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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第22話 トラウィの流儀

「そっちの領主様たち、つまりムニ一族の方々は、勢力を拡大させられそうにないのか?かつては15個もの星系を領有されていたのだろう?それの半分にでも回復できれば、隷属民みたいな立場の者たちも救ってやれるだろうし、お前にも、もっとたくさんの報酬を与えて下されるようになるのだろうに。」

 兄から、ゴドバンはそんな問いかけを受けていた。

 ムニ一族に紹介された、近くの領主のもとで働く兄とは、リアルタイムでの会話が可能な時もあった。常にではないが、お互いの仕事の都合や仕事場の位置によっては、対話タイプの通信ができる。十秒ほどの待ち時間はできてしまうが、タキオン粒子が兄弟を繋いでくれるのだ。

「その機会は、狙ってはいると思うよ、兄さん。ムニ一族の人たちも、彼らの所領で働いてくれている者たちの中に、人並みの暮らしをさせてあげられていない人々がいることを、歯痒く思っているんだ。けど、ついこの前も、航宙民族の1つの『ハグイ』族が、かつてムニ一族の所領だった星系で、勝手な資源採取をやっているところを発見されたんだ。」

「何だって!? まだそんなところに、『ハグイ』族なんかが跋扈(ばっこ)しているのか。恐ろしい話だな。」

「そうなんだ。『トラウィ』の兵たちが追い払ってくれたから、大事には至らずに済んだのだけど、民間の人間がそんなところに出くわしてしまったら、有無を言わさずに殺されてしまっていただろう。」

「そんな状況では、ムニ一族も勢力拡大は、難しいだろうなあ。」

「それだけじゃないんだ、兄さん。『北ホッサム』族も『トラウィ』王国の外だとはいえ、すぐ近くで、大規模な軍勢を集結させているのが発見されたりもしているんだ。だから、不用意に所領を広げるのは、ムニ一族にとっても命取りになりかねない状況なんだよ。」

「そうか。そういえば俺も、こっちの領主様などから、航宙民族に関する話はいくつか聞いていたな。『トラウィ』王国内では、それほど深刻な被害は聞かないけれど、それ以外の『モスタルダス』星団の住民には時々、悲惨な被害が発生していると言っていた。『ミカリ』族の一派に集落を丸ごと焼き払われた人々がいるとか、『シャグアラン』族の拠点が築かれていて通行が困難になってしまった航路があるとか、最近だけでも、いくつもの恐ろしい事件があるそうだ。」

「姉さんもこの前受け取ったメッセージで、そんなことを言っていたよ。姉さんが仕えている領主のもとに運ばれる予定の荷物が、航宙民族に略奪されてしまって、大損害を被ったそうなんだ。おかげで姉さんも、報酬の支払いを遅らされてしまうって嘆いていたな。」

「この状況を見ていると、またかつてのような航宙民の大規模侵攻があった場合に備えて、すぐにでも逃げ出せるような準備を日ごろからしておかなくてはならないのだな。こんなのじゃムニ一族も、あまり手広く所領を経営できないな。」

「航宙民族と『トラウィ』族の戦いは、一進一退って感じかな。住民が被害を受ける事態は、なんとか防いでくれているけど、国内の各領主たちがかつての勢力を回復させられるほどに、航宙民族を抑え込めているわけでもない。それが目下の、『トラウィ』王国の現実だな。」

 今目の前にある平穏が、いかに貴重なものであり、且つ危ういものであるのかを、ゴドバンと彼の兄はしみじみと感じるのだった。

「それでもこの王国が、星団内の他の場所より安全なのは、『トラウィ』族が懸命に戦ってくれているおかげなのだから、心強いものだな。宇宙の彼方からやってきて、赤の他人だった俺たちを命がけで防衛してくれているのだよな。」

 こんな会話は、しょっちゅう王国民の口頭に上る。航宙民族の侵略に対する脅威を、常にひしひしと感じている人々だから、防衛の重要さや困難を、それを担ってくれている人々の苦労や誠意を、痛切に胸に刻んでいるのだ。

 一方で「トラウィ」族の者たちも、居場所や役割が与えられていることの喜びを噛み締めている。支配する者と支配される者との間に、相互への感謝の念があり、強い信頼関係に結実している。それも「トラウィ」王国の実態だった。

