第30話 ブムニジェルの戦歴
大盛り上がりの宴の席で、ほろ酔い加減の兵士から軽口の一つも漏れるのは、自然なことだった。
「この分なら、第1分王国が第2を打倒する日も、近そうでありますね、艦長。ついに『トラウィ』に統一がもたらされ、航宙民族への備えも、強化できるってもんだあ。」
「あははは、あまり調子に乗りすぎるなよ、ブムニジェル軍曹。『トラウィ』族以外からも兵員を募集している分、戦力的にはこちらが有利だが、一般王国民を巻き込まずに戦い抜くとの決意を貫いているブアジン王には、強い信望を寄せている兵が沢山いる。第2分王国のその結束力が、最も活かされて来るのが今後の戦いだ。」
「一般王国民が兵になっていることの弱点とか、隙とか、そういうのが表面化するのも、これからかもしれませんね。俺も、今まで以上に気を引き締めないと、これまでのようにはいかないかもしれない。」
「おおっ、ゴドバン二等兵、素晴らしい心構えではないか!一般王国民からの兵に、そんな立派な考えを持ってもらえていれば、我々も心強い。『トラウィ』族だけで戦い抜けていないことには我々も、常々心苦しさを覚えているのだ。
第1と第2の、どちらが正義か、どちらにより『トラウィ』族らしさがあるか、と問われれば、正直私には、第2分王国に軍配が上がるのではないか、とも思うことがある。それでも、より強力な体制で王国を統一し、航宙民族からの防衛を成し遂げるためには、それは必要悪なのであると考え、私は第1分王国を支持した。
ゴドバン二等兵の言葉や仕事ぶりは、そんな私の考えが正しかったのだと、確信させてくれるものだ。いやあ、実に心強い!」
アルコールの回った艦長に、いつも以上に褒め千切られ、ゴドバンは頭を掻くしかなかった。
「確かに、一般王国民を巻き込まないという正義を掲げる第2との戦いにおいては、ゴドバンのような国防への意識の高い一般王国民からの兵士は、俺たちの精神的な面に関しては、大きな武器だ。ゴドバンがいるから、俺たちは自分の判断を信じて、力いっぱいに戦えるんだ。」
ホスニーにまでこうやって持ち上げられるとゴドバンは、血が出るくらいに頭を掻かなければならなかった。
ほろ酔いのままベッドに横たわっていたゴドバンは、しばらくウトウトしたところで、端末を操作するパチパチという機械音に気付いて目を開けた。宴会が終わって自室に引き取ってから、かなりの時間寝込んでいたらしい。部屋に入り込んでいるのが、ホスニーとブムニジェルであることは、おぼろげな記憶が教えてくれた。
「何だよ、ブムニジェル。こんな時に、仕事なんかしてるのか?」
「おや、起こしちまったか、ゴドバン。済まねえな。別に仕事なんていうほどのものじゃねえよ。ちょっと艦の情報端末から、自分の携帯端末に情報を移してただけだ。」
「何だって?軍事機密を、不正に取得していたのか?」
目も開けず、ぐったりと横たわったまんまのゴドバンが、冗談口調でからかった。
「バカ野郎っ!軍事機密がお前の部屋の端末なんぞで、閲覧できるか。誰でも閲覧の可能な、機密性など微塵もねえ一般情報だ。」
大声を出したブムニジェルだが、顔は笑っている。隣で寝ているホスニーは、大声にも気付かぬ風に寝息を立てている。
「そんなもんを、こんなタイミングで取得するのか?酔っぱらってフラフラの頭で、いったい何を・・」
興味をそそられたゴドバンが、重い体を起こしてブムニジェルの肩越しに端末を覗いた。腕に巻き付けて装着するタイプの端末だ。兵士は、全員が軍から支給されている。
「今回の戦闘で死んだ、敵兵の名前だ。敵艦の残骸から、運よく取得できたのさ。遺族の居住場所なんかのデーターもある。」
「そんなのを、いちいち自分の端末に取り込んでおくのか?」
