第2話「もしかしたらニーナの狙いはこれだったのかもしれないな」
「お前たちの教官を務めるアンリだ」
「初めまして。ボクはベルって言います。宜しくね」
「よろしくお願いします」
緊張の面持ちで返事をしたのは、エルフの少女モルガン。
腰を綺麗に曲げて頭を下げると、ウェーブがかった髪が、陽の光を反射してキラキラと輝く。
ふむ……この子はハーフエルフか。
彼女はエルフにしては色気……もとい胸がある。基本エルフは胸が無い。
弓を得意とするから胸が無いのか、胸が無いから弓を得意とするのかは分からないが、彼女のように胸の大きいエルフは俺は見たことが無い。
それにエルフは森と共に生きる種族で、あまり森から出てくる事は無い。
神を信仰するのは殆どの場合が人族だ。なので聖職者のような衣装を纏っているという事は、多分人族とエルフのハーフエルフなのだろう。
身の上を聞くのは、やめておいた方が無難だろうな。複雑な事情がありそうだし。
「うん。宜しく」
もう一人の少女は、腰を手に当て、胸を張っている。
落ち着きが無いのか、それとも周りに興味があるのか、キョロキョロとせわしなく顔を動かし、そのたびに赤いツインテールがわさわさと動く。
動きやすそうなレオタードのような格好で、武器を持っていないので、職は多分格闘系だろう。
見た感じ、ベルよりも年下に見える。こちらはこちらでまた複雑な事情があるのかもしれない。
……そもそも、こんな仕事をしている時点で、何らかの事情がある連中ばかりだったな。
「ニーナ。何か良い依頼は無いか? 出来ればコング討伐とラビット討伐以外で頼む」
「勿論です!」
ラビットの森は、ベルがモンスターの大群に追いかけまわされたのがトラウマになっているから、行く事が出来ない。
コング討伐は、またミドルワームが出てきても困るからパスだ。
ニーナもその辺の事情を組んでくれているようだ。
「そうですね。こちらの依頼なんていかがでしょうか?」
ニーナはカウンターにある引き出しから依頼書を取り出す。
依頼書を確認する。
街外れに住み着いたオークの討伐か。
郊外の廃墟にオークが3匹住み着いているから、巣を作る前に倒して欲しいという内容だ。
「俺はともかく、こいつらにオークは厳しいんじゃないか?」
この内容なら、討伐難易度はDランク冒険者が適性だろう。
対して彼女たちは駆け出しのFランクだ。2ランクも上になる。
「ですが、他は群れる魔物の依頼ばかりなので、サポートしながらでは戦いづらいかと思いますが」
他の依頼書を見せてもらうと、ゴブリンやウルフ種といった見事に群れる魔物ばかりだ。
しかもどれも雑木林などの、見渡しが悪い場所ばかり。
不意打ちに対し『気配感知』でモンスターに気づけても、戦闘中だった場合はサポートがしづらい。
それなら見晴らしが良く、数も少ないオークの方がまだマシという判断か。
彼女たちに補助をかけて、オークに阻害をかければ、実力差も埋まるだろうし。
出来れば、何度か実践を経験させてから補助は使いたかった。
ドーガ達には初めから補助をかけていたせいで、その恩恵を理解されなかったし。
そのくせ、補助がないと、調子が悪いのを俺のせいにして騒ぐんだよな。
今頃「調子が悪い」と騒いでいそうだが、まぁそれは俺の知った事ではないか。
「そうだな。確かにニーナの言う通りだ」
「それでは、依頼はどうしますか?」
「あぁ。オーク討伐で頼む」
「かしこまりました。それではお気を付けて」
俺とニーナのやりとりを見ていたベル達に声をかけ、ギルドを後にした。
「アンリの奴、良いなぁ」
「教官か。俺もやってみようかな」
そんな感じの声が舌打ちと共に聞こえてきた。
圧倒的に女性が少ない冒険者なのに、3人も女の子が来たのは珍しいなと思ったが、もしかしたらニーナの狙いはこれだったのかもしれないな。
ちなみに、その後、教官を志願する冒険者が増えたそうだ。
下心ある連中が教官になった所で大丈夫か不安になったが、舎弟のように「はい」と言って付いてくる新人に情が移り、なんだかんだ上手くいっているそうだ。
誰だって慕われれば気分が良くなる。ニーナはそこまで計算しての行動だとしたら……少しだけ、彼女に底知れぬ物を感じた。




