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第二十三話

 ◇


 ゆったりとした歩みだと思っていたのに、アルルの移動速度は存分に早かったようだ。正確に測った訳ではないが、ものの小一時間くらいでヌーマドレ地区に辿り着くことができた。


 まだ随分と日は高い。もしも『パック・オブ・ウルブズ』が『千疋狼』だとしたら、この時間に出る可能性はかなり低くなる。そうでなくともウィアードの大半は夜か、もしくは昼間でも陽の光が届かなかったり、影になっている場所にしか現れない。


 俺は時間の有効活用と思ってそれぞれが聞き込み調査をしてみようと提案をした。が、それはすぐにカウォンによって棄却されたのだった。


「それはちとマズイのう」

「どうして?」

「儂が堂々と表通りを出歩いていたらちょっとした騒動になるわい」

「あ、そっか」


 言われてみれば確かに。俺の今の同行者は全員がそれなりの有名人なのだ。一番の新米ギルド魔導士であろうヤーリンでさえ、新聞や雑誌で取り上げられたこともある。とは言っても広いヱデンキアのこと。その程度で人が集まるとは思えない。一番の問題点は、やはりカウォンだ。本人も言っているようにカウォンに至ってはヱデンキアで彼女を知らない方がおかしいレベルの人物。下手をしたらパニックになるかも知れない。


 思えばアルルもその辺りは心得ていたようで、わざと人目の付きにくい裏路地で止まっていた。


「顔が売れているというのはこういう時に困る」


 けど、それならばどうしよう。顔を隠すと言ったって限度があるだろうし…。


 あれこと思案していると、俺達の不安を吹き飛ばす様な明るい声でマルカが言った。


「良い考えがあるよ」

「ホント?」


 マルカは満面の笑みで、自信たっぷりに「うん」と頷く。


「そんなに数の多いウィアードだったら聞き込みしなくても、夜になるのを待って本当に現れるか確かめればいいじゃない」

「夜まで待つって事? なんか時間を持て余しちゃうなあ」


 お世辞にもいい考えとは言えない様な気がするんだけど。しかし、マルカは更に柔和な笑みを浮かべて抱きつくような勢いのままにに俺と腕を組んできた。


「だからさ、お姉ちゃんとデートしよ?」

「はい?」

「マ、マルカさん。それはおかしいんじゃないですか?」


 すかさずヤーリンからご尤もなツッコミが入る。けれどもどこ吹く風で、キョトンとして人差し指を頬に押し当てながらとぼけて見せた。


「そうかなー」

「もっともじゃ。全員と同伴するか、各々に時間割を定めねば喧嘩になる」

「そこかよ」

「遊びに来たわけじゃないんですよ」


 自分の意見が承諾されなかったマルカは、わざとらしく駄々をこねる様な態度になる。


「わかってるよぅ。けどポルミエ通りに行った方がいいみたい。『パック・オブ・ウルブズ』の目撃情報が多い場所らしいから。しかも人目は避けられるし、美味しい喫茶店はあるしらしいし、一石二鳥だね」

「え? 何でそんなことが分かるの?」

「聞いたから」

「誰に」

「この子」


 マルカは当然と言ったような振る舞いで下にある何かを指差した。それが差している先に目線を送ると、こんな日の当たりにくい裏路地にあって鮮やかな赤い色をした花が一輪だけ生えていた。


「その赤い花?」


 それが一体どうしたというのだ。という疑問が湧いたのだが、それを口に出す前にマルカがさらっと正解を教えてくれる。


「うん。アタシは『アウラウネ』だよ? 植物とお話するくらいできて当たり前じゃない?」


 ◇


 意思の疎通が図れるのなら通行人に話を聞こうが、道端の雑草に話を聞こうが大差はない。結局はマルカの持ってきてくれた情報を元にポルミエ通りに向かう事にした。


 ポルミエ通りはヌーマドレ地区の中にある自然公園を縦断するように伸びている街道の名前だ。自然公園と言っても道が整備されているだけでほとんどは森と言って差し支えない。散歩や運動の為に使われることはあるが、日常の往来の為にそこを通るヱデンキア人は少ない。だからこそ、カウォンが堂々と歩いても誰かに気がつかれるリスクは低い。そもそもポルミエ通りに入ってから、ただの一人ともすれ違う事はなかった。


 調査といるよりも日光浴を兼ねた散歩のような雰囲気で、俺達五人は赤い花に教えてもらった喫茶店を目指した。


「あったよ。喫茶店」

「よかった。開いてるみたいだね」


 喫茶店の屋根についた煙突からはモクモクと煙が出ているし、少し離れたところからすでに香ばしく食欲をそそるような匂いが漂ってきていた。


 その香りに誘われるかのように俺達の足は自然と早くなる。ポルミエ通りに入ってからかれこれ三十分程度は経っている。街の景色は木々に覆われ雑踏も聞こえてこない。ところが、ただ一人アルルだけが反対に歩みを遅くして、その内に遠くをジッと睨みつけるように見ていた。


 俺はその視線の先に顔を向ける。別段妙なモノは見えない。


「どうかした?」

「うん、ちょっと妙な匂いがして」

「匂い?」

「ちょこっと調べてきてもいいかな」

「勿論だけど、一人で大丈夫?」

「大丈夫よ。こう言っちゃなんだけど、誰も乗せてない方がウチも自由に動けるしね」

「そっか、気をつけてね」


 流石に人狼というだけあって鼻は俺達の誰よりも利くのだろう。その上に文字通りの動物的な勘が働いたのかも知れない。単独行動は若干の不安があったが、アルルの言葉を信じることにした。


読んで頂きありがとうございます


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