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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第10話 ザキの戦法

「この軍団、何なんだ・・。」

 驚きの声が、モニター上のデーターから戦況を紐解く。「敵勢が右からも左からも、上からも下からも、前からも後ろからもって、あらゆる方向から攻めかかって来ているのに、活き活きとしていやがる感じだぜ。1つ1つの敵勢が、この軍団と同等の艦数だから、都合6倍以上もの敵に立体的に包囲された状況だというのに、思うがままに動き回っている。」

 時代が時代なら、羊の群れの中で1匹の狼が暴れまわっている、なんて表現したかもしれない。羊も狼もほとんど誰も知らない宇宙時代だから、そんな表現は誰も使わないし、誰にも理解できないのだが。

「この軍団、陣形の密集度にしても艦列の整然とした様にしても、桁違いだぜ。素早い艦隊運動の中にあっても、それを全く崩すことがない。一糸乱れない素早い連携において、この軍団だけが他と全くかけ離れているな。他の軍団は、明確な形状をとるわけでもなく、艦と艦の距離も大きくて不揃いなのに、この軍団だけは計ったような見事な楔型(くさびがた)に、みっちりと整列していやがるんだ。それによって、一方的に敵を圧倒し、撃破しまくっているぜ。」

「多いはずの敵の方が、逃げ惑うばかりだな。あれだけの数で立体的に囲んでおいて、なんて様にさせられてるんだ。」

「・・ああ。戦域全体における彼我の戦力差など、総合的な情報までは、今は手に入らないけれど、旗艦からのデーターで分かる範囲では、敵と味方で何十個とある軍団の中で、この1つだけが異次元の戦闘を見せているな。」

「へへへ、みんな驚いているな。俺には、見慣れた光景だけどな。」

 ただ1人余裕の顔でいるのは、ティミムだった。「圧倒的に多数の敵を相手に、圧倒的に押しまくる展開は、いつものことさ。どれだけ多くの敵が立体的に隙間なく取り囲もうとも、われらの軍団より速く動けるヤツが存在しない以上、正面に据えた敵以外は考えなくて良い。その正面の敵が2倍以下くらいなら、密集度や機動性や砲撃の命中率において抜きに出ているこの軍団が一方的に撃破しまくるのは、当然だぜ。」

「そんなわけだから、6倍以上の敵が相手のこんな状況でも、簡単に勝ててしまうってことに、なるわけなのか?」

「いや・・まあ、そんな単純計算が通用するものでもないさ、ゴドバン。弾薬やエネルギーも、無限にあるわけじゃないし。勝ち切るところまで行くのは、厳しいかなな。」

「それでも、3倍までの敵には勝って当たり前だってティミムの話が、大げさじゃないってことは良く分かるな、この戦闘を見せられれば。今も、近くに味方がいて、補給や遠方からの援護射撃とかいった支援を受けられる利点があるとはいえ、およそ6倍強の敵を完全に翻弄しているのだものな。」

「そうさ。」

 称賛をあらわにした言葉をゴドバンにかけられると、ティミムは少しはにかんだ表情でうなずいた。

「で、このデーターを寄せてくれたのが、あの最強軍団の旗艦なわけだな。」

 旗艦とはもちろん、トラベルシンの座上艦を指している。「一族の長が乗っている艦が6倍もの敵に向かって、先頭を切って突っ込んでるなんてな。勇猛なんて通り越してこれは、無鉄砲というか、血の気が多すぎるというか・・・」

「そうじゃなきゃ、航宙民族の長なんて務まらねえよ。しかし、まあ、とにかく圧倒的に『ザキ』族側が優勢のようだから、俺たちは傍観してても構わないらしいぜ。

 けれど暴れたいのだったら、好きに暴れても構わねえとも言っている。そんなメッセージも、さっきのデーターに添えて送られて来ているんだ。」

 ティミムやゴドバンから見て右手側にいる通信担当の1人が、慣れた調子で報告を入れている。商船においてではあるが、同じ作業に長年従事しているヤツらしい。突如として任された役目を、難無く果たしてくれている。

