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「ルイス様。ティナ様をあまり苛めないでくださいませ」


 毒を吐かれ、血の気の失せた私を庇ってお兄様に苦言を呈するのは、お兄様と婚約しているネヴェア・アゼリア公爵令嬢だ。


 豊かに波打つブロンドヘアに、猫のように吊り上がったペリドットの瞳が勝ち気に見せるが、とても面倒見の良い私の二つ年上のお義姉様だ。

 髪も瞳も私と同じ色を持つお兄様が、自らの婚約者を面白そうに見つめた。


「そうは言うがね、ネヴェア。この子はうっかりさんだから、いつ化けの皮が剥がれるか分からないんだ」

「ティナ様は賢い方です。今までだって周囲にバレませんでしたわ。わたしくは、ある程度はのびのびとさせて差し上げてほしいと思うのです」

「のびのび、ねぇ。ティナに自由を与えれば、際限なく片っ端から男同士をカップリングしていくぞ? 妖精姫の実態が変態だなんて、外聞が悪いにも程があるだろう?」

「あら。それもティナ様の個性ですわ」

「君は寛大過ぎるな。十六になっても婚約者を定められない父上や私の気苦労も、少しは労ってほしいのだが」


 そう、未だに私に婚約者がいないのは、偏に私の妄想癖が原因だ。

 お父様もお母様も、私の悪癖にさめざめと泣く日々だ。━━ああ、本当に泣いてはおられませんよ? お母様は早々に諦めていらっしゃるようなので、お父様もお兄様も、お母様を見倣ってほしいものです。人間諦めも肝心ですよ。


「なんだろうな? イラッとすることを思われた気がするなぁ」

「ソンナメッソウモナイ」


 ついと細められた双眸から逃れたい一心で、吹けもしない口笛もどきを吹く。

 掠れた音が漏れるだけの突き出した唇を隠すように、ネヴェアお義姉様が素早く広げた扇で私の顔を覆った。


「ティナ様。さすがにそれはよろしくありませんわ」

「よくやった、ネヴェア。危うく王女にあるまじき顔を晒すところだった」


 酷い。レディに向かってなんて言い種だ。


「とにかく、ティナは直ちに妄想を止めるように。仮面も外すな。それが無理ならせめて口を噤んでいなさい」

「そんな殺生なっっ」

「次だだ漏れにしていたら、ジョナス伯爵辺りに降嫁させるぞ」

「ひぃっ」


 ジョナス伯爵とは、いつも脂ぎったテカテカの顔と頭髪の乏しい、鞠のように横に膨らんだ五十過ぎの太っちょさんだ。


 肥満体だからか、ブルドッグやパグのように常にふごふごと濁った呼吸音を漏らしている。

 ジョナス伯爵が同じ空間にいるだけで、部屋の温度が二度ほど上昇していると専らの評判だ。ああ、悪評の方です。

 パンパンの手指にたくさんの装飾品を装着している悪趣味な出で立ちが特徴で、悪どい商売に手を染めていると黒い噂も絶えない。


 そんな外見も中身もとんでもない人物に嫁がされるとか!

 無理! 死んでも無理!

 一度死んでるけど、生まれ変わっても無理!


 愛玩動物のように可愛らしいネコ――猫じゃなくってよ――が襲われていると妄想すればテンションも上がるけれど。

 でも固定じゃなきゃ駄目。オヤジ受けとかジョナス伯爵に限ってあり得ない。

 枯れ専やオヤジ受けを愛している腐女子への冒涜よ!

 オヤジ受けには夢が詰まっているんだから!

 ロマンスグレーの色気がジョナス伯爵にあると思って!? あってたまるか! 世界中の腐女子に謝れ!




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