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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第41話 援軍の決死

 35万の戦力で2百万の大軍を向こうに回し、トラベルシンはよく持ち堪えていた。実際には「ザキ」族の全軍が、「北ホッサム」の全軍と衝突しているわけではなく、彼の直轄軍団の約4万だけが、敵陣に切り込んで暴れ回っているらしい。

 他の『ザキ』族軍団は、時々前進してやや遠目からのミサイル戦くらいは実施するが、敵プロトンレーザーの射程内に踏み込むほどの進撃は、控えているらしい。

「いつも通りに『ザキ』族軍は、トラベルシン直轄軍団だけが獅子奮迅の戦いぶりなんだな。あとの軍団は『ザキ』族を名乗ってはいても、それぞれが独立性の高い支族を形成しているんだ。直轄軍団の兵士たちほどには結束していないし、トラベルシンに絶対の忠誠を誓っているわけでもないのだな。」

「いくつもの部族が連合した、政治的集団が『ザキ』族だからな。ここ数年で仲間入りした集団や、長年『ザキ』族の一翼を担ってはいても『ザキ』族の長による強い束縛は受けずに、自由気ままに活動してきた支族がたくさんある。」

「結局、トラベルシンが本当に頼りにできるのは、直轄軍団の4万だけということか。それで、2百万の敵を迎え撃たなくちゃいけないなんてな。」

「いや、それが『北ホッサム』族の軍勢も、今前面に出て戦っているのは20万くらいの軍勢だけらしい。『北ホッサム』に付き合って一緒に進軍してきた百くらいの小規模集団どもは、今は戦闘から一歩引いて、遠巻きに見守っているだけらしい。『北ホッサム』族そのものの軍を見ても、全体が戦闘に打って出ているわけではなく、半分以上は見物に回っているようだ。」

「トラベルシンの側だけでなく『北ホッサム』族にしても、政治集団であることに変わりはなく、完全に一枚岩ではないわけだな。表面的な数は巨大だが、嫌々で渋々な同盟勢力や、核となる集団からは距離を置いた支族の軍団が、今回の侵略軍の中にもたくさんいるわけだ。」

「それでも、20万の敵に4万で立ち向かっている戦況だ。トラベルシンも、いつまで持つか分からないぞ。例のごとく、散らばったり密集したりを自在に繰り返し、敵を翻弄しつつ戦力を分断した上で、各断片に集中攻撃を仕掛けているみたいだがな。これを、どこまで続けられるか。」

 2日ほどかけてゴドバンたちが、「モスタルダス」星団の少し外側辺りにある戦闘宙域にたどり着いたとき、トラベルシン直轄軍団は3万2千ほどにまで打ち減らされていた。彼の軍団が2割もの損害を出すというのは、ゴドバンには聞いたこともない事態だ。

「いや、参った。我の座上艦も、3回もプロトンレーザーの直撃を食らって、死を覚悟させられちまった。やっぱり2百万を相手に35万じゃ、しんどいな。」

「実際は、20万相手に4万なんだろ?それでも、無茶な戦いには違いないけどな。普通なら、とっくに全滅してるはずの戦力差じゃないか。」

 トラベルシンの座上艦に招かれたゴドバンは、労うよりも咎めるような口調で、艦の主に語り掛けた。

「なかなか、戦況を冷静につかんでいるじゃないか、ゴドバン。すっかり一人前の兵士だな。いや、結構結構。」

「そんなこと言ってる場合か?なんかもう、勝ち目がない感じになってしまってるじゃないか。今はどうにか敵と距離を置いて、一息付けているけど、次の戦いでは全滅するかもしれないぞ。こんな戦力差で戦うなんて、いくら何でも滅茶苦茶だ。」

「そうは言ったって、2百万で攻めて来やがったんだし、こっちは35万しか用立てられねえんだから、仕方ねえだろう。こっちが俺の直轄の4万しか出さねえ間は、敵も20万くらいしか前に押し出して来ねえのだけれど、それでも圧倒的に不利なんだからな。参ったぜ。」

