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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第40話 北ホッサムの進軍

 身構えるゴドバンに気付かぬ風に、トラベルシンが淡々と語る。

「いや、『トラウィ』族だけで防衛を担うという理想にこだわっていては、『北ホッサム』族を始めとした航宙民族から王国は守り抜けぬ、というのが『トラウィ』王国の現実だ。その苦しい現実を直視し、冷静かつ正確に見極めて、胸の痛む決断を下してみせた第1分王国の慧眼を、我は支持する。」

「じ・・じゃあ・・」

「うむ、べつに、友人であるゴドバンが所属しているからとか、そういう理由ではないぞ。」

「分かってるよ、そんなこと。」

「今は、この『モスタルダス』を守り抜くために、あらゆる力を結集すべき時だ。そうしなければ、守り抜けぬところにまで来ている。理想に拘って国民に軍務を負わせまいとする第2の考えでは、この星団の未来は開けない。」

 直轄軍団だけで危険な戦闘を背負い切ろうとする、彼自身の戦いぶりとは矛盾する発言のようにも思えたが、ゴドバンはそれには言及しなかった。それとこれとは、別の話だとの理解があったから。

「国民を戦場に送って危険に晒したり、国民の手を血で穢したりしてでも、防衛を優先した第1分王国を支持してくれるんだな。」

「私が第1を支持したところで、第2分王国のブアジン王は、降伏などはしそうにないか?命ある限りは、あくまで戦い抜くつもりなのか?」

「敗れた王族は死に絶えるべきだというのが、『トラウィ』王家の矜持だからな。そうじゃないと、統一された後の王国に火種を残すことになる、と考えている。だから、降伏して生き残ろうとするなんて、あり得ない。負けた者は死ななきゃならない。生きたいなら勝つしかない。そんな意気込みで、ブアジン王は戦いに臨むだろうさ。」

「そうか。殺さねばならないか。何の恨みもないどころか、王国民を戦果に巻き込まぬ決意を貫く姿に、敬意をすら覚えていた相手であるのに。」

 銀河連邦に代わって「モスタルダス」の防衛を担った者にとって、それは、背負わざるを得ない咎だった。沈痛なトラベルシンの顔には、それに向き合う覚悟も見て取れた。



 決断してからの行動は、疾風のごとくだった。ゴドバンが「トラウィ」王国から「ザキ」族の本拠宙域にやって来るのにかかったよりも、ずっと少ない日数で、「ザキ」族軍は「トラウィ」王国内に踏み込んだ。

 トラベルシンは、「トラウィ」王国には直轄の軍団だけを引き連れて乗り込み、後の軍団には「北ホッサム」族への対応に当たらせたのだが、直轄だけでも総兵力は4万であり、戦闘艦にすれば3百近くにもなる大所帯だ。これだけの大軍を引き連れてのこの迅速さは、神がかり的といって良い。

 トラベルシンが行動を急いだのも、訳あってのことだ。「北ホッサム」族が星団のすぐ外に結集させてあった大戦力が、ほんの一部ではあるのだが、前進を開始したという報がもたらされたのだ。「トラウィ」の統一は喫緊の課題となった。「ハグイ」族への遠征には百艦弱、兵力にして1万5千くらいしか率いなかった彼が、直轄軍の総兵力4万人3百艦を全て投入しているところにも、事の重要性が示されている。

 前進を開始したという「北ホッサム」部隊の件は、確かな情報だとトラベルシンはゴドバンに伝えていた。『北ホッサム』族にも内通者はいるし、近くに居を構える航宙民族のいくつかも、『ザキ』族に情報を提供してくれている。トラベルシン直轄軍団が派遣している偵察部隊からの情報とも合わせて精査すると、後に「北ホッサム」族の全軍が侵略に打って出ることを想定した上で、件の部隊が前進していることも疑いのない事実らしい。

「いよいよ、激突だ。『北ホッサム』族と『モスタルダス』星団の、一大決戦が始まるんだ。はやく『トラウィ』の内紛にケリをつけないと、このままでは・・・急いでくれ、トラベルシン!」