「さすがは我ら『ザキ』族の長、トラベルシンだぜ!話が分かってる。」

 ティミムが誇らし気に吠えた。

「全体の戦況が分からなくても、これだけの数の相手をトラベルシン直轄軍団だけで引き付け、翻弄しているわけだから、こちらが優勢なのは間違いないだろう。」

「そうだな、ティミム艦長」

 通信担当が、同意を告げる。「族長の直轄軍団が、第1軍団と呼ばれているらしいが、俺たちの艦には、一番近くに居場所が判明している第8軍団に合流しろ、との命令が発せられたぜ。でも、第8軍団から遠くにはぐれてしまわない範囲なら、自由に動き回って戦っても良いと、言ってくれているんだ。」

「そうか。俺たち『ザキ』族は、現状では8個の軍団で動いているんだが、この戦いに何個軍団が参加しているのかは、受け取ったデーターだけでは分からないな。けれど、直轄である第1軍団以外は全部、それほど積極的に首は突っ込んでいないのだと思うぜ、おそらくな。遠巻きからミサイル戦だけを実施するとか、単独や少数ではぐれている敵艦だけを相手にするとか、そんな戦い方をやっていると思う。俺たちの合流する第8もそんな感じだろうから、俺たちの艦も味方に倣って、同様の戦い方をすれば良いんじゃないかな。」

「よし、そうと決まれば、そんな感じで暴れようか。散々に辛酸をなめさせられたからな、自衛軍の連中には。何発殴られたことか。こっちが従順に振舞っているのを良いことに、図に乗りやがって。」

 この言葉の主は、ゴドバンには誰だか分からなかった。環状列席に着いて作業しているヤツ以外にも何人かが立ち見状態で、特に果たすべき役割も無いままに指揮室を埋めているのだ。続く言葉も誰が発したのだか分からなかったが、指揮室に詰めかけているのが全員、もと虜囚であるのは間違いない。

「そうだ。あれだけの屈辱を味わわされたんだ、たっぷりお返ししなくちゃ気が済まねえぜ。」

「俺も暴れたいぜ!この俺を見下す態度をしやがった兵どもを、1人残らず血祭りにあげてやりてえんだ!」

 環状列席のあちこちからも、その背後に立っている連中からも、続けざまに参戦の意向が投げかけられる。

「やろうぜ! 圧倒的に優勢でも、まだまだ狙うべき獲物は残っていそうだ。『セロラルゴ』管区陣営の後方に位置取っていた艦の中には、無傷のヤツだっているみたいだしな。しかも『ザキ』族の第1軍団に翻弄された結果として、はぐれちまったり味方との連絡が途絶えちまってるヤツも、少なからずいるらしい。管理のレベルの低さが、如実に表面化しちまっていやがるぜ。」

 艦長席のティミムがそう言ったことで、参戦は決定したような雰囲気になった。

「俺たちが訓練航行で乗っていた艦を、見つけられるか?そこに俺の仲間が、まだいるかも知れねえんだ。」

 ゴドバンが、右隣の艦長に伺いを立てた。

「ああ、あの艦ならもう、見つけてあるぜ。」

 返事は、左隣からやって来た。そこが索敵担当の席らしい。彼も慣れた作業と見えて、声には自信がこもっている。

「レーダー反応や熱源のパターンが、あの艦と一致するのを見つけたんだな。」

「そうだ。味方からはぐれ、連絡も取れなくなってるヤツの1つが、あの練習艦だぜ。」

 艦長の問いにも、落ち着いた応答を返す。

「あの艦には、同じ部屋に軟禁された奴が沢山乗っているからな。どうにか拿捕して、全員を無事に救出したい。なあ、副館長。」

「もちろんだぜ、艦長。」

「ようし、艦長と副艦長がそう言うのなら、実行あるのみだな。全速で急行するぜ!」

 操艦担当が、環状列席のゴドバンから見て左斜め正面あたりから、気合に満ちた声を上げ、直後、艦の転進を示す遠心力がゴドバンを揺さぶった。

「こちらの識別信号は、発信してあるのか?」

 転進から十数分後、ティミムがすっかり艦長ヅラになって尋ねる。右手側の通信担当も、違和感を覚えていない様子で答える。

「15分前から発信してあるぜ。例の艦の方からも、救援を乞うメッセージが来ているから、味方艦だと信じ込んでるのは間違いなさそうだ。」

 虜囚に乗っ取られたとの情報など、敵には伝わっていないはずのゴドバンたちの艦だから、普通に識別信号を出しておけば、敵に味方だと思い込ませるのは簡単だ。むろん味方には乗っ取りの事実が伝えられているので、味方に敵だと思われて攻撃される心配もない。

