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「ティナ? 本当にお仕置きするぞ?」
「ぎゃっ……!」
「品のない悲鳴も許可しない」
「も、申し訳、ありません」
「よろしい。そのまま口を閉じていなさい」
こくこくと何度か頷いて、そろりと視線を逸らした。
怖い。お兄様がめっちゃ怖い。まだノアのお仕置きの方がマシだわ。
そうだ、楽しいことを考えよう。
口を開かなければ妄想していてもいいってことよね?
じゃあさっきのホモ百合の彼らをもう一度観察しよう。
「ティナ。一曲だけ踊りましょうか」
懲りずにわくわくと視線を会場へ向けていた私の手を取り、ノアが手の甲へ口づけをひとつ落とす。再び黄色い声があがった。
「ええ~……面倒臭い……」
「そう言わずに。今宵の主役が一度も踊らないわけにはいかないでしょう?」
「モチベーションが上がらない」
お兄様に口を閉じていろと命じられているので、屈んだノアにひそひそと耳打ちする。その間もキャアキャアと騒がしかったけれど、まさか私とノアで、恋愛関係を想像して騒いでいるんじゃないでしょうね。
ちょっと、止めてよ!? あり得ないから!
私に百合を求めないで! ノアは一応男だけど!
百合は百合で需要あるけど! 私は鑑賞する側だから! 勝手にキャスティングしないでいやもうマジで本気でやめてギャーっっ!
「ティナ? 聞いてます?」
お、落ち着くのよ私。
ここで取り乱すのは非常にマズイわ。
お兄様がじっとこちらを見ているのだもの。お、おしっ、おおおお仕置きは絶対回避しなきゃっっ。お兄様はえげつないのよっ。
「どうすればモチベーションが上がります?」
ノアの再びの囁きは、私にとって非常に都合のよい問い掛けだった。
取り乱していた激情は何とか落ち着いたけど、別の興奮がせりあがってくる。
回答は決まってる。訊いたからには実現してよ?
「あとでアルベルトと抱き締め合って」
「はあ?」
アルベルトとは、私の護衛をしている近衛騎士のことだ。側に控えていた彼にもばっちり聴こえていたようで、ぎょっとした視線を向けられた。
黒髪の短髪と切れ長の滅紫の瞳が印象的な、いい意味で男臭い細マッチョ。アルベルトは私の脳内で様々なカップリングをこなす、とても優秀なオールラウンダーだったりする。
彼を護衛に付けてくださったお父様には感謝してるわ。ときめきが止まらない!
「わかりました。善処しましょう」
「本当!? やった!」
再びぎょっと青ざめるアルベルトは見なかったことにして、私は密やかに歓喜した。
二人には何をさせようかしら。
さすがにキスはしてくれないわよね。ノアはともかく、アルベルトは卒倒しちゃうかもしれない。
あら。それもいいわね。アルベルトが襲われるとか?