「ああ、軍に入って以来、ずっとやっている。データを取得できない戦闘も多いが、できた場合は必ず、自分の端末に取り込むようにしているんだ。機会と相手の許可があれば、遺族に挨拶に行ったり、戦死者の墓参りをさせてもらったりも、しているのさ。」
「敵の兵なのに、か?」
「敵と言ったってそれは、政治上の成り行きでそうなっちまっただけだ。個人的に、恨みや敵意がある相手じゃねえ。互いに所属した軍のために、同じ戦場に身を投じた間柄だ。戦闘が終わってしまえば、こいつらだって同志だと俺は思っている。明るい未来を切り開くために、一緒に戦ったんだって言ってもいいはずだ。そして、国の戦争や軍の衝突が終わったなら、相手の遺族と一緒に戦闘で命を奪っちまった奴の御霊を、弔いたいと俺は思っているんだ。」
「敵兵の家族に、謝罪して回っているのか。」
「謝罪っていうのとは、違うと思っているさ。向こうだって、こっちを殺すために知恵を絞り手を尽くしていたわけで、たまたまこっちが生き残ったからって、謝る筋合いのものじゃない。俺にしたって、殺された戦友のことで敵を恨んだりしねえし、謝ってほしいなんて思わない。戦争で兵が命を奪い合うのは、当たり前のことなんだからよ。」
「そ・・・そうか・・。俺は、ジャジリを殺されたことで、『セロラルゴ』管区の自衛軍を恨み続けてきた。直接手を下した敵艦は、降参したのにもかかわらずに撃破して、乗員たちを虐殺してしまった。総大将だったエドリー・ヴェルビルスも仇だと心底恨み、この手で殺してやりたかったと思い続けて来た。自分も、戦闘に参加して自衛軍の兵士を、何百人も殺したくせに。今もこうして、多くの敵兵の命を奪っているのに・・」
「その時のお前と今の俺たちじゃ、立場が違い過ぎるだろ。一般人として商売のために『セロラルゴ』に出向いたお前たちを、だまし討ちの形で捕らえたんだろ、エドリー配下の自衛軍どもは。そして、民間人であり無抵抗だったジャジリを死に追いやった。お前は、生き残るために仕方なく、敵と戦ったわけだし。俺だってそんな状況なら、相手を殺したいくらいに恨んだだろうぜ。」
「うん・・」
ブムニジェルの気遣いから発せられた言葉だと、ゴドバンは受け止めた。彼の行動と見比べれば、やはり、彼がエドリーへの恨みや怒りを抑えられなかったことは、身勝手なものに思えてしまう。
戦闘で殺してしまった相手に真摯に向き合うブムニジェルが、まぶしく感じられる。彼の戦友を殺した相手だっているかもしれないが、それでもその敵の死を、彼は心を込めて弔おうとしているのだ。耳が痛くなる気分だった。
「見て良いか、そのリスト?」
取り込んだデーターも加えられた、ブムニジェルの端末に記録されているリストを、ゴドバンは自室の大きなモニターに表示させた。ブムニジェルが命を奪った敵兵の名が、ずらりと並んでいる。
「千人は超えるかな。覚え切るのは無理だから、こうして項目ごとに並び替えられるリストとして、データーを保存しておくのさ。」
無意識の内に探してしまっていた名前を、ゴドバンはそのリストの中に見つけた。
「ベンバレク・・・や・・ヤヒアもあった。・・アブトレイカも、か。」
「おっと、お前の知り合いがいたか。バツの悪いことに、なっちまったな、こりゃ、ははは・・・」
「護衛に付いてくれた、兵士たちだ。『セロラルゴ』管区から無事に帰って来られたのは、こいつらのおかげなんだ。こいつらが、命がけで・・・」
「そうか・・そんな奴を殺しちまったとなりゃ、俺は、恨まれて当然だな。済まねえ。『トラウィ』の王族間の抗争なんぞ、一般王国民だったお前には、関係ないものな。お前にしたら、命の恩人でもある大事な友人を、殺されたってだけの話だ。恨むのは、無理もないさ、ははは。」
作った笑顔の裏に、明らかに、傷ついた心が隠されていた。戦闘で殺し合うのは当たり前だったとしても、その相手が、今は戦友であるゴドバンにとって大切な人々だったというのは、ブムニジェルにも傷つかずにはいられないようだ。
