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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第6話 ゴドバンの再会

 兵士と兵士の会話からも、警戒心の緩みは感じられた。最初のころはひそひそと、何を話しているか分からない会話しか見られなかったが、だんだんと声が大きくなった。虜囚に聞かれることに、無頓着になっているのが明らかだった。

「別に、余裕だろう、どこの集団が反乱を起こそうと。星団内で最大戦力と言われる『ザキ』族と戦闘になったとしても、負けるはずなんてないだろ、俺たちは?」

 ゴドバンが耳にした、彼らの会話の一つだ。「あいつらも、もとはと言えば航宙民族なんだ。野蛮で無知な連中なんだから、戦術は幼稚だろうし、数においても、こちらが圧倒的に上なんだぜ。あんな虜囚どもまで駆り出さなくても、簡単に勝てるはずだと思うんだがな。」

「お前、分かってないな。『ザキ』族が航宙民族だったのなんて、2百年以上も前なんだぞ。それ以降は、銀河連邦の兵器や戦術を取り入れて、急速に戦闘能力を鍛え上げているんだ。他の航宙民族がどれだけ野蛮で愚かだとしても、あいつらは同列に扱っちゃいけない。同じ数でぶつかり合えば、俺たち『セロラルゴ』管区自衛軍には、勝ち目がないとも言われているんだぞ。万が一、やつらが一族総がかりで攻めて来たりしたら、俺たちは一巻の終わりかもしれない。」

「ま・・まさか、そんな。我らが『セロラルゴ』管区自衛軍は、南北の『ホッサム』族にでも対抗できるくらいの戦力を、常日頃から整えているはずじゃないのか?」

「だから、その南北の『ホッサム』族を、『ザキ』族は上回っているって、言ってるんだ。兵士や戦闘艦の数では、『北ホッサム』族の方が『ザキ』族を大幅に上回っているが、それでも20年前の侵攻の時には、『ザキ』族にあっさり蹴散らされてしまったのだからな。」

「待てよ。20年前の『北ホッサム』族の侵攻は、エドレッド・ヴェルビルスの率いる我ら『セロラルゴ』管区自衛軍が、撃退したんじゃなかったのか?」

「表向きは、そういうことになっているさ。だが実際は、自衛軍と『ザキ』族軍の合同部隊が、『北ホッサム』族を迎え撃ったんだ。しかも戦闘では、主に『ザキ』族が常に最前面に進出して、敵を圧倒したらしいって話だぜ。」

「それでも、自衛軍が『ザキ』族に後れを取るなんて、そんなこと・・」

「いや、エドレッド・ヴェルビルスが統括官をしていた頃ならともかく、今のエドリーの代になって以降は、自衛軍の戦闘能力は低下の一途だ。今では『ザキ』族どころか、『北ホッサム』族にも同等の兵力では、勝ち目が無いかもしれないらしいぜ。」

「ほ・・本当かよ。じ・・じゃあ、もし『ザキ』族が全力で攻めて来たら、俺たちは・・」

「まあ、そうはいっても『ザキ』族も、あっちこっちで航宙民族への討伐戦を繰り広げているし、内部で反乱が起きたって情報もあるから、ここに全戦力はつぎ込めないだろうな。何より、こっちには銀河連邦派遣軍の看板がある。それだけでも、たいていのやつはビビるんだから、『ザキ』族の全勢力が向かって来るはずなんて、ないかな。」

「そうだぜ、連邦の看板を掲げさえしておけば、俺たちは無敵なはずだ。それに加えて、あの虜囚どもも上手く戦力に仕立てれば、仮に『ザキ』族が全力で襲撃して来たとしても、撃退できるはずだぞ。」

「それでも『ザキ』族の戦力を考えれば、ぶつかり合って全く無傷とは、いかないだろうな。そこへ『北ホッサム』族に侵攻されたりなんかしたら、やはり俺たちは、やばいことになっちまうぜ。」

「ま・・まさか、『北ホッサム』族についても、数は多くても頭のわるいやつらの集まりに過ぎないと、俺は思っていたぞ。」

「それも、昔の話だぜ。やつらは、かつては彼我の戦力など全く考えず、闇雲に侵攻を企てたものなのだが、ここ最近では、広く情報を集めてこっちの戦力を分析し、十分な勝算を得られてから攻めるなんて知恵を、付けているらしいからな。『ザキ』族との戦闘による戦力低下は、致命的になるかもしれないな。」