「参ってるだけか?他に何か、対策はないのか?せめて『トラウィ』王国の全軍が駆け付けるまで、本格的な戦闘を避けていられる時間を稼ぐとか、できないのか?」

「おおっ、良いね、それ。で、どうやったら、そんな風になるんだ。」

「分からないよっ!こっちが聞いてるんだ。」

「あははは、お前に分からんもんが、俺に分かるわけないだろ。」

 かみ合わないやり取りだけでトラベルシンの前を辞したゴドバンだったが、明るく陽気な姿を見られただけで、安心することはできた。

 これが、最強の軍を率いる将というものだろう。どんな劣勢でも、態度や言葉で仲間を安心させたり勇気づけたりできる。苦しい戦況の中で、仲間から最大限のパフォーマンスを引き出すことができる。名将にだけ備わった気質かもしれない。

 戦況が劣勢になればなるほど、味方が苦境に陥れば陥るほど、トラベルシンにはやる気がみなぎり、気分は陽気に、身のこなしは快活になって行くらしい。直轄部隊の結束や練度がずば抜けて高くなるのも、そんな彼の性格に負う部分が大きいのだろう。貴重な逸材だと、ゴドバンも舌を巻く。

 そんなトラベルシンだからこそ、決して失うわけにはいかない。彼の死は「モスタルダス」星団の、破滅に直結しかねない。

 十時間ほどの休息の後、トラベルシンは再出撃して行った。今「北ホッサム」族の大軍の前に立ちはだかれるのは、彼しかいないから、それを止めるわけにはいかない。しかし、彼の死は「モスタルダス」星団の滅亡に繋がるものでもあるのだから、ゴドバンは歯がゆかった。

「俺たちの大隊で、何とかトラベルシンを支援できないものかな。」

「たった、一万でか?」

 ホスニーの、予想通りの否定的見解に、ゴドバンは返す言葉が見つからない。トラベルシン軍団の変幻自在の動きを前にしては、彼らなど支援どころか、足手まといにしかならないかもしれない。

「すごい動きだな、トラベルシン直轄軍団は。2割も撃ち減らされているなど、全く感じさせない。疲れも、一切見せない。圧倒的に多数の敵が、ただ盲目的にウロウロさせられているだけ、という感じだな。」

 エセディリもそう褒めちぎる戦況がしばらく展開し、ゴドバンたちも指をくわえてみているだけの状態だった。が、

「敵勢の後方で、見物を決め込んでいた『北ホッサム』族軍の一部、20万ほどの軍勢が、前進する動きを見せ始めたぞ。このままでは、いつまでも『モスタルダス』での略奪を始められないと業を煮やし、リスクを背負っての戦闘参加を決意したみたいだな。

「やばいな。さらに数をつぎ込んで攻めかかられたら、さすがにトラベルシン直轄軍団といえど、持ち堪えられんかもしれん。」

「そいつらくらいは、俺たちで抑えられないか?」

「俺たちの一万で、二十万をか?」

 ゴドバンに首をかしげて見せたホスニーだが、艦長から支持が届く。

「抑えきれられずとも、時間くらいは稼ごうっていう判断を、3つの大隊の隊長たち全員が、下したそうだ。動き始めた軍勢がトラベルシン軍団を射程に捕らえるのを、少しでも遅らせようって話だ。そのためになら『トラウィ』からの3個大隊3万の兵を、全滅させたって構わない。そんな覚悟を、固めたみたいだ。」

 ゴドバンは、表情を引き締めた。

「命に代えても、トラベルシンを死なせるわけにはいかないものな。俺たちが、ここで体を張らなきゃいけないわけだな。」

 決死の覚悟の「トラウィ」王国軍3個大隊が、「北ホッサム」軍の前進を阻むべく行動を開始した。すると、

「おおっ!こちらも見物を決め込んでいた『ザキ』族の残りの軍が、俺たちの後に続いて、敵の進路を塞ぎに出たぞ。」

 ホスニーの報告には、驚きが隠せない。

「トラベルシンとは距離を置いてる『ザキ』族の支族連中も、この場面では命がけでトラベルシンを守るしかないって考えに、至ったんだろう。こちらも十万くらいが、敵の進軍の阻止に動いた計算だ。これなら、何とか互角に戦えるかもしれないぜ。」