「どんなふうにして死んだか、記録は残っているのか?」
「確か、こいつらは・・・」
名前と共に保管されているデーターが、呼び出された。「そうそう、王城警備を主任務とする要塞に、奇襲攻撃を仕掛けたんだったぜ。」
第3分王国の王国民の中に、第1へと寝返った者たちがいて、彼らの情報提供によって要塞への奇襲が実現したようだ。
そんな裏切り者を出してしまうのは、第3分王国の統治能力の低さを示す証拠であるし、統治能力に劣る者を王の座から退けて真に能力のある者を王位につけるために、「トラウィ」族は王家を3分割して争っているわけだ。
だから、この裏切りで第3分王国の王や王族や兵士が殺されても、恨みなど抱く筋合いはないということになる。「トラウィ」ならではの理屈であり、倫理観だ。
同情の余地など無いとみなされる状況の中で、ベンバレクたちは命を落とした。
ブムニジェルの説明によると、ベンバレクたちは王城守備の任にあったわけではなく、他の一般王国民の警護に向かうための補給基地として、その要塞に滞在していたらしい。
奇襲攻撃によって、要塞自体がほとんど抵抗もできずに陥落したが、そこに滞在していただけのベンバレクたちは、戦闘艇に乗り込むことはおろか、武器をとることもできず、奇襲を受けた事実すら知っていたかどうか分からない状態で、崩壊していく要塞と運命を共にしたのだということだった。
あの筋骨隆々で、勇敢で、笑顔に愛嬌のあった戦士たちが、武器も取れずに死んでいったのだ。ゴドバンの目にも披露した、神がかり的な戦闘艇の操縦技量を発揮する機会も無く、燃え上がる炎の中で焼け死んだか、崩れ落ちて来た瓦礫によって圧死させられたか、そんなところなのだという。
「なんて・・無残な・・」
「済まねえな」
ブムニジェルはくり返した。「戦闘で兵が命を取り合うのは当然と言っても、こんなことになっちゃ、気が滅入るな。ゴドバンの親友を、俺が殺しちまったなんてな。まあ、どんだけ恨まれても、文句は言わねえさ。」
「う・・恨むかよ。恨めるかよ。こんな事情を知らされて、これまで一緒に戦ってきたお前を・・。戦争での死なんて、相手の一兵士を恨んでも、仕方のないことだったんだ。俺も、今になってやっと気づいたぜ。これまでは第1分王国兵を、恨む気持ちを持ち続けて来たんだ。だけど、こんなやり方で強い王を選ばなくちゃいけない、この『モスタルダス』星団の現状を、何とかするしかないんだ。航宙民族に取り囲まれ、その侵略に対する防御力の強化を最優先に考えなくちゃいけない、こんな環境を。」
「・・だな。その航宙民族の一員でも、俺はあるわけだし、『トラウィ』族だって、『モスタルダス』への侵入や略奪を繰り広げていた時期も、大昔にはあるんだけどな。その頃の話も聞いている俺には、航宙民族側の都合も分からなくはない。あっちだって、生きるために必死なんだ。『モスタルダス』で略奪をする以外に、暮らしを立てる術を知らねえんだからよ。」
「どこかに怒りをぶつけたり、誰かを恨んだりしていたって、仕方のないことだったんだな。航宙民族も、侵入して来るからには追い返すしかないけど、そればかりやっていては何も解決しないんだな。航宙民族の置かれた状況とか、『モスタルダス』星団が置かれた状況とか、それらを何とかしなきゃ、いつまでも悲劇はくり返されるんだな。」
そんな認識を持っても、やはりゴドバンたちは、航宙民族を討滅する作戦と第2分王国軍を追い返す作戦を、この後にも繰り返さなくてはいけなかった。
何日か過ぎたころブムニジェルに教えられたことで、ソフラナ王女の消息も、ゴドバンは知るに至った。何と、艦長エセディリの親戚筋の一家が、彼女の身柄を奴隷としてもらい受けたのだという。
