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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第9話 ゴドバンの爆弾

「艦長の声だな。」

 艦内放送を聞いて、ティミムが言った。「計算通り、ここに集まって来るみたいだな。いや、計算をはるかに上回って、自衛軍の乗組員の全員が集まって来るみたいだ。しめたぞ!」

 言い終えるや否や、服装からして兵士ではない男が通路の角から姿を現し、駆け寄って来た。虜囚の1人だと、ゴドバンたちにはすぐに分かる。

 この段階で、艦には一方向の重力が継続して発生していた。ついさっきまでコロコロと方向が変わっていて、爆弾の設置も困難にさせていたのだが、艦の加速方向が安定したらしい。

「自軍のものではではないレーダー照射を受けた記録を、検出したぜ。」

 メンテナンス作業をやっているふりをしている最中に、そんなデーターを拾い上げたらしいその虜囚が、嬉しそうに教えてくれた。

「つまり、敵に見つかったってことだな。自艦の位置や運動状態が分からねえ状況で敵に見つかっちまったら、シャトルで逃げ出すしかねえわな。シャトルで逃げると決まれば、艦の進路をちょこまかと変える必要もなくなる。さっきから重力の方向が安定しているのも、そのせいか。」

「ああ、迎え撃つにも艦を逃避軌道に導くにも、自艦の位置や運動状態を把握するのが絶対に必要だからな。今の有様じゃ、両方とも諦めるしかねえと判断したんだ。ずっと一方向にのみ加速している現状が、それを裏付けているぜ。」

 ティミムたちの会話に、ゴドバンも割って入る。

「爆弾の件は、聞いているか?」

「ああ、ついさっき聞いた。多分虜囚には、全員に伝わっているはずだ。」

「そうか。」

とゴドバンが返事をしたとき、自衛軍の将や兵たちが、ゾロゾロと列をなしてやって来た。軍服姿の数十人が、格納庫にすし詰め状態となった。

「将兵に関しては、全員の集合が確認できました、艦長。すぐに、シャトルに乗り込みましょう。」

 兵士の1人が声を上げ、艦長と見られる男が応じる。

「メンテナンス要員の捕虜も、何人か来ているな。連れて行くのか?」

「・・そうですな、万が一に備え、何人かは連れて行くべきかと。全員を乗せるのは無理ですが。」

「うむ、なるほど。ならば、使えそうなのを何人か連れて行って、後は置き去りにしよう。」

 理不尽な会話に、腹も立てずに聞いている間にも、ゴドバンの目にはクレティアンやハムザを初め、20人くらいの虜囚の姿が見えていた。全員でもないが、大半の虜囚も、格納庫に集まって来たらしい。

(ここだ!今が、最大のチャンスだ。)

 胸が高鳴る。不安もよぎるが、ゴドバンは、大胆に動くことに決めた。

「どれを連れて行くんだ?」

「そうですな・・・」

 艦長と兵士の会話をよそに、ゴドバンはクレティアンたちに、身振りだけの合図を送る。

 小さく指を差して、爆弾の位置を示すと、手のひらを広げ、指先を首に充てる仕草をする。更に、自分の頭を人差し指で突いた後、閉じた手を急激に広げる仕草で、爆発を表現した。

(こんな感じのジェスチャーで、理解してくれただろう。)

「この3人で、どうでしょうか?」

「3人で良いのか? 5人か6人くらいは・・・」

 艦長と兵士の会話は、続いている。ゴドバンの仕草には、将兵の誰一人として意識を向けて来ない。

 ゴドバンは右手で、ポケットに隠し持っていたリモコンを取り出した。クレティアン始め、虜囚たちに見えるように、それを示す。将兵たちの目にも映っているはずだが、それどころではない様子で、艦長たちの会話に意識を傾けている。

 いつバレても不思議ではない、丸出しの動きをゴドバンはしているのだが、バレそうな様子はない。心臓が飛び出しそうなほど鼓動は激しいが、ゴドバンの大胆さは衰えを知らない。

「この5人で、たいていの事態には、対応できるかと・・」

「そうなのか?ある程度の予備も、計算した方が・・・」

 話し合う艦長と兵士の言葉に、他の将兵は釘付けになっている。虜囚たちの目は、ゴドバンに釘付けだ。

 サッと周囲を見回してそれを確認したゴドバンは、リモコンを持っているのとは逆の左手を、開いた状態で肩の高さに差し上げた。

 指を、1本ずつ折り曲げて行く。1秒ごとに1本のペースだ。それがカウントダウンだと気付いていることを、虜囚たちの表情に読み取る。

 2本・・3本・・4本・・。肩の高さのゴドバンの左手が、着実にカウントを刻んで行く。

(さすがに、ここまでやったら、バレるか・・。でも・・これしか、思いつかねえ。賭けるしかねえ!)

