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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第43話 新王国の初陣

 今ここに誕生した王国の、今ここに即位した王の声を、王国民の全てが耳にした。

「宴だっ、ハッハッハァー!新王国樹立の、星団を網羅する巨大王国誕生の、祝いだぜっ!」

「飲め、ゴドバン!騒げ、歌え、踊り狂えっ、アッハッハッハッハアー!」

 懐かしいクレティアンやハムザが、いつの間にかゴドバンの近くに姿を見せていた。彼と旧知の仲であることで、新王の座上艦で催される宴に招待されたそうだ。新王の即位を寿ぐ宴会が突如勃発し、次の瞬間には最大限のボルテージにまでヒートアップしていたのだ。

 酒や食事も、気が遠くなるほどの量が並べられ、各集団の代表者たちがグラスを重ね合っている。ティミムは新王の肩を抱いて、何やら意味不明の言葉を喚いている。「ハグイ」族の長が、それを見て笑い転げている。

 かつてゴドバンと共に「ラバジェハ」星系で虜囚の身となっていた者たちも、多くがこの宴に顔を見せていた。その中の数人は、「セロラルゴ」管区自衛軍のメテブと旧怨を忘れて、杯を交わしたりしてもいる。

「もっと飲め、坊ちゃん!まだまだ、いけるはずだぜ!」

「うるさいぞ、クレティアン!何でお前に、坊ちゃん呼ばわりされなきゃいけないんだ!」

「そう呼んでいた、あの連中の意志を受け継いでやったのさ、俺とハムザでなぁ!」

「だから、何でお前たちが、『トラウィ』族でもないのに。」

「関係あるか、そんなこと!今や俺たちはみんな、新生『モスタルダス』星団王国の王国民なんだぜ。同じ王国の国民なんだ。一つの絆で結ばれた仲だ。『ザキ』族が『トラウィ』族の意志を受け継ぐのに、何の遠慮がいるんだ!」

「お前まで、そんなこと・・・。坊ちゃんだけは、勘弁してくれよ、ティミム!」

「そんなにまで、大喜びしてもらえるなんてなぁ、俺もうれしいぜ、坊ちゃん。」

「喜んでねえよ、ハムザっ!」

 未だに命を賭した決戦を控えているのだが、いや、だからこそかもしれないが、この宴は、異様な盛り上がりを見せたのだった。



 数日後、「北ホッサム」族を中核とした侵略軍が、未だに百万を下回らない兵力で総攻撃を仕掛けてきた。

 迎え打つ「モスタルダス」王国の、出来上がったばかりの軍隊は、相変わらずトラベルシン直轄軍団だけが先行して突撃して行った。一時は3万近くにまで打ち減らされていた直轄軍団は、「ザキ」族の他の部隊からの補充と再編成を経て、どうにか4万の兵力を回復してはいたが、百万の敵を前にすればゴマ粒のような存在だった。

 そのゴマ粒が、これまた相変わらずの変幻自在な動きを繰り出し、百万の軍勢を翻弄し始めた。右へ、左へ、上へ、下へ、前へ、後ろへ、予測不能の進路変更、変幻自在に曲がりくねる軌道。それも、拡散したり密集したりを、ひっきりなしに繰り返す。

 その速度。その連携。その統率。数の差など、ものともしない。思うがままに、手の上で転がすかの如く、敵を惑乱する。

 だが、これまでの戦闘とは、少し違う。敵に損害が、全く出ない。艦列が乱れ、命令系統が錯綜し、仲間同士の位置関係すらも把握できなくなっていったが、敵は一艦たりとも、ダメージを受けはしない。

 トラベルシンは攻撃をほとんど繰り出さず、ただ敵を惑乱することだけに専念している。弾薬の搭載を極限にまで減らすという、これまでにない策を取り入れたことで、艦の機動性をなお一層高めたことも奏効していた。