王女が「セロラルゴ」管区にまでゴドバンたちを迎えに来た話や、帰りの宇宙船内でゴドバンがソフラナに心惹かれていたことなどを知って、ブムニジェルがいろいろと調べてくれたのだった。
艦長にも話を通してくれたらしく、ある時ゴドバンは、艦長に呼ばれて詳しく話を聞けた。
「第3分王国の王城への突撃に、その頃私が指揮していた艦も参加したのだ。そこで、それなりの戦功をあげた。だから報酬として私に、王族の者の何人かが与えられたのだ。ソフラナ王女に関しては、私の親戚筋に引き渡した。年頃の女性を、一番丁寧に扱ってくれそうだと思った壮年の貴婦人を、親戚の中から自分なりに選りすぐったつもりでいるのだがね。」
「どんな暮らしをしているんですか、王女は今?」
恐る恐る問いかけたゴドバンの顔は、彼の懸念をエセディリに、十分に伝えたらしい。
「それほどひどい扱いは、受けていないはずだよ。まあ、私も忙しくて、直接様子を見に行く機会などは作れていないのだけれどね。誰かの伽役や妾にさせるなどといった無体な仕打ちを、あの壮年の貴婦人が、するはずはない。」
「そ・・そうですか。」
安堵が沸き上がることに、なぜか気恥ずかしさが伴うゴドバンだった。
「といっても、王女としての豪勢な暮らしなどは、送れているはずはないぞ。使用人の一人、といった立場にあるようだな。なかなかの働き者だそうで、同僚からも頼りにされ、皆と打ち解けて仲良くやっているそうだし、使っている側としては、かなり助かっているようなことは言っていたな。もと王女という経歴が嘘のように、どんな作業も嫌がらず、てきぱきとやってくれるそうだよ。」
「そ・・そうですか。」
同じ返事をくり返しながら、ゴドバンはかつて見たソフラナの、表情やふるまいを思い起こした。確かに、労働を厭うような、傲慢や怠惰といった気配は見受けられなかった。使用人としてまめまめしく働く姿も、想像できなくはない。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2021/4/24 です。
前話に出て来た作戦、プロトンレーザーで目潰しをしている間に戦闘艇を肉薄させたヤツですが、別に戦闘艇を使わなくても、プロトン粒子の後をミサイルに追いかけさせる形でも、実施できたのじゃないか・・?そんな疑問を、読者様に抱かせたかもしれないと、読み返していて思いました。ブムニジェルに命がけの過酷な試練を与える必要なんて、無かったのではないかと。
それへの言い訳としては、プロトンレーザーによる目つぶしで隠せるミサイルの大きさや数では、敵の艦体全部を攻撃対象にはできず、小さくて少数のミサイルで敵艦の一部を攻撃することしかできないわけです。そんな攻撃で敵の索敵能力を奪い、事前に発射していたミサイルを迎撃させないようにするためには、至近距離から敵艦を観測して詳細な形状を把握し、ピンポイントで狙い撃たなければいけないわけです。しかも敵に防がれないようにするためには、最短距離でミサイルを飛ばす必要もあったので、遠くからの、ミサイルの自立誘導機能を当てにした攻撃は、不可能だったのです。戦闘艇パイロットが、至近距離での観測結果から攻撃個所やミサイルの軌道を判断しなければ、プロトンレーザーによる目潰しを利用した攻撃はできなかったのです・・とこんな感じで、一応筋は通ったでしょうか?
未来の宇宙での出来事なので、条件設定は創作している者の思いのままなわけですが、それでもその設定の中で矛盾が生じないよう努力するのが、SFというものではないかと思うので、作者もできる限りの努力をしているつもりです。とはいっても、矛盾はあるでしょう。それを読者様に見つけられてしまうか、見つからずに切り抜けるか、作者と読者の知恵比べです。こういうのも、SFの醍醐味ではないでしょうか?




