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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第8話 虜囚の策略

「でたらめなたらい回しをされているんだな、あんたたちも。『ザキ』族の兵士だったら、とりあえずどの部門でもそれなりにできるはずだって、決めつけてんのかな?。」

「そんなところだ、多分な。俺たちは、戦闘艇のパイロットが定職なんだがな。」

「艦の設備なんぞ、触ったこともねえぜ。なのに、送弾機構のメンテなんてな。まあ、何も分からねえってことも、ねえんだがな。」

「どの部門に何人の補充が必要か、今になっても分からないんだな、この艦の司令官も。誰がどの作業を担当するのかも、戦闘の直前の今になってもまだ、コロコロ代えてる有様なんてな。送弾機構の1つの系統に対するメンテなんて、前の艦では俺だけでも十分だったのに、ここでいきなり3人もねじ込むなんて、馬鹿げてるぜ。」

「そう言うお前は、なかなか良い腕だそうじゃないか、ゴドバン。上官がそう言ってたぜ、ハハッ。お前に習って、同じようにやってれば間違いないって。」

「そうそう。お手柔らかに、よろしくご指導ご鞭撻願うぜ、ゴドバン先生よ、ハッハッハーッ。」

「あ・・ああ、分かったぜ、クレティアン、ハムザ。」

 兵士の目が届く状況だったので、初対面のその場面では、それ以上踏み込んだ発言は控えた彼らだった。だが、作業が始まり兵士の目が無くなると、話す内容も当然変わって来る。

「何だこりゃ、ハハッ、全くのほったらかしになったな。」

 しつこく周囲を見て回った後に、クレティアンが口を開いた。「どこにも兵士の姿はねえし、監視カメラなんかを仕掛けている様子もねえ。油断しすぎも、ここまでとは呆れるぜ。お前、そうとう信頼されているんだな、ゴドバン。」

「ばっちり従順を装って来たからな。殴られても蹴られても、眉一つ寄せず、糞真面目に作業し続けたんだ。」

「だが、無事に逃げ出すつもりは、満々なんだろ、んーっ?」

 大げさにゴドバンの顔を覗き込むクレティアンの仕草は、陽気におどけているように見えて、真剣さも窺える。

「当たり前だろ、クレティアン。どんなわずかなチャンスも、絶対に見逃さない意気込みだぜ。」

「そう来なくちゃな、ハッハーッ。優秀な奴と組まされると聞いた時から、きっとそうだと思っていたぜ。優秀さなんてものは、敵兵を油断させる手段に違いねえってな、ハハッ。」

「えへへっ、ハムザにはすぐに分かることが、『セロラルゴ』管区自衛軍の連中には分からねえんだな。だが、その通りだ。殴られてもなじられても、素直に従って油断を誘って来たのは、脱出の隙を作るためさ。」

「で、何かプランは立てられたのか、ゴドバン?ユウシュウなお前なのだから、脱出のプランも考え続けてたはずだぜ。」

「いや、具体的な方法にまでは、残念ながらまだ考えは及んでねえ。この艦には来たばかりだしな。ただ、兵士に見つからずに爆弾を作れるようにはなった。遠隔操作でも起爆させられるヤツだ。前の艦でも沢山作って、あちこちに隠しておいたんだが、予想外に移乗させられちまって無駄になっちまった。だがこの艦でも、同じようにするつもりだ。何かの隙に、いつでも付け込めるようにな。」

「ヒューッ、そりゃ良いぜ、爆弾か!この軍隊の低すぎる管理状態なら、その手の攪乱は図に嵌りやすいだろうぜ。ドカーンと派手にかましてやりゃ、すっきりするだろうなあ、アッハハハッ!」

「ああ。だが今は差し当たって、艦の状況が知りたいな。俺たち虜囚には、状況は何も知らされないからな。いつ戦いが始まるのか。この艦が陣立てのどの位置で、どんな役割を受け持っているのか。」

「当然だな。虜囚なんぞに、戦況報告などあるわけねえ。だが」

 陽気な顔は崩さないが、目の奥には気迫が宿った。「分からねえままじゃ、脱出の隙が見つけられねえのも事実だ。艦内をうろついて、他の作業をやらされる虜囚たちからも、情報を集めるか。」

「そうしてくれ、クレティアン。メンテナンス作業は、俺1人で十分だ。っていうか、メンテナンスをやってるふりをしながら爆弾を作るのは俺1人でやるから、クレティアンとハムザは、情報を集めることに専念してほしいな。」

「よし来た。任せておけ。早速、行こうぜ、ハムザ。」

「ハハッ、合点だぜ、クレティアン。」

 数時間後の休憩時間に2人の「ザキ」族と再会すると、満足そうな表情をゴドバンに見せて来た。かなりの情報を集められたみたいだ。

「送弾機構と関係ない場所でも、いくらでもウロウロできたぜ。兵士に見つかっても、何も言われねえしな。」

 大袈裟に両手を広げて話すクレティアンに、ハムザも大きすぎる頷きで続いた。

「ウンウン、まったくだ。誰がどんな作業を受け持ってるとか、どの作業を受け持つ奴はどこにいなけりゃおかしいとか、何も把握できていねえ感じだな。とにかく真面目そうな顔つきで動き回ってりゃ、従順に作業をこなしてるもんだって思ってくれるんだな、管理レベルの低い組織ってのは。」