と喜んだのもつかの間、戦闘が始まる前に、更なる別の動きが報じられる。

「敵側も、後方にいた別の20万くらいが、先に動いた20万に合流する構えだ。トラベルシンを、40万で叩く動きに出たぞ。それを俺たちは、10万と少しで阻止しようとしている形勢だ。またちょっと、厳しくなったか。」

 ホスニーのそんな言葉の直後、

「残りの20万も動いたぞ!こちら側も、後方にいた『ザキ』族の軍勢30万強の全てが、トラベルシンを守る動きだ。敵40万対味方35万だ。やれそうだぞ。」

 が、その数分後、

「う・・うわぁっ、敵は、『北ホッサム』に連れてこられた同盟部族どもも、同調し始めた。やばいぞ、軍の総勢は向こうの方が上なんだ。向こうが全軍総がかりで動いて来られたら、こちらはひとたまりもない。2百万を、40万で迎え撃つ形勢になりそうだ。」

 トラベルシンは今、3万で20万を翻弄しているが、そんなことは彼にしかできない。トラベルシン直轄の生き残り3万が20万にやられる前に、その他の「ザキ」族と「トラウィ」王国軍の35万が『北ホッサム』とその同盟勢力の180万に、磨り潰されてしまいそうな形勢だ。

「それでも、やるしかないな。もともとは、時間を稼ぐだけのつもりで動き出したんだ。命に代えても、少しでもトラベルシンを長く生きのびさせるってのが、当初の目標だったんだからな。」

 開き直ったように、ゴドバンは叫ぶ。

「せいぜいしぶとく時間を稼いで、華々しく散ってやろうじゃないか。」

 ホスニーも、覚悟を固め切っていた。

 そこへ、さらなる予想外の続報。

「援軍だ。『トラウィ』王国軍の残りが、全軍で駆け付けて来たぞ。予想以上に、再編成や準備を早くこなしてくれたんだな。『トラウィ』も30万の全軍が、勢ぞろいだ。」

「といっても『ザキ』族と『トラウィ』族を合わせて、兵力65万か。敵は2百万もいるんだぜ。不利なことには、ちっとも変わりがないな。」

 そのまま「北ホッサム」陣営と「ザキ」「トラウィ」陣営の、戦端は開かれた。どちらも見物を決め込んでいたところからの、急に気を変えての進軍だったので、これといった陣形をとることもなく、明確な戦術も戦闘計画もないまま、なんとなくという感じでミサイル戦を開始した。

「最初の内は、ぱらぱらと少ないミサイルしか飛んでこないだろうが、すぐにでも、とんでもない量のミサイルに上下左右前後から滅多打ちにされるようになるぞ。何てったって敵は、こちらの3倍以上いるんだからな。」

 ホスニーが、緊張感をあらわに叫んだ。

「そのミサイル戦の混乱で、敵に砲撃戦の先手を取られないようにしないとな。接近してくる敵は必ず見つけだして、敵より先にこちらのプロトンレーザを命中させないと、あっという間に撃破されてしまうぜ。」

 ゴドバンも、鬼気迫る眼差しでモニターを睨んだ。

「その通りだ、この戦力差だと、一瞬の遅れが致命傷になる。お前の砲撃にも、艦の命運がかかって来るぜ。」

 飛来するミサイルの撃破が、ゴドバンたちの艦の周りに夥しい数の熱源を発生させた。艦体を打ち付ける金属片も、少なからず出てくる。防ぎきれなかった散開弾が、直撃しているのだ。

