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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第37話 ソフラナの微笑

 視界の隅でソフラナを意識しながらも、ゴドバンはトラベルシンとの話を続けた。

「まあ確かに、すでに滅んだ第3分王国の王女を妻にしたところで、『トラウィ』族との友好強化につながるとは思えないものな。」

「ああ。今の状況じゃ第1と第2の、どちらが王国を統一するのかも分からない。妻をもらっての連携強化には、踏み出しにくいぜ。」

「とにかく、早く『トラウィ』族が統一を回復しないといけないな。でないと、『ザキ』族と『トラウィ』族の連合で『北ホッサム』を迎え打つという態勢が、作り出せない。」

「それだ。『トラウィ』族の分裂ってのが、今は最大の問題だ。『トラウィ』の軍に属している、お前の意見を聞きたいところだ。いつ頃、どちらが王国の統一を成し遂げそうか。」

 この話題に映ると、トラベルシンも周囲の様子をうかがう目の動きを見せた。

 宴の場には、第1と第2の分王国からも、何人もの将兵が招かれていたが、どちらの軍の上層部にも、この手の話は聞かれたくないだろう。豪胆に見えるトラベルシンであっても、族長としての政治的な駆け引きからは、無縁ではいられない。今の段階で「トラウィ」族内部の問題に口をはさむような真似は、将来の同盟を危うくする可能性がある。

「そんなこと、最下級の一兵卒に意見を求めるような問題か?」

「あはは、お前の言葉を、そのまま真に受けはしないさ。あくまで、参考意見だ。」

「ただの参考ってことなら、個人的な感想を正直に言うけど、今のところ第1の方が優勢に見えるな。第1の方に所属しているから、そう思うのかもしれないけど。でも、ここ最近の戦況では、ずいぶん第1が押し気味に進んでいるのは間違いない。」

「そうか、俺もな、お前たちの『ハグイ』族との戦いぶりを『ハグイ』側の端末に残っていたデーターなどから検証してみたのだがな、将官の組織管理に関する技量や責任意識は、第1の方がかなり高い水準だと思った。総兵力の面でも、第1は第2を上回っているようだしな。『トラウィ』族だけで固めていることによる第2の団結力を計算に入れても、第1の方がやや優勢か。」

「そうなると『ザキ』族としては、第1に肩入れをすることで『トラウィ』の再統一を、加速させる動きに出たくなりそうだな。」

「あまりそれは、したくないところだがな。他所の王国の統治のあり方に、口をはさむような真似は。だが『北ホッサム』侵略に間に合わなければ『モスタルダス』星団自体が危ういとなると、そうも言ってはいられん。まだ、何も決めていないし、様子を見ている段階ではあるが、どちらかに肩入れして再統一を速めるというのも、考えないわけにはいかないかな。」

「というか、トラベルシン、あんたはもう『モスタルダス』星団のあらゆる問題に、口をはさんで行かなくちゃいけない立場なんじゃないのか?連邦との最後のつながりともいえる『セロラルゴ』管区の自衛軍を打ち負かした時点で、この星団を代表する最大勢力は『ザキ』族となったのだし、星団防衛の最高責任者だと、この星団の多くの住民が考えているんだ。ある意味『モスタルダス』王国の、王なんていう立場にすらも、なるんじゃないのか。」

「ははは、いやいや、それはできれば、御免こうむりたいな。先の戦いでは連邦派遣軍の総司令長官を宣言して見せたが、実際にも俺の気持ちは、銀河連邦の地方官の1人として、『モスタルダス』防衛の一端を受け持っているだけのつもりなんだ。この2百年あまり『ザキ』族は、銀河連邦の同盟者として連邦の指示に従って、『モスタルダス』防衛に努めて来たのだが、それを、これからも続けるという形が望ましいと思っている。最大勢力だろうと多くの防衛実績があろうと、しょせんは航宙民族の末裔でしかない『ザキ』族の長である俺が、『モスタルダス』全体の統治なんて背負えるはずがないじゃないか。」

