると良いとのこと。当該製品は顆粒であり、砂利敷きの駐車場には不向きかもしれないが、メーカー推奨ということで追加購入して撒いておいた。我ながら安直な客だ。


 その後は再侵略もないので、駆除は成功したと言えるだろう。





4. 終わりに


 今回、軍団花の特性と、はびこった際の対処法について知見が得られた。


 一方で、どうやって種がわが家の駐車場に持ち込まれたのか、なぜ顕著な繁殖が見られたのかについては未知なままである。近くに別の群生地があって侵出したのか、遠くから鳥が種を運んできたか。何か分かったら追記することにしておく。






20XX.4.18追記


 町内の話を統合すると、妖精のイタズラという線が有力なものとして浮上してきた。そこまで過疎が進んでいたかと嘆くべきか、自然が回復してきたと喜ぶべきかは悩ましい所である。



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