「その可能性を考えると、あの虜囚どもの使い方を、上手くやらないとな。損害はできるだけあいつらに被ってもらって、俺たち自衛軍の傷は軽くて済むような戦い方を心掛けないとな。」

 こんな会話をゴドバンに聞かれてしまうくらいだから、警戒の緩さはかなりのものだ。囚人たちの密かな策動にも、拍車がかかるのは当然だった。

「俺さ、こんなのを作ってみたんだ。」

 虜囚たちだけになった時、ゴドバンはこっそり、手製のナイフを見せてみた。

「なんだ、そんなちっぽけなナイフだけか?」

 他の虜囚たちも、それぞれに小さな武器を作っていた。腕にクロスボウを仕込んでいる奴もいたし、ベルトのバックルからレーザービームを一発だけ発射できるように細工している、器用な奴もいた。

 艦内を輸送される資材などを、バレない程度に少しずつくすねることで、虜囚たちの密かな武装は成し遂げられたのだった。

「お前、腕が良いな。仕事ぶりも素直で真面目だ。お前にはもっと重要で難易度の高い、送弾機構のメンテナンスを任せてやる。」

 武器の作成では一歩出遅れたゴドバンだったが、兵士からの評価では、一歩抜きに出ていたらしい。彼だけが、新たな場所でのメンテナンス作業を命じられた。

(しめた!弾薬に近づける作業に就けたぞ。火薬を手に入れられるかもしれない。こっそり爆弾を作れれば、脱出の可能性はより高くなるぜ。)

 送弾機構は、しかし、全く見慣れない構造や仕組みが多い上に複雑で、華奢なゴドバンには苦しい力仕事も沢山あった。

「何をやっているんだ、貴様っ!ここのシャフトの歪みを、見落としてるじゃないか!」

 力仕事の連続による疲労は、作業への集中を著しく妨げた。ゴドバンにも、ミスをして怒鳴り散らされたり殴られたりする場面が、多発して来る。

「スミマセンっ、注意不足でした!以降、気を付けます。」

 殴られた頬がジンジンと痛み、流れる血の嫌な感触が顎を伝う。そんな彼を見下ろす兵士の、愉悦と優越に満ちた顔に、屈辱の怒りが煮えたぎる。手が震え涙まで出そうになったが、ゴドバンは堪えた。

 強制労働は、どんどん過酷なものになって行った。何度も殴られた痛みに加え、力仕事による筋肉痛もあちこちにあり、全身はズタボロだった。そうなると、食事と睡眠の不足もこたえて来る。疲労が回復せず、ミスは増加し、殴られる機会も多くなる一方だ。

 顔を足で踏みつけられながら長時間にわたって怒鳴られ続けた時など、一か八かで、小さな手製のナイフで切りかかってやろうかと思うまでに、ゴドバンの精神は追い詰められた。

 だが、そこでピークは過ぎた。仕事に慣れてくれば、ミスは減る。力仕事の苦痛も、軽くなってくる。いつしか何事もなく、十時間の労働が終わるケースも出て来た。

(この艦に来て、3百時間は過ぎたぞ。訓練航行の期間は、そろそろ十分なはずじゃないかな?となると、いよいよ実戦か?)

 ゴドバンがそう考えるようになった頃、嬉しい再会があった。

「坊ちゃん、無事だったのか!いやあ、有難てえ。生きていてくれたなんて。」

 送弾機構の終着点、ということは、ミサイル発射用ランチャーの近くあたりになるのだが、そこを点検している時に、ゴドバンは急に声をかけられた。兵士の姿は滅多に見ない場所だから、大声での会話も遠慮なくできる。

 それは良いのだが、彼を一口で平らげてしまえそうな大男が、体を丸めて顔を覗き込んで来る迫力には、ゴドバンは気圧されそうになった。

「ベンバレクじゃないか!ヤヒアとアブトレイカもいるのか。あんたたちも、無事だったんだな。良かった・・良かったけど、坊ちゃんって呼ぶのは、もう止めてくれないか?ただの使用人なんだからよ、俺は、『ムニ』のところの。それに今となっちゃ、囚人でしかないし。」