 それらが、ゴドバンたちの索敵を妨げる。敵の接近を見逃すまいとする、彼らの視界を遮る。損傷させられた索敵システムで、無秩序な熱源が大量に乱舞している空間において、敵艦の接近を察知しなくてはならない。なかなかに困難な作業だ。

 飛来するミサイルが増えれば、索敵の穴はどんどん拡大する。敵を見つけるのは、ますます困難になる。ゴドバンの額にも、嫌な汗がにじんでくる。敵を早期に見つけ、敵より先にこちらの砲撃を当てるなんて、できるのだろうか。

(もうすでに、かなり視界が悪い。これ以上飛来するミサイルが増えたら、敵艦を見落としてしまいそうだ。)

 モニター上は、ノイズだらけだ。ぽっかりと表示が消えてしまっている部分も、いくつもある。熱源も、電場や磁場も、ミサイルなどによって作り出されたものが、あらゆる方向に無数にある。戦闘艦がもし近くに潜んでいても、それらに容易に紛れ込んでしまうだろう。気づける気なんて、全くしない。それでもゴドバンは、目を皿のようにしてモニターを睨み、接近する敵がいないか警戒し続けた。

 しかし、増えるだろうと覚悟していた飛来する敵ミサイルの数は、ある時を境に、思ったように増えて行かなくなった。いや、むしろ、徐々に減っていっている気がしてきた。

(あ・・れ?お・・おかしい・・ぞ。まさか、そん・・なわけ、ないよな。気のせいだよな。3倍以上の敵に囲まれてるんだ。飛来するミサイルは、どんどん増えて行くに、決まっているんだ。)

 だが、やはり増えない。減っているのは気のせいかもしれなくても、増えていないのは間違いない、と確信できた。

(何故だ?3倍以上の敵と、戦っているのに。)

 艦の周囲の索敵にも支障を来している状態では、戦域全体の様子なんて、把握し切れるはずもない。彼の乗る艦から遠く離れた場所での出来事は、全く知る手段がない。その、知る術のない場所で、思いがけないことが起こっていたことに、ゴドバンたちはかなり遅くなってから、ようやくにして気づくことになった。

「敵艦接近っ!射程に入り次第、砲撃する。」

 モニターを見つめたまま、ゴドバンが報告した直後、ホスニーが意外そうに口を開く。

「あの敵、こちらに気付いていないな。大量のミサイルの対処に追われて、こちらが見えていないんだ。」

「そんな・・まさか、あっちがそんな状態になっているなんて、逆じゃないか。向こうはこちらの、3倍以上もいるんだろ?なのにミサイルの対処に、こちらには余裕があって、あっちにはないなんて。」

「とにかく、気づいていないのは間違いない。気づかれる前に、さっさと片付けちまおうぜ。」

 珍しく焦りを滲ませたホスニーの言葉が、戦況への厳しい認識を、彼が継続していると物語っていた。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、  2021/7/10  です。

 2百万と40万の軍勢が対峙しているが、実際にぶつかり合っているのは20万と4万で、あとは遠巻きに見守っているだけ。そこから見物組の一部が参戦の動きを見せると、我も我もと参戦する軍勢が後から後から現れ、なし崩し的に全面対決に。実際の歴史の中にも、こんな感じの戦争はあったんじゃないかと思いつつ、これといった具体例を明示できるほどの深い知識が無いのが歯痒いです。

 でも、関ケ原の戦いで西軍8万と東軍10万がぶつかったとか、ガウガメラでペルシアの20万をアレクサンダーの5万が打ち破ったとか言っても、両軍には色んな事情や野望や都合を抱えた集団がいくつもあって、決して一枚岩ではなかったのだと思います。

 だから戦争は数だけじゃ決まらないし、規模が大きくなればなるほど不確定な要素が増えて行く。そんなリアルをしっかり織り込んだ物語を、未来の宇宙を舞台に描く。こんな試みがどこまでちゃんとできていて、どれだけの人が関心をもってくれるのか、99%の不安と1%の期待を持ちながら、これからも書いて行こうと思います。

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