「でも誰かが全体を統括しないと、『モスタルダス』は防衛も発展もできないんじゃないか?どうしたって、集団にはリーダーが必要なんだぜ。民生面での統括も誰かがやらないと、星団全体の力を結集できない。それじゃ、軍事的な力だって十分に発揮できず、『北ホッサム』族などからも星団を守り抜けないじゃないか。」

「そこはだな、あくまで銀河連邦の一地方官として、連邦の看板を背負ってその神通力を借りる形で、『モスタルダス』の力をできるだけかき集めて、防衛責任だけは果たしていくつもりだ。連邦の肩書を借りたとしても、俺たち『ザキ』族にできるのは、防衛だけだ。民生面での統括は、何か別の方法を考えるしかない。ソフラナの力を借りて統治の能力を高める努力はしたが、直轄領の安定性や生産性を高めるのが精一杯だ。やはり、星団全域には手が及びそうにはない。今俺は、それを痛感しているのだ。」

 その言葉にこそ、現実を見据えた一流政治家としてのトラベルシンの技量が示されているようにも、ゴドバンには思えた。少なくとも、野蛮な航宙民族を率いるだけの者には、これほど冷静に現実を見据えた考え方など、できるわけがないと思った。

 統治者にはなれない、とは言っていても、どうすれば「モスタルダス」全体をまとめ上げ治めることができるか、という自問自答は何度も繰り返していると見える。それを推測させるのが、今のトラベルシンの言葉だった。

「じゃあ、やはり『トラウィ』王国の内部問題には、首は突っ込まないつもりなんだな。」

「部外者が、それも、もと航宙民族だった奴が首を突っ込むには、複雑すぎる問題だろう。一般王国民を巻き込まないって正義を国王が潔く貫いていて、その方針に心酔した兵が強力に団結している第2分王国と、なりふり構わず軍を増強し、国の防衛の達成に専心している第1と、どちらが正しいかなんてな。どちらかを支援するなんて、俺には判断がつかねえぜ。」

 この発言における言葉の選び方や、表情の変化からは、トラベルシンが第2分王国に対して、より同情的で好意的な気持ちを持っていることは察せられた。彼も、最も困難な戦いは、直轄軍だけで切り抜けようとしている。ブアジン王の考え方の方が、彼の価値観に近いと言えるのかもしれない。

 しかし表面上の中立は、現段階では崩すつもりはないらしい。これ以上このことについて問いただすのは、トラベルシンを苦しめるだけだと思ったゴドバンは、話を変えることにした。

「防衛に関して、星団内の各集団に負担を求めることも、『ザキ』族はやらないつもりなのか?兵を派遣できる集団にはそうしてもらうとか、できないところにも、せめて経費だけでも負担してもらうとか。そうやって星団の全力を結集しないと、『北ホッサム』族からは防衛し切れないんじゃないのか?」

 ゴドバンの周囲からもしょっちゅう漏れていた疑問を、この機会に彼はぶつけたのだった。

「だから、もと航宙民族の末裔なんだぜ、『ザキ』族なんてのは。連邦派遣軍の称号を得たとしても、その事実が変化するわけじゃねえんだ。その俺たちが負担を求めるなんてことして、誰が快く受け入れるんだ。統一できた後の『トラウィ』とは同盟する予定だし、それ以外にも、自分から負担を申し出て来る集団などとは協力関係を築くつもりだが、こちらから要求なんぞしねえさ。そんなことをしたら、星団の力を結集するどころか、分裂を助長する結果になりかねねえじゃねえか。」

「じゃあ基本的には、あくまで『ザキ』族と自発的な協力者だけで、星団の防衛を担うつもりなのか。星団内の多くの集団には負担の要求をせず、星団における民生面の統治もやらず、これまで通りの傭兵的な立場で、航宙民族を掃討する活動だけを続けるのか?」