 どちらを支持するのかを公式には表明しないままで、「ザキ」族軍は進軍したので、第2王国軍も迎撃態勢を敷けない。相手に行動させないうちに、あっという間に有利な包囲態勢を「ザキ」族軍は構築してしまった。

「卑怯なやり方ではある。第1分王国支持を表明してから進軍するのが、正々堂々とした戦い方なのは、間違いない。だが今は、少しでも短期に、できるだけ両軍の被害を少なくしてこの戦いを終え、『トラウィ』王国の再統一を成し遂げなければならないのだ。」

 トラベルシンの苦し気な言葉を、彼の座上艦でゴドバンは受け止めた。彼の直轄軍団に便乗して、ゴドバンも「トラウィ」王国への帰途に着いたのだった。

「卑怯かどうかとか、構ってられないんだな。『北ホッサム』の脅威が目前のこの時に、正々堂々なんて、言ってなんかいられないよな。」

 その道理は、ゴドバンにも理解できた。そして、正々堂々と戦っても間違いなく勝つであろうトラベルシンの軍が、卑怯と自分でも認める戦いをしなければならない。そのことの苦しさも、同じくらいに理解できる。

 トラベルシンもゴドバンも、決してやりたくなどない卑怯な戦い方を、今はやらなくてはならないのだった。

 完全に「ザキ」族と「トラウィ」第1分王国に有利な布陣が完成してから、トラベルシンは第1分王国支持を公式に表明した。

 第1分王国の王城近くに築かれていた、第2分王国の橋頭保になっていた前進基地も、第2分王国の本国にある王城も、圧倒的に多数の敵に囲まれてしまった状態となった。

 特に第2分王国の王城は、無敵のトラベルシン直轄軍団に、目と鼻の先にまで迫られていた。誰がどう見ても、ブアジン王には勝ち目のない状況となった。

「投降する。助けてくれ。」

 第2分王国から逃げ出して来る兵たちも、続出した。

「いくら結束の固い軍勢だとはいっても、こういう手合いがゼロというわけには、いかないな。」

 トラベルシンが、感情を抑えたつぶやきを漏らした。

「その者たちは、第1分王国が送り込んでいたスパイどもだ。トラベルシン殿の手で、厳しく処罰されることを期待する。」

 第2分王国からは、そんなメッセージが来る。

「それが本当だったら、逃げて行くこいつらを、背後から攻撃すれば良いのだ、第2分王国は。このメッセージはむしろ逆に、こいつらが第2分王国を裏切った者たちではないことにして、投降した後に第1分王国で不利な扱いを受けないようにしているのだな。第1分王国のために働いていたスパイだったことにされてしまえば、第1分王国としては、こいつらを厚遇しなくてはいけなくなるからな。」

「自分たちを見捨てて逃げ出したい者には、自由にそうさせておいて、寝返った後にも不利益が生じないような気配りまでして、ブアジン王は、犠牲を最小限にした戦いに臨むつもりなんだな。」

「なんと潔い、なんと慈悲深い、なんと高邁な王であることか。心より尊敬する。最大級の賛辞を贈りたい。だが今は、彼らを粉砕しなくてはならない。」

 逃亡してきた全敵兵の収用を確認すると、トラベルシンは進軍を命じた。圧倒的に少数となった敵も、王城を背にして迎撃戦に打って出た。

「せめて、我が直轄軍だけで、相手をしよう。」

 ブアジン軍は50個ほどの戦闘艦しか、もはや保有していないらしい。それに対し「ザキ」族と第1分王国の連合軍は、千を軽く上回る戦闘艦を保有している。

 だがトラベルシンは、彼の直轄軍団にある3百個の戦闘艦から50個だけを抽出して、ブアジン軍を迎え撃つことにした。卑怯でも絶対に勝たなければ、それも、早期の決着を期さなければならないトラベルシンなのだが、寡兵を大軍で袋叩きにすることだけは、したくないらしい。

