夢の中で
〈春翔視点〉
あ、これフレイドで見た夢と同じやつか。オレは反射的にそう思った。
なぜなら、オレは今白い空間にいるからだ。でも今回はしっかり自分の足で立ってるかんかくがある。フレイドの宿で見たものと同じ感覚だったからわかった。
でも一言言わせてくれ。
「……ここは、どこ?」
『ここは君の夢の中だよ。明晰夢ってやつだね、正確にはちょっと違うけど』
後ろから声がしたので振り返えると、そこには黒い袴を着た黒髪の青年が立っていた。よく見るとその袴には所々何かの色が混じっていてまるで黒を基準にした混沌とした色をしている。
「お前は……誰だ?」
『こうしてはっきりと認識して挨拶するのは初めてだね。僕は雨疾。元藤花の人間だよ』
「藤花の……?ッ!!!」
オレは警戒して刀を構え──
『待って待って。僕は君の味方だよ』
「!?」
られなかった。雨疾が一瞬で移動してオレの腕を掴んだからだ。全く見えなかった、速すぎる。というか腰に刀が……って待って?よく見たらオレ下着すらも着てないじゃん!え!?なにこれ恥ずかしっ!
『……今回だけだよ?』
雨疾は呆れながら指を鳴らすとオレの周りに霧のようなものが纏わりつき、一瞬でオレが普段着ている青色の袴が出てきた。どうなってんのここ……。
『ここは君の夢だから念じれば服は出てくるよ』
「な、なるほど」
『とりあえずさ、僕の話を聞いてくれない?』
「……わかったよ」
オレは諦めたように言った。もしこの雨疾ってやつと敵対してもオレが一方的やられる未来しか見えない。
『ありがとう。まずは……花輪眼の開眼おめでとう!わーパチパチ!』
「人格が一気に変わったなって開眼?オレは花輪眼を開眼できない無能のはずなんだけど」
雨疾は笑顔で拍手をするがオレは困惑した。オレが開眼?それはないだろ。実際時期が来ても開眼できずに勘当されたし。
『何言ってるんだい、ちゃんとあるじゃないか。……もしかして気づいてない?』
雨疾の表情が残念な物を見つめになった。なんだろう、シバきたいこいつの顔って思った。いつか絶対ボコボコにする。
『まあでも気づかないのも無理はないね。これで見てごらん』
そう言って雨疾は何もないところから鏡を取り出してオレに渡した。いやさらっと渡されたけどいきなり鏡出すじゃん……そいえばここオレの深層心理って言ったけ。想像して物を創造するってことか?そうぞうだけに。
『……。そんなくだらないこと言ってないで早く見なよ』
「今オレ喋ってないんだ……え?」
オレは鏡で見た自分の目を見て目を見開いた。
「あ、ある……眼に花が……オレの花輪眼がある!なんで!?」
そこには淡紅色の五弁花の花模様——桜の花の花輪眼があった。
「ついに……ついに開眼できた!やったぁ!!あれでもいつ開眼したんだ?全く記憶にないんだけど……」
『君があの赤災竜にかかと落としを入れた時には既に開眼していたよ』
あの時か。どうりで身体が軽くなるし刃は通るし飛ぶしでめちゃくちゃなことになってたわけだ。あの時は必死だったしそもそも生きるために動いていたからなんにも気づかなかったよ。
「って待って?今オレどうなってんの赤いドラゴンの首切ってからさらに大きいドラゴンが来たよね?んでオレ吹っ飛ばされたんだけどなんで意識あるの?ていうかさっきオレ以外の花輪眼を見た気がするんだよね眼が赤い花だったと思うんだ。そもそも今オレは『ハイストップ』むぐ!?」
『どうどう。それについても説明するからちょっと落ち着いて?』
雨疾に素早く口を塞がれたのでオレは大人しく雨疾の言葉を待つ。
『僕の口からは詳しくは言えないけど、今君は安全なところで保護されている。だから体については安心してもいい。あと君が気なっていた花輪眼については起きたらすぐにわかると思うから安心して。他に浮かんでいる疑問も起きたらわかるはずだよ』
「なんか納得いかないけどわかった」
『それから、君の花輪眼について。君の戦闘を見ていて思ったんだけど、花輪眼はもしかしたら普通じゃないかもしれない』
「普通じゃない?どういう事だ?」
『まず、君が繰り出した技、桜火一閃っていう技は存在しない』
「なんだと?」
桜火一閃は存在しない技?つまりオレが新しく作り出したもの?
『本来の桜の剣術にも居合桜閃っていう似ている型はあるけど、全く新しい物だと思う。だからそれ以前に、その技は桜の剣術じゃない。名付けるなら……〈我桜流剣術〉、じゃ「ダサいし言いにくいから桜の剣術がいい」そ、即答……』
なんとなくダサいって感じた。なんだよがおうりゅうって。つーかどうやって書くの?
『おほん。とにかく、本来の桜の剣術は基本的にこんなふうに刀が光るんだよ。今は紅い光だけど、炎なんて纏わないんだ』
雨疾はどこからともなく刀を出して、実際に刀を光らせて説明してくれた。へー刀が光って……いやちょっと待って?
「なんで実演を……まさかお前」
「そうだよ、僕も君と同じ──」
雨疾はしばらく目を閉じて、開いた。
「──桜の花輪眼を持ってるからさ」
その目には桜の花模様が描かれていた。だがオレのと違って花弁が血のように赤い。オレがじっと雨疾の眼を見ていると雨疾はこう説明してくれた。
『ああ、僕の目はちょっと特殊でね。それについてはまた今度説明するよ』
「すっごく気になるんだけど……」
説明が説明になってない気がするけど仕方がない。でも、桜の花輪眼なんて今まで見たことも聞いたこともないな、文献にも載ってなかったし。もしかして書かれてなかっただけ?
『あ、そろそろ時間みたいだ』
「時間ってことはこれでお別れか?まだ話したい……こと、が……?」
あ、あれ?なんか急に眠く……。
『もうすぐ目が覚めて意識が戻るってことだよ。そうだね……次会うとしたらまたこの空間で会う事になるかな?』
色々と聞いておきたかったけど言葉が回らなくなってきた。口は動くんだけど喉が動かなくて声が出ない。
あの口ぶりからしてまた会えるのかな?
『うん。いつになるかはわからないけどね』
そっか、それならいいや。じゃあまた。
『うん、さようなら』
こうしてオレの意識は浮上していった。
……願わくば、身柄が拘束されていませんように。