「俺たちには、それが精一杯さ。民生面の統治を担うとか、各集団に負担を求めるとか、そんなのは誰かに任せるさ。まあ、今は星団中に散り散りに逃げて行っちまっている『セロラルゴ』管区の役人どもが、いずれは再集結して、やってくれるかもしれねえしな。もしくは、統一を果たした後の『トラウィ』族なら、それを果たせるんじゃないか?一応は国ってヤツを運営しているわけだし、統治下に置いている民衆の数では、『ザキ』族よりもずいぶんと多いのだからな。どちらかというと『ザキ』族よりは『トラウィ』族の方が、星団全体の民政を担う能力は高いだろう。ソフラナを見ていても、そのことは実感しているんだぜ。」

「いや『トラウィ』族は、王国民への恩義があるからこそ・・・・星団全体となると、どうかな?『セロラルゴ』管区の役人たちってのも、期待して良い存在なのか、本当に?」

「俺たち『ザキ』族よりは、だいぶんマシだろ。」

「そうなのか?」

 色よい結論は出ないままだったが、これ以上はこの件も、議論の余地はなさそうだった。

 政治や軍事にまつわる話が一通り済んだと見えたところで、ソフラナがゴドバンに話しかけてくることもあった。

「私たちの第3分王国が倒れてしまったことで、あなたの仕事場やご家族の方々に、何かご迷惑をおかけしたりはしていませんか?第2分王国のブアジン王は、一般王国民を巻き込まない決意を健気に貫かれておられるようですが、第1分王国の方では、そうではないのでございましょう?」

 微笑みを崩さずに問いかける目の奥に、深刻な憂慮をにじませるソフラナに、ゴドバンはしかし、ただ単純に男子として魅惑されてしまうばかりだった。

「だ・・大丈夫ですよ。第1分王国の人たちも、ムニ一族の所領経営や俺の家族の生活などに影響が出ないように、細心の注意を払ってくれていますから。」

 答えながらも、瀟洒なドレスの襟元から覗くまばゆい胸の谷間に、目を奪われるのをどうしても止められない。真っ白な2つの半球の接触面に生じるやわらかな漆黒は、今日もブラックホールさながらにゴドバンを吸引していた。

「そうですか。それは良い報せでございますわ。軍への入隊も、第1分王国に強制されたものでは、ないのですね?」

「もちろんです。俺が自分の意志で、決めたことです。家族の反対を押し切ってまで、俺は自分から軍に入ろうと決意したんです。」

「まあ、ご立派ですわ。一般王国民を巻き込む第1分王国のやり方には、わたくしも強い危惧を抱いておりました。ですから第3分王国が統一を成し遂げることで、それをやめさせなければと考えていたのです。ゴドバン様が無理強いをされてはいないと伺えて、少し安心いたしました。本来は『トラウィ』族だけで背負わなくてはいけないものを背負わせてしまって、心から申し訳なく思っていたのです。」

 ずっとそのことが気にかかっていた、というのが伝わるほどに安心した表情を、ソフラナは見せた。言葉にすれば“ 微笑み”としか表現できない顔つきの中で、彼女はめまぐるしく表情を変えていた。豊かで奥深い感受性の存在を、知らしめて余りあるものだった。

 なのにゴドバンの視線は、表情の変化などそっちのけで、胸元ばかりに釘付けだ。ゴドバンの顔色をより間近で見ようとする彼女の仕草は、更なる前のめりの姿勢を引き出していて、意図してかせずにか分からないが、これでもかと言わんばかりの谷間の強調に結実していたから。

 強引に視線を転じてみると、今度は、露になっている鎖骨から肩のあたりのラインに、ゴドバンの目は釘付けになる。そこの肌のきめの細かさや、柔らかな質感も、彼にはたまらなかった。どこに視線を移しても、ソフラナはゴドバンを執拗に束縛してしまうらしい。