「王国内のお家騒動が終息してくれれば、もう少し状況は改善するのかな?王国全体を、1人の王がしっかり治めるようになれば、航宙民族との戦いも今よりは有利に展開すると思うのだけどな。」

「そうだな。早く、そうなってほしいよな、兄さん。」

 王国は、前王の死去以来3分割されている。前王の3人の息子が、それぞれに新王候補として名乗りをあげ、争い合っている。

 それは、航宙民族には伝統的な、新王決定のやり方だ。王を目指す者が名乗りをあげ、一族の者は自由意志でそれぞれに従う候補者を決める。その後は、各王が自分に従う者たちを率いて、血で血を洗う闘争を展開する。

 より多くの優秀な戦士に支持され、より合理的な戦略・戦術を駆使し、より強固な団結力を発揮できた候補者が、闘争を優位に展開するだろう。

 この闘争に勝ち抜けた者こそ、新王にふさわしいというわけだ。新王を選び出すためのコンテストを、一族の者たちの血を流すプロセスを経て、実施するわけだ。

 野蛮なやり方だ。しかし、合理的でもある。航宙民族どうしでの争いに勝ち残らなければ、明日はない。そんな環境で千余年を過ごしてきたかれらには、真に有能で一族の戦闘力を最大限に発揮させられる長が、つまりは“ 勝てる長 ”が、どうしても必要なのだ。

 一族の者の命を犠牲にしてでも、一族相互で殺し合ってでも、本当に優秀な王を選び出さなければ一族は生き残っていけないのだから、こんな新王の選び方になるのは無理もない。長い歴史の中で選び抜かれた〝新王の選び方“なのだ。

 それでも「トラウィ」族はかつて、航宙民族どうしでの戦いに敗れた。敗れた長は、普通は失脚だ。一族の者の手によって殺されてしまうケースも多い。だが、住処を追われた時の長は、敗戦にも関わらず一族の多くの者から支持を与えられ続けた。それだけ、信頼され慕われていた長だったわけだ。

 長も、一族の者に感謝した。敗れてなお従ってくれることに。長とその従者との、信頼と感謝の絆が「トラウィ」族にはある。それも「トラウィ」王国が、航宙民族の盤踞(ばんきょ)する「モスタルダス」星団にあって、一定の平穏を確保し続けていられる理由の一つだった。

 しかし「トラウィ」族は、国を3つに分割しての内部紛争を起こした。いや「トラウィ」族だからこそ、今回も真に優秀な新王を選び出すことに、一族をあげて生真面目に取り組んでいるのだ。命がけにもなるわけだ。命がけの、全身全霊の、手加減なしの戦いを繰り広げてこそ“ 勝てる王 ”を選び出せると、彼らは信じているのだから。

 一族の未来のために、王国民を守り抜くために、今度こそ航宙民族どうしでの戦いに勝ち抜くために、新王選びに手加減はできない。失敗は許されない。何が何でも、最も優秀な者を選りすぐって王としなければならない。

 そんなわけで、「トラウィ」王国は第1から第3分王国の3つに分かれて、真剣勝負を繰り広げている。全力で戦っている。一族相互で撃ち合い、殺し合い、潰し合っている。矛盾しているようでも、野蛮であっても、それが彼らのやり方なのだった。

 戦闘は、決して一般の王国民に迷惑をかけないように、熟慮されて行われている。交通インフラなどは絶対に支障を来させないし、防衛や行政なども、滞りなく実施できるように配慮されている。その条件を満たす範囲内での、血で血を洗う真剣勝負なのだ。

「この戦いが終わり、真に優秀な王が全体を統治した暁には、王国領内とその近辺から航宙民族どもを、完全に追い払うことだってできるのじゃないかな、兄さん。」

「そうだな、ゴドバンよ。そうなればムニ一族も、勢力を拡大できるだろう。かつて領有していた15個の星系のいくつかも・・まあ、全てとはいかないかもしれないが、勢力下に取り戻せるかもしれん。そうなれば俺たちも、お前の同僚の新入りも、今よりずっと恵まれた生活ができるに違いないな。」

 こういう考え方で多くの王国民は、「トラウィ」族の内部抗争にも肯定的だ。彼らのやり方を理解し、彼らの闘争を静観し、明るい未来を信じている。闘争に伴って生じる不便があったとしても、滅多に不満は口にしないのだった。