 兵たちは、誰も気づかない。目には入っているはずだが、頭は艦長たちのやり取りだけに、夢中なのだ。

(気づくなよ・・・まだ気づくなよ・・・頼むから、気づかないでくれよ・・・)

 たった5秒のカウントダウンが、永遠と思えるほど長く感じられる。バレて取り押さえられるかもという危惧や恐怖が、指を折るごとに膨張していく。

 虜囚たちは依然として、全員がゴドバンの左手を注視している。それを確かめながらゴドバンが、最後の指を折った。と同時に、彼は膝を曲げてしゃがみ込み、床に伏せる姿勢を取った。

(頼むっ!上手く行ってくれっ!敵も、味方も、俺の思惑通りに、動いてくれよっ!)

 念じながら見回すと、虜囚たちは全員が、彼と同じ姿勢を取っている。将兵たちだけが、突っ立ったまま話し合いを続けるか、それを見つめるかしている。

 安定した重力が発生していたのも、功を奏していた。重力がないと、大勢が瞬時に同じ姿勢を取るのは、難しくなる。重力方向という統一した基準の存在が、虜囚たちの息の合った一糸乱れぬ行動に、結実したわけだ。

 ゴドバンは、リモコンのスイッチを押した。直後、視界の全てを白く染めるくらいの、強烈な閃光が生じた。続けて、金属を切り裂くような甲高い音、その後には、腹に響く振動を伴った重低音と、爆発のエネルギーは立て続けに感覚器官を圧して来た。

 爆炎や爆音が治まると、爆煙が一面に広がった。しゃがんだ姿勢のまま、ゴドバンは彼の罠の成果を見極めようと、目を凝らした。

(上手く、行ったのか・・?爆発はちゃんと、思惑通りの結果を、もたらしたのか・・?)

 上手く行っていなければ、ゴドバンたちは窮地に陥るかもしれない。今この瞬間にも、兵士の銃撃が彼の身体を貫くかもしれない。

 暴れる心臓を感じながら、爆煙に遮られた周囲に目を凝らし続けた。徐々に薄れていく爆煙を、不安と期待の入り混じった気持ちで、しゃがんだまま見つめていた。

 薄れて行きつつも、未だにもうもうとしている爆煙。その中に、立っていた兵士たちや周囲の設備などのシルエットが、浮かび上がって来た。

 兵士の首から上の高さにあったものだけが、きれいさっぱりと消し飛んでいた。配管や機材も、半径5メートルくらいの範囲にあった全てが、鋭い刃物で切断されたように、その高さで無くなっている。将兵たちの頭部も、その例に漏れていなかった。

 床に伏せていた虜囚たちが元気よく立ち上がると、頭部を失った将兵たちの身体は、元気なく全て床に倒れ伏した。

「・・お、おおっ!み・・見事だな、ゴドバン!出来すぎなくらいだぜ、ハッハッハーッ。自営軍の将兵だけを全滅させて、虜囚は全員、無傷だなんてな。」

「機器や配管の形状を利用して、巧みに爆発の方向を限定したんだな。立っている奴の、首から上だけを吹き飛ばせるように。やるもんだぜ、ゴドバン、ハハッ!」

 クレティアンやハムザの賛辞には、視線だけで返答しておいたゴドバンは、素早く思考を切り替えた。

「艦の操作、出来る奴いるか?」

「専門じゃねえが、ある程度ならな。」

 何人かの、さっきまで虜囚だった男たちが手を挙げた。現役の兵士や、商船の操作を経験した者たちだろう。

「ティミム、航路観測系を、もとに戻してくれ。直ぐにできるか?まずは俺たちで、この艦を掌握しないとな。」

「もちろんだ。一瞬で戻せるようにしてあるさ。俺たちの艦になったからには、正確な航路観測ができなくちゃな。」

 言いながらティミムが駆けだすと、操艦を志願した者たちも、それを実施するために中央指揮室へと駆け出した。5分もしないうちにもと虜囚たちは、戦闘艦を自在に操っていた。

 ティミムに航路観測系を戻すように告げた後は、何をして良いやら分からなくなって立ち尽くしていたゴドバンは、もと囚人の誰かに背中を押されて、気が付いたら中央指揮室に連れて来られていた。そこにある1つの座席に沈み込んでいる自分を、不思議な気分で認識していた。

 室内では、ずっと大勢が右往左往していて、部屋のレイアウトや人数など、その場の全貌は良く分からない。ボーっとしているゴドバンには、それを確かめようとする意志も無かった。

 程なくそこへ、ティミムもやって来た。

「航路観測系は、正常に戻した。もう、問題なく艦を操れるはずだぜ。」

「ああ、順調に操艦できているぜ。」

 ゴドバンには、聞こえた方向さえ分からなかった声が、続けて言う。「ティミムは、その開いている席に座ってくれ。」

「おう・・え?俺、艦長席か?」

「お前が航路観測系に細工したのが、艦の乗っ取りの決め手になったからな。その席には、お前がふさわしいだろ。まあ、座ってるだけで良いんだ。深く考えるな。」

 ティミムが誰かとそんな会話を交わすのを聞いて、ゴドバンも自分の席の意味に気づいた。彼はティミムの、左隣だった。

「俺、もしかして、副艦長か?」

「お前の爆弾も、貢献度が高かったからな、ゴドバン。艦長の隣で、ふんぞり返っていてくれや。」

 こんな感じで、艦のツートップに祭り上げられたゴドバンとティミムが、自分の境遇に頭を掻いている間に、事態はずいぶん進展していた。

 降伏宣言も、すでに発せられているらしい。もちろん「ザキ」族軍に対してだ。通信系のメンテナンスをやらされていた者たちが、それらの操作法を素早く把握した上で、送信したのだった。

