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第一話

お待たせしました。わずかに書き溜めが出来上がったので、我慢できずに掲載します。


こちらも合わせてよろしくお願いします。

 ヤーリンも出て行き、一人きりになった広間で、俺は年上の女性にタメ口を使わなければならなくなった気恥ずかしさをどうにか抑えている。するとそれに時間費やしていただけで、昼食の準備が整ったと戻ってきたヤーリンに教えてもらった。


 てっきりこの食堂に運ばれてくると思っていたのだが、そうではなかった。ヤーリン曰く、炊事室まで足を運ぶようにとの事だったので、僅かばかりの疑問を残して言われる通りに炊事室に向かった。けれどもヤーリンは俺と別れて自分の部屋へと戻って行ってしまった。


 アレ? お昼、食べないのか?


 中ではさっきの宣言通り、せっせと炊事場を切り盛りしているアルルの姿があった。


 自分を含めて十一人前の昼食を一人きりで作っているのに、とても涼しい顔で迎え入れられた。調理が終わって外した三角巾の下には狼の耳があり、家庭的なエプロン姿と相まってとても魅力的に映ったのだが、何とか顔には出さないように平静を装う。


 すると、やってきた俺に弁当箱を手渡してきた。残っているのは俺の分と、アルルの分だけだったので他のみんなは既に受けっ取っているようだ。それなのにも拘らず、姿はない。


「え? 各自で食べるの」

「うん。部屋に運べるように詰めてあるから」

「あの食堂で食べるんだと思ってた」


 その発言に、アルルは頬を掻き、目線を空に泳がせながら呟いた。


「…それは、ちょっと難しいかもね」

「何で?」

「ギルドが違うから。って理由で納得してもらえる?」


 ジクリと心にとげが刺さったような気になった。頭の中にはいつかのウィアード対策室の事が思い出される。


「…」

「ウチらはヲルカ君の新しいギルドに加入しているけど、今までの溝が無くなった訳じゃないからね…仕事となれば多少は気を使うとは思うけど、余暇とか休憩とか食事の時までとなると…」

「そっか…ありがと」


 食べ終わった弁当箱はここに持ってきてね、という言葉を背中に受けて、俺は炊事室を後にした。


 広い屋敷の中をトボトボと歩いて自室に向かう。今頃はみんな昼食を食べているからか、誰ともすれ違う事はなかった。


 部屋は荷ほどきした荷物をとりあえず運び込んだという状態で、殺風景よりは幾らかマシといった様相だった。それでも十人に囲まれていた時間の後では、嫌でも空しく感じてしまう。俺でさえそう感じるのだから、普段はギルドで大勢の同輩たちに囲まれているであろう他のメンバーはもっと寂しさを感じているのかもしれない。


 きっと俺が命令すれば、みんな渋々とはいえそろって食事をするようになるかもしれない。が、それでは根本的な解決にはならないし、俺としても確実にストレスを与える様な命令を出すのは躊躇われる。


 かと言って千年以上もの間、諍い合い、憎しみ合い、いがみ合いながらやってきたギルドの溝を埋めるのは並大抵のことじゃない。


 ・・・。


 けど、考えようによってはギルドは争っているかも知れないけれど、ヤーリン達個人が争っている訳じゃないはずだ。他のメンバーにしたって、きっと俺達と同じくかつては学校に通って、ギルドの枠組に縛られないで友人や仲間を増やす機会だってあったはず…。ヱデンキアで生活する上では、どうしたってギルドに入らなければならないから仕方なく各々のギルドの方針に従っている側面だってあるような気がする。尤も、今となっては骨身にまで染み付いていそうだけど。


 ならヤーリンは?


 ヤーリンならまだギルドの毒には染まり切ってはいないだろうから、俺のギルドの中では垣根を越えられるような仕組みを作るのに手を貸してくれるかも・・・けど、そうはしたくない。必然的にヤーリンを特別扱いすることになるから、他のメンバーの反感を買うかも知れない。それに何かのきっかけで俺のギルドの活動が終わって、『ヤウェンチカ大学校』に戻ることになったら、俺の適当な具策が仇になって彼女の首を絞めることに繋がる恐れもある。


「やっぱり難しいな」


 根が深すぎて、どうしていけばいいのか検討もつかない。やっぱり、今のまま必要な時以外は接触をしないように、みんなの判断に任せておけばいいのだろうか・・・。


「ギルドの問題か…」


 ・・・ん?


 なんか前世の世界にいる時に爺ちゃんから、似た様な話を聞いた事がある気がする。


 確か、ヱデンキアのギルドみたいに昔から喧嘩が絶えなかった田舎の村同士が町村合併で一緒の町になった時、例によっていざこざが起こって・・・そん時、新しい町長の提案で一週間共同生活をさせられたとかなんとか。で、特に何もしなくても共同生活が終わるころには完全に和解とまではいかなくても、多少の事では喧嘩をしなくなった、みたいな話だったはず。


 その後に何か言ってったな・・・。


 頭の中にぼんやりと爺ちゃんの顔が滲みながら浮かび上がってくる。


『昔っからの諺ってのは馬鹿に出来ないもんだ。『同じ釜の飯を食う』、ただそれだけのことなのに、いつの間にか赤の他人とは思えなくなるんだよ」


 ・・・。


 同じ釜の飯を食う、か。


 俄かには信じられないけれど、亀の甲より年の劫、案ずるより産むが易し、ダメで元々という言葉もある。


 少しは強引な方法を取ってでも、みんなで顔を合わせて食事をするようになれば、少しは仲間意識が芽生えるかも知れない。できることなら、自分から集まる様な形にしたいが、そんなうまい方法があるんだろうか?


 そんな事を考えながら、俺は黙々と弁当を平らげた。


読んでいただきまして、ありがとうございます。


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