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第二十二話

 ◇


「じゃあ行こっか」


 そんなやり取りが会議室で行われていたなどとは夢にも思わず、俺は名指しした面子に揚々とそんな声を飛ばしていた。そして準備の整った四人と共に勇んで中立の家の門に向かって歩き出した時、ふとマルカが俺に話しかけてきた。


「ねえねえヲル君。『パック・オブ・ウルブズ』ってどの地区で起こってるの?」

「ヌーレドマ辺りのはずだけど」

「え、ヌーレドマってどうやって行くの?」


 ヤーリンが漏れるように言った。この疑問は尤もだ。ここからヌーレドマは人間の足で行けば半日は掛かるくらいの距離にある。そう言われて俺は一気に青ざめた。


「…あ。移動手段考えてなかった」

「…ヲルカ」

「ど、どうしよ」


 普段であれば俺一人の事を考えるだけで済む。ヒッチハイクだろうが野宿だろうが妖怪の為なら苦とも思ないのだが、仲間がいるならそうはいかない。しかも名目上は部下に当たるとは言え、いずれもが各ギルドでは名の知れた構成員でしかも女性なのだ。滅多なことはできない。


 けど、どうしようか。今から移動手段や向こうの宿泊先などは用意できない。ということは今回の仕事は延期してまた旅程から考え直すか……いや、『パック・オブ・ウルブズ』は危険度の高いウィアードだ。アルルから裏を取った以上、なるたけ早く調べるなり解決させるなりしておきたい。


 そんな具合に一人でブレインストームに勤しんでいると、見兼ねたアルルが何でもないような軽い口調で言った。


「ならウチの上に乗ってく?」

「え?」


 と、聞き返して彼女を見る。そこに狼耳の酒場娘風の姿はなく、代わりにいつか見た巨大な白い狼の姿があった。さっきまで見えていた景色の半分は銀を思わせる様な毛並みの壁になり、俺達は日陰になってしまっている。


「いいの?」

「もちろん。ぱぱっと解決して、ご飯作らないといけないし」


 俺は素直にアルルの行為に甘えることにした。真っ先に足が動いた俺に対して、残りの三人はほんの一瞬、考える間があった。表面上は取り繕っていても、やはり他のギルド員と協力したり貸しを作るような状況は好ましくないのかも知れない…などと勝手に彼女らの心情を推察した。


 けれどもアルルからは、そのような邪推な印象は受けなかった。アルルの所属する『アネルマ連』は社会性とそこから生まれる共同体を何よりも重んじるギルド。個人で物事を解決するという発想が薄いのだ。自己犠牲の精神はヱデンキアの全ギルドの内で随一である。尤もそれを他人に強要する姿勢は考え物だけど。


「多少なら毛を引っ張っても大丈夫だから捕まっててね」


 とは言っても俺とアルルだけを行かせる訳もなく、他の三人はまるで一瞬思い悩んだのが嘘のようにぐいぐいとよじ登ってきた。


 アルルの毛並みは柔らかく、どんな毛布よりも心地いいと思った。密かに心配していた獣臭さなどは微塵もなく、むしろとてもいい香りが漂ってきていた。


「うわぁ」

「どうかした?」


 全員を乗せたアルルが歩き始めた途端、隣にいたヤーリンが感嘆の声を出す。何事かと思って見てみると、ヤーリンは俺以上にアルルの毛をもふもふと触っていた。


「この毛の艶、すごい綺麗」

「うむ。確かにこはいささか羨ましい」

「ホント。シャンプー何使ってるの? アウラウネにも使える奴?」

「ウチの使ってるのは全部天然由来の奴で…」


 …。


 つい今しがたの俺の考えの方が邪なものに見える程、四人は意気投合していつの間にか女子トークが始まった。シャンプーから始まった話題は次第に化粧品や美容グッズ、服装やアクセサリーなどと二転三転していく。


 当然のようにそんなものの知識には疎い俺は、逆立ちしても会話に入って行けず、ただただ流れていく景色を見ていた。


 それから十数分が経った頃だろうか、俺はいきなりカウォンに話しかけられた。


「ところでヲルカよ」

「え? 何?」

「今日の人選はどういう考えかや? お主が唾をつけたいと思った女子と思ってもいいのか?」


 まるで夕飯の献立を聞くかのようなテンションで、とんでもないことを聞いてきた。俺よりもアルルの方が驚き、下から戸惑いの悲鳴が上がる。


「え!?」


 突然すぎて反対に冷めていた俺は、ヤーリンのジト目を受け流しつつ、あっけらかんとした態度で返事をした。


「いや、違うよ」

「え~。お姉ちゃん、てっきりそうだと思って期待してたのに」

「……じゃあ、どういう人選だったの?」


 何やら疑り深いヤーリンが、その目と同じようなジトっとした声音で尋ねてきた。そんな目で見られても正直困る。今日の日のメンバーは歴とした理由があって一緒に来てもらっているんだから。


「ヤーリンは別として他の三人は部屋で話ができてたからさ。連携を取るとしても少しは打ち解けられるかなってさ。後は全員、緑魔法にはかなり精通しているってのが決め手かな」

「む? 確かに言われてみれば、緑魔法に重きを置くギルドの面々ばかりじゃな」

「うん。もしも俺の想定している通りのウィアードだと緑の魔法に慣れている人の方が都合がいいんだ。全員、樹木を一時的に急成長させるくらいの魔法は使えるでしょ?」

「成長魔法とかのこと?」

「そう。別に巨大化でもいいんだけどさ」

「勿論できるけど…」


 俺は狼上の三人に目配せをした。俺とお互いの顔を見合わせては、こちらの質問の意図がわからないように一応は返事をしてきた。巨大化や一時的な成長魔法は緑魔法の基礎中の基礎。ヤーリンはもとい、ギルドの顔を担っているカウォンやマルカやアルルが苦手な道理がない。


「『パック・オブ・ウルブズ』を退治するとなったら、高い木に登る必要があるんだ。けど、植物を成長させたり樹木を生成できたら楽だろ? 樹木のない場所で遭遇する可能性だってあるしね」

「高い建物じゃダメなの? そもそも飛行能力を持っている人を連れてくれば良かったんじゃない?」

「ううん。高い建物はまだしも、飛ばれちゃ困るんだ。それだと『パック・オブ・ウルブズ』をやっつけられないからさ」

「うーん?」

「ともかく、実際に出向けばわかるじゃろう」

「そうだね。まだ確実にウィアードの仕業と分かった訳じゃないんだし」


そうやって話を結んだ。


読んで頂きありがとうございます。


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