 敵がトラベルシン直轄軍団に振り回され、そちらだけに意識を引き付けられてしまい、すっかり周りが見えなくなっている間に、新生「モスタルダス」王国軍は大きく回り込む形で、敵を上から、下から、右から、左から、側面攻撃する位置を確保していた。後ろに回り込んだのもいて、背面攻撃を狙っている。敵の前面に布陣しているのは、もちろんトラベルシン直轄軍団だ。

 自軍の艦の位置関係ですら分からなくなっている敵には、立体的に包囲して接近して来る軍勢に、気付く余裕はなかった。気付かせないままに、プロトンレーザーの射程内にまで、新生「モスタルダス」王国軍は迫っていた。

「全軍、一斉総攻撃に移れぇっ!」

 新王の号令一下、一瞬たりともタイミングを違えることなく、「モスタルダス」王国軍の全戦闘艦が敵へと突進した。ミサイルとプロトンレーザーを、惜しげもなく大盤振る舞いしての突進だ。戦闘艦に搭載されていた戦闘艇も、残らず繰り出している。全艇が、一斉にミサイルを撃ち放っている。

 敵軍勢の右側面に突撃を仕掛けていた統一「トラウィ」王国軍も、全艦を同一平面上にピタリと並べ、最大限の火力を敵に叩きつけた。

「撃てっ!撃てっ!ゴドバン。撃って撃って撃ちまくれぇっ!」

「やってるよ、ホスニー。一気にこれだけ連射したのは、これが初めてだ。砲身が、焦げちまうんじゃないか?」

「構うか。この戦いで使い潰すつもりで、徹底的に連射してやれっ!」

 トラベルシン直轄軍団によって惑乱され切っていて、包囲されているのにも気付いていなかった「北ホッサム」族の軍勢は、この攻撃であっという間に瓦解した。半数以上が遁走を開始する。残った半分のさらに半分が、「モスタルダス」王国軍に降伏を申し入れる。軍としては、完全に崩壊した状態となってしまった。

 壊滅の軍勢にあって最後まで戦い続けている数少ない敵艦に、「モスタルダス」王国軍が群がって行く。袋叩きと言い得る攻撃が加えられる。戦闘艦が、戦闘艇が、当初の陣形など思い出せないほどに入り乱れ、先を争って敵を目指す。

「イィヤっほう!ゴドバン、その艦に乗ってるんだろ。あそこに見えてる敵は、俺たちが先に頂くぜ。お前たちには残してやらないけど、悪く思うな。」

「その声、クレティアンか。お前の戦闘艇団が『トラウィ』部隊と同じ位置にいるようじゃ、布陣なんて無くなっちまったようなもんだな。」

「当り前だぜ、ゴドバン。もう今となっちゃ、敗れた敵の残党狩りと言って良いんだ。陣立てなんぞに構っていられるか。早い者勝ちの撃破合戦だぜ。」

「おぉっ、ハムザもいたか。張り切ってるな。戦闘中止命令が出るまでに、少しでも撃破数を稼いでおくつもりなんだろうな。俺たちの分まで、横取りしてさ。」

「そんなもん、取られる方が間抜けなんだぜ、ゴドバンよ。少しでも手柄が多い方が、新生『モスタルダス』王国軍で、でかいツラをできるってもんだ。見境なく撃破数を稼いでやるぜ、なあハムザ。」

「応よ、クレティアン。この戦闘が終わったら、当分は大規模な戦闘も無いかもしれねえからな。ここは貪欲に、敵を狙いに行かなきゃなあ。」

「あははは、抜け目のないやつらだな、はははは・・」

 苦笑するしかない、『ザキ』族兵士の過熱ぶりだ。「まあ、頑張ってくれよ、クレティアン、ハムザ。俺は戦争が無くなるんだったら、故郷に帰って前までの仕事を再開するだけだから、手柄なんかいらないしな。」