「多分、捕虜になってメンテ要員にされられた奴はみんな、メンテナンス作業なんて兵士に叱られない最小限しかやらず、他はやってるふりをしながら脱出のチャンスを探しているんだ。だけど、それにも気が付いてねえんだぜ、ここの兵士たちは。」

 ゴドバンもそう評した後、本題に切り込んだ。「で、どんな状況なんだ、この艦は今?」

「通信設備のメンテをやってるやつらが、こっそりとデーターを抜き取っていやがった。通信内容までは分からなかったが、交信相手とその頻度は分かった。それから推測すると、最前面ではすでに戦闘が始まっている様子だ。短時間における通信頻度の激増で、それは判断できる。で、この艦は少し後方で、陣形の構築や維持に努めているらしいな。」

 クレティアンの意見に、ハムザも同調した。

「レーダーシステムのメンテをやってるやつも、近くの味方艦の位置や運動状態を、レーダーでしつこく観測しているらしいって言ってた。陣形構築をやってるのは、間違いねえだろう。それも、次々に新しい陣形に遷移して行っている様子だから、既に戦闘が始まっていて、前面での戦況に応じて陣形を変えて行っている状態だとみて、間違いないと思うぜ。」

 大地という平面上で戦争が行われていた時代には“ 前線“と呼ばれた部分を、宇宙時代には“ 前面 ”と呼んでいる。三次元の世界では、戦いは線状ではなく面状で展開するから。だから戦争の話題で“ 最前面“という言葉は出て来ても、”最前線”という言葉は出てこない。

「そうか、最前面ではすでに、戦いが始まっているんだ。虜囚が乗せられている艦のどれかも、敵の攻撃を受けて、損害を出したりしているのかもな。」

 ベンバレクたちが戦死している可能性も、否定できない。そう思うとゴドバンは、胃の腑が冷たくなるのを感じた。だが今は、自分たちの脱出を最優先に考えるしかない。

 クレティアンとハムザが引き続き情報を集め続け、ゴドバンはせっせと爆弾を作ってはあちこちに隠した。3時間後に落ち合った時には、更に興味深い情報が示された。

「何だか面白くなって来たぜ、ハハッ!1時間くらい前から、異様に通信の量が増えてやがるんだ。同じ相手と、秒刻みで繰り返し通信が交わされているみたいだ。こんなの、普通じゃねえぜ。陣形の構築が全く上手くできていない様子が、透けて見せるぜ。1時間より前までは、問題なくできていたはずなんだが、突如としてのこの様だ。全く異様というか、不可解な状況になったものだぜ、ハッハー。」

 クレティアンの表情には驚きがあふれているが、おもしろがっている気配もある。

「レーダーの方も、あっちこっちに支離滅裂に走査しまくったり、同じ方向に何度も何度も、バカみてえに繰り返し照射したり、普通じゃねえ動きをしている。こんなの『ザキ』族の軍じゃあ、見たこともねえ。何が起きているんだ?」

 1時間ほど前から、重力を感じる方向や強さがコロコロ変わるのを、ゴドバンもいぶかしく思っていた。かなり激しい操艦を実施している、と認識していた。

 無重力の宇宙を飛ぶ物体の中にいる者には、乗り物の加減速や転進だけが、重力の発生原因だ。加速方向と反対側の壁が床となり、それに体が押し付けられる。

 重力からも、自衛軍が予測された通りの混乱に陥っていることは察知できていたが、具体的な内容が分からないと、利用もできなければ隙を突くこともできない。

「・・・なあ、航路観測系のデーターに細工を加えたら、陣形構築に支障を来したりするんじゃないかな?」

「おう、そりゃそうさ、ハハッ。周囲の天体などの位置を測定し、艦のデーターバンクに記録されているそれらの配置と照合することで、自艦の位置や運動状態を把握しようとするのが航路観測系ってもんだ。測定データーに対する演算式やデーターバンクの記録なんてものを、チョチョイと書き換えてやりゃ、自艦が今どこにいるかとか、どっちに向かって進んでいるかとかについて、間違った認識を持ってしまう。そうなっちまったら陣形構築なんて、できるはずがねえ。」

 クレティアンの返答で、ゴドバンには納得の笑みが広がった。

「じゃあ、やっぱり、ティミムが何かしたんだ。あいつ航路観測系のメンテナンスチームに入れられてたんだろ。あいつだったら、それくらいの悪知恵は使いそうだ。」

「そうか、ハッハーッ!」

 ハムザも手を叩いて納得を示した。「ティミムのヤツも『ザキ』族の兵だからな。メンテナンスをするふりをして航路観測系に細工をする方法も、それがどんな混乱を艦に巻き起こすかも、良く分かっているはずだ。間違いないぞ、ティミムが細工を施しやがったんだ。そう考えれば、全ての辻褄が合うぜ。そのせいでこの艦は、自分の位置や運動状態が、分からなくなっちまってるんだ。」