「味方2艦に追われた例の艦が、敵方だと思ってこっちに向かって、進路を変えたぜ。すぐにも射撃適正距離だぜ。」

「味方ってのは『ザキ』族で、敵方ってのが自衛軍だよな?」

「当然だろ。」

「当然だが、ちょっとややこしいぜ。」

「まあな。」

 右側のティミムと左側の索敵担当との会話を、ゴドバンは苦笑まじりに聞いていた。2人に挟まれた副艦長の席には着いているが、兵士の経験もない彼には、口をさしはさむ余地は無さそうだ。

「ミサイル、発射準備は?」

「いつでも良いぜ。」

 今度は、正面あたりに座っている射撃管制担当と、ティミムは言葉を交わした。

「板についてるな、艦長が。やったことあるのか、ティミムは?」

 こんな発言が、今のゴドバンには精一杯だ。

「無いさ。無いけど、ずっと見て来たさ。俺は『ザキ』族の軍では、艦内通信を担当したこともあったからな。」

「そうか。中央指揮室の要員も経験しているっていうことか。」

「弾種は、散開弾だな?」

 ゴドバンには微笑みだけで応え、艦長らしい質問を彼は発した。「中には仲間が乗ってるんだ。深い傷は負わさない攻撃に、限定してくれよ。」

 散開弾は、細かい金属片を多量に、且つ広範囲にばら撒くタイプのミサイルだ。小さくてすばしっこい戦闘艇を相手にする場合や、敵艦に浅くても確実な損傷を与えたい場合などに使われる。今は、浅い傷しか与えたくない場面だった。

「もちろん散開弾だ。既に、ランチャーにセットされている。適切にセットされていることの確認も、ちゃんとできているぜ。その作業に慣れた最少人数の精鋭を、ランチャー部分に配置してるからな。ど素人を過剰な人数で配置するなんていう自衛軍の艦長みたいな阿呆な管理は、俺たちはやらかしていないからな。こっちを味方と思って無防備な例の艦の、表面構造物だけを破壊して、抗戦能力を奪ってやるぜ。」

「そう言うあんたは、要員管理に精通しているみたいだな。」

「そうとも。俺は『ワハブ』族の武装商船団で長年、射撃担当のチームをまとめる役を担ってきたからな。各自の能力を把握して適材適所に配置するのは、お手のものなのさ。」

「あはは、そうか、こりゃ安心だ。じゃあ射撃管制担当の判断で、行けると思ったら勝手に発射してくれ。」

 見よう見まねの艦長は、肝心なところでは基本的に、丸投げに徹するようだ。

「主砲も、いつでもぶっ放せるぜ。」

「いや、プロトンレーザーを使うのはまずいだろ。中にいるゴドバンの仲間まで、一緒に吹っ飛ばしちまうぜ。」

 右斜め前に陣取る砲撃管制担当を、ティミムはたしなめた。一緒の部屋に軟禁されていたわけではない砲撃管制担当には、件の艦に乗っている連中には、思い入れなど無いだろう。主砲をぶっ放したい欲求を、優先させかねない。

「出力を絞って、磁場シールドにほとんど拡散させられる程度の砲撃を加えれば、中のヤツには被害が出ねえんじゃねえか?」

「いや、あの艦の管理レベルからすると、シールドが正常に作動するかは怪しい。作動しなかったら出力を絞ったプロトンレーザーでも、中の仲間を殺しかねねえからな。」

「そうかあ、何だよ。主砲には出番なしかあ。ぶっ放したかったのになあ。」

「他にも敵は沢山いるんだ。次の機会を待てよ。」

「あいよ。分かったぜ、艦長殿。」

 ティミムと砲撃管制担当とのやり取りの間に、ミサイルは発射されていた。音も振動も指揮室には届かないので、射撃管制担当の報告を聞くかモニターを注視しているかしないと、いつの間に発射したのかは分からない。即席の担当者が報告をサボったので、ゴドバンにはいつの間に発射したのか分からなかった。