「昨日は第2分王国の艦隊が、ここの近くの宙域で第1分王国の艦隊に、大打撃を与えたらしいぞ。」

 仕事場での上役であるプサイデオから、こんな情報を教えられることも、ゴドバンには日常的だった。

 ムニ一族の所領は第3分王国内にあり、彼らが納める税も第3分王国の収入となっている。その第3分王国の勢力範囲内で、第1と第2の分王国軍が、第3分王国を差し置いてぶつかり合ったわけだが、珍しいことではなかった。

 第3分王国内の住民だからと言って、特段に第3分王国を応援するわけでもない。第3分王国の艦隊が大打撃を負った、なんてニュースが報じられたとしても、深刻な調子で話し合われるような話題にはならないだろう。

「昨日の第2分王国の艦隊は、右翼部隊の出足が良かったぞ。小回りの利いた見事な軌道で、第1の艦隊の側面を素早く切り崩したのが、一番の勝因だったな。」

「ああ、右翼に小型戦闘艦ばかりを集めた、打撃力は低めでも機動性に優れた部隊を編成し配置しておくという、戦略的な巧みさがあったよな。」

「側面を突かれたことで動揺し、打撃力の低い敵の突進で簡単に崩れてしまった第1分王国艦隊の左翼部隊は、技術面はともかく、精神的な未熟さが露呈したな。一般王国民からも兵を募集するという『トラウィ』族にとっての禁じ手を使って、兵の数は増やせたが、質が下がってしまったのが第1だ。その影響も、あったんじゃないかな。」

 スポーツ観戦かと思われるようなこんな会話が、王国民の間では交わされる。人の死を伴う本気の戦争が、王国民の娯楽になっている側面も否めない。

「第1分王国の艦隊も、上翼部隊が左翼部隊のフォローに回ったのだが、対応の一瞬の遅れが致命的となってしまったよな。」

 三次元の宇宙での戦いだから、右翼左翼だけでなく、上翼下翼という言葉も出てくる。戦争などやったことのないど素人が、一丁前にこんな専門用語を連発して評論しあうところも、スポーツ観戦を彷彿とさせるものがあった。

 だがゴドバンは、プサイデオたちほど気楽には、王国の闘争を楽しんでいられなかった。

 王国軍には、ベンバレクやヤヒアやアブトレイカがいるのだ。今こうしている間にも、彼らが命がけの戦闘に駆り出されている可能性があるのだから。

 分王国どうしでの対決だけではなく、航宙民族の掃討に関する情報に対しても、王国民たちはスポーツ観戦さながらに、戦いの推移を日常会話の話題としていた。

 そちらの方が、ゴドバンも気楽に楽しめた。航宙民族相手なら、たいていは「トラウィ」王国軍の側が圧倒的に優勢だったから。ほとんどの場合において、被害を全く出すことなく、捕虜としたり追い払ったりできていた。

 航宙民族の活動がどんどん頻繁になって来ている現状に、やや背筋の寒くなる思いを味わうことは、ゴドバンだけでなく、彼の家族にもムニ一族にもある。それは「トラウィ」王国に住む全ての人に共通する不安であり、「北ホッサム」族が巨大戦力を集結させているとの情報と共に、王国に暗雲を垂れこめさせている。

 だが、航宙民族を掃討したという1つ1つの事例においては、全て「トラウィ」王国軍の完全勝利ばかりが、今のところは伝えられて来ているのだった。

 それでも、王国軍兵士に危険が及ばないはずはないし、時には戦死者を出すことだってある。内紛にからんでの戦闘よりは被害が少なかったが、「トラウィ」兵士の命が削られていることに変わりはなかった。

 ベンバレクたちが今どこでどうしているのか、ゴドバンには知る術とてないのだ。ゴドバンを送り届けた後も変わらず、王国民の護衛などの任務に就いているのか、どこかでの戦闘に参加させられているのか、そんな情報は、どこからももたらされはしない。

 最前線、という言葉は宇宙時代にはなく、三次元空間で軍隊と軍隊が衝突している場所は“ 最前面 ”と呼ばれるのだが、ベンバレクたちがその最前面に配属されたとしても、ゴドバンには何の連絡も来るはずはない。

 戦争の話題が出るたびに、ゴドバンには不安と心配が募るのだった。どの分王国が勝ち残ろうが構わないが、彼を守り抜き故郷に連れ帰ってくれた3人の兵士たちには、是非無事であってもらいたかった。