「そうはいかねえ。『トラウィ』王国にいる『トラウィ』族以外の若僧は、どいつもこいつも坊ちゃんなんだよ、俺たちにはな。」

「それって、 “ 保護者責任 ”の意識なのか、ベンバレク?それとも、戦争に負けたのに助けてもらった民族の “ 負い目 ”から来るのか?」

「おお、何だ、坊ちゃん。会わねえ間に、えらく知恵を付けやがったな。そこら辺のところは、俺たち自身にも良く分からねえよ。だけど、とにかく俺たちはよう、『トラウィ』王国の民衆を、守り抜かねえと気が治まらねえのさ。」

「生まれ持った気質さ」

 ベンバレクに続いたのは、ヤヒアだ。「俺たちの義務感はな。『トラウィ』王国の若者である限りは、どんな身分でも俺たちには “坊ちゃん”だし、命がけで守らなきゃならねえ存在なんだよ。」

「それなのに、手も足も出せねえままに連れて行かれちまって、涙も出ねえくらいに情けなかったんだ。生きていてくれて、こんなに有難いことはねえぜ。」

 アブトレイカも、笑顔を弾けさせている。戦闘艇で出撃して行くのを見たのが最後だった「トラウィ」兵士たち3人の、いずれ劣らぬ巨体が、ゴドバンの前に再来したのだった。

 一番丸顔のヤヒアと、一番面長のベンバレク、その中間くらいであるアブトレイカの顔を、ゴドバンは代わる代わる眺めた。どれも、ジャガイモみたいな印象は変わらない。

「何だか、どいつもこいつも」

 沸き上がる感慨を他所に、ゴドバンが言葉を繋ぐ。「片端から、軍隊に放り込んでいる感じだな、『セロラルゴ』管区自衛軍は。そんなにも急激に、兵力を増強しなくちゃいけなくなったのか?」

「そうだな、知っているわけないな、そこの事情を、坊ちゃんは。」

 ベンバレクが、笑顔で応じた。「挑戦状を、突き付けられたんだよ、『セロラルゴ』管区自衛軍は・・いや、統括官のエドリー・ヴェルビルスが、と言うべきか。自衛軍兵士の多くもまだ知らされていないらしいが、戦力の拡充と戦闘準備を急げ、との命令だけを受けているんだろうな、連中の態度を見ていると。

 いずれにせよ『ザキ』族の長であるトラベルシンから、時と場所を指定しての決戦を、挑まれたことは間違いない。この艦の司令官への通信を、こっそりと傍受してやって得た情報だからな。それも『セロラルゴ』管区からは、ずっと離れた場所での決戦なんだ。」

「そうなんだ!やはり『ザキ』族が動いたんだ。」

 ティミムの顔が浮かんでくる。ゴドバンの胸の内で、誇らし気な表情を作って見せている。

「ああ。俺たちと同じ航宙民族だが、俺たちみたいな敗北者じゃなく、あいつらは航宙民族同士での戦いにも、勝ち続けて来た。勇猛果敢で戦巧者(いくさこうしゃ)だ。『ザキ』族に挑戦されたんじゃ、ここの連中が慌てるのももっともだぜ。」

「それで、兵の経験なんてない俺のような捕虜までも、片端から軍に放り込むことをエドリーたち軍の上層部は決めたのか。でも『ザキ』族は、ここを攻めて来るのではなく、別の場所で決戦に挑むのか。何故だ?」

 ゴドバンのこの疑問に答えたのは、丸顔のヤヒアだった。

「ここを攻めたら、住民の被害が避けられねえからな。エドリーのやつが、どんな卑怯な手段に訴えるかも分からねえし。時と場所を指定しての正々堂々の挑戦となると、正面から受けて立たなければ、エドリーも面子を保てなくなる。統括官の地位も、失いかねねえだろう。奴に鉄槌を下すには、絶妙な戦略だぜ。」

「なるほど。そんな巧妙な策を弄するからには、ただ勇猛なだけじゃなさそうだな、『ザキ』族の長、トラベルシンっていうのは。」

 脱出の可能性が、より高まったように感じたゴドバンだったが、その「ザキ」族の部隊と戦うことになる軍隊に身を置いている彼には、安心ばかりしていられる情報でもなかった。

