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第十四話

「む」

「あ」


 カウォンの部屋を目指して歩いていたのだが、廊下の角を曲がったところで当の本人に出くわしてしまった。やっぱり芸能人というべきか、まとっているオーラのようなものが他のメンバーよりも頭一つ分出ている様な気がした。まあ、あとの九人もかなり異彩を放つ独特な面子ではあるのだけれど。


 取りあえず俺は、素直にカウォンに会いたかったという思いを伝えてみる。


「丁度良かった。今から話聞きに行きたいなって思ってたんだけど」


 途端にカウォンの表情が明るくなった。その顔は綺麗、というよりも綺麗すぎる。ついついぽうっと見入ってしまった。


「それは嬉しいのう。ようやく儂ら『カカラスマ座』について話ができる…と言いたいところじゃが、少し時間を貰ってもよいか?」

「別にいいけど、なんか用事あった?」


 俺がそう尋ねると、カウォンはため息を吐き、そしてやれやれと大げさな身振りで答えてきた。


「鈍いのう。男が部屋に尋ねてくるというなら、何はなくとも色々と支度をしたいというのが女心じゃろう」

「そういうもんか」

「とは言え時間を取らせたくもない。三十分ほどしたら改めて儂の部屋に来てくれるか?」

「わかった。じゃあそのくらいに部屋に行くよ」

「うむ。坊も少しは身綺麗にしてくるのじゃぞ」

「俺も?」

「当然じゃろう」


 ニッと笑った口元から八重歯が覗いている。


 そのカウォンは踵を返すと、すぐに自分の部屋へと戻って行ってしまった。その場に取り残された俺は一人廊下で自問自答した。


 身綺麗って…何すりゃいいの?


 ◆


 三十分後。


 俺は再びやってきて、今度こそカウォンの部屋の戸を叩いた。


 結局、答えらしい答えが出るはずもなく、俺は仕方なく一度部屋に戻ることにした。そして急いでシャワーを浴びて、服を選択したてのそれにして着替え直した。こうする以外に、現状から身綺麗になる術が思い付かなかったのだ。


 まもなく、カウォンが扉を開けて丁重にもてなしてくれた。


「待っておったぞ。さあ、入りゃ」

「あ、その恰好…」

「気が付いたか? 儂の一張羅じゃ」


 そう。入って一番に気が付いたのがカウォンの服装だった。


 相変わらず、アジアンテイストというかエスニック風な踊り子とでもいうべき、独特な模様と色彩の服に身を包んでいる。背中を通り、両手首の腕輪で留められている絣のような布が特徴的で、俺はいつか見た写真集を思い出した。


 カウォンがここぞという舞台や出番の時に持ちだす布だと、何かの記事に書いてあったはず。それだけ彼女の中で重く受け止めている事があってのことだろう。


「なんでまた」

「言葉遣いはお互いが妥協し合ったとは言えども、ヲルカは儂のギルドマスターじゃぞ? 礼を尽くそうと考えて不思議はあるまい」

「その心遣いは嬉しいけど・・・」


 俺の疑念が強くなった。とは流石に言えなかった。けれども疑ってモノを見てしまうと、全てが怪しく見えてしまう。カウォンにしたって、いささか肌の露出が多いようにも思える。


 …。


 …え? 身綺麗にしてこいってそういう事? ていうか、ナチュラルに寝室に通されてるし!


 今更ながらに心臓の加速が始まった。頭の中が完全にそっちの妄想で埋め尽くされようとしている。


 ところが、カウォンは俺をベットの隣にソファに座らせると、予めようしていていたお茶とお菓子を慣れた手つきで前のテーブルに置くと、真面目な顔で言った。


「どれ。さそくながら『カカラスマ座』について語らうとするか?」


 どうやら、俺の妄想は妄想で終わる様だ。何てこと思った矢先、カウォンはまるで何でもない風に俺の真隣へと腰かけてきた。


「…近くない?」

「そうじゃろか? ギルドではあまり男と関わる機会がなくてのう。今一つ距離がわからん」

「ああ、やっぱり男女関係ってうるさいんだ」


 まあアレだ、『カカラスマ座』のギルド員というのは、向こうの世界で言うところのアイドルや女優みたいな存在だからね。そういう事に敏感であったとしても、別段不思議とは思わない。


「うむ。駆け出しの頃はそうじゃったな、男との噂を出して破門になった同輩も何人かおるしのう」

「え、じゃあ今もまずいんじゃ…」


 そういうと、また八重歯を見せる笑顔になった。


「駆け出しの頃と言ったじゃろう。もう何だかんだで80年は昔の事、今の儂にそこまで口うるさくいうギルド員など数える程しかおらんよ。それにギルドでの信頼も得ておるしの、今更坊一人と噂になったとしてスキャンダルにもならん。ま、流石に恋仲にでもなったりしたら分からんが」

「大丈夫。ギルドマスターとしての責任くらいは感じてるから。カウォンが不利になるような事にはならないように注意する」


 あっぶねえ…。


 恋仲という単語に一瞬ドキリとしたが、予め色々と考えていた成果で自分でも驚くくらいの最適解を返答できた。


 ひょっとしたら、俺の仮説を裏付けられる何かに気が付けるかもしれないとそんな事を思い恐る恐る、俺はカウォンの顔を見た。

 ただ、そこには中々判断が難しく、それでも驚いた事はわかる顔をしたカウォンがいるばかりだった。


「・・・」

「どうかした?」

「いや、頼もしくて何よりじゃよ」


 カウォンは、大人しく引き下がり、人ひとり分のスペースを空けて離れてくれた。


読んでいただきありがとうございます。


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