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 ━━あら。あちらの可愛らしい容姿の令息方。互いに頬を紅潮させてひそひそと囁き合っているわね。

 まさかのホモ百合? ホモ百合なの?

 ちょっとこちらへ来てくれないかしら。もっと近くで見学したいのだけど。

 もう少し、もう少し寄り添って、ああ、腰を引き寄せ合って額をくっつけて、それから、それから、ハアハア。


「ティナ。声に出ていますから。せめて公の場ではちゃんと取り繕ってください」


 あら失礼。パッションが迸ってしまったわ。


 隣のお兄様がちらりと視線だけを寄越す。

 ヤバい、お兄様にバレたらまたお仕置きされる……!


「彼らの名誉のために申し上げますが、あれは睦み合っているわけじゃありませんからね。()()()()()妖精姫と讃えられる貴女に見惚れているだけですから。彼らの夢を壊すような発言は控えてください」

「何を言うの。あれは愛よ。ホモ百合なのよ」

「はぁ……相変わらず何を言っているのかさっぱり意味不明ですけど、表情だけは崩さない辺り、さすがですね」


 そっと囁くように耳に唇を近づけてきたノアの、さらりと肩を流れるプラチナブロンドが私の頬を撫でた。

 きゃあ、とあちらこちらで群れている令嬢たちが黄色い声を上げる。凄いわね。

 これも演出かしら。

 無駄に顔だけはいいこの男、侮れないわ。


「ねえ、ノア。私ね、あなただけは妄想できないのよ」

「それは喜ばしい」

「どんな男性だろうと美味しく調理できる自信があるのに、あなただけは乱れた姿を想像できない。不甲斐ないわ」

「言い方。言い方をもう少し婉曲にしましょうか。それと、そのまま埒外に置いたままにしてくださると大変ありがたいですね」

「素材はピカイチなのに、悔しいわ。ねえ、一度お兄様と抱きしめ合ってくれない? 私に潤いと癒しをちょうだい」

「それを私に求めるのは止めてください。ルイスには婚約者がいますし、気持ち悪いからやりません」

「チッ」


 先週たまたま中年期の男性に口説かれている姿を目撃したのに、その先を妄想できなかったのだ。

 素晴らしいシチュエーションだったのに!

 腐女子の名折れだわ!


「ティナ?」


 不意に隣から甘い声音で名を呼ばれ、ギクリと肩が揺れる。


「お、お兄様」

「小声だし、一応気を配っているようだから暫く様子を見ていたが。その愛らしい唇で、今なにを言ったんだ?」


 おっとりと微笑むお兄様がめちゃくちゃ恐ろしい!


「私とノアが……何だって?」

「い、いえ、あの」

「あとで私の部屋へ来なさい。ボロが出る前に、調教し直さないといけないだろう?」


 睦言を囁くように、とろりと蕩けるような視線と甘やかな声で恐ろしい死刑宣告がなされた。


 調教! 教育ではなく!?




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