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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第2話 新任統括官の無法

 話を向けられた男は、うつむき加減に言葉を返した。

「・・だな。俺も、そう思うぜ。銀河連邦との距離が近く、関係も密だった頃には、連邦の優れた軍隊が大量に派遣されて来て、航宙民族なんぞ、いっさい寄せ付けなかったんだからな。そんな状態が何百年も続いてたっていうのだから、自衛なんて、考えもしなくなるさ。連邦が守ってくれるのが、当たり前になっちまっていたんだ。」

 一見不愛想で、こっちの会話にも無関心に思えた男だったが、話を向けられると途端に饒舌になった。実はさっきから、話に加わりたくてウズウズしていたのだろう。

「昔の銀河連邦軍の戦いぶりってのが、凄すぎたのさ。それはもう、無敵と言って良い強さで、『モスタルダス』星団の住民には、絶対的な安心感を持たせていたそうだからな。」

 遠くから、別の男が参加して来た。彼も話しかけられるまでは、不愛想をつらぬくつもりだったみたいだが、もう辛抱もたまらなくなって、思わず自分の方から口を開いてしまった、という感じだ。

「それなら俺も」

 別の男も、更に遠くから口をはさんで来る。「色々と聞いているぜ。連邦軍のすごさに関してはな。俺の一族は、昔は『北ホッサム』族に含まれていて、盛大に星団内を荒らし回っていたんだが、連邦軍に制圧された挙句に、『モスタルダス』星団の善良な住民にさせられちまったんだ。

 連邦軍ってのは、勝つだけでも制圧するだけでも、なかったらしいぜ。戦いに敗れてボロボロだった我が一族を、穏やかに懐柔し、生活再建を支援し、自前の産業までをも起こさせて、自立の道をひらいてくれたそうだ。更には、大人から子供まで、各世代に手厚い教育を施して、我が一族全体の文明化までをも後押ししてくれたんだ。

 そうやって航宙民族を次々に、『モスタルダス』の善良な住民として取り込んで行く活動を、銀河連邦は大規模に、そしてひたむきに続けていたって話だ。」

「俺のところもだ。」

 会話の参加者が、更に増えた。「連邦軍にボロ負けてして、懐柔されていなければ、今でも略奪でしか生活物資を獲得できねえ、宇宙の野良犬みてえな一団だっただろうぜ。

 連邦軍に負けたことは、連邦軍に救われたことでもある。負けたことで文明を知り、略奪などで命を削ったりせずに、平和的に安全に暮らしを立てていく術を、身に付けられたんだからな。」

 気づけば、部屋にいた全員が会話に参加している。全員が、不愛想を装う努力を放棄していた。

 見ず知らずの者同士ばかりで、訳も分からずここに押し込まれていたが、全員が独立独歩でやって来た商人や傭兵などだから、簡単に他人に弱みは見せたくない。下手に話しかけて不安な内心を曝け出すなんて、みっともないマネはしたくない。そんな気持ちで不愛想に振舞っていた。

 だが、実際には男たち皆が、同じ考えを持っていた。絶望的な境遇にあっても、生きて脱出する機会がもし訪れたなら、絶対にそれを見逃がしたくはない。チャンスが無いのならば運が悪かったと諦めるしかないが、あるのに見逃すことだけは、何としても避けたい。

 それには、一人の目でチャンスを探すより全員の目で探した方が、一人の頭で考えるより全員の頭で考えた方が、生き延びる確率も高くなるはずだ。

 だから、情報交換が重要だ。ただ会話を楽しみたいだけではない。言葉を交わして気分を紛らわせたいわけではない。生き残りをかけた、貴重な情報交換を求めているのだ。

 絶望的な状況でも、いや絶望的状況だからこそ、どんな情報が役に立つか分からない。一見どうでも良いような情報が意外なタイミングで、意外な形で役に立つかも知れない。お互いの得て来た知識、お互いの目にしたもの、お互いが気付いたこと、お互いが思いついたアイディア、それらをできるだけ共有しておいた方が、全員の生存確率が高くなるのだ。