 ゴドバンがモニターに目を向けた時には、着弾していた。発射どころか、ミサイル弾頭が炸薬により爆破され、金属片を展開させるシーンまでをも見逃していた。

 ばら撒かれた金属片は、半分くらいが敵艦に命中したらしい。普通なら爆圧弾などで防御され、そう簡単に命中するものでは無い。

 だが敵は、こちらが味方だと信じ込んでいて、対応が遅れたようだ。後ろから追いすがって来る2艦を狙っていると思い込んでいたミサイルが、予想外にも自分たちに向かってきて、気が付いたら手遅れの距離にまで迫っていた、といったところだろう。

「反撃の気配はないな。1回の散開弾攻撃で反撃の能力を失っちまうんだから、管理レベルの低さも相当なもんだ。どんな支障が生じているのかは分からねえが、まともに管理が行き届いていりゃ、1回くらい散開弾を喰らったって、少しは反撃できるはずなんだ。」

「あっ、だけど敵艦から、戦闘艇が5隻出撃・・いや、6隻か。唯一可能な反撃が、戦闘艇による攻撃だったわけか。」

 環状列席において、ゴドバンたちの左側に位置取る索敵担当が、特に危機感のこもらない声で報せて来た。通常、戦闘艦を相手にするなら、戦闘艇は30隻くらいが最低でも必要だと考えられている。だから6隻程度では、誰も焦るはずがない。

「発艦するぜぇ、艦長!いいなっ!いいだろぅっ!なっ!なっ!」

 艦内通信で届けられたのは、気合の入りすぎているクレティアンの、耳をつんざく喚き声だった。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2020/12/5 です。

 宇宙戦艦と言えば、真っ先に思い付くのはダントツで「宇宙戦艦ヤマト」です。子供のころから大好きなアニメで、これを見てなかったら未来の宇宙を題材にした小説を書くなど、思いつきもしなかったでしょう。長年、滅茶苦茶楽しませてもらって来たのですが、そこに登場する「艦橋」というか「戦闘指揮所」というか、それの様子に、いつからか違和感を覚え始めました。ガラス張りか何か分からないけど、でかい透明の窓があり、それで前方を眺められるような配置で座席が置かれていた・・ように記憶しています(思い込みかも)。まあ「ヤマト」は第2次世界大戦に投入され撃沈された日本海軍の戦艦「大和」を改造した設定になっているから、そうなるのも仕方ないのかもしれませんが、はるか宇宙の彼方に旅をしたり、広い宇宙で戦闘に至ったりするのなら、肉眼で外を見る意味なんてなく、頑丈な金属に囲まれた艦のできるだけ真ん中辺にいた方がいいし、全員で同じ方向を見ている必要もないのじゃないか・・と。「ガンダム」でも「スタートレック」でも「銀河英雄伝説」でも、「ホワイトベース」や「エンタープライズ」や「ヒューベリオン」の艦橋要員は全員同じ方向を向いて座っていた・・と思います。地球の上で使われている戦艦のイメージに、捕らわれすぎているんじゃないか、との思いがあり、それらとは違ったイメージを是非世に問いかけてみたい気持ちでいました。

 宇宙戦闘艦の中央指揮室の座席が環状に配列されている、という設定は、だから、どうしても登場させたい要素でした。円卓会議の様相で命令や報告が飛び交う戦闘シーンが、いかにも未来の宇宙にぴったりだと思えたのです。

 以前の作品「キグナス」では、商船という設定もありこのアイディアを使うのは時期尚早と考たので、ここでは「全員同じ方向タイプ」の航宙指揮室としました。「ファング」に登場した空母シュヴァルツヴァ―ルは環状列席のイメージで書いていました(と思う)が、空母なので艦自体がそれほど戦闘に積極参加しないので、円卓会議っぽい戦闘シーンを本格的に描くのは、今回が初めてになると思います、多分(自作なのに記憶がおぼろで・・)。

 誰も見たこともない戦闘シーンで、且つ理にかなっていてリアリティーがある、そんなのを描けていたら良いなと、切に願いつつ、後は読者様のご判断を待つより仕方がありません。こういう思いで書いていることを頭の片隅に置いて頂きつつ、最期までお付き合い下さることを、心よりお願い申し上げる次第です。

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