第七話
「だから昨日は、ウィアードの仕業かどうかを見定めようと思ってただけなんだよ。結果としてはラトネッカリと抜け駆けしてウィアード退治するはめになっちゃったけど・・・けど、ラトネッカリと抜け駆けした、みたいな考え方がそもそもおかしいはずだろ? ここにいる十一人は、少なくとも今は同じギルドなんだから。俺はイレブンだから、本当の意味でみんなの誇りとか諍いとは理解できないけど、各々が所属しているギルドの確執とかが感じられるうちは俺だって多少は気を使うよ…かと言って、みんなに自分らのギルドの事に関わるなって言うのも違う気がするし。だから昨日の件は俺なりに角が立たないように配慮したって言うか、ね?」
「なるほど。我は納得した。確かにヲルカ殿の言う通り、我らが争いを起こす可能性はあった」
何とかまとめられたのか、タネモネがそんな事を言ってきてくれた。一先ずは乗り越えたかと安心したが、再び形勢は逆転した。
「だが、その説明は今朝でなく、昨夜出掛ける前にすべきだったのではないか」
「う・・・それは、その・・・ゴメン」
全員がタネモネのご尤もな意見に息を吹き返し、黙っていた分を取り戻さんとばかりに俺に進言をしてくる。
「そうだよ。二人でコソコソしてたら、色々考えちゃうじゃん」
「それに万が一、救護応援の必要性が出た場合、行き先も分からなくてはわたくし達も動けません」
「ま、今回の事はアタシ達の事を思ってくれての事だからいいんじゃないのかな? 実際にヲルくんの言った通りになってたら、間違いなくアタシ達は戦ってたと思うし」
「ヲルカ様。ちなみに他にもギルドの所業かウィアードかを判断しかねている案件はございますか?」
「まあ、いくつか」
「でしたら、今後は全員に確認を取って頂くのがよろしいかと。情報共有も出来ますし、今回のような事態を防げます」
「そうじゃな。儂らと坊は未だ互いの事を知らなすぎる。ウィアードを除いてももう少し話し合う場を設けるのは、いみじくも卓見じゃ」
などとカウォンが上手く話をまとめてくれた。それはこちらとしてもかなり有難い弁だった。どうやって皆との距離を縮めて行こうか、そしてギルドについての見聞を広めようかと画策していたのだ。確かに日々ギルドに従事しているギルド員から話を聞けるのなら、それよりも手っ取り早いことはない。
「あ、それなら今ギルドの事を勉強したいって思ってるから、話聞きたいんだけど」
「え? どういうこと?」
「いや、俺って十個のギルドの事は表面的にしか知らないからさ。折角、各ギルドから名うてのメンバーが来てくれてるんだから、時間があったらギルドの事聞きたいなって」
俺がそういうと全員の顔に緊張が走った。なんでじゃ?
その中で、ただ一人だけ涼しい顔をしていたラトネッカリがほくほくとした顔で俺に尋ねてくる。
「ああ、そう言えば、昨日『ランプラー組』について学んでどうだった?」
「ま、俺の性格には合ってそうな気はしたよ」
「そうかそうか。『ランプラー組』はいつでも歓迎だよ」
と、言われてから俺は自分の発言を後悔した。この場においてどこかのギルドに加入するかもしれないような発言は余計な混乱と詮索を招くだけだと気が付いていなかった。案の定、他の九人が自分たちのギルドについて話をしたいというアピールタイムに突入し、俺争奪戦が勃発せんとしている。
その前に、先手を打って俺は一人を指名して事なきを得ようとした。
「いや、実はアルルに聞きたいことがあるんだけど」
「へ? ウチ?」
まさか名指しで指名されると思っていなかったアルルは変な声を出して返事をした。
「そう」
「ということは、『アネルマ連』が原因になるような事が?」
「いや、そうじゃなくて、狼が原因の事件があるんだよね」
「狼が?」
「だから、人狼のアルルだったら、詳しく話ができないかなと思って」
するとアルルはどうしたらいいのか分からないといったような表情を浮かべた後、たどたどしい身振りと共に、気恥ずかしそうな声で言った。
「・・・なら、ウチの部屋に来る?」
「じゃあ、朝ごはんの後にでも・・・」
え? 何このやりとり。彼女の部屋に初めてお呼ばれするみたい。
などと妙な感覚を味わったのはヤーリンも同じだったようで、すぐに口を挟んできた。
「べ、別に二人っきりになる事はないんじゃないの?」
「いや、ウィアードの事もそうだけど、さっき言った通り、今は各ギルドの事についても聞きたいんだよ。俺の方でウィアードとギルドのどっちが原因で起こっている事件なのかを判断できれば、その方が早いだろ? ギルドの事だと、みんながいたんじゃ話しづらいと思って・・・」
「そんな事はないんじゃない?」
「俺の考えすぎか? みんな他のギルドの事を貶めて、日頃の鬱憤とか爆発させそう」
するとヤーリンのみならず他のみんなも途端に押し黙ってしまった。
「図星かよ」
「それはさておきじゃ。お主は、近いうちに儂ら全員と話す意思があるという事じゃな? 二人きりで」
「それは・・・もちろん」
「では儂に言えるのは、できれば次には『カカラスマ座』に興味を持ってくれという事だけじゃのう」
その言葉をきっかけに、全員が俺の取り合いを一時中断してくれた。アルルとの話を一先ず無事に終わらせられるのなら、それに越したことはない。カウォンが二人きりというのにやたらと念を押していたのは頗る気になったが、余計なトラブルを回避するために、始めは他の目が内容にしておきたいのは本心だ。
ところが、一人だけ未だに納得していないという顔のヤーリンが、ふくれっ面で俺を見ている。
「ヲルカの馬鹿」
「だから、何で!?」
俺は謂れのない罵倒に困惑しながら、朝食の支度に向かうアルルの背中を見送って、具体的に何を話そうかと考えをまとめていた。
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