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第十五話

眼鏡フェチ?

 俺は何から話していいのか分からず、話題に困ってまじまじとお茶に口を付けるカウォンの横顔を見てしまった。


 改めていう事でもないけど、やっぱりすごい顔立ちが整っている。人間の基準からすれば大体二十歳を超えたくらいの見た目だろうか。確かに年上には違いないのだけれど、これで百歳に近いというのだから驚きだ。


 すると、不意に湧いた疑問をそのまま口に出していた。


「けど、エルフって本当に見た目で年齢わかんないよね」

「ま、人間から見ればそうかもしれんな」

「エルフ同士なら分かるの?」

「当たり前じゃ。人間ほどの変化は起こらずとも、やはり老いというか、重ねた齢は見た目に表れるもんじゃからな」

「例えば、どこで判断するのさ」


 尋ねるとカウォンは親指で顎を支えながら、「うーむ」と考え込んだ。


「一番わかりやすいのは髪か、もしくは耳かのう」

「髪と耳?」

「髪は艶で、耳は垂れ具合でおおよその検討はつく」


 そう言われたので、俺は再びカウォンのことをまじまじと見てみる。今度は髪と耳に特に注目したのだが、艶の加減も耳の垂れ具合もピンと来なかった。


「全然わかんねえ」

「儂は職業柄、若く見せようと努力しておるからの。そもそもエルフ以外には成人になってからの変化が些少過ぎてほとんど変わらぬようなもんじゃ」

「エルフ、か」


 亜人と言われたら真っ先に思い付くくらいメジャーな種族。その割には絶対数は少ないことでも有名だ。ヱデンキアは本当の意味での自然が完全になくなっているから、エルフや人魚のように森や海があることが前提の種族は年々数が減ってきていると授業で習った覚えがある。きっとマルカも同じような事情を抱えているのだろうけど。


 何となく湿っぽい事を考えていたのだが、それはカウォンの笑い声に打ち消されてしまった。


「そんな思わせぶりにならずとも、知りたいのならエルフの事も儂のことも手取り足取り教えてやろう」

「ホント? なら一つ聞きたいんだけど」

「なんじゃ?」

「俺のところに派遣された経緯って何?」


 一瞬、カウォンの顔が固まるのを、俺は見逃さなかった。事情までは分からないが。聞かれたくない事を聞かれたのは明白だ。


 けども、流石というべきかカウォンはすぐに取り繕った笑顔で聞き返してきた。


「…何か気になるのか?」

「ウィアードって謎も危険も多いのに、カウォンみたいなギルドの看板背負っている様な人を派遣するって、『カカラスマ座』にとっては相当なリスクなんじゃないかと思ってさ」


 咄嗟だったが、うまい言い訳だと自賛したくなった。カウォンも納得してくれたのか、警戒の色が薄くなったような気がした。


「ああ、そういう事か。自慢する気はないが、確かに儂にもしもの事があれば『カカラスマ座』は一大事じゃろうな」

「なら…」

「じゃが心配はいらんよ」

「え?」

「仮に何かあったとしても、それはギルドの活動中に起こった事。ギルドに痛手になるかも知れんが、儂にも代わりはおる。それに」

「それに?」

「ちょっとやそっとでくたばる様な華奢ではないぞ?」


 立ち上がって自信満々によく分からないポーズを決めるカウォンだったが、満ち満ちて放たれるオーラは確かに揺るぎないものに思えた。体躯は俺と同じくらいのはずなのに、とても大きく見えてしまった


「それは分かってるけどね。野生魔術の使い手なんだっけ?」


 俺が聞きかじった知識を披露すると、「ほう」と嬉しそうな声が聞こえた。


「よく知っておるな」

「そりゃ全員を預かる身なんだから、少しは調べるさ。カウォンは有名だから一番調べ易かったし。ただ、野生魔術ってのがどういう魔法なのかまではよくわからなかったんだけど」

「当たり前であろう。『分からない』というのが野生魔術の最も特異な部分なのだからな」

「どゆこと?」

「その説明をするには、図らずも『カカラスマ座』について語らなねばのう。そちらの方が手間も省ける」

「なら、お任せしようかな」


 本当に図らずもギルドの話にもつれ込んだ。


 ということは、あの質問がくるだろうか…。


「よかろう。じゃが、その前に坊は『カカラスマ座』に対してどのくらい認識しておるのじゃ?」


 やっぱりね。今のところ全員が必ず聞いてくる。よっぽど俺がどのくらいの知識を持っていて、どんなイメージを持っているのかが気になるらしい。とは言え、再三に渡って聞かれてきたので、言いたい事を言ってはいけない事は既に経験済みだ。俺は思考を巡らせながら、何とかオブラートに包んだ内容を口にする。


「芸能人や有名人が多くいてきらびやかなイメージ、かな?」

「嘘じゃな」

「え?」


 キッと鋭く睨みつけられ、正に蛇に睨まれた蛙のように固まってしまう。その上、美人に眼光鋭く睨みつけられると、別の何かに目覚めそうになるからやめてほしい。


「そう思ってもおるが、もっと別な事も思っとるじゃろ? 怒らないからいうてみい」


 それ絶対に怒るやつじゃん、とは言えなかった。


 けれども嘘がばれてるんじゃ仕方がない。普段、『カカラスマ座』に対して思っている事を遠慮なく言わせてもらおう。


「長寿な種族が多いせいで説教臭い、宗教を笠に着て恩着せがましい、内輪での馬鹿な盛り上がり、自然崇拝とか偉そうな事を言っているくせに不倫とか俗なスキャンダルを出す」

「よし、殴られたくなければその辺にせい」


 気が付けば笑顔で怒りながら、握りこぶしをこれ見よがしに突き立てるカウォンがいた。


「言えって言ったから…」

「遠慮がないのう。駆け出しの頃の儂が聞いていたら暴力沙汰じゃったぞ」


 カウォンは、「まあ、それはさておき」と前置きを入れると、何故か脇の引き出しにから眼鏡を取り出してソレを掛けた。老眼かな、というのは流石にやめておいた。意図はしならないけどめちゃくちゃに合ってるし。


 そしてカウォンは、コホンッと咳ばらいを一つしてからギルドの説明をし始めた。


読んでいただきありがとうございます。


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