赤災竜対春翔
〈春翔視点〉
オレはニヤッと笑ったまま倒れている赤い竜を見下した。
「さーてどんな死に方がいい?目ん玉潰してから殺す?それとも脳天を刺してグリグリとして殺す?」
「グオオオォォオォォォオオオオ!!」
「おっと」
やつがオレに噛みつこうとするが、後ろに跳んで避けた体の痛みを感じない、さっきより楽に動ける!
「へーやるじゃん、さっきかかと落とし食らってたのに」
オレは全身に魔力を流して駆け出す。
「うおおおおおおっ!?」
しかしオレが思ってる以上に速度が出てしまった。驚いて思わずやつの股を通り過ぎた。
……えっ?待って待って何今の。知らないんだけどこんなの。オレはポカンとするが尻尾が目の前に来ているのに気づいてハッとした。足に力をいれて飛び、刀を構えて魔力を流す。
狙うのは右後ろ足の付け根、さっきみたいに入れすぎず、入れなさすぎず、魔力を流す量を落として……後ろにある木を蹴る!
「ふっ」
「グゥ!?」
さっきとは違い傷を入れることはできたが機動力ウィ奪うほどの傷は入れられなかった。
(やっぱり硬い、でも斬れる場所はある!)
更に魔力量を上げ全力で縦横無尽に動き回った。
腹を切り上げる、自由降下、背中を伝って翼の付け根を切るが傷がついても浅い、尻尾を狙う、目の前に尻尾がくるがまた空中を蹴って上へ、その尻尾に向かって斬、浅く傷がつく。
尻尾の付け根、切れる、背中、切れる、首、切れる、牙、弾かれる、目、弾かれる、鱗の間、切れる、足の付け根、切れる腹、腹、腹、切れる、胴体と首の間、鱗、腹、足。
文字通り縦横無尽に立体的に素早く、しかし確実にこの赤い竜に傷を入れてるけどれも浅い。
(傷は入っても致命的なものにはならない、奴の防御力が高すぎる!)
このままではジリ貧。どうすれば良いか考えていると頭に声が聞こえた。
────を流せ
「は?」
──花術力を流せ
「花術力を流せ?つかどこにあんだよそれ」
——お前が纏っているその力を、その刀に
「刀に魔力を流せってか?ええいどうにでもなれ!」
いきなり聞こえてきた声に困惑しながらオレは試しに魔力を刀に流す。すると刀が桃色の薄い布のようなモノに包まれた。
「これは……」
オレはよくわからないまま右前足を斬った。
ザシュッ!
「え?」
「グルガアアアアアアアア!!!」
さっきより簡単に、とゆうかめちゃくちゃ綺麗に斬れた。なにこの違い。でもこれなら!
「たくさん斬れる!」
オレはもう一度縦横無尽に動き回った。
四股を斬り裂き、尻尾を刻み、背中、翼を切り刻む。さっきよりも切れるようにはなったけど完全に切断するまでにはいかなかったけど今はそれで充分だ。
「グルアアアアァァァアアアア!」
「煩さいなぁ……煩いなぁ!!」
やつはあらゆる部位を切り刻まれたせいか、悲鳴を上げていた。このままいけば後は首を斬るだけなのでオレは首に向けて刀を振った。
しかし、ガキンと音を立てて刀が止まる。
「は?」
「グルルルル……!」
やつはオレを睨むと首を振ってオレを吹き飛ばした。
「グラァ!」
「うおっ!?」
首で刃が止まった……また首かよ……。オレはつくづく首に関係する奴しか会わない呪いでもかけられてるのか?
首を切られれば基本的にどんな生物でも死ぬ。当たり前だ。
ていうかオークジェネラルとの戦闘で首を斬って決着をつけていて、今回も首に刃を阻まれた。これは斬らなきゃいけねえよなぁ!
その隙にやつが翼を広げて飛んだ。よく見るとさっきオレが切り刻んだ翼や足も尻尾も元通りに再生している。
「完全再生かよ……しかも首切りろうとした途端駄目って……。ハハッ、本当に理不尽が続くな」
いろんな事が起こりすぎて一周回って乾いた笑いしか出てこなくなった。
やつは空気が揺れるほどの咆哮をして思わず耳を塞ぐ。すると体がまるで縛り付けるようとするような感覚がして、オレは膝をついた。
「ぐっ!……まじか、動けねえ……!」
するとやつの口から赤い光が見えた。
肌にピリピリとした感覚が全身に降りかかる。やつの口からさっきのとは比べ物にならないくらい赤く光っている炎が見えてオレは焦る。
まずいまずいまずい!どうにかしてあの炎を避けないと、でもどうやって!
このままだとやつの炎を全身に受け文字通り消し炭になる!