 弱みは見せたくないが、情報共有は図っておきたい。全員がそう思っていたし、自分以外の全員がそう思っているのも、全員が分かっていた。ゴドバンは周囲に見える顔から、そんな状況を認識できていた。

 不愛想の壁が崩れて、饒舌という潮流に全員が流されるのは、だから、時間の問題だった。いつしか競い合うように、皆が口々に言葉を発していた。それを目の当たりにしたゴドバンにも、驚きがなかったのは当然だった。

「それにしても『北ホッサム』族と言えば、数年もかけてこの『モスタルダス』星団の中を、ところせましと暴れまわった連中だよな。端から端までが百光年もあるっていうだだっ広いこの星団において、徹底的な略奪と破壊を隅々にまで及ぼすなんていう凶行を、百年前の航宙民族大侵攻の折には、やらかしたんだったよな。」

「そうだ。すっかり『モスタルダス』の住民になりきっていた俺の一族も、もとは同胞だった『北ホッサム』族に追い回されたり、虐殺されたりして、悲惨な目にあわされたものだったらしいのさ。

 もと同胞でも容赦はなかった、というか、もとは同胞だったからこそ、連邦に懐柔され『モスタルダス』に取り込まれちまった姿が、許せなかったのかも知れねえがな。」

「俺の一族も、何十年か前に『モスタルダス』に侵入して暴れまわった航宙民族の一つだったが、そのまま星団内に住み付き、従来の住民たちに抱き込まれ、今ではそいつらと素晴らしく友好的に暮らしているって有様さ。ひとしきり暴れまわった後に『モスタルダス』から出て行って、未だにこの星団を脅かす存在であり続けている『北ホッサム』族の本流とは、えらい違いだ。」

 こんな風に「モスタルダス」星団には、旧来からの土着系定住民に加え、銀河連邦軍によって制圧・懐柔をされて住民となった航宙民族の末裔や、連邦との関係が薄れた後の航宙民族による侵略と蹂躙の時代の中で、住民に転化した航宙民族の分派もいる。それらの全てが、今でも星団の周囲を跳梁(ちょうりょう)している航宙民族を恐れ、脅かされている。

 一度文明化された者たちにとっては、かつての同胞でも、航宙民族というのは恐ろしいものなのだ。

「数え切れないくらいの航宙民族が、それぞれに暴れまわったんだな、かつての『モスタルダス』星団では。そんな状況を経て残されているこの円筒形建造物は、奇跡的とも思える存在だな。」

 自分たちが押し込まれている場所が、どういう場所かという認識を、こうして共有できた。脱出に役立つとは思えない知識ではあるが、何がどう役に立つかなど分からないのだ。知っておいて損はない。

「数少ない円筒形宙空建造物の残りだから、星団内の権力者や富裕者は、こぞってここに集住している。人の目は多い。どんな些細な動きも、すぐに誰かの目に留まってしまうだろうな。」

 ここにいる限り、脱出できる可能性はない、という絶望的状況認識が示された。だが、それでも、その認識が脱出の役に立たないとは言い切れない。

「今でもこの建造物が維持されているのは」

 ゴドバンも、自身の考えを述べて行く。「銀河連邦がかつて行っていた、法の支配や人権尊重に則った施政が、この『セロラルゴ』管区では保たれていたからなのだろう?前任の統括官であるエドレッド・ヴェルビルスが誠実にそれを守っていたから、技術や知識をもった多くの人々がここに集まり、この建造物の維持に尽力していられたんだ。」

「そうだな。今のエドリーのやり方では、人心はすぐに離れて行き、この建造物も維持されなくなっちまうだろうな。だが、すぐにとは言っても、今日や明日という話ではない。建造物の維持が不可能になるなんて、数か月や数年の単位で起こる変化だ。」