 虜囚たちが「セロラルゴ」管区自衛軍将兵を皆殺しにした上で艦を奪い取った経緯も、たちまちにして理解され、「ザキ」族軍の所属艦として隊に合流することも了承された。

「やったぜ。これで俺たちは、本来いるべき軍に復帰できたんだ。トラベルシン軍団の兵士として、『セロラルゴ』管区自営軍相手に、目いっぱい暴れてやろうぜ。なあ、ハムザよ、ハッハー!」

「応よ、クレティアン。腕が鳴るぜえっ、ハハッ。役割も、本来の俺たちの定職に復帰できたんだからな。自衛軍どもに、目にもの見せてやるさ。」

 ザキ族の2人も狂喜していた。経験者を募り、素早く戦闘艇チームを編成し終えていたかれらは、艦に搭載されている戦闘艇に乗り込み、そのコックピットから軽やかな声を伝えたのだ。

 ようやく人の動きも落ち着き、室内が見渡せる状況になって来たので、ゴドバンは改めてじっくりと周囲を見回してみた。

 部屋で作業する者たちは、環状に配列された席で、向かい合わせになる体勢で座っている。全員が、艦の進行方向に顔を向けていたりはしない。進行方向は、彼らにとって “ 上”だ。加速重力によって押し付けられている壁が“ 床 ”になるのだから、当然だ。

 それに、戦闘艦に窓などはない。肉眼で外を見られる環境ではない。外の様子を知る手立ては、モニターに表示されているレーダーや熱源探知などのデーターだけだ。だから中央指揮室の面々には、全員で同じ方向に顔を向けている理由がない。むしろ互いに顔を向け合って、密な連携をとり易いようにしておく方が、合理的だ。

 そんなわけで、この時代の航宙戦闘艦の中央指揮室といったら、環状列席が一般的なのだ。副艦長席のゴドバンからは、室内で作業する全員の顔が見える。戦闘や操艦に関する指示や報告も、円卓会議をしているかの要領で取り交わされる。

「旗艦から、広域での戦況の詳細が伝えられたぜ。」

 誰かの声がそう告げると、皆がモニターに目を向けた。モニターは、全員の手元に一台ずつ配されたコンソールに据え付けられている。

「・・・何だ、この戦況は!? 」

 指揮室に居合わせる面々から、驚きの声が漏れる。皆がモニターを凝視し、そこに現れる戦いの模様に心を奪われた。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2020/12/28 です。

 爆発の物理的現象に関してはド素人の作者なので、作中のような罠が可能なのかどうかは良く分かりません。が、何千年も未来の宇宙でのことなので、現代では不可能なことが可能でもおかしくはないでしょう。未来の宇宙戦闘で使われるミサイルに詰め込まれた爆薬を使ったのだとすれば、範囲や方向を正確に限定した爆発を、兵士でもない虜囚が起こせたというのも荒唐無稽ではない、ってことにしておいて下さい。

 航路観測系に簡単に細工を施せたり、それだけで艦を放棄するまでの混乱が生じたりも、ちょっと強引すぎる筋書きに思えるかもしれませんが、現実世界での服役囚の脱獄だって、後で調べればびっくりするくらいのズサンな管理が原因で、呆れるほど簡単に取り逃がしてしまったりしています。それを考えれば、この件も荒唐無稽ではないと言えるハズなのです。

 ゴドバンのジェスチャーに、虜囚は全員気付いているのに将兵は一人も気付かないなんてのも、あり得ないような気がするかもしれませんが、案外そうでもない・・かも。電車内でおしゃべりに夢中になって、降りるべき駅を乗り過ごした経験のある人には、御納得頂けるのでは・・?作者は車で高速を走っていて、同乗者とのおしゃべりに夢中になり、数分前に「次のICで下りないとね」っていってたICを通り過ぎてしまったことがあります。「出口まで500m」とかって明確なサインを、車内の全員が、目には入っていたはずなのに見落としてしまっていたというお粗末ぶり。ま、それが人間ってもん・・って、作者だけか?

 などなど、屁理屈をこねまわしまして、「荒唐無稽を極力排除してリアリティーを追及する」という本物語の基本方針は、どうにかこうにか維持されているという結論に、一人で到達している作者です。よほどの専門家でもない限り、「絶対にありえない」とは断言できないことだけを積み上げて紡ぎあげて行くのが、「ハードSF」なのだと作者は信じているので、今後もそんな方針で書いていきます。そこに関する厳しいツッコミは、大歓迎です。

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