 やり返したゴドバンの言葉は、しかし、半分も聞き取ってもらえなかっただろう。それほどに大慌てで「ザキ」族の兵士たちは、壊滅状態の敵に突進して行ったのだ。

 そしてこれがゴドバンには、クレティアンやハムザとの最後の会話になった。直後に、彼らは戦死してしまったから。

 今回よりはるかに厳しく困難な戦闘を、いくつも乗り越えてきた百戦錬磨のパイロットたちだったのだが、楽勝ムードの戦闘の中で、虚空に散ってしまった。瓦解した軍にあって絶体絶命だった敵艦が、苦し紛れの破れかぶれで放ったプラズマ弾が、運悪く至近で炸裂したらしい。

 明確な標的も定めずに射出されたミサイルだったのだが、センサーか何かがが誤作動でも起こしたものか、尋常でないくらいに迷走した。誰にも予想できない意味不明の軌道で飛んだものだから、熟練パイロットのクレティアンやハムザも、まさか自分たちの方に向かって飛んで来るなんて、思わなかったのだろう。そんな報告を、後にゴドバンは聞かされた。

 それでもまだ、戦闘は終結を見なかった。中核である「北ホッサム」族の軍勢の、更に中核となっていた軍団だけは、しぶとく積極的な抵抗を見せていた。5万にまで減らされたその軍団が、悲壮な終末戦をいつまでも闘い続けていた。

 そこへ、トラベルシン直轄部隊が切り込んで行く。支援艦から補給を受け、十分な弾薬を積み込んで、攻撃力重視の状態に仕立て直した上で、敵中核の撃破を目指した。

「もう、国王陛下は何もされなくても。後のことは、他の軍勢に任せておけば、我が王国に勝利が転がり込むのではありませんか?」

 メテブのそんな意見に構わず、トラベルシンは決死の突撃を敢行していたらしい。

「少しでも早く決着が付けば、失われる兵の命も、その分、少なくて済む。敵においても、味方においてもな。失われる命が少なければ、憎悪の連鎖も小さくなる。悪循環が軽減される。だから、ただ勝つだけじゃなく、速やかなる勝利が必要だ。生まれたての我が『モスタルダス』星団王国の、栄光ある将来のためにな。」

「しかし、何も、国王陛下が御自ら、そんな危険を・・」

「うるさいぞ、メテブ。戦争にあって、先頭に立って命を張らねえような情けねえ王に、我をするつもりか!」

「ははっ!さすがは、われらが王トラベルシン陛下だ。失礼いたしました。それだけのご覚悟ならば、もはや何も申し上げますまい。御存分に、お暴れください。」

 誕生したばかりの国王と参謀役との間に、こんな会話が交わされたというのも、後になってからゴドバンが教えられたものだった。

 せっかく4万に回復した兵力が、またしても3万近くにまで打ち減らされるほどに、最後の突撃は損害の多いものとなった。多くの「ザキ」族が命を散らしただけでなく、国王の座上艦までが中破に至るほどに傷だらけとなった。

 だがその甲斐あって、「北ホッサム」族の長が座上していた艦が、撃破された。それと同時に、中核部隊からも降参宣言が出された。直轄軍団だけを見れば損害の多かった突撃も、戦闘を早期に終わらせる効果はあったわけだ。「モスタルダス」王国軍と「北ホッサム」軍の全体においては、損害を最小限にとどめる結果につながる突撃だったといえるだろう。

 敵の武装解除の確認や捕虜の収用など、残りの作業を他の部隊に任せ、トラベルシン直轄部隊は後方に退いた。ゴドバンは自分の艦を離れて、国王のもとに駆けつけた。

 各集団の長たちも再集合し、国王に勝利の祝辞を言上している場面に、ゴドバンも立ち会うことになった。

「やったな、トラベルシン。いや、国王陛下・・か。とうとう、最大の脅威だった『北ホッサム』を、退けたな。」

「お前まで、国王とか呼んでくれるんじゃねえよ、ゴドバン。『トラウィ』は一応、独立王国なんだから、我は、お前にとっては国王ではないはずだぞ。」

「その件に関してなんだけどな、こっちのガラケル王には、話しておきたい件があるみたいだぜ。あとで正式に通達があるだろうけど、どうやら俺たちの王国は、『モスタルダス』星団王国の中に位置する1つの属国として、一定の独立性は保ちつつもトラベルシン王に臣従するつもりみたいだ。ガラケル王はトラベルシン王の臣下となり、『トラウィ』王国も『トラウィ』公国に、看板を書き換えるってことだな。」