 今日明日の脱出に関しては、ゴドバンの思索は有効ではなさそうだ。だが、絶対に無効だとは言えない。

 かつての銀河連邦の、この星団にもたらした文明の光は鮮烈だった。「宇宙系人類」であり、「地球」時代から相当に退行してしまって原始的とすら言い得る状態だった旧来の「モスタルダス」星団の住民には、とてつもなく有難いものだった。

 連邦に「H-45」と名付けられたスペースコームの近くに、かつてのこの星団は存在していた。その頃には、銀河連邦による啓蒙や技術支援が大規模に進められていた。今でもこの星団の住民の、銀河連邦への感謝や信頼は絶大なものがある。

 その銀河連邦から派遣された最後の役人であったのが、「セロラルゴ」管区の前の統括官であったエドレッド・ヴェルビルスだ。星団が漂流によって「H-45」コームから離れてしまい、たどり着くことがとんでもなく困難で、且つ危険なものになっていたのにも関わらず、決死の覚悟で危難を乗り越えて、エドレッドは「モスタルダス」にやって来たのだ。

 そのエドレッドによる誠実な施政は、従来からの銀河連邦の名声や信頼と相乗効果をなして、強力な権力基盤を星団内に形作っていた。星団防衛の核となって航宙民族どもによる大規模侵攻の再発を防ぐとともに、前回の大規模侵攻で荒廃し尽くしていた「モスタルダス」星団に復興と安定をもたらすことも、彼は強力な指導力を発揮して実現して行ったのだった。

 ゴドバンたちを制圧し拘束した武力も、その権力によって整備されたものだ。息子とはいえ別の人間が統括官となっただけでも、権力基盤は弱まったはずなのに、こんな卑劣な行為に及んだとなれば、エドリー・ヴェルビルスが統括官としての権力を失うのは、そう遠い話ではないかもしれない。

 そんな未来予測は有効でも、今日明日の命も知れないゴドバンたちにとっては、有益な情報とはならない。むしろ、絶望的である現状を再認識させられたに過ぎない。だが、それでも、万が一の可能性に備えて一応伝え合っておく、といった程度の情報共有でしかなかった。

「それにしても、これだけ卑劣なマネを数多くやらかしたんだ。もうすでに、どこかでエドリーに対する反乱が、起こっているかもしれない。憤慨している集団など『セロラルゴ』管区の内側にも外側にも、少なからずあるはずだ。今この瞬間にでも、何らかの暴動や戦闘が起きていても、全く不思議ではないぜ。」

 ゴドバンに最初に話しかけた男の、そんな認識に、一同がうなずいた。

「他の皆は、どんな風にして拘束されたんだ?」

 円筒形建造物の内側には、脱出に繋がる有益な情報はなさそうだ。となると外側で、有効な動きや変化が起こることを期待するしかない。

 どこでどんな動きや変化が起きそうか、それを予測するための手掛かりを得られるかも知れない質問を、ゴドバンは繰り出したのだった。

「俺のところは、ひいじいちゃんの代から百年近くも、管区の外から仕入れた物資を、管区内で売りさばいて暮らしを立ててきた。一昨日も、いつも通りの品をいつも通りのところから仕入れただけなんだが、いきなり役人どもが押しかけてきて、法外な関税を要求しやがった。で、そんなもの払えるわけがないと言ったら、物資は残らず押収されるし、俺はここでこんな状態にさせられてるって有様さ。」

 1人の告白に続き、次から次から我も我もと、虜囚たちは自分の味わった災難の報告を口にして行った。

「俺は『ザキ』族の軍人だ。『ザキ』族と言えば2百年以上も前に、連邦軍にコテンパンに打ち負かされて制圧されて以来、野蛮な航宙民族としての暮らしからは脱皮した。連邦と盟約を結び、傭兵として『モスタルダス』星団の防衛や治安維持の、一翼を担って来た。『セロラルゴ』管区とだって、ずっと協力してやって来た同志ともいえる一族だ。