 あまり長く話し込んでいては、また上官にどれだけ叱責されるかもわからないので、この時はこれくらいの情報交換で済ませた彼らだった。だが、自衛軍兵に気づかれずに話をする機会は、いくらでも作ることができた。ゴドバン同様に、ベンバレク達も従順に振舞っていたらしく、兵たちはすっかり油断して、監視の目を緩め切っていたから。

「あんたたちも、送弾機構に携わっているのか、ベンバレク?」

 再会から数時間後、送弾機構内のとある一角で、彼らは落ち合っていた。1時間くらいならここで話し込んでも怪しまれないように、上手く手を打ってあった。

「いや、ランチャーへのミサイルの装填状態の確認と、独立発射を実施する際に備えての訓練をやってるのさ、俺たちは、この20時間くらいはな。」

 通常は中央指揮室で行われるミサイルの射撃管制だが、状況によっては、艦の最外殻に位置するランチャー部分で独自に実施することもある。それを “ 独立発射 ”と呼ぶらしい。この場所で彼らと再会できた理由も、それで納得がいくというものだった。

「ここ20時間ってことは、その前は、別の部署にいたのか?」

「ああ、もう、たらい回しだぜ。」

 ヤヒアが、腕を広げて首をすくめた。そうとう、うんざりしているらしい。

「拘束された直後に、俺たちはこの艦に連れて来られたんだが」

 面長のアブトレイカが、説明を引き継ぐ。「それ以来、7ヵ所目だぜ、俺たちが送り込まれた部署は。こんなにコロコロ仕事を換えられたら、俺たちだって何も身につかねえっていうのに。」

「でも、やっぱり兵士の経験がある奴は、純軍事的な作業を任されるものなんだな。」

「経験があるって言ってもなあ、俺たちは戦闘艇の操縦が専門だぜ。他の作業もある程度は分かるんだが、十分に習熟するには、百時間くらいは一つの作業に専念させてもらわねえとな。」

「最低限任務を遂行できる程度には、習得できてもなあ、効率良く正確にとか、イレギュラーな事態にも対応するとか、そういうレベルにまで熟達するのは、こんなたらい回しの状況じゃ無理だな。だが実戦に臨むからには、それくらいのレベルになっておかねえといけねえはずなんだがなあ。」

「俺たち以外にも、兵士の経験者が沢山連れて来られているがよう、“多能兵”を育成するなんてほざいてここの上官は、皆に色んな作業をたらい回しにやらせているから、全員が全部の作業を、中途半端にしかマスターできてねえ有様さ。」

 口々にこぼす「トラウィ」兵士たちの愚痴に、ゴドバンも首をかしげた。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2002/11/7  です。

 ジャガイモみたいな顔、とトラウィ兵士3人の顔を表現しました。ジャガイモといったって色々品種もあるのだから、読者様の思い浮かべた顔には個人差が大きいかもしれません。この辺が、小説と映像媒体の作品(漫画とかアニメとか映画とか)との大きな違いでしょう。

 姿かたちに関しては全く同じものを共有できるのが映像媒体ですが、その映像から受ける“印象”は人それぞれのはずです。小説では、「ジャガイモみたいな顔」という印象を共有しつつ、実際に思い浮かべる顔の形は人それぞれなわけです。“姿かたち”の共有と“印象”の共有、どちらが本当に何かを共有したことになるのか、なんて言い出したら頓智問答みたいになってしまいますが、小説を書く身としては、印象を共有でき得る利点を強調したいところです。

 はっきりと映像で形を示すことで、表面的には同じものを共有しているように思える映像媒体の作品ですが、実は違った印象を、作り手と受け手や、受け手相互の間で持ったままストーリーが進んでしまいます。小説では、思い描いた姿かたちは違っていても、同じ印象を作者と読者や読者相互が共有して進められます。トラウィ兵3人の、具体的な顔かたちは違うものを思い描きつつ、ジャガイモみたい、という印象を共有しつつ、そんな3人とゴドバンとの交流を見守ることができるのです。

 映像技術や情報技術の進歩で、映像媒体作品が花盛りとなって小説が隅に追いやられているとも思える時代なので、こんな小説の長所を主張してみました。「ワンピース」や「鬼滅の刃」に人並みにハマっているくせに、そっちには無くてこっちには有るものだって、有るのだ、って宣言したかっただけですが。

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