 王国軍の戦いに関する話題の次に、ゴドバンの周囲に良く持ち上がるのは、「ザキ」族の戦いに関するものだった。「トラウィ」王国全域と比べても、十数倍という巨大容積を持つ「モスタルダス」星団のあらゆる場所から、彼らが航宙民族を撃退したというニュースが伝わって来るのだ。

 その戦いぶりの勇猛なことも、ゴドバンの周囲を沸き返らせるのだが、それ以上に「ザキ」族が、撃退した後の航宙民族を片端から許してしまい逃げ帰るままにしていることが、話題をさらっていた。

 彼らは、敗れて去って行く航宙民族どもを追撃しないどころか、逃げ帰る手段を失った者を探し出しては、宇宙船を用立ててやるほどの念の入れようだそうだ。

「全員捕虜にして、永久に押さえつけてしまうとか、いっそ皆殺しにしてしまうとか、そんな措置を取ってくれた方が、こっちとしては安心できるのだがな。」

 ゴドバンの兄は、そんな過激な感想を漏らしていた。航宙民族に脅かされる日々を送る彼らにとっては、それは自然な感情かもしれない。自分たちを略奪の餌食としか考えない者たちに、同情や憐れみなど沸いて来るはずがない。

「もとは航宙民族だったことを考えると、『ザキ』族も倒した相手を支配下に組み込む、なんて動きがあっても良いはずだよな。」

 ゴドバンは、やや穏健な意見を兄に返した。「今の『ザキ』族の支族のいくつかは、そうやって敗れた末に支配下に組み込まれたんだって、ティミムも言ってたし。『北ホッサム』族の脅威に対抗しなくちゃならない現状を考えると、『ザキ』族にはもっと急速に、勢力を伸ばしてもらいたい気持ちにもなるものな。」

 エドリーを見逃したことに、未だにわだかまりを抱えているゴドバンには、トラベルシンのやり方には歯痒さが抑え切れない。将来の危険の種に成り得る存在は、やはり早めに刈り取っておくべきなのではないか。内心でゴドバンは、何度もトラベルシンに訴えかけているのだった。本人には、届きもしないのに。

 今回の投稿は、ここまでです。次回の投稿は、 2021/2/27  です。

 戦争を伴う「トラウィ」族の長の選び方は、野蛮すぎるでしょうか?歴史の中では、同族や兄弟や親子間で壮絶な殺し合いを繰り広げ、権力を奪い合う事例がいくつも登場しますが、支配欲や独占欲などといった、自己中心的で身勝手な感情だけで行われたことでしょうか?

 自分の属する国や一族などの集団への、責任感や愛情に裏打ちされた行動であった事例も、少数派かもしれませんが、有ったのではないでしょうか。どれが、とまでは作者の知識力では言えませんが、より優秀な者を権力の座に就けることで、集団の存続や平穏や繁栄を期した、そんな争いもあったでしょう。

 この物語の「トラウィ」族のやり方は極端かもしれませんが、権力闘争=我欲、ということではない可能性を提示してみました。

 今の日本では選挙などで、血を流すことのない権力闘争が可能ですが、それは民衆に主権意識とか責任能力とかある程度の知識とかが備わって、初めてできることでしょう。民主主義は、民が主になり得るだけの素養を持たなければ成り立たないわけです。今の日本は、形だけ選挙とかを実施して表面的には民主主義を装っていますが、本当に民が主になっていると言えるのかどうか、投票率とかフェイクニュースへの付和雷同ぶりなどを見ると、疑問に思えます。

 それでも、血を流さずに権力闘争ができるのは素晴らしいことなのですが、ゴドバンたちの置かれた環境では、民の教育や情報の水準は低すぎるし、「トラウィ」族が伝統や習慣においてまだまだ航宙民族を抜け切れていない事情もあるので、選挙ではなく戦争でリーダーを選んでるわけです。

 選挙で選ばれたリーダーを誰も信用してない集団と、戦争で選ばれたリーダーをみんなが信頼している集団、どっちがマシなんだろう?なんて疑問を作者は書きながら感じているのですが、読者様がたは、いかがでしょうか?戦争は絶対にイカン!という意見ももちろんですが、リーダー選びに失敗した集団には、戦争より悲惨な運命が待ち受けているかもしれないし・・難しいです。

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