 それなのに、ここに補給や休息のために立ち寄った俺たちに、自衛軍のヤツらが不意打ちの襲撃を食らわせやがった。エドリーの指示であるのは、間違いない。勇猛で名を馳せる我が『ザキ』族の部隊が、抵抗もできずに捕虜にさせられちまったんだ。悔しいのなんのって、たまらないくらいだぜ。」

「私もそうだ。私のところは『北ホッサム』族の1つの分派で、ずいぶん前から星団内に定住している。そして『セロラルゴ』管区の傭兵という立場を受け入れ、『ザキ』族と同様に『モスタルダス』星団の防衛や治安を、50年以上もの間受け持って来た。管区内で与えられていた我らの基地への、自衛軍による奇襲など予測もできなかったから、簡単に陥落して降伏させられ、このような虜囚の恥をさらすハメになってしまった。」

「俺は、星団内にある『シェルミティ』族の居住宙域から、単身でやって来た。『セロラルゴ』管区の自衛軍の兵員募集に応じて1年間の兵役に就き、先月ようやくそれを終えたのさ。なのに、肝心の給料がいつまでも支払われないから、軍の事務所に抗議しに行ったんだ。そうしたら、この様なんだぜ。さっさと給料もらって、故郷のヤツらにたっぷりの土産を買ってやるつもりだったのに。どんなに貧しくても、今さら航宙民族だった昔みたいに盗賊や略奪なんてマネはしたくない一族の連中に、少しでも贅沢を味わわせてやれると思ったのに、やってられねえよ。」

「わしは『モガ』族の者だ。大昔はわしらも航宙民族として、この星団で略奪を働いて暴れ回っておった一族だ。しかし銀河連邦に懐柔されて、150年ほど前から星団内での所領の保有を認められていて、平和的に自立した暮らしを営んで来たのだ。そして何度もやっているように、今回も所領での必要品を買い付けようとこの『セロラルゴ』に来てみたら、不法滞在者の汚名を着せられて拘束されてしもうたのだ。何も悪いことなどしていないのに、あまりの仕打ちだ。」

「俺は土着系の住民で、先祖代々千年近くにわたって、この星団で平和に暮らしている一族の者だ。決められた税もしっかりと収めていたのに、脱税だとか不法蓄財だとかのあらぬ罪を着せられ、こんな所に連行された。何たる屈辱か!」

 拘束されている20人余りの男たちが、理不尽極まりない拘束の経緯を順に語ったのだった。

「こんな非道をやりまくっているんじゃ、本当に暴動も反発も、すごい規模で起こるだろうな。何を考えているんだろうか、エドリー・ヴェルビルスって奴は?自殺行為だってことが、分からないのかな。」

 ゴドバンは首を捻った。

 今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、 2020/10/10 です。

 物語の舞台である「モスタルダス」星団についての説明が、ひたすらに続く、面倒くさいと言えば面倒くさい回となってしまいました。物語の立ち上げの部分では、どうしても色々説明しなくちゃ話を始められないけど、それを面倒くさく感じさせずにやるのは、難しいです。

 ここまで説明して来ると、この物語のモチーフが何か、分かった人も多いのではないでしょうか?「航宙民族の大侵攻」という歴史的事件が物語内では起こっているのですが、「〇〇民族の大✕✕」に当てはまる、現実上の歴史的事件と言えば、たいていの人が学校で習った覚えがあるでしょう。歴史の壮大なダイナミズム、みたいなものを感じた人も、少なくないのではないでしょうか?

 そんなのを未来の宇宙を描いたSFで表現したいと思ってしまったから、厄介なものです。己の文章力の程度も顧みずに初めてしまった、「銀河戦國史」という無謀な挑戦を、温かく見守って下さる心の広い方が一人でも多くいて下さることを、切に願わずにはいられません。

 史実を詳しくご存知の方は、それと対比させつつ、ご存知でない方は、単純にストーリーを追いかけて頂きたいです。どちらでも楽しんでもらえるように、心がけて書いたつもりですが、どんなものでしょうか?

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