「本当かよ!そんなことじゃ、そっちの一般王国民と『トラウィ』族の約束が、果たされなくなるんじゃないのか?」

「いいや、王国の基本法典を改正すると、ガラケル王は言っていた。『モスタルダス』王国の一員となりながらも、これまで通り『トラウィ』王国における防衛や行政は、彼らが責任をもって担い続けるって内容で、明文化するそうだ。

 それを王国民に示し、裁可をもらった上で実施する手はずで、既に動き始めているらしい。そんな訳で、ガラケル王にとってもあんたは国王であり、俺にとっても王の上の王という存在になるんだ。だから、今後ともよろしく頼むぜ、国王陛下。」

「何だよ、それは、邪魔くせえな。そんな屁理屈はどうでも良いから、お前は今まで通り、我をトラベルシンって呼べ。」

「国王陛下の御命令とあれば、お言葉に従うまでだぜ、トラベルシンよ。」

「わははっ、それで良い。」

 一旦頬を緩めた新王だったが、急に真顔になって続けた。「それからな、残念な報告を、お前にはしなくちゃいけねえんだ。」

「・・そうか。なんとなく、そんな気がしてた。ティミムのやつも、戦死しちまったか。生きていればもうとっくに、連絡の一つもあるはずのタイミングで、何もなかったからな。覚悟はしてたんだ。」

「ああ、済まない。お前の友人を、生きて連れ帰って来れなかった。我の見ている前であいつの乗っていた艦は、敵のプロトンレーザーに射抜かれて、バカでっかい光球になって消えちまった。」

「・・うん、そうか。でも・・もう、誰も恨まないぜ、俺は。『北ホッサム』に殺されたとも考えない。新生『モスタルダス』星団王国の平和な未来のために、あいつは自ら命を捧げたんだ。そう思うことにするさ。この悔しさや悲しみは、王国をより盤石なものにすることにぶつけてやるぜ。」

 ゴドバンも許した「北ホッサム」族は、トラベルシンにも寛大に取り扱われた。族長は艦と運命を共にしていたし、侵略を主導した幹部クラスで生き残った者たちには、厳格な処罰が下されたのであるが、それ以外は誰も、罪を問われなかった。「北ホッサム」族は新たな族長を立てた上での存続が、認められたのだった。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は 2021/7/24  です。

 メテブなんていう今まで全く出て来ていなかったヤツが、いきなりデカい顔している印象かもしれませんが、「新生モスタルダス王国」はセロラルゴ管区が創り上げて来た行政機構の上に乗っかる形で築かれるものなので、そこの元№2(ということは現№1)の存在感は大きいのです。エドリーが腐敗する前まではちゃんとしてた集団の№2だったわけですから、まあそれなりに能力もあるし、№1が見捨てた集団の面倒をずっと見て来たわけだから、性根もそれほど曲がってはいないと解釈してください。エドリーに毒されて一時は道を踏み外したけど、負けた後には反省したってことで。

 クレティアンやハムザは、ご記憶にない読者様も多いかもしれません。初めの頃にゴドバンが虜囚状態から脱する時に共に戦ったヤツらなのですが、死ぬために再登場したみたいになってしまいました。最大の脅威を退けるのに、それなりの犠牲は出ないと雰囲気が表現できないかと思いまして・・。ティミムも、同様の理由でここで死んで頂きました。王の座を得る代償に、色んなものを失ったトラベルシンの心中を察してあげて欲しいところです。

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