 声を聞くだけでも口角が、経験したことがないと思える角度にまで引き上げられてしまうのを、ゴドバンは意識する。ニヤニヤしている。デレデレしている。だらしない顔になってしまっている。そんな自覚が、内心では吹き荒れている。

 周囲の男たちの、無論トラベルシンを除く男たちなのだが、彼らのソフラナに向けられた、だらしないデレデレ顔に気付きながら、自分もそれと同じになってしまっているのだと思うと、ゴドバンは自己嫌悪を止められない。居ても立っても居られず、今すぐここから逃げ出したい気分になった。

「以前には『セロラルゴ』管区自衛軍を相手に、捕虜という立場でありながら奮戦なさり、今は王国軍で、立派に任務を果たされていると伺っております。一般王国民であられるのにもかかわらず、いつだってゴドバン様は、我ら『トラウィ』族の力不足を補って、素晴らしいご活躍を見せて下さるのですね。わたくし、心から感激いたしておりますのよ。」

「え・・あ、いや、その・・そんな、大した、えへへ、いやあ・・・」

 落ち着き払って話す彼女に、しどろもどろの彼が応じる。まるで大人と子供の様相だ。年齢は大して変わらないと思われるのに、あまりにもの格差だ。

 自分の状態に深く恥じ入る一方で、告げられた言葉には、素直な喜びも沸き上がる。すらすらとした口ぶりから、お決まりの社交辞令を述べただけとも受け取れるのだが、それでも嬉しい。社交辞令であったとしても、名前や経歴を記憶してくれていたのは事実だ。立場の違いを考えれば、それだけでも夢のような厚遇だ。

 ソフラナの瞳や声にこもった温もりにも、ゴドバンは親しみや嬉しさを掻き立てられた。全く立場の違う自分に、こんなにみっともないデレデレ顔を晒している自分に、無数の兵士の一人でしかない自分に、身に余る慈愛を注いでくれていると感じた。

 その思いがゴドバンのデレデレを、なお一層加速する。顔から火を噴くかというほど発熱してしまい、顔が溶けて流れ落ちて行くかとまで思えるくらいに緩み切ってしまう。

(もう本当に、これ以上ソフラナの前に居たら、ダメだ!おかしくなってしまう!逃げなくちゃ!逃げなくちゃ!逃げなくちゃっ!)

 和やかな会食の時間を、逃避衝動のみで過ごしたゴドバンは、お開きの声を聞くや否や、矢のような速さでその場を辞した。

(なんていう完璧な気品と、底なしの優しさだったんだ。)

 少し落ち着いたところで、ゴドバンは思った。(彼女自身、家族を殺され、奴隷に身を落とし、見ず知らずのもと航宙民族に嫁がされ、なんていう苦難を経て来ているのに、それを全く感じさせない。その彼女にデレデレすることもなく、冷静に能力を見極め、ふさわしい活躍の場をトラベルシンは与えてあげているんだ。本当に、全く、適わないよな・・)

 ただひたすらに彼我の格差を、噛み締めるしかないゴドバンだった。

 今回の投稿は、ここまでです。  次回の投稿は  2021/5/12  です。

 トラベルシンがモスタルダス星団全体の統治を引き受けようとしない理由に関しては、ものすごく歯切れの悪い、煮え切らない、あるいは消極的で無責任な感じになってしまったように思えます。英雄として描いているのだから、もっとそれにふさわしい感じに描いた方が良かったのかもしれません。ですが、口ぶりだけは歯切れがいいけど事の重大さや複雑さをわきまえないまま重要なポストを引き受ける、いわゆる安請け合いする人物には、トラベルシンを描きたくはありませんでした。

 事の重大さや複雑さをわきまえている人は、そう簡単に重要なポストを安請け合いしないものではないでしょうか?慎重さとか思慮深さを備えさせることで、リアリティーのある英雄像を目指してトラベルシンを描いているつもりなのですが、どんなふうに読者様には受け止められているでしょうか?ただの訳の分からないヤツになってしまっていたとしても、全て作者の責任です。


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