「このままだと、この艦は隊からはぐれるな。孤立したところを敵に見つかったら、一方的に袋叩きにされるかもしれない。そうなる前に、艦長以下の幹部たちは、艦からの退避行動に出るんじゃないかな?」

 ゴドバンの思い付きに、クレティアンが少し思案した後、応じた。

「艦の放棄か。まともな軍の幹部なら、簡単にはやらねえことだが、この軍の責任意識の低い幹部なら、あっさりとそんな判断を下しそうだな。・・ってことは、つまり・・・だな、艦の幹部全員が、シャトルの格納されているセクションにやって来る可能性が、高くなるわけか。」

「・・そこに爆弾を仕掛けておけば、一瞬で全員を片付けられる・・かも、しれねえ・・かな・・」

「・・お、おお・・それ・・良いな、ゴドバン。・・よし!じゃあ、俺たちは、そのことを虜囚全員に伝えて回るとするか。お前は、爆弾の設置を頼むわ。これまでの油断に加えて今の混乱状態だから、設置の作業も簡単だろ。兵士たちに見つかったとしても、多分、何にも言われねえだろうしな、ハハッ。」

「分かったぜ、ハムザ。早速取り掛かろう!」

 送弾機構とシャトル格納庫は、艦の中でも離れた位置にあるのだが、そこをゴドバンが歩き回っているのを見つけても、やはり兵たちは気にする素振りもなかった。そんなことには構っていられない様子で、焦燥感丸出しのひそひそ話に熱を上げていたりする。自艦の位置が分からなくなっている不安に、兵たちは居ても立ってもいられない心境らしい。

 兵たちに見られているのも承知で、ゴドバンは爆弾を設置して回った。遠隔操作で起爆できるように作ってあるヤツだ。

 送弾機構のメンテが担当のゴドバンが、シャトル格納庫に爆弾を設置して回っているのに、兵たちには、真面目に作業しているようにしか見えていないらしい。屈辱に耐えて従順に振舞って来た成果が、ここに遺憾なく発揮されていた。十個もの爆弾の設置が、滞りなく進んで行く。

「よう、ゴドバン。お前もここに、何かを仕掛けに来やがったのか。」

 なじみの声に、思わず満面の笑みで振り返った。

「やあ、ティミム!お前も、幹部たちがここに集まるのを見越して、罠を仕掛けに来たのか?」

「そうなんだが、お前に先を越されたんじゃ、出る幕が無くなっちまったな。おいしいところを持っていきやがるぜ。」

「何言ってるんだ。航路観測系に細工を施したのは、ティミムだろ?そのせいで、幹部がここに集まるかもしれない環境が出来上がったんだ。十分においしいところを手にしてるじゃないか、ティミムだって。」

「おおっ、気づいてやがったか、俺の妙手に。自衛軍の連中は、誰一人分かってねえ様子なんだがな。」

「管理レベルが低くて、上官が部下の仕事を全く把握してねえから、トラブルが起きても、原因なんて特定できないのさ。仕事を丸投げされている虜囚たちだけが、状況を理解できている有様さ。」

「で、どんな罠を仕掛けたんだ、ゴドバン?」

「爆弾さ、ティミム。10個仕掛けた。」

「ほう!そいつは良いねえ!爆弾か、スカッとできそうだ。」

 そんな会話を、兵士たちの目の届くところで交わしていたが、咎められもしない。そして、

「総員に告ぐ。直ちにシャトル格納庫に集合せよ。繰り返す。総員、今すぐに格納庫に移動だ!」

と、焦りに焦った怒鳴り声が艦内に響きわたった。

 今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、 2020/11/21  です。

 戦闘シーンを色々な立場・視点から描こう、というのも「銀河戦國史」を書くにあたっての作者の意気込みです。直接に敵と向き合って攻撃したりされたり、という立場もあるでしょうが、今回は陣立ての後方にいる艦のメンテナンス要員という立場で、戦闘中の軍隊に身を置いているのに戦闘の実感がまるでしない、という状況を描きました。捕虜だから、情報提供も少ないので尚のことです。以前の作品「キグナス」では操船要員の立場で、周囲に多くの仲間の気配を感じながら、主人公が砲撃を管制したり宇宙船を走らせたりしていました。「ファング」では戦闘艇パイロットの立場で、たった一人コックピットに身を沈めて、通信によるコミュニケーションはありながらも孤独な戦いに、主人公は挑んでいました。未来の宇宙での戦闘というものを、シリーズ全体を通じて立体的にリアリティーたっぷりな形で描くというのを、主人公の立ち位置や役回りを変えて行くことで実現する、という試みです。一つ一つの作品を読むだけでは伝わらないことがあると主張して、他の作品も読んでもらおうという、姑息な宣伝工作でした。

 しかし、メンテ要因なんて言う地味な立場だけだと面白くないので、今後ゴドバンには色んな役回りが登場します。もっとエキサイティングでエンターテイメント性に富んだシーンも見せて行くつもりなので、今回の地味さだけでお見捨てになることは、御勘弁いただきたいと思います。もう少し、読み進めてやって下さい。

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