 戦闘艦の数は同等に仕立てたのだが、やはり戦闘は、トラベルシン直轄軍団が圧倒した。

 特別な戦術を繰り出したわけではない。敵の意表を突く奇策など、一つも弄してはいない。だが、操艦の妙において、射撃の精度において、各艦の連携の緊密さにおいて、ことごとくトラベルシン直轄軍団がブアジン部隊を上回っていた。それも、大幅に。

 ブアジン軍とて、弱いわけではない。並みの航宙民族が相手なら、兵力が同数の戦いでも何度も勝利を収めて、防衛責任を果たしてきたのだから。トラベルシン直轄軍団の強さが、常軌を逸しているとしか表現できない。

 圧倒されても一歩も引かず、戦いをやめようともしないブアジン軍は、一時間を少し超えたくらいの戦闘で、全滅してしまった。王の座上艦が3つに割れ、猛火に包まれていく様を、ゴドバンはトラベルシンの隣で見つめることになった。

「お見事でした、『ザキ』族の長、トラベルシン殿。統一の果たされた我が『トラウィ』王国の未来を、なにとぞ、お頼み申し上げる!」

「分かっております、ブアジン王!必ず、お約束致します。尊敬するあなたが手塩にかけて守って来た『トラウィ』王国を含めた『モスタルダス』星団を、このトラベルシン率いる『ザキ』族軍が、必ずや守り抜いて見せます。どうか、心安らかにお逝き下さい。」

 ブアジン王が断末魔に寄越した通信に対する、トラベルシンの返事だ。それが、どれだけ伝わったかは、分からない。どうやら、彼の発言の途中で、ブアジン王の肉体は消滅してしまったらしかった。

 それでも、そうと分かっていながらも、トラベルシンは最後まで言わずにはいられなかったみたいだ。

 第1分王国の王城を脅かしていた第2王国軍部隊も、ガラケル王直轄の軍勢に殲滅されたとの報を受け、「トラウィ」王国の内紛は終結が確認された。

 ブアジン王直轄部隊からの投降兵は、全員不問に付されることとなった。何事も無かったかのように投降の翌日から、ガラケル率いる軍の兵士として、精力的に勤務し始めた。全員が以前からずっとこの軍隊にいたかのように優秀な働きぶりを見せていると、ガラケルはトラベルシンに報告した。

 その軍隊は第1分王国軍ではなく、統一「トラウィ」王国軍ということになる。王国分裂の時代は終わり、1つの王国がガラケル王のもとに、一致団結する体制が確立したのだ。兵力30万、戦闘艦にして2千近くを擁する軍隊が、統一された王国の防衛にあたることになる。

 といっても、戦闘を終えた直後であり、第2分王国からの投降兵を受け入れたばかりでもある統一「トラウィ」王国軍は、すぐには活動を開始できなかった。

「もうすでに『北ホッサム』軍の一部は、『モスタルダス』星団の中に踏み込んで来ているのだ。一刻の猶予も無い。我ら『ザキ』族の軍だけで、先行して迎撃に向かっているぞ。準備でき次第『トラウィ』王国軍も、追い付いて来てもらいたい。」

 トラベルシンはそう言い残し、あわただしく出立して行った。

 彼の軍とて、第2分王国軍との激闘を終えた直後である。「トラウィ」第1分王国軍などとは比べものにならないくらいの、真剣勝負を繰り広げたのだ。それにもかかわらず、統一「トラウィ」王国軍よりはるかに早く態勢を立て直し、軍備を整え、進発して行った。

「やはり、彼の手勢は別格だな。統率においても、練度においても、我が軍をはるかに上回っている。」

 エセディリ艦長の評価を耳にしながら、本来の居場所に戻っていたゴドバンも、彼らの中型戦闘艦の進発準備を完了させるべく、作業を急いだ。

 戦況は、トラベルシン部隊から続々と送られてきた。

 先行していた『北ホッサム』族軍の前衛部隊は、トラベルシン直轄軍団が到着する前に、『ザキ』族のいくつかの支族によって構成される軍勢に、追い返されていた。本格的な戦闘には至らず、『ザキ』族軍を見るや否や回れ右をして、星団から出て行ってしまったそうだ。

