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第三話

一発当てたい

 俺はとある部屋の前に立つと、一つ深呼吸をしてからノックをした。


 すると少し間をおいてから、「誰?」という声と共に部屋の主が出てきてくれた。主は心の底から湧き出てきた驚きを隠すことなく、目を丸して俺の顔を見た。そしてすぐに好奇の笑みで出向かてくれる。


「これはビックリ。まさか少年がボクの部屋を尋ねてくるとはね」

「ラトネッカリ。ちょっと話がしたいんだけど、いいかな?」

「もちろん。断る理由などどこにあろうか」


 ラトネッカリは実に芝居がかったような動きと共に俺を部屋の中へ招き入れてくれた。


 俺の部屋もそうだったが、個人に宛がわれている部屋はマンションの一室のように細かな部屋が備え付けられている。その上、キッチン、トイレ、風呂場までもが完備されているので、最悪の場合、部屋からでなくともある程度の生活はできるようにされていた。


 恐らくはダイニングとして使っているのであろう部屋に通されると、多分椅子であろう物に座らされた。


 ラトネッカリの部屋は至る所に意味不明の計算式が書かれ、パイプや配線が縦横無尽に駆け巡る様な内装をしている。今座らされている場所は、他に比べればすっきりしているが、それでも科学室のような雰囲気を出しているので、どうにも落ち着かない。


「ここは中立時代に『ランプラー組』のギルド員が使っていた部屋らしくてね、器具や魔法式は古いが他の部屋に比べれば大分マシなのさ」


 そう言いながら、ラトネッカリは丁寧にコーヒーを出してきてくれた。持て成してくれる気持ちは有難かったので、コーヒーがコップではなくビーカーに入っているのはこの際ツッコまない事にした。


「生憎とコップがなくてね、それで我慢してくれ」

「ありがと」


 コーヒーを差し出したラトネッカリは、俺の対面に腰かけて両手で頬杖をつきながらこちらをじっと眺めてきた。スライム族とは言え、目鼻だちはくっきりとしていて大人っぽいのでそうやって見られると照れくさいのだけど。


「ふふふ。恋人のように口を利いてくれ、か。あのエルフも中々にいい提案をしてくれた。亀の甲より年の劫とはこの事だね」


 によによとした笑いを向けてきていたが、しばらくして一つ咳ばらいをしたかと思うときりりと顔を引き締めた。


「で、話って?」

「色々とあるけど、まずは『ランプラー組』ってどういうギルドなのか聞きたくてさ」

「おやおやおや。少年はウチのギルドに興味が?」


 ラトネッカリの両目が子供のように純粋に輝いたように見えた。事実、初めてテーマパークにきた小学生のようにワクワクを押さえられない様子だ。


「折角、各ギルドから重鎮が集まってきてくれてるからさ。当事者から話を聞けるいい機会だし、俺ももっとギルドについては理解を深めておかないと、とは思ってたんだ」

「一年前のアレもあるしね」

「うん。少なくとも、ここではギルド間の争いになるようなことは避けたいし。ともすれば、まず俺がギルドへの関心を持っておかないと」

「なるほど。だったら心行くまで『ランプラー組』の魅力を紹介しようじゃないか」


 不意に立ち上がると、身体を剃らんばかりに胸を張り、高らかに調子づいて言った。一々芝居がかったり、天狗になったりするのは癖のようだ。


「ところで少年の認識を確認するために、逆に尋ねるが、少年は『ランプラー組』にどのようなイメージを持っている?」

「騒音と公害、迷惑な実験、あと市街地の破壊行為」


 ここで変に取り繕うのは違うかなと思ったので、普段から思っている事を素直に口にする。統計を取った訳ではないが、ヱデンキア人としたはごくごく一般的な意見だと思う。


 だが案の定、頭を押さえたラトネッカリに静止させられてしまう。


「もう結構だ。遠慮がないね、少年」

「カウォンとの約束ですから。ラトネッカリもそう言ったじゃん」

「ちょっと違う気もするが・・・まあ、それはいい。ともかく少年がヱデンキアの一般大衆や他のギルドと似た様な誤解と見識を持っているのは、由々しき事態だ」


 そして、まるで教鞭を振るう教師の如き態度で俺に『ランプラー組』の事を教示してきた。


「いいかい。ボクらの行う実験の成果や恩恵はヱデンキアの市民が最も授かっているんだ。最近ではマックスウェル電解法や熱核クウェンティン反応の発見、ノーマン方程式の解読、磁式発着の安定を実現したエディブロックの開発なんかが世間を騒がせただろう?」

「だろう? って言われても・・・」


 俺、理系じゃないからそういうのはよく分からない。


「簡単に言うと、ヱデンキア全土のインフラ整備とライフラインの保持・向上を担っているのはボクら『ランプラー組』なのさ。確かに少年の言ったような、実験の失敗による被害があることは認めよう。けれども、失敗なくして発見と技術の進歩はあり得ない訳だし、そもそも建物が吹っ飛んで一時的に生活が困窮するくらいで、頭に過ぎった発想と好奇心にブレーキをかけるなんて勿体ないとは思わないかい!?」

「まあ、無理から知的好奇心を抑えるのが難しいのは、俺にも分かるけど」


 珍しい古文書とか、妖怪絵巻とかが手に入ったら納得するまで読み耽る。分からない妖怪が出てきたら分かるまで調べ尽くす、なんてのは散々やってきた。畑は違えど、そういう知識欲に関して言えば俺とラトネッカリは同類だろう。そう言う視点を持つと、ただの変人と思っていたこのスライムにも親近感のようなものが芽生えた。


「おお! そこを共感してくれるのが一番うれしいよ、少年。インフラや製品の製造技術なんて『ランプラー組』からしてみれば、知的好奇心を満たした副産物でしかないからね。さらに実験をしたいから、仕方なくお金を稼いでるだけだし」

「…ぶっちゃるなぁ」

「ウィアードの対処をする傍ら、実験や研究はさせてもらうから安心してくれ」

「この家を吹っ飛ばすような爆発を起こさないでな」

「大丈夫、この部屋の壁は丈夫だから」

「爆発が起こるのは決定かよ・・・」


 ま、『ランプラー組』から爆発を取るのは、寿司からシャリとネタとわさびを失くすみたいなものだから、こちらが妥協せねばなるまい。


 さりとて、ラトネッカリの人となりは何となくだが掴めた様な気がする。好奇心が暴走することは多そうだが、裏表のある正確ではなそうだ。共に生活をしていくのが前提のこの状況下を考えれば、とっつきやすい方だろう。


 そして俺は話題を変え、ある意味で本命の質問を投げかけてみた。


読んでいただきありがとうございます。


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