——花術力を流しながら、あの炎を受け止めろ
また声が聞こえた。
「あーもうさっきからなんだよこの幻聴みたいなの!」
なんかこの声に従うのやだ!でもこの状態で他にできることはないのも事実。
──いいから受け止めろ。そうすれば道は開く
「あーわかったよ受け止めりゃあいいんだろ!」
オレはヤケになりながら刀を構えると同時にやつの口から赤い炎が吐き出された。
刀に炎が触れた瞬間、刀が炎を受け止めた。
「ぐうっ……!」
お、重い……!その勢いによってオレは地面を擦りながら後ろに後ずさる。
——刀を回せ
「回せば、いいん、だろっ!!」
言葉の通りに刀を回す。
すると赤い炎が刀に纏った。
「おいおい、やつの炎纏えるのかよ。しかも熱くねえ」
「グルルル!?」
やつを見ると驚きで目を見開いていたが、すぐに警戒するように喉を鳴らした。
「おいクソ竜、今どんな気持ちだ?自分が吐いた炎がオレに使われている気持ちはどうだ?悔しいか?悔しいだろ?理不尽だよな?さっきオレも……そう思ったからな!」
こちらに向かって来たやつに対してオレはそれに立ち向かうため縦に刀を振るった。すると刀に纏っていた炎が飛魚のように飛び出し、避けようとしたやつの翼に当たり、切り裂いた。
「……は?」
翼を切り裂かれたことでやつはバランスを崩し地に落ちた。
え?いや、え?なに今の!知らないんだけど!?
その姿はまるで地をはうとかげ。けどこれ以上の隙がない。決めるならここだ。
「……どうやらそろそろ時間切れらしい。これで終わりだ!」
「グルオオオォォオォォォオ!!!」
オレが言ったことを理解したのか、はたまた本能が何かをさとったのかはわからないけどやつはオレに向かって噛み殺そうと向かってくる。
あと幻聴が言ってた花術力とやらがなくなってきた感覚がある。魔力と同じかと思ってたけど全く別物だったわけだ。
とにかく、これを逃せばおそらくこの先に生きる道はない。
集中の呼吸、抜刀の構え。
深く呼吸をする。
キラッ。
「あれは……!」
やつの首に桜色の光の線がはっきりと見えた。
「グオオオオオオオオオオオオオ!!!」
やつが叫ぶのに合わせて光の如く突っ込む。それに気づいたやつはさっきの炎を吐いて来たがオレはそれをギリギリで避ける。
多分だけど、このままでは奴の首は斬れない。なんとなくそんな感じがする。とにかく火力が高いものを、やつの首を斬れるほどの何かを。そう念じていると刀に変化が起こった。赤く燃えていた炎が桜色の炎に変わったのだ。
「その一」
首に光る桜色の光に向かって、抜刀!
「桜火一閃!」
首はザシュッ、と音を立てて斬れた。
首を斬られたやつの頭はドシンと思い音を立てて落ちた。それと同時にオレも地面について膝をついた。
「はぁ、はぁ、はぁ……やった。やっと、倒せた……!」
や、やばい。力がどっと抜けた感じがする。なんなら手足動かないや……。でも倒れている場合じゃない、周りを警戒しないと。なんか人がいるけど敵意がないならいいや。他に敵は……
ゾクッ
「ッ!!!」
とてつもなく大きい気配を感知した。そしてそれは、ズシンと音を立ててオレの前に現れた。
上を見ると、さっき戦ったやつよりも一回りも二回りも大きいドラゴンがいた。
「オオオオオォォォォオオオオオ!!!」
「おいおい……、今度は親玉が来たのか?勘弁してくれよ……」
こちとら疲れてんだよ。疲れすぎて笑おうにも笑えねえよ。
こうも何度も理不尽が続くと流石のオレも堪えるぞ。オレは体に鞭を入れて立ち、刀を構えた。
そしてもう一度開眼しよとすると、目に激痛が走った。
「いっ・・・!?」
思わず目を抑える。そして、それは致命的な隙となった。
何かが目の前に来る気配を感じた。が、目の痛みに気を取られていたせいで反応がおくれ、オレは吹き飛ばされ、近くにある岩に吹き飛ばされていた。
「がはっ……!」
口から血を吐き出した。衝撃で視界がチカチカとして、視点が定まらない。おまけに腹と背中に思いっきり衝撃を受けたから、全身が痛い。
もしかしたら全身の骨おれてるかな。いたみが強すぎてなにもかんじなくなった。
このまま、しぬ?しぬのか、オレ。
あーあ、せっかくかりんがんかいがんできたのに……。
全身の感覚が消えてく……。
ごめん、おもったよりもはやくそっちにいくことになりそう。
「————————!!」
何か聞こえた。そして温かい何かに包まれたように気がした。
その温かいものが何かを見ようとして見えたのは——
(とお、さま……?)
その思考を最後にオレの意識は闇に落ちた。