 先行の軍勢と合流した上で、星団の外に繰り出していったトラベルシン直轄軍団が、そうした報告を入れて来たのだった。

「なにっ!兵力2百万以上だとっ!」

 戦況報告に付け加えられていた数字に、エセディリ艦長が喚いた。「以前の情報を、はるかに上回っているではないか。戦闘艦の数にすれば一万をはるかに上回るだなんて、我が『トラウィ』王国軍の6倍以上だ。そこまでの大軍を本当に動かしてみせるとは、『北ホッサム』族はやはり、恐るべき存在だったな。」

 焦燥を露にした艦長に向かって、ホスニーが説明を加える。

「どうやら『北ホッサム』族だけじゃなく、周辺の小規模航宙民族が、多数合流しての進軍だったらしいです。俺たちが名前も知らない連中も含め、百近い集団が『北ホッサム』と同盟を組んで、『モスタルダス』を狙っているってことです。」

 ゴドバンも、悲観的な見解を付け加えなければならなかった。

「トラベルシンは、先行させてあった直轄以外の『ザキ』族部隊と合流して、『ザキ』族の総力で戦いに臨んでいるみたいだけど、それでも、敵の2割にも及ばない戦力だ。いくら無敵の『ザキ』族軍だとは言っても、この戦力差では・・・」

「進発を、急がねばならんな。全軍の準備が整うのを、待ってはいられないかもしれん。準備ができたものから順にでもトラベルシンに合流しないと、彼がやられてしまってから戦場に到着しても、勝ち目がないぞ。」

 その意見は、ガラケル王も思うところであったらしく、大隊単位での準備が整い次第、他を待たずに進発するようにと、全軍に命令が下った。

 第1派の3個大隊約2百艦が、命令伝達の5時間後に進発を開始した。ゴドバンたちの小隊も、その中に含まれていた。兵力にすれば3万余りとなる。

「2百万の敵を35万で迎え撃っているトラベルシンに、3万と少しの兵力で援護に向かうってことか。なんだか、焼け石に水って感じだな。」

「それでも、行かない訳には行かないし、行かないよりはマシなはずだ。」

「トラベルシンがやられちまったら、『モスタルダス』も終わりだと思わないといけないんだもんな。俺たちの3万で盾になって、全滅してでもトラベルシンを生き残らせるくらいの気合で、戦場に繰り出さないとな。」

 視線を交わしたホスニーとゴドバンは、互いの情熱を確かめ合った。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、2021/7/3 です。

 今回も兵力や戦闘艦などの数に関する記述が多く、作者は書いていて頭が混乱しましたが、読者様はどうでしょうか?

 少し前に、トラウィ王国に侵入して来た北ホッサムの戦闘艦を制圧した時、彼らに百万の兵力があるとの情報を見つけてゴドバンたちが驚いていたことを、思い出して頂けたでしょうか?あの時にも驚いたのに少しの間に倍の兵力を得ていたから、エセディリ艦長は喚いていたのですが、伝えることはできていたでしょうか?

 トラベルシンの軍団が数倍の敵でも倒せると書いてきましたが、それは直轄軍の4万人の兵力においての話で、今はザキ族軍全体の35万で2百万もの敵を迎え撃っているわけだから大ピンチなのですが、危機感を表現できていたでしょうか?

 宇宙での戦闘を描くのに人数で表現するのが適当なのか、戦闘艦などの数で表す方が良いのかも、ずいぶん迷いました。結局両方並記する形になってるわけですが、人数と艦数の比率が毎回まちまちになっていてややこしくなっているでしょうか?戦闘艦にも大型中型小型とあるし、同じ艦でも乗り組む人数が一定とは限らないから、比率は一定でなくても良いと作者は勝手に決め込んでいるのですが、読者様にはご納得頂けているでしょうか?

 等々、不安は尽きない状況ですが、ゴドバンたちの決死の覚悟だけでも感じ取ってもらえていれば良いなと、作者は切に願っています。

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